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[ クライム/倒叙 ]
山師タラント
フレンチシリーズ
F・W・クロフツ 出版月: 1962年01月 平均: 5.25点 書評数: 4件

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東京創元社
1962年01月

東京創元社
1988年01月

No.4 6点 斎藤警部 2025/08/19 15:54
「連中がその教訓を学びとったのだとしか考えられません」

薬局に勤める青年タラントには、決して世のため人のためではない、自分のためだけの燃え上がる野心があった。 卑怯な手を見事に使い分け、薬品事業でまずまずの資産と奇妙な信用を蓄え、やがて大富豪の娘と婚約を発表した矢先、タラントは溺死体となって発見される。 彼には、胡乱な事業の重要なパートナーでもある長年の恋人がいた。 彼女を慕う純情な若者もいた。 看護婦時代の親友がいた。 大富豪の娘の ‘相談役’ は野心を秘めた若い女だ。 タラントにしてやられた薬品会社には、タラントと五十歩百歩の際どいやり口で或る薬品事業を始めた役員がおり、彼がライヴァル視する総支配人がおり、事業を買い取って展開させた剛腕社長がいる。

要所要所にこすい山師どもが陣取る。 曲者に心の弱い者強い者、次々と登場。 まるで映画パイレーツ・オヴ・シリコンヴァレー縮小版のようだ。 だが交錯する騙しと騙し合いのスリルは熱い。

「そりゃ、気の毒な。 きっと自分から求めてのことにちがいないとは思うが」

整った各章表題が魅力的だ。 眺めれば、物語の内なる推進力が見える。
事件を起こすに至る(と思われる)人間関係ドラマも立体的に良く描かれている。
ちょうど真ん中あたりのフレンチ登場で安心感とサスペンスが同時に湧き上がるこのありがたさよ。 フレンチ登場からこんこんと湧き上がるフーダニット興味。 その巧みなバランシングの妙たるや。

終盤五分の四からの裁判シーンにはチョイトくどい所があり、、 なすすべなく退屈の袋小路へと導かれた。 ミステリ上の ‘ネタ’ が少なすぎたのかも知れない。 裁判長、検察官、弁護士それぞれの人物像も取って付けたようで、魅力は薄い。

“人間は疲れると、必然的に要点を見落としがちである。”

しかし、だからこそ本篇内では異色のタイトルが気になる最終章 「八方まるくおさまる」。
結末には、ドンデンまで行かないドン返しと、ぎりぎりまで明かされない意外な真犯人。 フレンチ(と或る登場人物)とって苦い結末。
まさか××による真相暴露で締めるとは思いませんでした。
恋愛ドラマに証言のナニが絡んでいるのがこの真相隠匿のミソなのだろうが、ネタがもともと弱い上、冗長な裁判シーンですっかり薄く引きのばされた感が強く、どうにも拍手喝采とは行かない。

だけど裁判シーンに突入するまでの五分の四は文句なしに面白いんだ。 7点行くはずだったんだ。 それだけは念を押したいんだ。 山下乱闘 ・・・

No.3 4点 レッドキング 2023/08/01 21:36
クロフツ第二十五作。原題「(James)Tarrant, Adventurer」。山師=アドベンチャーねぇ。アドベンチャーには冒険家の匂いがするが、山師って言うと詐欺師の臭いが・・・。もともと和英共に「起業家」てな趣なんだろが、資本主義米国と違い、階級社会英国でも家系社会日本でも、起業家・資本家には「成り上り者」の胡散臭さが付きまとう。
で、この作品、その詐欺師まがいの起業家男の死を巡る殺人法廷劇がハイライト。たとえ死刑でなかろうとも、被告を有罪として裁くには、「Aは犯人であり得る」=必要条件だけでなく、「Aは無罪ではあり得ない」=十分条件を満たさねばならんだろうが。ましてや、死刑判決においてをや・・にも拘らず、フレンチも、検事も、ついでに結局は判事も、必要条件:「あり得る」をもって被告を弾劾可能としている。そもそも、あれが殺人だったって言う確実な十分条件の証拠さえないじゃん。クイーン「ニッポン何とか鳥」の親父警視とかの「ロジック」まだしも・・これは・・我慢できんなあ。もちろん、取って付けた様な冤罪救済をトってツけてるけどねぇ。 ※話自体は法廷サスペンスとして面白い。

No.2 5点 nukkam 2016/06/08 18:52
(ネタバレなしです) 1941年発表のフレンチシリーズ第21作の本格派推理小説です。時代が時代だからかもしれませんが、素性の知れない薬品が簡単に市場に流通するストーリーにはそれほどリアリティーを感じられませんでした。前半は野心家の薬局店員タラントの物語ですがタラントばかりに焦点を当てているわけではなく、彼と利害関係のある人間も丁寧に描写されていて群像ドラマ風です。もっともクロフツなので性格描写という点ではそれほど成功してはいません。フレンチの登場は中盤以降で、いつもながらの地味な捜査に加え、法廷シーンがあるのがクロフツとしては珍しいです。作者は更に法廷後の場面も用意するなどプロットに多少工夫しているところがありますが、棚ぼた気味の解決に加えて謎解き説明が十分でないのが残念です。

No.1 6点 kanamori 2013/03/01 20:32
前半に犯罪行為を描き、後半がフレンチの捜査過程になるといった、クロフツが中期以降に多用した倒叙ものかと思っていたら本書はちょっと違いました。

野心家タラントを中心にした詐欺まがいの医薬品販売事業を巡る群像劇風の前半部は結構面白いです。いわば”ゼロアワー”もので、犯人を明示せず事件の直前で終わることで、フーダニットものになっています。また、終盤の数章は裁判シーンに費やすというクロフツの作品では珍しい構成になっています。
ただ、そのためフレンチ首席警部の捜査編は、すでに読者が知っている事件背景を後追いするだけのものになっていて少々退屈に感じました。また、結末のどんでん返しが唐突であっけないです。


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