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[ パスティッシュ/パロディ/ユーモア ]
新しい十五匹のネズミのフライ
ジョン・H・ワトソンの冒険
島田荘司 出版月: 2015年09月 平均: 5.67点 書評数: 6件

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新潮社
2015年09月

新潮社
2020年01月

No.6 5点 E-BANKER 2023/04/23 14:04
「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」(1984)以来のホームズ・パスティーシュもの。
で、今回はある超有名作「赤毛連盟(赤毛組合?)」が下敷きとなっている。しかし、長かった・・・
単行本は2015念の発表。

~「赤毛組合」事件は未解決だった! ホームズ・パスティーシュの傑作。「赤毛組合」の犯人一味が脱獄した。だが、肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態。ワトスン博士は独り途方に暮れる・・・。犯人たちの仰天の大計画、その陰で囁かれた「新しい十五匹のネズミのフライ」とは一体なにか? 我がホームズは復活するのか? 名作「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」から三十余年。謎と仕掛けに満ちた大作!~

これは、前半部分だけなら“ワトスン博士の覚醒の物語”である。思い起こせば、「龍臥亭事件」が石岡和巳の覚醒の物語であったのと同じようなベクトルの作品ということ。(ワトスンが単身女性を助けにいくところは、かの名作「異邦の騎士」も思い起こさせた)
石岡もいつも御手洗に頼り切り、まったく自信のない小市民だった。ワトスン博士も同様、常識人という殻を被った情けない男だった・・・。そんな彼が愛する女性を救い出すために知恵と勇気を絞り孤軍奮闘する。
そんな大冒険(?)が前半から中盤すぎまで。

いったいホームズはどうしちまったんだ! コカイン中毒のまま終わるのか?と思っていた矢先、本作最大の謎である「新しい十五匹のネズミのフライ」の真相をいとも簡単に解き明かしてしまう。
まぁ一種の暗号のようなものだが、他の方も書かれているとおり、こんな大作をここまで引っ張るような謎では決してない。
せいぜい短編で使うトリック、仕掛けという程度のもの。そんなものでここまで引っ張れるのだから、ある意味「さすが島田荘司」と言えなくもない。でも、如何せんミステリーとしては小粒だ。

最近はミステリーとしての小粒さを隠すかのように、物語感が増している。(「盲剣楼奇譚」なんてその典型だったが・・・)
本作もホームズ⇔ワトスンの新たな一面を見せてくれたという意味では良かったものの、後はうーん・・・
長年のファンとしては些か物足りないという感想を抱くのはやむを得ないところ。
「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」の時の瑞々しさ・・・それは決して取り戻すことのできない「時代」というものなのだろう。オッサンはいつもノスタルジーを感じてしまう生き物だから、ついつい「昔は良かった!」って思ってしまう。
本作のような物語も作者が作家としてアップデートしてきた結果なのだと理解したい。

No.5 7点 Tetchy 2021/04/24 00:50
2015年、私が最も驚いたのは御大島田荘司氏がホームズ物のパスティーシュを著したことだ。彼のホームズ物のパスティーシュと云えば直木賞候補にもなった『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』が有名だが、それが発表されたのが1984年。そう、実に30年以上の時を経て再び島田氏がホームズ物のパスティーシュを発表したのだ。
なぜ今に至って御手洗潔シリーズのモデルとも云える彼の原点であるホームズ物のパスティーシュを著したのかが私にとって不思議でならなかったが、BBCドラマの『シャーロック』の放映をきっかけに昨今ホームズ物のパスティーシュが映画、ドラマのみならず国内外で発表されており、そのいずれもが正典をリスペクトした上質なミステリになっていることがもしかしたら御大のホームズ熱を触発して書かれたのかもしれない。
そして私はホロヴィッツのドイル財団公認の“正式な”ホームズシリーズ続編である『絹の家』に続けてホームズ物を読むことになった偶然にまたもや運命の意図を感じてしまった。

さて今回島田氏が紡いだパスティーシュはなんとあの有名な「赤毛組合」の事件がホームズを誤った推理に導くように画策された事件だったというもの。その裏側では更に別の犯罪計画が潜んでいたという、まことに大胆不敵な内容だ。
今までホームズのパスティーシュは数多書かれているが、それらは正典の中から登場人物やら事件やらをエピソードとして語るに過ぎなかったが、短編そのものをミスディレクションに使用した作品はなかっただろう。

