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[ サスペンス ]
ロウフィールド館の惨劇
ルース・レンデル 出版月: 1984年06月 平均: 6.75点 書評数: 12件

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角川書店
1984年06月

No.12 5点 メルカトル 2021/11/20 23:08
ユーニスは怯えていた。自分の秘密が暴露されることを。ついにその秘密があばかれたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転をはじめた! 犯罪者の異常な心理を描く名手、レンデルの会心作。
Amazon内容紹介より。

久しぶりにストレスに悩まされる読書でした。兎に角文章が下手。原文も原文なら翻訳も翻訳ですよ。30年以上前の作品だから仕方ないかあ、とはならないですね、私の場合。
登場人物も主要なキャスト以外誰が誰だか分からない始末です。ただユーニスの非人間性だけはある程度浮き彫りになっていると思います。

冒頭で犯人が明らかになっている以上、興味は当然犯人がどういった経緯で犯行に及んだかに尽きると思うのですが、その変容ぶりがほとんど語られていないのが特に気になりました。ユーニスの秘密が暴かれるのは、どう考えても時間の問題なのに、当人は死ぬまでそれを隠し通せるとでも思っていたのでしょうか。その辺りも疑問に思います。
意外だったのは、悲劇が起こって終わりかと想像していたのが、そこから警察が捜査に乗り出したことでした。しかし、最初に疑われるはずの人物が早々に容疑から外れたのは、一体どうしたことでしょう。実際そのような事はあり得ないはず。警視正とあろう者がボンクラで、あらぬ方向へ捜査が進んでしまうのはかなり滑稽でしたね。
とまあ、私の評価はこんなものですが、みなさんは私を信じないほうが良いかも知れません。何しろ世評が高いようですからね。

No.11 7点 ◇・・ 2020/05/03 19:03
最初から犯人と動機を明らかにしたうえで「なぜ」を説明してゆく。
心理スリラーは当時としては新鮮だった。だがそれだけではく、著者の描くダークな心理劇の絶妙さに病みつきになる。文章は簡潔だが卓越した人物描写は文芸書のよう。

No.10 8点 HORNET 2019/09/01 21:02
 最初の一行で事件の結末が示されて、そこにいたるまでの様相が描かれていく。
 パーチマンが文盲であることをひた隠しにし、そのために策を弄するさま、その中で垣間見える「サイコパス」ともいえるような人格に、ヒヤヒヤしたりゾッとしたりして興趣が絶えない。
 ラストの、殺人後に真相が発覚するまでの件もかなりよくて、テープレコーダーが再生されるくだりなどはゾクゾクした。

 40年以上前の作品なのに、今読んでもまったく色褪せないと感じる。これの前に「わが目の悪魔」も読んだが、犯罪者の昏い心情を描き出すのが非常に上手い作家だと思う。

No.9 5点 E-BANKER 2017/12/11 22:46
1977年発表の長編。
「館」と名はつくものの、いわゆる日本の「館もの」とは一線を画すようで・・・

~ユーニス・バーチマンがカヴァディル一家四人を惨殺したのは、確かに彼女が文字が読めなかったからである。ユーニスは有能な召使だった。家事を万端完璧にこなし、広壮なロウフィールド館をチリひとつなく磨き上げた。ただ、何事にも彼女は無感動だったが・・・。その沈黙の裏でユーニスは死ぬほど怯えていたのだ。自分の秘密が暴露されることを。一家の善意がついにその秘密を暴いたとき、すべての歯車が惨劇に向けて回転を始めた・・・~

ということで、本作は本格ミステリーではなく、サスペンスに分類される作品。
で、何といってもユーニス・バーチマンである。
コイツがなかなかのキャラクターなのだ。
そしてもうひとりの悪女ジョーン・スミス。こいつも結構ヒドイ。
悪女ふたりが奇跡的に出会い、融合してしまう刹那。こんな恐ろしい結末が待っていようとは・・・

他の方も触れているように、冒頭の一文。
それだけで、読者を作中世界に引き込むことに成功した作者の作戦勝ちだろう。
読者はユーニスの発言や行動を知るごとに、彼女に薄ら寒い感情を抱き始める・・・
もちろん「文盲」に対する劣等感あってこそなんだけど、それ以上にあらゆる物事に感情を示さないことへの恐怖。
ロウフィールド家の人々も徐々に彼女の冷え切った心の中に気付き始めるんだけど、時すでに遅し、ってことになる。

評価としてはどうかなぁ・・・
個人的にあまり好みのタイプとは言えなかったなぁ。
結末に向けて徐々に盛り上がってくるサスペンス感は確かにあったんだけど、今ひとつ興に乗らなかったというか、角度が若干ズレてるっていうのか・・・
理由はよく分かりません。

