海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.112 6点 白昼の悪魔- アガサ・クリスティー 2011/08/29 10:56
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの20作目(長編)です。
以前読んだ『メソポタミヤの殺人』と同じ趣向であり、対比させて読むと面白い作品。『メソポタミヤの殺人』と本作の共通点は「絶世の美女」を主軸とした恋愛模様と人物描写にあると思います。初めてその美女が登場するシーンがとても印象的で、それから男性は虜になり餌となり、女性は嫉妬し憎み敵となりと、彼女を中心としてあらゆる感情が剥き出しになり、序盤からある兆し(殺人の予感)を感じずにはいられない展開となっています。
私的には、珍しくトリックを当てることができ、同時に犯人の正体も暴くことができました。トリックは単純だし、それが分かれば犯人の正体もおのずと分かるので難易度はそこまで高くないと思います。さすがにすべてのパズルのピースを完璧に当て嵌めることはできませんでしたが・・・

No.111 6点 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン 2011/08/22 19:15
※ネタばれあり<創元推理文庫>
私的には国名シリーズと比較してみても登場人物や作風、プロットに劇的な変化は特に感じられませんでした。敢えて別な位置付けとして捉えるほどの、大きなテーマがある訳でもなさそうなので、国名シリーズとしてカテゴリ化されてても特別違和感を抱くことはなかったかもしれない。久々にクイーン警視やその従順なる部下達も登場してきて、初期作品のような雰囲気もありましたし。
ただし本作は、初期作品のようなストレートな犯人当てとは異なり、どちらかというと変化球で読者の意表の突くような作品です。私的には、偶然要素を幾つも組み込むことで論理性が薄くなっているなと感じるのが正直なところ。被害者に纏わる驚くべき事実が捜査過程の中で幾つも明るみになる中盤から終盤にかけての展開は面白いと思いました。
最後に創元推理文庫のあらすじ紹介についてですが、最初の2行はネタばれだと思います。幾つか物語を楽しむ上で伏せるべきだったと思われるキーワードが含まれていました。






(ここからネタばれ感想)
あらすじで<①令嬢ふたりが②時を同じくして③不可解な「自殺」をとげた>とありますが、これはかなり終盤になってから明かされる真相です。端から序盤の展開を否定する文章になっているので、マズイと思います。。。
①序盤では、令嬢ひとりの死が話題の中心となります。「ふたり」という言葉と矛盾してしまい、違和感を抱きかねません。②お姉さんは数年前に死んでいるという設定と矛盾してしまうので、これも違和感を抱きかねません。③殺人の可能性を否定している点でネタばれです。

No.110 8点 スペイン岬の秘密- エラリイ・クイーン 2011/06/25 21:00
※ネタばれあり
<創元推理文庫>国名シリーズの最終作(長編)です。
国名シリーズの中では上位に食い込む作品となりました。『オランダ靴』に次ぐ第2位なんですが・・・評価高すぎ?どうやら、他の方の評価はそこまで高くないみたいです。本作は、前作『チャイナ橙』と同じく、説明のつかない奇妙な謎がひとつあって、その謎を足掛かりにロジックを積み重ねていきながら犯人を突き詰めていくというシンプル設計の犯人当て本格ミステリとなっています。提示される謎はあらすじでもあるように「何故、被害者は裸だったのか?」です。この謎自体が評価を悪くした根本原因であることは言うまでもないでしょう。この謎がキレイに解決できていなくて「モヤッ」とした読後感になってしまうのが、残念です。ただフーダニットに関しては、意外性があり後半の消去法推理も満足のいく出来栄えだったので、気になる部分もありますが高評価としました。
余談ですが、以下「エラリー・クイーン国名シリーズ」私的評価ランキングまとめです。
Sランク:①オランダ靴
Aランク:②スペイン岬③フランス白粉
Bランク:④チャイナ橙⑤ギリシア棺⑥エジプト十字架
Cランク:⑦アメリカ銃⑧シャム双子
Dランク:⑨ローマ帽子





