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[ 本格 ]
四つの兇器
アンリ・バンコランシリーズ
ジョン・ディクスン・カー 出版月: 1958年01月 平均: 5.00点 書評数: 7件

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早川書房
1958年01月

東京創元社
2019年12月

No.7 6点 E-BANKER 2021/05/13 22:21
全五作から成るアンリ・バンコランを探偵役とするシリーズの最終作。他の方も触れてますが、四作目となる「蝋人形の館」(1932年)から5年のタイムラグを経て、その間すでにフェル博士とH・Mもすでに登場する中でのバンコランの再登板という状況。そこにはいろいろと事情があったようですが・・・
1937年の発表。原題は“The Four False Weapon”(→四つの誤った凶器)

~依頼人であるラルフ・ダグラスと高級娼婦ローズの関係を清算すべく青年弁護士リチャードがパリ近郊の別宅に到着したとき、娼婦はすでに寝室でこと切れていた。死体発見現場からはカミソリとピストルと睡眠薬、そして短剣が見つかる。過剰に配置された凶器は何を意味するのか。不可能犯罪の巨匠カーの最初期を彩った名探偵アンリ・バンコランの最後の事件を描いた長編~

カーらしく中身が詰め込まれ過ぎて、ややこしくなっている感がある。いろんな要素を一度に、一か所に詰め込み過ぎたせいだろう。
でもまぁそれがカーの良さには違いない。
今回、創元文庫の新訳版で読了したわけだが、第14章から第15章にかけてのバンコランの謎解き、”多すぎる凶器”や謎のレインコートの男など、バラバラに配置された要素が、彼の叡智によって解きほぐされる刹那。
確かにそこには往年のカーの腕力が込められていた。

でも待てよ、まだ残りのページ多くない?って思ってると炸裂するドンデン返し。
最終的な真相は更にややこしく錯綜している。
複数の人間が偶然にもバラバラな思いで、バラバラな悪事を働く、そこへ更に予想外の人物の要素まで加わる・・・
そりゃ3人が関係してるんだから、ややこしくなるのは間違いなし。
それを見事なまでに解き明かすバンコラン。よく言えば「快刀乱麻」かもしれないけど、悪く言えば「読者には推理不能」という感想になるのはやむなし。

個人的には十分面白かったという感想。けど、あまりにも偶然の要素が強すぎるって思う読者は多いと思う。
それに、バンコランのアクが抜けすぎてるのも不満・・・なのかも!
いずれにしても、バンコランを主要キャラクターにしなかったのは作者の英断、かもね。

No.6 6点 弾十六 2021/04/16 04:50
バンコラン第五作。創元の新訳で読了、安定した良訳です。
シリーズ前作が1932年出版で、本作は間に数作を挟んで1937年。この間にフェル博士やHM卿も登場している。
作中年代は「五月十四日金曜日(p86)」該当は1937年。引退したバンコランの枯れぶりが何故そんな設定にした?と思うくらい。昔のギラギラやアクがすっかり抜けてしまった感じ。まーそこで私の妄想が爆発。
以下は全く根拠のない珍説です!
実はJDCは当初からバンコラン・シリーズを「最後の事件」(多分ネタは「バンコランで書く予定だった」と伝えられる『三つの棺』1935)で締める予定だった。でも他の作家のあの作品(1933)が先にそのネタをやっちゃったので、ガッカリして構想を放棄。残念だなあ、この構想が実現してれば、結構、衝撃的だったと思う。
珍説はここまで。
作品としてはジェフ・マールも登場しないし、引退試合としては、なんかパッとしない。冒頭の謎が小ぶりなんだよね。上述の妄想のバンコラン最後の事件が読みたいなあ!(『三つの棺』を読むのが億劫で放置してるのだが、この観点なら興味深く読めるかも。題して「UR-三つの棺を再構成する!」)
さて、愚言はほっとこう。トリビアは軽め。
p14 赤ん坊と一緒に塔へ幽閉♣️これはLife of Samuel Johnson(1856) by Thomas Babington Macaulayからのネタ。ボズウェルは蠅のように付き纏い、愚問を連発してジョンソン博士をウンザリさせてたのでは?という見解。その例として挙げられている愚問の例が"What would you do, sir, if you were locked up in a tower with a baby?"、でもスコットランド贔屓のJDCとしては、いやいや、この一見愚問に見えるのにも大きな意味があるんだよ、と弁護している。
p21 ワインレッドの新型タクシー♣️Renault Type KZ 11 Taxi G.7 de 1933のことだろう。フランスではWWIの前からRenault Type AGがタクシーとして活躍していたが、1933年から新型が使われはじめている。
p133 愚痴るな、言い訳するな(Never complain, never explain)♣️ディズレーリの言葉らしい。
p134 ハーロック・ショームズ(Herlock Sholmes)♣️本作はフランスが舞台なので総合月刊誌Je sais tout誌1906年12月15日号初出のこの名前。コナン・ドイルの抗議で捻り出した著作権対策。(編集長ラフィットの発案か。詳しくは近日中に書く予定の『怪盗紳士ルパン』及び『ルパン対ホームズ』参照。最初、臆面もなくSherlock Holmesを使ってたJe sais tout誌が、どの時点でSholmesに変えたのか、雑誌のファクシミリ版を丹念に探索して初出を見つけました!)
※なお、ずっと前に読んでた本作の評を今頃書く気になったのは、Tetchyさまの文章のおかげです。ありがとうございました。