No.8 7点 斎藤警部 2016/11/11 18:13
読前の憶測をバサッと裏切る、悲喜劇ならぬ喜悲劇サスペンス! 心理的にはかなりのドタバタ! こりゃつまるところゲームの構造か、ってかなり早い段階で思っちゃいましたが。。主人公の文盲を補填する他の感覚の水際立った鋭敏さもまた、そのゲーム特有のルールみたいでね。 カタストロフィの予感はいっぱい、至るところにありましたよ。しかしながら。。
最後の最後に、見たことも無いよな逆アリバイ(?)趣向。それは或る「稚拙さ」が有ったが故の。。このラストスパートは萌えますよ。東野「天使の耳」を思い出す時間計算のナニもありました。
そして、そのラストスパートとはまた別の、二重底の、まさかの熱いクライマックス。。。
ユーニスは知らなかった。。。 

No.7 8点 mini 2015/05/26 09:56
昨日25日発売の隔月間化された早川ミステリマガジン7月号の特集は、”最強! 海外ミステリ・ドラマ・ガイド”
そう銘打っているのだからきっと”最強”なのでしょう(苦笑)
しかし私はミステリ・ドラマというものに全く興味が無く、したがって視聴後のおさらい読書などもしないのである(笑)
という訳で7月号の便乗は無しだが、予想通り次号9月号の特集の1つが”ルース・レンデル追悼企画”らしい
昨年末に亡くなったP・D・ジェイムズが早川のほぼ独占状態だったのに対して、レンデルは早川、創元、そして角川と3社が分散的に刊行しており、早川としてはジェイムズほどの思い入れは無いかもしれない
実際にレンデルの短編集は角川文庫から何冊か出ているが、角川文庫未収録で早川ミスマガに掲載された短編は意外にも数えるほどしかなく、原著でも雑誌に埋もれたままにならずきちんと短編集に収録される場合が多かったといいうことだろう、つまりは海外でもレンデルは大物作家であるという事だね

レンデルと言うと早川や創元ではなく角川のイメージが強いのは、冊数も多いだけでなく「わが目の悪魔」と「ロウフィールド館の惨劇」の2トップの独占翻訳権を持ってるからだ
実は私は「ロウフィールド館」には偏見を持っていて読んだのは最近である、だってさ”館もの”が大嫌いという私の嗜好からしてみれば、もう題名自体が”館もの”そのままだしさぁ(苦笑)、やはり一番は「わが目の悪魔」の方だろとずっと思っていたのである
しかし読んでみて印象は変わった、「ロウフィールド館」は決して”館もの”ではない、いやそもそも元の題名自体に”館”の文字は無いのである
原題を直訳すれば”石の審判”、まぁ多分だが、石のように冷酷非情な女が下した判断といったところだろうか
角川め、こんな館ものと紛らわしい邦訳題名を付けるな!
ところがさ、昨今の日本の読者は館ものが大好きな人が多いからねえ、きっと古典本格風の舞台なのかと思って手を出した人も居るのではないかな(笑)
でもこれ完全に現代サスペンス小説だよね、もちろん良い意味でさ
しかもホワイダニットでもないから、冒頭の1文なんてネタバレでも何でもないし(笑)
所謂ゴシック風の怪しげな雰囲気などは無い、単に田舎の館で惨劇が起こるだけで、内容は極めて現代的である
サスペンス小説には大きく分けて心理描画が濃厚なタイプと、心理よりも事の顛末を語るタイプの2種類が有ると思うが、ウールリッチやM・ミラーなどが活躍した40~60年代は心理タイプが主流だったと思う
しかし例えば70年代のメアリ・H・クラークなどは行動を描写する方向に変化しており、レンデルは60年代デビューとは言え絶頂期は70年代と思われるので、やはり70年代型の1人として経過報告タイプだと思う
「ロウフィールド館」も心理描写が深くこってりしている訳ではなく、要するに惨劇に至る経緯顛末を語るサスペンス小説だと思う、HIBK(もしも私が知っていたら)派風の煽り文句が頻出するのもそのせいか
いや~、HIBK派ってさ、時代遅れみたいに言われるけど案外と現代感覚が有るんですよ、むしろウールリッチやミラーなどの心理描写タイプの方に古臭さを感じる時がある
あっ話が逸れちゃった、でこの「ロウフィールド館」、やはり凄いサスペンス小説でスよ、一家の娘や友人でもある雑貨店の女主人などの脇役陣の扱い方も上手いしね、先に述べた2トップの一角「わが目の悪魔」ですら平凡なサスペンス小説と感じさせてしまう位だ