<ここからネタばれ感想>
「何故、被害者は裸だったのか?」→「犯人が衣服を剥ぎ取り持ち去ったから」とあり、では「何故、衣服を剥ぎ取り持ち去る必要があったのか?」→「犯人が裸だったから」とありますが他の方の書評でもありましたように、突っ込みがあります。「何故、すべて持ち去ったのか?」と「そもそも水着を着てこればよかったのでは?」です。この二つの謎に対してハッキリとした解決がありません。よって、あとにも続く推理が受け入れられず、評価がイマイチとなってしまう傾向にあるのかもしれません。
私的には、被害者が裸という謎を紐解くと、実は犯人も裸だったというバカっぽい解答に行き着いたことがなんとなくツボで、深く考えずとも受け入れてしまった為に私的評価でそれほどマイナスポイントに繋がらなかったのかなと思いました。作者の思うツボにうまく嵌った訳です。バカっぽさを強調するなら「何故、すべて持ち去ったのか?」の解決として「全裸で1時間も待たされたから、ムカついて仕返ししました」という犯人の自供があっても面白かったな。
フーダニットの意外性に関してですけど「内部の犯行」とみせかけて実は「外部の犯行」だったというのは、よくあるシンプルなプロットではあります。ただ、その意外性を構成する枝葉の部分で、中盤の絶対的とも言えるエラリーの推理が一役買っている点が見逃せません。完全な推理ミスによって、読者をミスリーディングさせ、後の意外性に繋げてくる訳ですね。もちろん犯人が仕掛けた偽装誘拐も素晴らしいアイデアでした。特に誘拐する人間をワザと間違えるというワンクッション添えたズル賢さが良い。犯人はとても頭良かった。なのに何で素っ裸で犯行に及んだのかやはり大きな謎ですね。

No.109 6点 チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン 2011/05/11 23:58
<創元推理文庫>国名シリーズの8作目(長編)です。
舞台の設定が、面白いですね。ドアが二つあって、片方は閉まっていて密室かと思いきや、もう片方は開いているから密室殺人に成り得ず、また殺害現場から立ち去る方法が二つあって、一方はどうしても人に目撃されてしまうのですが、もう一方から立ち去れば誰にもみつかることもないから準密室にも成り得ない。いわゆる「あべこべ」設定ですね。片方はクローズなのに、もう片方はオープン。死体も、部屋の様相もすべて「あべこべ」というメインの謎があって、捜査上でも、さまざまな「あべこべ」要素が小出しされ、事件に展開をもたらすだけあって「どうしてあべこべにしたのか」に対する真相は気になるところで「あべこべ」設定を強調していることもあり、どうしても密室という概念が目立たなくなっている仕様なんですが、それは作者が仕掛けたミスディレクションなのかと思わずにはいられないほど、ガチな密室トリックが用意されていて、フーダニットに一役を買っている点は驚きました。図があったらイメージしやすかったのでょうが、トリック単品でみると、全く理解できなかった点で評価はイマイチですが、フーダニットとの合わせ技でビシッと決めてくれたので、モヤッとすることもなかったです。まぁ、とにかく「あべこべ」要素が強調される訳ですが、本作はその点だけで評価するとモヤッとくるかもしれませんので、ご注意を。「あべこべ」に注目するよりも「密室」ミステリとして読んだ方が面白いと思います。ディクスン・カーの作品を読む感じで。「あべこべ」書き過ぎた。

No.108 6点 検察側の証人- アガサ・クリスティー 2011/05/11 23:56
<ハヤカワ文庫>アガサクリスティの戯曲もの。
被告人の有罪・無罪を巡る法廷ミステリということで二転三転の展開と衝撃の結末がウリということですが期待ほどでもなかったです。私的には、何回ひっくり返ろうとどうでもよい。というのも、法廷ミステリでは当然あるべき自然なプロットであるため、予想内の範疇になっているし、また、有罪・無罪の判決には興味がなく、むしろその結論に行きつく過程が大事だと思っています。本書では、有罪・無罪を巡る二転三転の展開と被告人の妻の愛情と憎しみ両極端の感情をうまくリンクさせていた点が素晴らしかったですが、ほかは特になかったです。事件が単純で、また登場人物が少ない為、法廷劇を膨らませるのが難しく、被告人はやったのか、やってないのかに終始してしまう展開は仕方ないとは思いますが、それだけだと物足りないです。法廷ミステリの面白みは、さまざまな証言・物証が起爆剤になり、事件の様相に変化を与え、多くの登場人物を絡ませ複雑に混沌とさせつつ、ガタガタと形を崩し、誰も知らなかった本当の真実を形成していく過程であって、結果的に結末が衝撃的であればなお素晴らしいですね。

