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[ 警察小説 ]
偽りと死のバラッド
ウェクスフォード警部
ルース・レンデル 出版月: 1987年09月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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角川書店
1987年09月

No.2 5点 nukkam 2022/11/18 22:58
(ネタバレなしです) 1973年発表のレジナルド・ウェクスフォードシリーズ第8作の本格派推理小説です。8万人の群衆が集まる音楽フェスティヴァルの終焉後に発見された他殺死体という事件を扱ってますが、迫力ある演奏とか会場の熱狂ぶり描写を期待してはいけません。整然たる弦楽四重奏の演奏会と置き換えても違和感ないぐらい抑制が効いています。地味過ぎるぐらいの捜査描写の中で第12章での被害者の服を巡っての刑事たちの意見交換会がちょっとしたファッション評価みたいでユニークです。犯人逮捕は意外と早くて唐突ですが、「もっと奇妙ななにか、実際の彼女の死よりも、もっとおそろしいなにか」の謎をウェクスフォードがなおも追及していきます。その真相にはかなり変わった人間ドラマが隠されていますが、読者に納得させるには伏線不足の感じがします。余談になりますが第7章でバーデン警部の近況が語られますが、「もはや死は存在しない」(1971年)を読んでいる読者は意外な後日談に驚くでしょう。

No.1 7点 Tetchy 2013/03/24 13:55
1973年の本書はキングスマーカムという田舎町でロックフェスティバルが催されるというシーンから始まる。1969年に開催され、今や伝説となっているウッドストックからブームになった。レンデルが本書でも扱っているぐらいだから当時の熱狂ぶりは凄かったのだろう。

今回の事件はそのロックフェスティバルが開催されている会場で最終日に顔を潰された女性の死体が発見されるというもの。フェスティバルの乱痴気騒ぎの中で殺された者かと思いきや、それが始まる前に殺されたことが判明するが、被害者ドーン・ストーナーは服を二種類持っており、また死ぬ直前に誰かと食べるためと思われる食材を買い込んでいた。しかもドーンはフェスティバルの出演者ジーノと知り合いだった。この一見何でもないような殺人事件だが、犯行当時の状況にどうにも説明のつかないところがあるという違和感が実にレンデルらしい。
この奇妙な事実と被害者とフェスティバルの出演者との奇妙な繋がりから事件の謎が綻び、全容が浮かんでくる。

本書における犯人は実は物語の5/6辺りで突然犯人による自供によって判明する。しかし本書におけるメインの謎は犯人は誰かではなく、なぜ被害者は殺されるに至ったかというプロセスにある。

実は事件の関係者の人間関係を知った時、あまりに狭い関係性に偶然に過ぎるのではないかと思った。しかし最後ウェクスフォードが物語の最後に述べる台詞のための設定なのだと納得した。
これはレンデルから世の大衆に向けての痛切なメッセージなのだ。当時ヴェトナム戦争、欧米とソ連との一触即発の緊張関係など荒んでいた政情に反発した民衆が音楽で世の中が変えられると信じ、ロックスターをアイコンにして運動を起こしていた。しかしそのアイコンたちはラヴ・アンド・ピースを叫びながら、実はそれを食い物にし、アイコンに群がるファンたちを弄び、金儲けしていたという事実。君たちの信じる者は所詮虚栄に過ぎないのだという警句を本書で投げかけている。
本書が1973年に発表されたことを考慮して初めて本書が当時書かれた意義が解る(とはいえ、本書を読み終えた後に冒頭の献辞を読むと母から子への痛烈なメッセージにも取れて苦笑してしまうが)。


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