No.5 7点 Tetchy 2021/04/15 23:52
カー初期のシリーズ探偵アンリ・バンコランのシリーズ最終作が本書。悪魔的な風貌と犯罪者に対して容赦ない仕打ちを行う冷酷非情振りに皆が恐れた予審判事も本書では既に引退した身であり、温厚な性格になり、しかも洒落者とまで云われた服装は鳴りを潜めてくたびれた服を着ている。
しかし名探偵の最終巻とはなぜこのように似通っているのだろうか。
私は引退し、かつての切れ味鋭さが鳴りを潜めてくたびれた隠居然―地元警官からは「かかし」のような男とまで呼ばれる―としたアンリ・バンコランの描写を読んでホームズやドルリー・レーンを想起した。それらに共通するのは全盛期ほどのオーラは感じられないものの、腐っても鯛とも云うべき明敏さが残っている。つまり老いてなお名探偵健在を知らしめるための演出なのだろうか。

さて死んだ高級娼婦は短剣で刺殺されたはずなのに、事件現場には短剣以外にもカミソリ、ピストル、睡眠薬と3つの異なる凶器が残されている。本書はその題名からもこの奇妙な状況が取り沙汰されているが、もちろん本書の謎はそれだけではない。殺害された高級娼婦を取り巻く人々や背景事情も複雑に絡んでいるのだ。

さてそんな1人の遺体の周囲に4つもの異なる凶器が転がる不可解な状況の真相はまさにカーの特徴であるインプロヴィゼーションの極致とも云うべきアクロバティックな内容だった。

そしてネタバレになるが、本書の皮肉は凶器が多すぎるのに本当の凶器は現場になかったこと。これこそカーが本書でやりたかったことなのだろう。

そしてこんな偶然と即興の産物による奇妙な状況をバンコランが名探偵とは解き明かすのはいささか無理を感じずにはいられない。ほとんど神の領域の全知全能ぶりである。
そんな複雑な事件を考案したことを誇らしげに語り、そして作品として発表するカーの当時の本格ミステリ作家としての矜持と野心と、そして気負いぶりが行間からにじみ出ている。

No.4 3点 レッドキング 2021/01/17 23:14
バンコランシリーズ第五弾(にして最終弾) 。クリスティー「ゴルフ場殺人事件」とかと同じく、複数者の別の犯罪企図と偶然が、「不思議」を現象させるってやつだが、その「不思議」が「凶器が多すぎる」なんてレベルでは・・・
不思議のカラクリ公開は実に見事だが、カーには「密室」「不可能」レベルの不思議を期待しちゃうからねえ。

No.3 6点 nukkam 2015/08/11 10:36
(ネタバレなしです) アンリ・バンコランシリーズの「蝋人形館の殺人」(1932年)を書いた後、カー作品のシリーズ探偵はフェル博士へと交代するのですが1937年にバンコランシリーズ第5作の本書を唐突に発表しました(これがシリーズ最終作です)。ここでのバンコランは引退した身の上でアマチュア探偵(といっても経験豊富)になっているのが特徴です。カーが得意とした不可能犯罪もオカルト要素もありませんが複雑な人間関係、アリバイ調べ、様々な小道具(本当の手掛かりか偽の手掛かりか容易にはわからない)、そしてどんでん返しの連続が圧倒的な謎解きと、本格派推理小説としての密度は非常に濃いです。ハヤカワポケットブック版が半世紀以上も前の古い翻訳なので、新訳版が待ち望まれます。⇒(後記)2019年に新訳での創元推理文庫版が登場です。万歳!

No.2 3点 kanamori 2010/07/01 20:39
予審判事バンコランものの第5弾。
シリーズ前作の直後にフェル博士とH・M卿の二大看板探偵を創作していますから、久々にバンコランを登場させた意図がよく分かりません。
事件の性質も悪魔的探偵には物足りない地味なものでした。

No.1 4点 2009/03/13 22:25
久々に登場するバンコランは、しかし以前のようなおしゃれなところが全くなくなり、かといってフェル博士やH・M卿ほどのあくの強さも感じられません。
タイトル(原題直訳:4つの偽凶器)はチェスタトンを意識したと言われていますが、現場に凶器らしきものがいくつも転がっているというだけでは、カーにしては特に魅力的な謎とは思えません。現場に残された手がかりをつなぎ合わせていくのはミステリの常道であり、本作ではそれらの手がかりがたまたますべて凶器になるものだったというわけです。
実際の凶器は、犯人自身にさえも意外なものだったというオチになっていますが、専門的な知識が必要となるので、一応の伏線があるとはいえ、一般読者が真相を見破ることは不可能でしょう。
最後のカードゲームはなかなか興味深かったのですが、偶然の扱いもすっきりとは言えず、全体的にはいまひとつ冴えない感じでした。


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