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[ 本格 ]
黄金の灰
フレンチシリーズ
F・W・クロフツ 出版月: 1960年01月 平均: 5.00点 書評数: 4件

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東京創元社
1960年01月

東京創元社
1960年01月

No.4 4点 レッドキング 2023/07/10 11:49
クロフツ第二十四作。1940年作で、クロフツ後期・・前中後あるとして・・に入るのかな。古き大邸宅を舞台にした、おや、珍しく本格館物?思わせ、そこはクロフツ、十八番の乗り物アリバイトリックとリアル機械仕掛け物であった。フレンチが出て来るまでの、マッタリ物語感が、ナカナカ心地よく、点数オマケ。

No.3 6点 人並由真 2021/11/26 16:24
(ネタバレなし)
 第二次世界大戦前夜の英国。30代になったばかりの愛らしい未亡人ベニー・スタントンは夫ジョンが無一文で死亡して就労しなければならず、さらに双子の弟ロランド・ブランドの浮き草めいた生き方にも、頭を悩ましていた。そんなベニーは、荘園「フォート・マナー」を相続した男性ジェフリー・ブラーと出会い、屋敷と周辺の家政管理人を任される。ブラーはこれまでアメリカのシカゴの不動産会社で働いていたが、従兄弟の淳男爵サー・ハワード・ブラーの死去によって荘園を受け継いだ。荘園には有象無象の絵画がたくさんあり、ベニーはブラーに友人アガサの夫で、画家兼美術研究家であるチャールズ・バークを紹介した。だがブラーは英国になじめないとアメリカに帰ることになり、荘園は誰かへの譲渡が済むまで引き続きベニーが管理することになった。そんなある夜、荘園が火事になり大半の絵画とともに屋敷は丸焼け。そしてそれと前後して、パリでバークが行方不明になる。名刑事フレンチは、バークの失踪事件に介入するが。

 1940年の英国作品。フレンチ警部シリーズの長編第20弾。
 なお本書の邦訳では「警視」と訳されているが、これは誤訳で実際はまだ首席警部の階級らしい。

 身持ちの悪い弟(銀行員だったが失職して、貧乏な劇団活動をしている)に苦労しながら、自分は生活の安定を求め、一方で小説家志望として処女作の執筆に励む未亡人ベニーが、なかなか魅力的なヒロイン。前半は彼女を実質的な主人公に話が進み、フレンチの登場以降は叙述の主軸がそっちに移行する。
 
 バークの失踪に関してはどのような事態か終盤までわからず、たとえば殺人事件があるのかないのかも判然としない。というか悪事の実態も少しずつ情報が提示されるが、なかなか全貌が見えてこない。ちょっとのちのヒラリイ・ウォーやデクスターの諸作みたいな雰囲気もある。
 
 ただし、前半でたぶん多くの読み手(評者もふくめて)がメインとなる犯罪の主体に関して、たぶんこういうことがあったのだろう、と仮説を立てることは容易なはず。となると、そんなに早々と予想がつく事件の中身がそのまま終わる訳もないだろうと期待も高まるが……。
 うん、まあ、最後まで読むと、ああ、そこに着地、という手ごたえであった。もちろん具体的にはナイショだが、個人的にはなーんだ、と、ああ、なるほどの相半ばであった。ミステリとしてはトータルでは水準作~佳作だろう。
 読む人によって評価が割れそうな雰囲気もある。

 予期していたとおりのクロフツらしさ満点で、そういう意味では期待していた面白さで退屈はしなかったが、さすがに真相が割れてからは、ムダな登場人物もちょっと多かったな、という印象も感じた。それでも全体としては悪くはない。
(中略)の、子供向け科学読み物風な機械トリックも楽しい。
 あと悪事はよろしくないが、犯人の状況に、ちょっと~相応に同情。
 
 中盤、出所した前科者を後見し、最終的に当人が更生するか悪の道に戻るかは本人次第だが、それでもその前提として真面目に生きようとする彼を応援するのは我々市民・国民全員の義務だ、と語るフレンチはいい人。
 そんな彼が捜査につまって奥さんのエミリー(本書では「エム」の愛称で登場)についつい当たってしまい、エミリーがそれを笑って受け流す描写にもニッコリ。ホント、いい奥さんだ。

No.2 5点 nukkam 2014/08/29 16:14
(ネタバレなしです) 1940年発表のフレンチシリーズ第20作の本書はタイトルに黄金を使っていますが豪華絢爛な場面など微塵もなく、地味なクロフツ作品の中でも屈指の地味な作品だと思います。何しろ失踪事件と出火事件がメインの謎なのですから。前者については生存が絶望視されているとはいえ、その結果がはっきりするのは終盤近くというもどかしい展開です。事件性がなかなか見えてこないためフレンチの捜査も手探り感が強いのももどかしさに拍車をかけています。第19章でフレンチが謎解きの手掛かりは全てフェアに提示されているかのような発言をして本格派好き読者の心をくすぐりますがその説明は犯行の再現に終始しているばかりでどうやってその結論を導き出したかについては説明不足な気がします。

No.1 5点 2014/06/12 00:06
構成的には『二つの密室』と似ていて、最初の4割ぐらいは旧家の邸宅に雇われた家政婦の視点から描かれます。その後フレンチの視点になるわけですが、保険会社調査員と協力して捜査を進めていくことになります。
その調査員が扱っている邸宅の火事については、当然真相の予測はつきますし、フレンチ自身火事の詳細を聞くや否や察してしまいます。ただし具体的方法については鉄道技師だったクロフツらしいトリックでしょうが、専門的すぎて、良く理解できません。
明らかな本命の他にも2人容疑者を用意していますが、今回はあまり効果的とは言えません。で、最後は結局お得意のアリバイ崩しになって、解答は「読者にも出せるはず」と、読者への挑戦まで入れてくれています。
なお、本書では「フレンチ警視」となっていますが、『フレンチ警視最初の事件』の8年前、1940年の作品であり、これは階級をどう翻訳するかの問題でしょう。


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