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[ 本格/新本格 ]
蝶々殺人事件
由利麟太郎
横溝正史 出版月: 1956年01月 平均: 6.76点 書評数: 21件

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河出書房
1956年01月

春陽堂文庫出版
1959年01月

KADOKAWA
1973年08月

出版芸術社
2006年12月

柏書房
2019年02月

KADOKAWA
2020年03月

No.21 5点 虫暮部 2022/01/13 11:13
 表題作。事件そのものはあまりぱっとしない。語り手のキャラクターの書き分けは上手い。ラスト、“あの人の正体” で一番びっくり。
 併録の2編の方が面白かった。横溝正史は、整合性がどーとか言うより、派手な場面や奇人変人満載の草双紙趣味の方が本領を発揮すると今更ながらに思う。アラ探ししてもあまり意味は無かったんだな~。

No.20 6点 HORNET 2021/12/31 15:24
 表題作は、殺害現場をくらますための手の込んだトリックに加え、「意外な犯人」を演出する描き方もなされており、作者の脂の乗った時期に書かれた力作であることが十分に感じられた。
 コントラバスケースという道具立てを生かした、トリック重視の本格であり、動機などはかなり抽象的。だが作中の「殺人事件の場合、いつもその動機を具体的な事実に求めようとすることは、間違っていると思う」という由利麟太郎の言葉が、そのまま正史のスタンスを表しているのではないかと思うし、確かにそんなものかもしれないな、とも思えてくる。
 他2編は、怪奇趣味を前面に出した小粒の短編。総じて、隆盛期の横溝正史の魅力が堪能できる一冊だと思われる。

No.19 8点 葉月 2021/03/06 20:39
本陣殺人事件と同時期に書かれた本編、世評は本陣の方が上ですが個人的にはこちらの方が好みです。メインのトリックはシンプルなだけに素晴らしく、見事に読者の盲点をついてきます。鮎川哲也などにも影響を及ぼしている作品ですし、一読をお勧めします。

No.18 6点 パメル 2020/02/05 19:21
三編が収録されているが、いずれも金田一耕助は登場しない。表題作は、クロフツの「樽」を意識して作られたらしい。楽譜による暗号、容疑者の手記、コントラバスのケースの中の死体、派手な服を着た謎の男など趣向が派手で、細かい謎が多く、さらにもう一つ高度な不可能犯罪が起こる。コントラバスのケースの死体のアリバイトリックは、二転三転し楽しませてくれる。ストーリーはとても面白い。
不可能犯罪に関しては、結末で犯人が明かされるが、この人物が到底これが出来るとは思えなかった。由利先生のトリックの説明に一応納得したが、かなりアクロバティックなトリックといえる。
由利先生がひらめきで解決してしまい、推理のロジックが弱い点が個人的には残念。「蝶々殺人事件」以外の二編は、パズラーというよりも、ロマンティックな冒険譚に近く、後期の明智小五郎を意識したような作風。

No.17 8点 mediocrity 2019/02/24 17:30
『黒いトランク』のあとがきで当作品への言及があったので購入。
トランク移動の緻密さでは『黒いトランク』に及ばない気がした。何か無駄な動きがあるような・・・
犯人の意外さはこちらが上、というか向こうは0なんだけど。
一番の疑問点はビル落下のトリック。物理的に本当にあんなにうまくいくのかというのもあるが、それ以上に、予定にない殺人の後であんな大掛かりなトリックができるのだろうかと突っ込みを入れたくなった。

No.16 7点 2018/12/19 13:35
いま読んでも違和感はない。まあ現代風と言えなくもない。
トリックもまずまずの出来、いや多くの読者が感心するレベルだろう。
ただ、犯人はこの人しかいない、というのが欠点かな。でも当時は驚いたんだろうなあ。
ということで、いちおうは上出来レベルの評価である。

