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[ 本格 ]
フレンチ警視最初の事件
フレンチシリーズ
F・W・クロフツ 出版月: 1962年01月 平均: 5.40点 書評数: 5件

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東京創元新社
1962年01月

東京創元社
2011年06月

No.5 4点 レッドキング 2024/04/19 23:14
クロフツ第三十二作。如才なく世渡りする半汚れ色男と、少し愚かなお人好し女。犯罪には違いないが、断罪するにはイジマし過ぎる男女のピカレスク譚・・かと思いきや、自殺以外考えられない、「開かれた密室」殺人トリックのミステリへと、急速な方向転換。「密室」不可能トリックは、クロフツでなければ、リンゴぶつけたくなるレベルの後出し「機械」トリックで、ま、クロフツだからね。「判断材料は全て出したよー(犯人、当ててごらん)」てな、読者挑戦状付き。(ん、全て開示してるか?)

No.4 6点 人並由真 2020/11/01 04:41
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦終結後のロンドン。人望ある外科医バーソロミュー・バートの診療所で、受付兼秘書として働く30歳の独身女性ダルシー・ヒース。ダルシーは幼なじみだった33歳の青年フランク・ロスコウが6年間の兵役を終えて復員するのを迎えた。フランクとの幸福な未来を願うダルシーは彼のために、バート医師の助手の仕事を紹介する。だが長い軍隊生活でやさぐれていたフランクには賭博の借金があり、彼は表向きは真面目に勤務しながら裏では不正に小金を着服し続けた。しかもダルシーも強引にその悪事にひきこまれていく。やがてフランクは、ステインズ地方の館「ジャスミン・ロッジ」の主人である元外交官で、69歳の富豪ローランド・チャタトンの秘書に転職。そのままローランドの26歳の娘ジュリエットと恋仲になり、ダルシーを袖にする素振りを見せる。そんな矢先のある日、ジャスミン・ロッジでは銃声が鳴り響いて……。

 1949年の英国作品。フレンチものの長編、第27弾。
 大人向けの長編としては、シリーズの最後から3本目の事件。

 周知の通り21世紀になって新訳(復刊)が出た本書だが、評者は今回は20世紀、何十年か前に某古書店で100円で買った旧訳の初版で読了(そーいやたしか、新訳の方も一応は買っているハズなんだけど、そっちはすぐに見つからない~汗~)。
 しかしこの旧版、一時期は、一万円前後のプレミアがついていた稀覯本だったなあ……(遠い目)。
 旧版の翻訳は、専業? 翻訳家の松原正が担当。この人はこれ以外にも創元社の翻訳ミステリを何冊か手がけているが(ほかのクロフツの諸作とか、ドイルの『クルンバー』とか、アイリッシュの『夜は千の目をもつ』とか)、実にこなれた訳文で旧訳ながらとても読みやすかった。

 ダルシーとフランク、本作のゲスト主人公といえる小市民の若い恋人コンビが(彼らが100%のワルでないとはわかって? いながら)、ズルズルと悪の道にはまっていく話の流れは、地味な物語ながら実にぐいぐいと読ませる。
 国産ミステリで一番近いティストを例えるなら、好調な時期の清張みたいな感じか。本作の執筆当時、すでに完全に大家になったクロフツの円熟ぶりをとくと実感させられた。おかげでこの邦訳題名にも関わらずフレンチの登場はかなり遅めだが、ちっとも退屈しない。

 ただし謎解きミステリとしては存外に裾野が広がらず、良くも悪くもこじんまりとまとまってしまったのが何とも。
 フーダニットの流れについてはここでは書けないが、もうひとつのキモとなる(中略)ダニットの解法がサプライズを狙った割にちょっと雑すぎるのでは?
(最後の方で「そういう」驚きを語るのなら(中略)についての鑑識は、それまでどのようにされていたのであろう?)
 そういった意味では、パズラーとしてはあまり期待値が高いと裏切られる感じがする一作ではある。
 
 とはいえ、いつもながらのフレンチの紳士的な捜査官ぶり、ほかのスコットランドヤードの面々との連携の臨場感、ゲストキャラとの動的なからみ、そして最後の(やはり以前のクロフツ作品のラストを想起させる)余韻のあるクロージング……などなど、今回もこちらがクロフツのミステリに求める要素(特に小説的な味わいが大きいけれど)はしっかり受け取らせてもらった手応えがある。だから、これはこれでいいや。

 あーまだまだ読んでないクロフツの長編が何冊もあることは、幸福である。
 不幸なのは、それが家のなかのどこにしまいこんだのか、年単位で探しても見つからないこと(汗)。
 まあ書庫やあちこちに探しに行っては、別の作家の未読の作品を抱えて居間に戻ってくる、そんな日々の繰り返しなのだが(汗・笑)。

No.3 6点 E-BANKER 2011/09/11 14:59
フレンチが警視に昇進(メデタイ!)して最初に手掛けた事件。
最近東京創元社から出た新訳版で読了。
~愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクがある貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーのもとを去ってからも、良心の咎める行為を止められずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然だろうか。一方、検死審問で自殺と評決された事件の再審査が始まり、フレンチが出馬を要請された~

クロフツ作品の1つの「典型」とも言える作品でしょう。
中盤まではフレンチが登場せず、ある事件に巻き込まれる主人公の視点で、事件の概要や展開が描写されていく。
事件がのっぴきならない段階まで進展したところで、やっとフレンチが登場。捜査を開始するやいなや、加速度的に事件のからくりが解明されていく・・・
本作もまさにこの「流れ」そのもの。
ただ、本作はそれ以外のプロットがやや変わっていて、そこは面白かった。
普通なら、『(事件に巻き込まれた)主人公』⇒『フレンチ』という流れだが、本作はとある理由のため、『主人公』⇒『著名な法律家』⇒『私立探偵』と『フレンチ』
とかなり複雑な構成になっているのだ。
ただ、フーダニットにしろハウダニットにしろ、やや中途半端な感は拭えない。
特に、自殺に見せかけた他殺の仕組みがちょっと分かりにくいところが難点。
というわけで、初期の佳作に比べれば、1枚落ちる作品という評価にしかならない。

No.2 5点 nukkam 2011/08/23 22:07
(ネタバレなしです) 1948年発表のフレンチシリーズ第27作で、フレンチが警視に昇進して最初の事件という位置づけです(英語原題は「Silence for the Murderer」)。驚いたことに全18章の物語の第9章を終えた時点で、「手掛かりは全て読者に提示されている」という「読者への挑戦状」が挿入されています。とはいえそこから解決に至るまで物語の半分がまだ残っているというのは、プロット構成としては冗長になってしまった感は否めません。犯人当てとしてはやや容易な展開ですが、ぎりぎり土壇場でどんでん返しを用意したのが一工夫になっています。

No.1 6点 kanamori 2010/08/05 18:29
だいぶ後期の作品で、斬新なアリバイ・トリックなどを期待して読むとがっかりするかもしれませんが、その分ストーリー・テリングの巧さで充分楽しめた。
倒叙形式とは若干意味合いが違うが、前半は小悪党の詐欺行為常習の青年を主人公にして、横領教唆や大富豪の娘への接近などのクライム・サスペンス風。ところが殺人事件が発生後のプロットが従来と異なり、今回フレンチは最後に青年の無実を証明する側にまわるというユニークさ。プロットの妙味で読ませるまずまずの作品だと思います。


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F・W・クロフツ
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