No.6 7点 2013/09/25 10:03
こんな衝撃的な冒頭は経験がない。倒叙物だからといって、動機や手口までがばらされることはあまりない。本作は、動機をしかも冒頭の一文で明かしてしまっている。これはほんとうにすごい。

でも、この一文では、読み書きできないことが遠因ではあっても、直接的な動機ではなかったのでは、ともとれる。それが原因で恥をかかされたぐらいで人殺しをするのかなぁ、なんて疑問も浮かんでくる。ということで、この一文を種々考察してみた。
①ふつうに思いつくのが、文盲による歪んだ劣等感。それにより受ける恥辱が動機か。または文盲を隠しきれない状況になって発狂か。
②読み違いにより、善意の文章を悪意ある内容に読み取った。
③読み違いにより誤って(機器の取り扱いを間違って過失致死的に)、殺人が起きた。これは面白くない。

と、いろいろ想像しながら読んだが、やはり本作はサスペンスを楽しむミステリーだった。中途は抜群だった。その中途には、ストレートにハラハラさせるのではなく、ごくふつうの、なにげない日常が描いてあった。それでも、サイコ・サスペンスの波がじわじわと迫ってくる。国語の教科書に掲載され、ユーニスの心理状態についての授業ができるのでは?

ミステリーとしては、やはり冒頭の一文が頭の片隅にあるからこそのサスペンス効果に尽きる。サスペンスを盛り上げた文章の勝利、そしてアイデアの勝利でしょう。最後の警察視点への場面転換はメリハリが利いていて、効果抜群です。

No.5 5点 蟷螂の斧 2013/02/26 10:27
東西ベスト100に入っていたので拝読。しかし、あまりピンときませんでした。無知~感情の欠如~善悪の判断の欠如、それは文盲が原因であったということなのでしょう。原因(動機)自体に、関心が持てなかったので、サスペンス感を味わうことがきませんでした。残念です。

No.4 6点 あびびび 2011/11/17 22:07
文盲がゆえに殺人を犯した…。ロウフィールド館にメイドとして就職できたのは代わりに紹介状、推薦状を書いた人がいたからで、その女はまったく字が読めなかった。

それから事あるごとに危機を乗り越えたが、(主人からの書き置きを他人に読んでもらったり)、それが永遠に続くはずはなかった。「私は字が読めません」といまさら言えず、一家惨殺の悲劇となる。
それは冒頭で作者から明かされていて、ネタばれではない。そのあとの異常心理を書いたサスペンスである。

ただ現代ではその設定はまずありえなさそうだし、やや迫力に欠ける。でも、映画にすれば、監督の腕の差が出そうな物語だと思う。

No.3 6点 シーマスター 2010/09/29 23:30
我が蔵書庫の奥底(ウソウソ)で長年熟成させてきたが、この度(ふとしたことから)ついに開栓、賞味。
しかし、少々長く寝かせすぎたようだ。

異常心理から殺戮に至る過程が描かれたサスペンスだが、昨今の同系統のものに比べると色褪せている、というより薄味の感は如何ともしがたい・・・・最近のサイコ物はエグいからなぁ。

とはいえ、物語の組み立て方や伏線の鏤め方は巧緻に長け、四季の移ろいなどの情景描写も含めて小説としての完成度は高いと思う。

このジャンルにおける記念碑的な作品と言っていいのではないかな。

No.2 7点 kanamori 2010/08/07 15:29
異常心理もののサスペンスの傑作。
サスペンス小説は、いったいどういった結末が待っているのかの興味で物語を引っ張っていくのが通常だと思うが、本書は冒頭でいきなり結末を明かしたうえで、物語が展開していく。
文盲という他人に知られたくない秘密をかかえた家政婦ユーニスの心の闇と崩壊の過程を描くだけで、ここまでのサスペンスをものにする作者はやはりスゴイとしか言いようがない。

No.1 10点 Tetchy 2009/09/18 23:17
これが噂の、という期待感で臨んだ本書。
冒頭の有名な一文がこの物語の全てだ。即ち

ユーニス・パーチマンがカヴァデイル一家を殺したのは、読み書きができなかったためである。

この一文から始まる物語を聖ヴァレンタイン・デイの惨劇へと収斂させていく手並みは見事。
日常の、本統に何気ないアクシデント、例えばTVの故障などが文盲であるユーニスにとって狂気へ駆り立てる一因となっていく事を実に説得力ある文章で淡々と述べていく。
そして事件後の真相に至る経緯も、事件前に散りばめられた様々な要素が、単純に真相解明に結びつかない所が面白い。

運命を弄ぶレンデル、そして“怪物”を生み出したレンデルに拍手を贈りたい。


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