No.107 5点 夜明けの街で- 東野圭吾 2011/04/12 21:19
<角川文庫>不倫を題材にしたサスペンス長編です。
不倫相手がもしかしたら殺人者かもしれないというミステリ的要素とその愛人に溺れる愚かな男性の心の葛藤を描いたサスペンス長編です。
ミステリ的要素として「時効を目前に控えた事件」の真相は何なのかという謎がありますが、結局ずっと隠し続けてきた事実が最後に明かされるというだけなので、読者にとってそれが驚きの真相に成り得るかという点がポイントになりそうです。私的には、実際の現場では捜査の網にすぐ引っ掛かって解決しそうな気がして、時効間近の難事件という割には軽い印象でした。時効まで告白を待ち続けた理由もあまり納得できない。そんな辛い思いをしてまで成し遂げる必要があったのか理解に苦しむ。だって15年間でしょ。あまりにも長すぎます。
純粋に小説を楽しむという点でもイマイチです。やはりこの手の小説には修羅場は欠かせないでしょう。女と女の意地とプライドのぶつかり合いのようなドロドロした展開を期待してしまうので、私的には刺激が足りませんでした。円満解決なんてありえない訳ですから、もっとブラックな結末でも良かったんですけど・・・
不倫をこれからしてしまうかもしれないといった境遇の人が読んで、思いとどまるきっかけになると良いですね。「新谷君の話」も含めて。

No.106 6点 エラリー・クイーンの冒険- エラリイ・クイーン 2011/04/10 01:51
<創元推理文庫>エラリー・クイーンの短編集です。
どれも1つの「なぜ」「どうして」に対してロジックの積み重ねていきながら犯人を導き出すといったシンプルな構成になっています。バラエティに富んだ短篇集とは言い難いですが、あくまでフーダニットに拘ったエラリー・クイーンらしい作品と言えます。私的には傑作と呼べる作品はなくて、どれも並みの範疇ですが『双頭の犬の冒険』と『七匹の黒猫の冒険』は頭1つ分、評価が高いです。『双頭の犬』は普段とは違うオカルトめいた雰囲気とフーダニットの意外性、『七匹の黒猫』は「なぜ1匹ずつ黒猫を買うのか」という問いから導き出されるロジックが優れていました。ロジックの飛躍度は10篇中で最も高く、また長編の『フランス白粉の謎』と同じプロットでありながら、結論が綺麗に決まっていました。

No.105 6点 シャム双子の秘密- エラリイ・クイーン 2011/04/10 01:50
<創元推理文庫>国名シリーズの7作目(長編)です。
本作の特徴として、舞台設定がクローズドサークルとなっていることが挙げられますが、それほど設定を生かし切れていません。逃げ出すこともできず、また外部との連絡も遮断され状態で、なおかつ身近に殺人鬼がいるといった状況下であるなら、もう少し緊迫した雰囲気があっても良かったはずです。私的には「つぎは私が殺されるかもしれない」といった脅える姿がいっさいなかったのに違和感を感じましたし、また第二の殺人が発生したとき、エラリーはみんなの寝室を訪ねに行きますが、殆どの人間がドアに鍵を閉めていなかったことに驚きました。まるで、もう殺人は起きないことを知っているかのような振る舞いです。もう少し舞台設定に沿った展開、ストーリー運びが必要だなと思いました。
フーダニットに関しては、詰めが甘く評価は低めです。〇〇に対するロジックの積み重ねが薄く、そこから犯人の癖を導き出すのは難しい。犯人を当てるのは読者にとっては不可能に近いでしょう。ただトランプカードを手掛かりとした推理の二転三転は読みごたえがありました。ダイイングメッセージは、大したことありませんが、利き手に関する気付き1点からからのロジックが素晴らしい。トランプカードに対する最終的な解答に至るまでの過程は、高く評価したいです。

No.104 6点 赤い指- 東野圭吾 2011/04/05 20:50
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの7作目(長編)です。
素人が考える犯罪計画ともあって、ボロを見せすぎ故に加賀恭一郎にとっては簡単な事件だったと言えます。犯人視点で描かれる倒叙ミステリの面白みは、犯人の抱える弱みと強みが窺い知れること、そして、探偵といざ対峙した時にそれら要素がどう機能し、どう物語が転がりみせるのかという部分だと思っています。本作でいう弱みは、死体隠蔽の際に多く手掛かりを残してしまったこと。芝生、靴ひも、タイヤ跡の始末、手袋など、いかにも素人くさい凡ミスの数々。気付いた頃にはもう遅い。いつの間にか、しつこい問い攻めに逃げ場がないといった状況。相変らず、気付きレベルが半端ない。犯人の持つ強みとして挙げられる現状を打開する為の秘策に関しても、いざ真っ向勝負してみたら冷静にいなされ、泳ぎに泳がされ敗北宣言するといった有様。そして、ますます貫禄を増す加賀恭一郎。犯人すら知らない真実が明かされたときは「そんなバカな」という感じでした。私的には嬉しい不意打ちを食らわされた感じ。間違いなく、加賀ブランドは存分に味わえる作品です。本格ミステリとしてはまずまずです。