でも、そんな評なんてどうでもいい。
それよりもストーリーの記憶がまったくよみがえってこないことに驚嘆した。
映像を観てないせいなのか?
ずっと、なんとなくだが、横溝長編の中で本作は、6,7番目ぐらいの出来だと記憶していたが、これはひどい、ひどすぎる。(自分自身の記憶力のことです。)
金田一長編なら、「悪魔の手毬唄」「夜歩く」「犬神家」「獄門島」「女王蜂」
金田一短編なら、「女怪」
由利長編なら、「真珠郎」「蝶々殺人事件」
由利短編なら、・・・忘れた!    (時代物は読んでいない)
と、自分勝手なランキングを楽しんでいたのに、これもかなりあやしくなってきた。
たしか、数年前、「夜歩く」を再読したときも、もしかして初読かと思ったぐらいだ。
じつは、「真珠郎」「悪魔が来りて笛を吹く」は再読せずに書評したが、これらも2,3%ぐらいしか覚えていない状態だった。「手毬唄」も未再読だがちょっとマシで5,6%ぐらいか。「犬神家」の記憶は、映像版をなんども観たのでかなりマシ。
とにかくひどすぎる。

No.15 7点 ミステリ初心者 2018/04/06 17:21
ネタバレをしています。


 自分はこれまで金田一シリーズしか知りませんでした。なのでこの作品を読んだとき、作者のイメージと違いました。金田一シリーズに比べ本格っぽさが強く、好みでした。かつそれでいて読みさすさがあり、ほぼ2~3日で読めました。
 たぶんメイントリックは、第一の殺人のトランクとコントラバスケースによる殺害場所の偽装と思いますが、私は事前にあの作品を読んでしまったためにある程度は予想できてしまいましたw しかしこのトリックは面白く、のちの名作につながる意味でも評価したいです。

 以下好みでない点。
 登場人物のうそや隠し事が多い。殺人事件をはあまり関係ないところでの事件を絡め、ミスリードに使うことはアガサの作品に多かったと思います。好みの問題ですが、あまり話が複雑だと難易度が上がってしまいますね。
 手記の記述者=犯人。これ自体嫌いではないのですが、名作に先例があると思うし、挑戦状までつけてやることではないような・・・。もちろんフェアと思いますが。これまで読んだこれ系トリックとしてはもっと軽かったです。

No.14 7点 文生 2017/11/06 14:05
読者への挑戦状を挿入するなど金田一シリーズよりもパズラーに特化した作品です。時刻表を駆使したトリックが用いられているという点でも横溝作品としては貴重。第2の殺人のトリックもユニークで本格好きにはおすすの作品です。

No.13 7点 E-BANKER 2017/09/08 23:15
昭和21年5月より『ロック』誌に連載。ちょうど同時期に『宝石』誌上では「本陣殺人事件」を連載という、まさに作者の華々しい時代を彩る作品。
探偵役がいつもの金田一耕助ではなく、元警部の由利麟太郎というのも実に新鮮(な気が・・・)。

~原さくら歌劇団の主宰者である原さくらが、「蝶々夫人」の大阪公演を前に突然姿を消した。数日後、数多の艶聞を撒き散らし、文字どおりプリマドンナとして君臨していたさくらの死体は、バラと砂とともにコンドラバス・ケースの中から発見された! つぎつぎと起こる殺人事件にはどんな秘密が隠されているのだろうか? 好評の金田一耕助シリーズに続く由利先生シリーズ~

前々から読もう読もうとしていた作品を今回やっと読了できた。
それだけでも十分満足! ということで終了・・・というのも無責任なので、簡単に書評。
全体的な感想を言うなら、戦後間もない日本で書かれたとは思えないほど端正なミステリーということ。
<読者への挑戦>や暗号などギミックも満載で、作者のサービス精神というか「情熱」を感じさせる。

死体をコンドラバス・ケースに詰める、『東京⇔大阪間の死体移動』などのプロットは、言うまでもなくクロフツの名作「樽」を意識している。
ただし、鮎川哲也「黒いトランク」や島田荘司「死者が飲む水」がトランクの移動とアリバイトリックを複雑&有機的に絡めていたのに対して、本作はアリバイトリックはかなり単純なレベルでまとめ、フーダニットの興味を最大限煽っているのが特徴かな。
(トランクの動き+被害者の動きで読者を惑わすという点では相似だが・・・)
「手記」の件は分かりやすいとの批判もあるようだけど、個人的には見事に騙されてしまった。(「手記」には嘘があるというのはパターンなんだけどね・・・)
無駄を極力排した分量や、ロジックを重視した由利麟太郎の推理過程も十分満足いくものだった。

