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[ サスペンス ]
死のカルテット
ルース・レンデル 出版月: 1985年11月 平均: 7.50点 書評数: 2件

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角川書店
1985年11月

No.2 7点 HORNET 2020/10/27 19:56
 「悪い」めぐりあわせが連鎖する、レンデルのノンシリーズらしい物語。
 ただ、主人公のグルームブリッジにとっては悪いめぐりあわせばかりではなかった、というかむしろ悪に踏み出してしまったからこそめぐりあえた喜びがあったということなのだが。まぁ、そういった幸と不幸との板挟みというか、両極端というか、そういった込み入った展開もやはりレンデルらしい。
 彼女のノンシリーズのサスペンスが好きな人は、概ね好む話ではないだろうか。

No.1 8点 Tetchy 2019/05/05 22:22
いつものように出社し、その日もいつもように仕事を終え、家に帰って家族といつものように変わらぬ会話と小言を繰り返し、寝床に就いてまた同じような朝を迎える。そんな日常が繰り広げられるはずだったところに突然転機となる事件が起こったら、貴方はどうするだろうか?
レンデルのノンシリーズ作品となる本書はそんな日常から突如切り離された4人の男女の話だ。銀行強盗がきっかけで人生が変わりいく男女4人の人生の転機の物語だ。

イギリスで一番小さい銀行支店で働く、1人の妻とその義父、不動産会社に勤める息子と15歳なのに夜な夜な出歩いては、しかしきちんと門限の10時半に戻ってくる娘を持つ38歳の男アラン・グルームブリッジ。アングリア・ヴィクトリア銀行のチルトン支店に勤める銀行員。
もう一人の銀行員は20歳のジョイス・M・カルヴァという女性。どちらかと云えば自由気ままな毎日だが、それは退屈の裏返しでもある。
その銀行の話をあるきっかけで知り、銀行強盗を企てるのはマーティ・フォスターとナイジル・サクスビイの2人。
この2人の行き当たりばったりの銀行強盗が4人の人生を変える。

強盗2人はジョイスを人質に取り、警察に通報されるのを恐れて監禁生活を余儀なくされる。

ごくごく平凡な男だったアラン・グルームブリッジは手元にあった3千ポンドを持ち出し、名を変え、新たな人生を歩むことを決意する。そして彼は下宿先のユーナと恋に落ちるのだ。
私はこのユーナ・イングストランドという女性のことを思うとどうしても切なくなってくる。けなげに生きながらもなぜか幸福に恵まれない女性がいる。ユーナ・イングストランドはそんな女性だ。
原題“Make Death Love Me”、「死神が私に惚れるほどに」という題名は実は主要人物4人を指すのではなく、このユーナの心情を指すのではないか。彼女が辿り着いた心の叫びのように聞こえてならない。
そしてまたユーナをこのような状況に招いたアラン・グルームブリッジがまた悪い人間ではなく、いい人だから困ったものだ。

人生に“もし”はないが、本書はその“もし”の連続の物語だ。
“もし”アランの娘が夜遊び好きでなかったら?
“もし”その娘の友達が悪人でなかったら?
“もし”アランがここではないどこかへ行きたいと思わなかったら?
“もし”アランが別の女性と付き合っていたら?
“もし”ジョイスが銃を弄ばずにこっそりと脱出していたら?
この“もし”の選択肢の中で我々は生きている。本書はその選択肢の1つを選び間違えたが故の歩むべきでなかった人生の道筋の物語。平凡な毎日は選択を一歩間違えばこんな悲劇が待っている。心にずっと痛みが残るような出来事はちょっとしたタイミングや心に差す魔によって起こるのだ。
実にレンデルらしい皮肉に満ちた作品だ。最後にある有名な曲の一節を引いてこの感想を終えよう。
「誠実さ、なんて寂しい言葉なんだろう」


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