No.103 8点 レーン最後の事件- エラリイ・クイーン 2011/03/29 14:16
<創元推理文庫>悲劇シリーズの最終作(長編)です。
本作では、シェークスピアの古書を巡って大騒動が巻き起こるのですが、これがなかなか複雑。奇妙な依頼人に始まり、失踪した者、古書を盗んだ者、住居を襲撃した者、爆弾を仕掛けた者・・・などなど名前も所在も目的も分からないような謎の人物がウヨウヨ出てくるので、頭で事件を整理するのが大変でした。だんだん小出しにしてきた幾つもの要素が繋がってくるのですが、出来上がりの構図があまりハッキリせず、少しプロットにムラがあったように感じました。綺麗にまとまったとは言い難いです。エラリー・クイーンと言ったら犯人当て(フーダニット)というイメージが邪魔して物語に集中できず理解不足という面も多分あるでしょう。殺人事件という主軸がないもんで、いったい物語はどこへ向かっているのやら分からないといった状況は読んでて辛かったです。
でも読み終わりの感想として、なんだかんだでエラリー・クイーンの醍醐味はフーダニット(犯人当て)だなと。この結末は予想していなかったもんで、さすがに衝撃を受けました。私的には『Yの悲劇』以上のインパクトでした。『Zの悲劇』にて突然登場したニューヒロインの存在意義はこの為にあった訳ですね。〇〇=〇〇というフーダニットパターンに高評価。犯人の特徴を伏線としたロジックも申し分なく、プロットはさておき、本格ミステリとしては読んで価値ある作品。ただしシリーズを順番に読む必要がありそう。『X』『Y』を読んでロジックに酔いしれた読者は『Z』も読んでほしい。3作読んだなら、もうどうせなら本作も読みましょう。海外本格ミステリをガチ読みするなら悲劇シリーズを総合しておすすめします。最終私的評価は『X』>>『Z』>『最後』=『Y』です。

No.102 5点 ポアロのクリスマス- アガサ・クリスティー 2011/03/29 13:59
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの17作目(長編)です。
ハヤカワクリスティ文庫って、行間が適度にあって堅苦しくなくて実際に読みやすいんですけど、物語を軽く感じさせる何かがあるような気がします。読んだ達成感が涌かないのはなんでだろう。私的には、行間がきつきつに詰まっている創元推理文庫の方が好みですね。ある程度の集中力も要するので気を引き締めて読んでるせいか、物語に厚みを感じさせる。
クリスティのミステリってそもそも入門書みたいで軽さを感じるのですが、本の構成も軽さを助長させている気がしてきました。また、解説もそこまで充実していないと思う。本作は題名に「クリスマス」と付いていますが、物語にそれほどクリスマス感は出ていません。なのに解説ではクリスマス的趣向が素晴らしいと絶賛しているが、とても納得できない。
犯人の意外性と言う点では、成功している本作ですが、推理に全く説得力がないです。心理学的見地から家族を研究し、誰が犯人に相応しいかという推理の部分なんですけど、根拠が無さ過ぎて呆れてしまった。ミステリの解決編で「人間の性格」を重要視するのは、やめてほしい。

No.101 6点 ナイルに死す- アガサ・クリスティー 2011/03/29 13:17
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの15作目(長編)です。
長さの割に大したことがない。むしろ無駄に登場人物が多すぎて、ポアロが重要としている「会話」の部分が読んでてしんどかったです。特に事件が発生してからは、これから全員に聞き込みするのかと思うと、だるさを感じました。基本、聞く内容は同じで、ひらすら単調なんですよね。部屋に入ったのはいつ?音は聞いたか?誰か見てないか?といった質問を何回も繰り返しながら、手掛かりを掴むとともに登場人物の性格を分析するといったポアロの基本捜査が、好きではない。
ただ状況や境遇が創り出したミスディレクションは巧かったと思います。クリスティの狙いがハッキリとしていて分かりやすいプロットなのですが、犯人の意外性は十分あると思います。