難癖を付けるとすれば、やはり第二の殺人かな。
舞台設定そのものはインパクト十分なんだけど、この準密室はリアリテイに乏しいし、真犯人の逃走経路も相当リスキー。
(誰かが上を向いたらすぐに気付いたのではないか?)
フーダニットもやや煽り過ぎの感はあるし、その分察しやすくなっているのはあると思う。
でも、本格好きの嗜好に合致した作者の代表作のひとつという評価でよいのではないか。
金田一もいいけど、これはこれでもう少し書いて欲しかったなとい気がする。

No.12 5点 いいちこ 2017/03/23 20:54
犯行プロセスに合理性を欠く面が散見され、また全体としてインパクトに乏しい点から、この評価。
ここまで世評が高い点に鑑みれば、私の嗜好の問題と理解

No.11 8点 斎藤警部 2016/01/19 18:41
ちょっと複雑な遠距離アリバイと、簡素な超短距離アリバイ。この二つだけで豪華版なのに、そんなアリバイ崩しを二つも含みながら、何故か容疑者さえ絞りきれないまま結末突入! そして真犯人の意外なこと意外なこと(評者が最初に睨んだ人物でしたが、途中から無意識にリスト外になっていました。。) このWアリバイ崩しと意外な犯人の一夫二妻マリアージュ(?)をくるりと包み込んでいるのが、まさかの、、、、おっとここまで。 真犯人以外にも’意外な役割’が最後に明かされる登場人物も複数人いたりして、本当に造作の贅沢な、それでいて小粋に機敏なる名品です。それもこんな太古の昔(1946=昭和21年)によくもまあ、ねえ(ためいき)。。 終始漂う明るくユーモラスな雰囲気も素敵だわ。その明るさの要因の一つさえ、また最後になって明かされるというね。。本当に分厚い推理小説ですよ、頁数は然程で無くとも。

蟷螂の斧さん仰る通り、類推されるのはクロフツのようでいてクリスティですよね。その理由は大きな声では言えません。。

【ここよりネタバレ的】
というか、鮎川哲也と中町信を掛け合わせた様なストーリーではないですか(二人ともぐっと後年なのに)。 まさかの●●トリックだったとはね。。

No.10 5点 蟷螂の斧 2015/12/28 10:05
時刻表と「物」の移動はどうも苦手です。「樽」「黒いトランク」の良さも良くわかりませんでしたので(苦笑)・・・。計画的な犯罪には、納得できる「動機」が必要では?と思っていますので、本作はその点弱かったですね。というより著者は動機不要論者?。最後の殺人事件は、トリックを見せたいがためだけのようで余計な気がしました。全体的な印象は、クロフツ氏よりもクリスティ氏を意識しているように感じました。

No.9 7点 ボナンザ 2014/04/08 15:35
隠れた名作。トリックはおもしろく、なぜ話題に上がらないのか不思議なほど。
樽→本作→黒いトランクという流れがあるのだ。

No.8 6点 kanamori 2010/08/01 17:11
金田一耕助シリーズとは全くテイストが異なる純粋なパズラー本格ミステリ。
戦前からの由利麟太郎&三津木コンビシリーズものでは、一番ロジカルでスマートな作品だと思います。死体移動の謎はやや分かり易いと思いますが、ほかにもユニークなアリバイトリックがあったりで、これはこれで楽しめた。

No.7 7点 りゅう 2010/03/27 18:25
 再読。
 本作品について、坂口安吾がエッセー「推理小説について」及び「推理小説論」の中で、問題点を指摘しながらも賞賛しており、興味深い。
 (このエッセーは青空文庫で読むことが出来る。安吾のエッセーは様々な作品の完全ネタバレをしているので、要注意!なお、エッセーの中で、安吾はなぜか犯人の名前を間違えている。)

