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[ サスペンス ]
カーテンが降りて
ルース・レンデル 出版月: 1988年05月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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角川書店
1988年05月

No.2 7点 HORNET 2023/01/14 19:41
 特別な舞台でもない、一般人の日常に潜む邪悪さや弱さ、あるいは他人の悪意を邪推した勘違いを、短編で端的に描き出している作品集。
 特に本短編集は、「悪い心臓」「要人の過ぎた女」「はえとり草」などの、他人の悪意を邪推した勘違いの悲劇が面白かった。主人公が、ある人物相手にさまざまに悪意を想像して怯えるのだが、その筋のサスペンスかと思って読んでいるとそれが「一方的な勘違い」で、却って悲劇を生んでしまうというパターン。ちょっとそれを予想しつつ読んでいても、結局面白い。
 その他、夫殺しを画策した妻の悲劇「コインの落ちる時」、殺し屋の意外な主義嗜好により展開に至る「人間に近いもの」など、短い展開でレンデルの魅力を堪能出来る粒ぞろいの作品集。
 面白かった。

No.1 7点 Tetchy 2013/03/10 19:26
レンデル特有の悪意が詰まった短編集。

彼女の持ち味は人間がわずかに抱く悪意や不満といった負の感情が次第に肥大していき、あるきっかけがもとになって悲劇を招くことが非常に自然な形で読者の頭に染み込んでいくような丹念な物事の積み重ねにある。
本書でもそれは健在だが、短編と云う決められたページ数のためか扱われる内容は実に我々の生活の身の回りの出来事であることが多い。
やたらとモテる友人への嫉妬心、解雇した部下への苦手意識、潔癖症、独身生活を続けたゆえに生まれた独善的な思考、誰かに愛されていないと生きていられない女、夫婦の不仲、厭世的な人間嫌い、苦労を厭い、できれば身内に面倒を押付けたいという願望。それらは誰もが周囲に該当する人間であり、もしくは自分の理解を超えた存在ではなく、どこかに必ずいる、ちょっと変わった人たちだ。みな何かに不満を持ちながら、それでも生きているのが現状であり、何もかもに満たされ、毎日が安定して幸せな生活を送っている人たちなどほとんどいないだろう。従ってレンデルの作品に登場する人物は不思議なお隣さんの生活を覗き見するような趣があり、時にそれはリアルすぎて生活臭さえ感じられるほどだ。

本書に収録されている物語の結末は全てが数学を解くかのように割り切れるような内容ではなく、何かの余りを残してその後を想像させるものが多い。それがこの作家の、人間というものに対しての思いなのだろう。だからこそここに出てくる人物たちが作者の掌上で操られているのではなく、自らの意志で行動しているように感じてしまう。作者はそんな彼らに事件と云うきっかけを与えているだけ。そんな風に感じてしまうほど彼らの行動や出来事の成り行きが自然なのだ。

読めば読むほどレンデルの人間観察眼の奥深さを知らされることになる。だからこそ訳出が途絶えたことが残念でならない。どの出版社でもいいのでレンデル=ヴァインの作品を再び刊行してくれることを切に願っている。


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ルース・レンデル
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