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[ 本格 ]
船から消えた男
フレンチシリーズ
F・W・クロフツ 出版月: 1982年07月 平均: 5.40点 書評数: 5件

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東京創元社
1982年07月

No.5 4点 レッドキング 2023/01/20 21:39
クロフツ第十九作。航行中の船から消失した男が、溺死体で発見され、莫大な財産に繋がる発明に絡んだ殺人事件裁判へと展開する。十八番アリバイトリックいつも通りで、何ら「不思議不可能」無しもいつも通り。見どころは法廷冤罪サスペンス・・でも、犯人や否やどころか、殺人か否かさえ曖昧な、あんな「状況証拠」での死刑判決なんて、ありか?

No.4 6点 斎藤警部 2022/09/25 00:58
夢の ”ガソリン不活性化” に関する(巨大なマネーを産み出すのは間違いない)画期的発見をした化学者二人組が、実用化(≒企業への売り込み)へ向けた研究継続に必要なキャッシュの出所を接点に、婚約中の男女、および女性の親戚に当たる資産家とタッグを組み、研究も実を結びいよいよ大金を当て込んだ売り込みに乗り出したその時・・・アイルランド海を挟んだ或る重大事件に巻き込まれて行く様をクールに、恋愛模様を綺麗に交え描いた好篇。

物語の転機となった或る “隠し事” の機微がミステリとしてどう機能して来るのか、その展望に興味津々。 捜査する側とされる側、その故意混じりのすれ違いを打ち出す趣向が面白い。 中盤から犯罪小説的展開を内蔵し出すのも実に熱い。 裁判シーン、それ自体のスリルもまずまずながら、物語のポイントを整理するのに良し。

結末は若干もやもや。これだけのページ数を掛けた割には小ぢんまりと真相暴露されたもんですが、 ”シャープペンシル” の一件で持たせたひとくさりはそれなりのスリル有り。 ミスディレクションで引っ張ったアリバイトリックは小味ながら堅調。 まさか “あの人” が真犯人では?? なんて方向にちょっと引っ張られもしましたよ。 フレンチの、事件に対する付かず離れず(?)のスタンスも面白い。 爽やか過ぎるエンドは本作のある意味小さくまとまった感とよく調和している。 見せ場を絞った北アイルランド旅情も程良し。 そうそう、肝心な事を敢えてオープンにして終わらせたのも、本作に一種の深みをくれていると思います。

No.3 6点 E-BANKER 2020/11/02 21:48
フレンチ警部登場作としては、数えて十五作目に当たる本作。
舞台はこれまでも度々登場した北アイルランド(大英帝国の一部だね)。今回もフレンチの地道な捜査行は実を結ぶのか?
1936年の発表。原題は”Man overboard!”(飛び降りた男?)

~北アイルランドの小さな町で平穏な毎日を送っていたパミラと婚約者ジャックが、ある化学上の発見の実用化計画に参加することとなった。発見とはガソリンの引火性をなくし、危険性のない燃料にできるというものだった。実用化されれば巨万の富を得るのは間違いない。計画は進み、ロンドンのある化学会社と契約成立も間近というとき、その化学会社の社員が失踪した。ロンドンへ向かう船から姿を消したのだ。数日後彼は死体となって発見された・・・~

紹介文を見る限りは、いつものクロフツ、いつものフレンチ警部だろうと思ってた。
確かにいつものクロフツ、いつものフレンチ警部と言っても過言ではない(クドい!)部分が殆ど。前半は主人公役の素人が犯罪に巻き込まれるまでの顛末が語られ、中盤になってフレンチ警部が登場。靴底をすり減らしながら捜査を進めるものの、なかなか光明が見いだせない。「まだかよー」って思ってるさなか、終盤になって唐突に「光明が!」。そして解決。めでたしめでたし・・・というのがお決まりのパターン。

ただし、本作は若干異なる。
フレンチも捜査は行うものの、フレンチよりはベルファスト署のマクラング部長刑事の捜査の方が主。(マクラングは初期の名作「マギル卿最後の旅」でもフレンチに協力してくれた盟友)
そして、終盤は不幸なことに逮捕されてしまった婚約者ジャックをめぐる法廷シーンが延々と描かれることとなる。
この法廷シーンがかなり念入り。検察側と弁護側のやり取り、応酬がかなり頁を割いて続くことになる。
読者としては、「フレンチはどうした?!」と言いたくなるなか、ラスト近くになってやっと再登場ということになるのだが、これが問題。
中盤最後のフレンチの独白シーンで、この時点でフレンチは凡その真相に気付いたと書かれているのだ。それなのに・・・そこから延々捜査が行われるのを見て見ぬふりをしたというのか! いくら北アイルランドの管轄外の事件とは言え、それはないだろうという気にさせられた。結局、最後はフレンチの見込みどおり、真犯人は逮捕され事件は終結ということになる。
私がマクラングなら、「もっと早く言ってよ!」って思わずにはいられないだろうな。スコットランドヤードも日本の警察と同様、縄張り意識が強いということなのかな。
ただし、作品の出来そのものはまずまず。シリーズらしい安定感のある作品ではある。

No.2 5点 ボナンザ 2019/02/03 22:57
この内容にしてはちょっと長すぎる。
犯人は最初から怪しいけどそれを当てるのがメインではないのでよし。

No.1 6点 人並由真 2016/05/28 15:55
(ネタバレなし)
 時は1926年。北アイルランドの田舎で、ある青年科学者のコンビが、ガソリンの発火性を無くして安全化させ、同時にガソリンの容積そのものを搬送用に圧縮できる画期的な技術を見出した。科学者コンビは旧知の若いカップルに協力を求め、その女性の親類の金持ちに、研究を実用化させるための最終研究のパトロン役を願う。計画は順調に運び、一同はある会社にこの技術のパテントを売ろうとした。だが相手の会社の交渉役の青年が、帰途の洋上から姿を消す変事が発生。やがてこの事態は、殺人事件にまで発展し…。
 
 クロフツの1936年の作品。国産の昭和・社会派ミステリを読むような企業ものの流れで前半が進行し、事件が起きた途中から、相棒のカーター部長刑事を伴ったフレンチのアイルランドへの出張編になる。
 なおアイルランドの事件現場は、クロフツの先行作『マギル卿最後の旅』の舞台でもあり、同事件(1920年に起きた設定)の捜査官だったアルスター警察署のレイニイ署長、アダム・マクラング部長刑事も再登場し、顔なじみ同士のフレンチと協力する。これはシリーズをきちんと読んでいるクロフツファンには嬉しい趣向だろう(自分はクロフツ作品に関しては目についたものを手にするつまみ食い的な読者なので、その例には残念ながら該当しないが)。なお文中では、やはりクロフツファンにはおなじみのタナー警部も、名前のみながら登場する。

 内容はいつも通りのクロフツ作品で、地味ながら良い感じのテンポと、程よい起伏に富んだ展開が楽しめる一冊。登場人物の絶対数が多い分、相対的にフレンチの出番は少ないが、実質上の主人公といえる本作のヒロイン、パミラ・グレイとその恋人ジャック(ジョン・ウルフ)・ベンローズたちの巻き込まれ型サスペンスものの趣もあり、そんな彼らの力になろうとするフレンチの活躍は、いかにもおなじみの名探偵らしくて頼もしい。
 伏線や手掛かりが後出しぎみ、さらにそれが短編向きのギミックなのはナンだが、トリックは大小のものを巧妙に組み合わせており、手ごたえはまずまず。物語の後半、法廷ものの興味も楽しめ、なかなか満足度の高い一冊だった。


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