No.100 5点 ゲームの名は誘拐- 東野圭吾 2011/03/26 12:02
<光文社文庫>
初めて誘拐ミステリを読みますが、設定が特殊な故、緊張感がなさすぎる。プロット上、仕方ないですが被害者側の描写があまりなく、犯罪者側との攻防戦が見られず残念でした。終盤の被害者側の一発逆転という展開もプロット上、気付きやすく消化不良気味。
余談ですが、2011年度出版の東野圭吾作品は注目していきたい。もう既に加賀恭一郎シリーズ最新刊が出版されましたが、夏にはガリレオシリーズの最新作も出版されるとのこと。今年中には流れに追いつきたい。

No.99 5点 殺人の門- 東野圭吾 2011/03/26 11:44
<角川文庫>
ジャンルで言えば、主人公が殺しを実行するまで描いた犯罪小説。ただテーマが特殊で「憎しみ」という感情は何をきっかけにして「殺意」へと変わるのか。「憎しみ」の限界点はどこなのかを探し求める青年の人生を描いた作品となっています。今までになく、ドMな主人公の登場でした。このようなミステリらしくもなく、派手さもなく、ただひたすら暗く地味な作品に対して感想を書くのは難しいな。申し訳ないです。

No.98 6点 メソポタミヤの殺人- アガサ・クリスティー 2011/03/06 11:49
<ハヤカワ文庫>ポアロシリーズの12作目(長編)です。
本作は「被害者はいったいどんな人物だったのか?」を探れば彼女は何故殺され、誰が犯人なのか分かるというテーマとなっています。関係者の証言により、被害者を中心とした人間関係図が頭の中で構築されていく過程は読んでて楽しめました。被害者は美人で心優しくてみんなに愛されていた、と思いきや読み進めるごとに、実は被害者は悪女であり、そして動機を持った人間は多く存在するということが分かってきて、だんだん関係者たちが怪しく見えてくる辺りはアガサ・クリスティらしいプロットだと思います。人間ドラマを創り出す巧さは高評価したいです。
ただ私的にはやっぱり6点止まりですね。というのもトリックにどうしても既出感を感じてしまう。大分前に『名探偵コナン』で読んだことがあります。それが初体験だったでしょうか。またドラマ『古畑任三郎』『ケイゾク』でも似たようなトリックが使い回しされていたのを覚えています。大変便利なトリックだと思います。もともと驚愕系ハウダニットで受けやすいし、利用してしまえば同時にアリバイも簡単に作れて意外なフーダニットも演出できる。本作ではさらに「何故、看護師を雇ったのか?」というホワイにも繋がってるし。でも、もうこのトリックには満足はできないですね。ただ既出感を感じただけで評価を落とした訳ではありません。本作のテーマに沿って推理しようと、結局トリックが分からなければ犯人も分からない構成になっていることに納得が出来ていない。逆を言えばトリックを知っていれば犯人が簡単に分かってしまうことにもなるし。驚愕トリックを用いることで、何故か物語の趣旨を壊している点で評価を落としました。

No.97 5点 ダイイング・アイ- 東野圭吾 2011/03/01 01:03
<光文社文庫>実はこっちも買ってしまったので感想を。
ジャンルは「SF」+「オカルト」。東野お得意の失われた記憶探しを盛り込みつつも新しいテイストだったので飽きずに読むことが出来ました。あまり怖いとは思わなかったですが、プロローグには少しゾクッとさせられました。自分のせいとは言え、睨まれながら死なれるのですから。気が狂うのも仕方ない。それにしても彼女はいったい何をやりたかったのか最後までよく分からずモヤモヤ気味です。終盤の加害者の〇〇〇〇という真相がある為に物語の進行上、主人公を殺すに殺せない状況で、とりあえず繰り出した行動が何故かセックスアピール。。。怖いというよりエロいぞ東野圭吾・・・

