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[ 本格/新本格 ] 鳥居の密室 世界にただひとりのサンタクロース 御手洗潔シリーズ |
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島田荘司 | 出版月: 2018年08月 | 平均: 6.14点 | 書評数: 7件 |
新潮社 2018年08月 |
新潮社 2021年02月 |
No.7 | 7点 | Tetchy | 2024/06/20 00:33 |
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最近の島田氏は実在する企業をモデルにしている作品が多く、例えば『ゴーグル男の怪』では臨界事故を起こしたジェー・シー・オーを、『屋上』ではお菓子会社のグリコをモデルにしているが、その会社が関係する場所は前者が東海村であるのに対し、福生市にしていたり、後者が大阪道頓堀でありながら川崎にしていたりと微妙に細工を加えているのが特徴だが、本書の舞台は鳥居が両脇の建物の壁を突き破って突き刺さっている京都の錦天満宮そのものを事件現場として、しかも鳥居が突き刺さっている両方の建物を密室殺人事件の舞台としている。
実在する場所をピンポイントで殺人現場にしているのだから、きちんと許可を取っているのか気になるところではあるが。 一方でもう1つ宝ヶ池駅近くにある振り子時計が多く飾られている喫茶店「猿時計」は作者の創作らしい。 さて今回の密室殺人は正直解ってしまった。 またその事件が起こった錦天満宮界隈で住民たちが一様に夜中に目が覚め、不眠症に悩まされている原因も解った。 しかし、なんとも身悶えしてしまう事件である。特に冤罪にて服役することになった国丸信二の心情が痛い。 いわばこれは献身の物語でもある。島田版『容疑者xの献身』ともいうべきか。 しかし本書の舞台を御手洗潔の若き日にしたことで、昭和という時代性が色濃く出ている。 つい先日テレビの番組で昭和時代の常識について触れることがあった。それは例えば信じられないほどの満員電車での通勤風景だったり、また分煙化が成されていない時代での駅のホームの煙だらけの風景やオフィスの机に灰皿が堂々と置かれている状況だったり、はたまたテレビ番組中に出演者自身が煙草を吸いながら進行している映像だったりと今の常識とでは眉を顰めるような違和感が横行していた。しかしそんな時代だったのだ、昭和は。 本書においてもいわば男尊女卑の意識が根強い家父長制度が横行しているそれぞれの家庭のことが書かれている。 夫が怒るからクリスマスプレゼントは上げられないと云った夫の暴力を恐れて自己催眠を掛ける妻の意識だったり、親の選んだ道を行くことを子供は望まれ、本当に進みたい道を選べなかったり、夫の稼ぎよりも自分の自営の仕事の方が収入がいいことを認めると夫が機嫌を悪くするので敢えて黙っていたり、もしくはそれを夫があてにして乱費するのを黙って我慢したりと女性は常に男に従って生きてきた、そんな時代だ。 それらは確かにこの令和の時代にも残っている考え方や風習だろう。しかしそれらが古臭く感じるのもまた事実なのだ。 齢70にしてまだ密室殺人事件を扱う作品を書く島田氏の本格スピリットには畏敬の念を抱かざるを得ない。私でさえ年を取れば読書の傾向は変化していき、昔はガチガチの本格が好きだったのが、ハードボイルドや警察小説などトリックよりも人の心の綾が生み出す物語の妙にその嗜好は変わっていきつつあるが、島田氏は一貫して本格ミステリへの愛情が尽きていない。 そして私が彼の作品を今なお読み続けるのは彼が物語を重視するからだ。物語の復興こそ今必要なのだと単にトリックやロジックを重視しがちな本格ミステリ作家ではない存在感を示しているところに魅了されるからだ。 本書の構成もドイルのシャーロック・ホームズの長編の構成を踏襲している。事件を探偵が解き明かすパートと犯人側の事件に至った背景の物語が描かれている。 率直に云えば事件解決のパートだけならば中編のボリュームだろうが、犯人側のパートを描くことで物語に厚みを与えているのだ。 そう、島田氏は本格ミステリを書いているのではなく、本格ミステリ小説を書いているのだ。このドイルから連綿と続く文化を継承しているからこそ、私は彼の作品を読まずにいられないのだろう。 島田氏が綴る市井の昭和年代史ともいうべき作品だ。私も昭和生まれだが、いつの間にか平成時代の方が長く生きていることになった。 そして今は新たな元号令和の時代だ。昭和は既に遠くなりつつある。昭和という時代に生きた日本人の価値観を今後に語り継ぐ意味でも本書のような作品は書かれ、そしていつまでも読み継がれてほしいものだ。 |
No.6 | 7点 | 名探偵ジャパン | 2021/06/19 23:03 |
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久しぶりの島荘、そして御手洗! やっぱり好きだなぁ。出てくるだけでワクワクします。
本作のトリックについて、密室をどうやって作ったか、のハウダニットだけを取り出してしまうと、確かに、どうよ?となりますが(あんなこと、本当に起きるの?)、この話(トリック)の肝は、「どうして密室になったのか?」というホワイダニットにあります。そこに犯人の心情や、ある種の被害者であるヒロインの立場も絡んできて、そういう視点で読まないと、本作のトリックを味わい尽くすことはできないでしょう。作品からトリックだけを抜き出して語れないトリック、になっていますし、ミステリのトリックって、そういう使い方をするのが一番効果的なんだと思います。 |