島田作品の長編には本筋に関係したサブストーリーが結構な分量で収められているのが特徴だが、上に書いたように今回はそのサブストーリーがなんと「赤毛組合」1編がまるまる収められている。ドイルの生み出したシャーロック・ホームズとワトソンから御手洗潔と石岡和己のコンビの着想を得た島田氏がとうとう師匠の作品を下地に更なる高みを目指した本格ミステリを生み出すに至ったことに私は感慨深いものを覚えてしまった。

また先に読んだ『絹の家』でもそうだが、ホームズ物のパスティーシュには正典からのネタが織り込まれているのが常道だが、本書もその例に洩れず、いや洩れないどころか島田荘司氏の奔放な想像力で読者が予想もしていなかった使い方をしている。

さて本書の最大の謎はタイトルにも冠されている「新しい十五匹のネズミのフライ」が何を意味するのか、そしてどうやって詐欺グループは難攻不落と云われる刑務所から脱獄できたのかの2つだが、この真相はなかなか面白かった。
いやはや作者は当時御年65歳だが、まだまだこんなミステリネタを案出する柔軟な頭を持っていることに驚かされる。

本書が島田氏にとってどんな位置づけの作品なのかは解らないが幸いにして発表当時本書は『このミス』に久々にランクインを果たした。
恐らくこの島田荘司という作家は死ぬまで本格ミステリのことを考え、新しい力を支援し、そしてそれに負けじと自らも作品を発表し続けるに違いない。まだまだこんな作品が書ける島田氏をこれからも私はその作品を買い続け、そして読み続けるつもりだ。

No.4 5点 ぷちレコード 2020/05/28 19:56
原典に対する言及が知識のひけらかしにとどまらず、プロットや趣向と密接な関係にある点はさすが。ワトソンの恋の行方も気になるところ。
ただ作者らしさが出ているかというと...うーん。

No.3 6点 メルカトル 2020/03/06 22:33
「赤毛組合」の犯人一味が脱獄した!ワトソン博士のもとに、驚天動地の知らせが舞い込んだ。だが肝心のホームズは重度のコカイン中毒で幻覚を見る状態…。犯人たちの仰天の大計画とは。その陰で囁かれた謎の言葉「新しい十五匹のネズミのフライ」とは。そして「赤毛組合」事件の書かれざる真相とは。果たして、われらがホームズが復活する時は来るのか―。さまざまなホームズ作品のエッセンスを、英国流のユーモアあふれる冒険譚に昇華させた大作。
『BOOK』データベースより。

叩き台となっている本家の『赤毛同盟』(本作では『赤毛組合』表記)、を読んでいた方がより楽しめると思いますが、未読でも意味不明にはならないのでご安心を。タイトル通り、ホームズではなく助手のワトソンが主役であります。事件解決に一役買っているのは無論ホームズですが、一応全編通して冒険しているのはワトソンです。しかしやはりホームズの個性は強烈で、出番は少ないもののかなりの異彩を放っているのは間違いありません。特に終盤退院してからのエキセントリックな言動は本領発揮と言ったところでしょうか。『赤毛同盟』自体が面白かっただけに、更にその先に意外な真相が隠されている本作が面白くないはずがありません。
ただ、「新しい十五匹のネズミのフライ」の謎だけで最後まで引っ張るのは、やはりちょっと強引だったのではないかと思います。それなりの大作の割にトリックがショボかったのもマイナス要因ですね。それを補って余りあるストーリーテラーぶりは流石だとは思いますが。

島荘は近年かつての輝きを失いつつあり、語り手としての熟練度は増しているように思いますが、トリックの独創性やスケールの大きさが枯渇している気がしますね。今後もまだまだビッグネームに恥じない作品を期待したいですね。本作でもらしさは見られるものの、やや存在感の希薄さを感じます。

No.2 6点 2016/06/19 18:47
「赤毛組合」「まだらの紐」など子供の頃に読んだ話の真相はこうだったんだと、楽しみながら読みました。

No.1 5点 虫暮部 2016/01/26 11:43
 バウチャーことメリーウェザーが親しく付き合い始めた女性がワトソンの義姉だった、という偶然は許容範囲内か? ちょっと受け入れがたいなぁ~。


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