(以下、完全ネタバレ。要注意!)
 由利先生の説明を読んでもスッキリ納得というわけにはいかなかった。
 以下の疑問を感じた(私の理解が足りないのかもしれないが)。
・ 由利先生の説明によると、犯人はトランクを東京駅に一時預けにし、佐伯淳吉にチッキを頼んだことになっている。一時預けした記録の日時によって、殺人が東京で行われなかったことがばれてしまうと思うのだが?
 (安吾のエッセーでは良心的な解釈をしており、佐伯淳吉がトランクを東京駅に運んだとしている。この方がもちろん良い。)
・ 犯人はトランクを最終的に曙アパートから大阪駅まで運んでいるが、そんな必要があるのだろうか?曙アパートに放置しておけば良かったのではないかと思う。わざわざ、リスクを犯してトランクを大阪駅まで運ぶ意味がわからない。
・ 犯人は曙アパートの外部に置かれていた砂嚢を部屋の中に持ち込んでいるが、そんな必要があるのだろうか?室内に持ち込むことによって、アパートの住民に砂嚢へと意識を向かせることになる(実際にこれが決定的証拠となった)。

 同じく、死体移動を扱った「黒いトランク」と比較すると、完成度では数段落ちると思う。
 いろいろ文句をつけたが、謎解きミステリーとしては非常に良く出来た作品であることは間違いない。

No.6 5点 江守森江 2009/08/21 16:56
クロフツ「樽」の影響下で横溝は読者挑戦型フーダニットとしてこの作品を、鮎川は論理的アリバイ崩しとして「黒いトランク」を生んだ。
「黒いトランク」がアリバイ崩しに特化して成功したのに対し、読者挑戦物にした為に成功したとは言い難い。
※ここよりネタバレ
フーダニットとして序曲から犯人を察せてしまう(前半に手記を取り入れた)構成の不用意さは、高木彬光「能面殺人事件」同様に関心しない。
そして、犯人を察しながらではトリックも透けて見えミスリードされない。
書かれた当時の考えうる技巧を全て使っているが故に、擦れた読者には察し易い皮肉な結果となっている。
しかし、金田一の登場しない作品で横溝の違った作風が楽しめる事は評価したい。
かなり古い映画は原作より楽しめた朧気な記憶がある。

No.5 6点 ミステリー三昧 2009/07/28 17:26
<横溝正史自選集1>初期の代表作(中篇/1946)です。
金田一耕助シリーズではありませんが、横溝正史自選集1に収録されていたので読んでみました。遺体の移動トリック(アリバイ偽装工作)がメインの物語です。「読者への挑戦状」付きの本格推理物で、犯人を当てるには「原さくらはどこで殺されたか?」を推理する必要がありますが「入れ物」を利用したミスディレクションやその他多くのダミー解答が盛り込まれている為に難易度は高めです。「犯人当て」の懸賞を行ったそうですが、満足できる解答は一通もなかったそうです。
この作品にて「時刻表に合わせて思考を組み立てる作業が苦手」であることが判明しました。トリックに魅了されなかったのは単に理解できていなかっただけです。「紙と鉛筆を使って時系列を整理しながら読む」ことの重要性を教えてくれた作品でした。でも、それが面倒臭いから「アリバイ崩し」系は嫌いです。ただクロフツの『樽』はいずれ読みます。

No.4 7点 E 2009/06/07 00:23
何ともビックリした死体移動トリック。
「金田一耕助いつ出てくるんだよ?」とか思ってました。出てくるわけないのに・・;

No.3 8点 測量ボ-イ 2009/05/04 13:15
これは面白かったです。死体を入れたトランクの移動が
海外古典の「樽」やこれより後の作品ですが「黒いトラ
ンク」を彷彿させます。
謎の解決前に「読者への挑戦」もあります。横溝作品=
金田一という固定観念(?)のある方には特にお勧めし
たい作品です。

No.2 8点 2009/03/17 22:38
『本陣殺人事件』に1ヶ月遅れて雑誌連載開始された本作では、作者が戦前から登場させていた由利麟太郎を探偵役として起用しています。クロフツの『樽』を意識したとは言っても、やはり横溝正史の持ち味は綿密な捜査過程ではありません。最後の推理で一気にもつれた謎を解いてしまう構成です。コントラバス・ケースを利用したトリック自体も、むしろなんとなくカーを思わせます。もう一方のトリックは後の長編でもそのまま再利用されていますね。
個人的には、『本陣-』より厳格に構成されているようなところが好きな作品です。


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