No.5 | 6点 | E-BANKER | 2021/03/08 16:25 |
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「追憶のカシュガル」に引続き、京都大学在学中の若き御手洗潔と彼を慕う予備校生サトルが再登場。つまり、舞台は昭和40年代の京都。更に事件はその十数年前、つまりは昭和30年代・・・ノスタルジックだよね。
単行本は2018年の発表。 ~完全に施錠された少女の家に現れたサンタクロース。殺されていた母親。鳥居の亡霊。猿時計の怪。クリスマスの朝、少女は枕元に生まれて初めてのプレゼントを見つけた。家は内側から施錠され、本物のサンタクロースが来たとしか考えられなかったが、別の部屋で少女の母親が殺されていた。誰も入れないはずの、誰もいないはずの家で。周囲で頻発する怪現象との関連は?~ 「いい話である」。本作をひとことで言い表すなら、そういうことになる。 御手洗も若く、何とも言えない瑞々しさがある。最初に我々の前に登場した、あの馬車道の御手洗は、世間に背を向け、ねじ曲がった性格の奇人としてだった。 そんな御手洗もこの時はまだ医大生。当然、常人では計り知れない頭脳と洞察力を併せ持つスーパーマンなのだが、まだまだ人間そして日本という国に失望してない雰囲気を纏っている。 それだけでも本作を読了した価値があるというものだ。 で、本題なのだが、「密室」。うーん、「密室」ねぇ・・・ 確かに堅牢な密室が出てくる。一階はスクリュウ錠、二階はクレセント錠ですべてが施錠された家・・・堅牢だ! でも、これってワンアイデアだろう。作者が前々から持ってた「密室」ネタのひとつを大きく膨らませたもの。 まぁ、ワンアイデアでここまで感動的なストーリーを紡ぐことができるのだから、それはそれでさすがということなんだけど、いかにも「薄味」という感覚にはなるよね。 途中に挿入された物語。こういう手の話も、「あーあ。島荘らしいね」と思うんだけど、何となく既視感いや既読感ありありって感じになってしまう。(こういう不幸でやりきれない男や女の話は妙にうまい) 悪くはない。うん。悪くはないんだけど、満足もしてない。前の島荘作品の書評で「荒唐無稽でもいい、あの剛腕で私をこれでもかとねじ伏せて欲しい」って書いた気がするんだけど、同じく! でも、さすがに今は150キロの剛速球なんて無理だよな。じゃあせめて、100キロでもいいから鋭い変化球を見せて欲しい・・・って難しいかな? |
No.4 | 6点 | 鷹 | 2021/02/16 12:57 |
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読みやすいです。謎は驚くほどではありません。
また、御手洗がいる必要性はあまり感じられません。 |
No.3 | 5点 | HORNET | 2019/04/07 17:06 |
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錦天満宮の鳥居が両側の建物に刺さっていることから思いついたネタを小説にした、という感じだろう。科学的な知識はないながら、なんとなく漠然と思い描いていた真相だった。
もともと短編だったものを長編にリライトしたものなので、話としてそれほどの厚みは感じない。よく言えば読み易く、すぐに読了できる。 ミステリ以上に、工場の従業員国丸と、幼い少女・楓のつながりが胸に刺さる話だった。そういう意味ではイイ話だった。 |
No.2 | 6点 | 虫暮部 | 2018/12/25 10:26 |
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単純なキャラクターばかり、なのはいつものことか。大傑作とは言えないまでも概ね面白かったが、プロローグの亡者の真相がアレというのはあんまりだ。
しりとりや“オセンベ焼けたかな”について地の文で解説しているのは、海外の読者を意識してのこと? さすがぁ! |
No.1 | 6点 | メルカトル | 2018/10/26 22:14 |
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完全に施錠された少女の家に現れたサンタ、殺されていた母親。鳥居の亡霊、猿時計の怪。クリスマスの朝、少女は枕もとに生まれて初めてのプレゼントを見つけた。家は内側から施錠され、本物のサンタが来たとしか考えられなかったが―別の部屋で少女の母親が殺されていた。誰も入れないはずの、他に誰もいない家で。周囲で頻発する怪現象との関連は?
『BOOK』データベースより。 元が短編なので内容の希薄感は否めません。しかしそこは島荘、ドラマ性やストーリーテリングぶりは堂に入っています。 鳥居をメインにしたトリックは想像の域を超えず、驚くようなものではありません。どちらかと言うと東野圭吾のガリレオシリーズを想起させます。しかも、御手洗が謎を解く前に真相が読者に明示されるため、彼の活躍ぶりがいかにも中途半端で宙ぶらりんな感じですね。もう少し書き様があったようにも思います。 御手洗が京大生当時の事件の上、出番が最初と最後だけなので、キャラの濃さが全く伝わりません。大学時代はそこまでエキセントリックではなかったってことでしょうか。 まあ島荘らしいいい話ではありますし、容疑者の揺れ動く心情や感動のシーンなどが読みどころとなっていると思います。でも、ミステリとしては弱めです。 |