No.96 8点 Zの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/02/13 16:45
<創元推理文庫>悲劇シリーズの3作目(長編)です。
本書の読みどころは何と言っても、終盤の「消去法推理」によるフーダニット絞り込みです。何故か前2作に比べ有名でないとのことですが、解決部分は『Xの悲劇』『Yの悲劇』に決して引けを取らず、相変わらずの高水準パズラー小説として高評価できました。むしろ私的には『Y』より『Z』です。本書の解決編は、第一に犯人であることの絶対条件としていくつかの定理を導き出すこと、第二にその定理を駆使して、最後の1人になるまで登場人物を除外することで、解決編ラスト行に犯人の名を明かすプロットとなっています。
また語り手となる女性素人探偵(?)の存在も本書の魅力かなと。(なんでこうしたか不明ですが)レーンが老いぼれてしまった設定上、行動があまり取れない状況で彼女の若さが躍動し、事件にいろんな展開をもたらします。彼女の行動力とレーンの頭脳の融合が物語に盛り上がりを与えていたかなと思います。無実の罪で死刑宣告されたひとりの男を救うべく、犯人探しをはじめるというプロットも分かりやすいし、彼女の語りに関して読みにくさも特に感じませんでした。ただ欠点として、中盤の彼女の推理が、さほど納得いく推理でなかったのが残念ではあります。利き腕、利き足を推理の軸とするのは如何なものかと。もっと補強があれば良かったのに終盤のレーンの推理では彼女の推理が前提となっています。囚人の無実に対するロジックが甘い点はなんとかしてほしかったです。とりあえず悲劇シリーズの私的評価は『X』>>『Z』>『Y』です。『Xの悲劇』には遠く及ばないですね。

No.95 5点 あの頃の誰か- 東野圭吾 2011/02/12 02:32
<光文社文庫>久々のノンシリーズ短編集です。
『白銀ジャック』に続き、いきなり文庫にて最新刊とのこと。できるだけ出版順に読むスタイルを貫きたかったが、衝動に駆られて購入してしまった。ノンシリーズの短編集だからってのが一番の理由。別に「わけあり物件」というフレーズに惹かれた訳ではない。きっと単行本で出す価値はなく、でも勿体ないからストレートに文庫ならばという軽い考えがあったと思います。
気軽な気持ちでいざ読んでみると、年代の古い作品ばかりで最近の東野圭吾を知らない私にとっては逆に馴染みやすく割と読んで正解だったというのが正直なところ。
『シャレードがいっぱい』・・・殺人が起きるものの、遺言状の隠し場所やその中身、人間関係の解き明かしがメインで嗜好からズレるあたりが東野作品らしい。一応推理はあるが、雑学の知識が混じった解決が好きではない。ついでに主人公の性格が嫌い。この女性のモデルって東野圭吾の身近にいたのでしょうか。タイトルを『あの頃の誰か』にしたきっかけがこの作品ってのが意味深です。ちなみに読んで思い出されたのが『ウインクに乾杯』でした。途中で読むのをやめた作品です。
『レイコと玲子』・・・東野圭吾の得意とする分野だと思います。いわゆる「私」系ミステリーで、主人公自身を謎とした失われた記憶を追求するお話。読んで思い出されたのが『変身』『分身』『むかし僕が死んだ家』など。
『再生魔術の女』・・・私的ベストです。いわゆる「奇妙な味」系の東野作品って読んだことがなかったので、新鮮味があり、自然と物語に惹き込まれました。ただオチは想定範囲内でしたが。『怪笑小説』や『毒笑小説』ってこんな感じに面白いのかな。
『さよならお父さん』『名探偵退場』・・・これらは確かにわけあり物件でした。まさか原型があったなんて。
他、ショートショートは普通。『二十年目の約束』は駄作。なんだこれ。

No.94 6点 アメリカ銃の秘密- エラリイ・クイーン 2011/01/06 18:34
<創元推理文庫>国名シリーズの6作目(長編)です。
国名シリーズではあまり評判のよろしくない本書ですが、読んでみてそれほど憎い作品とは思わなかったです。しかし「ギリシア棺」「エジプト十字架」さらには「Xの悲劇」「Yの悲劇」と傑作群が数々と発表された時期と比べたら、明らかに品質が落ちていることは確かです。
本書の読み所は2点あるでしょう。1点目に容疑者2万人の中から、如何にして犯人を1人に絞り込むのか。2点目に凶器を如何にして消失させたのか。2点目はなかなか盲点を突いた真相だったから、まぁ良いとして、1点目のフーダニットは問題ありでしょう。容疑者2万人の中からの絞り込みとして、犯人は内部の人間(劇場関係者)or外部の人間(観客)の推理が語られている点は良かった。この点は「ローマ帽子」「フランス白粉」「オランダ靴」など現場が限られた設定においては、必ず推理すべき項目となっているので、エラリー・クイーンらしいロジックと言ってよいでしょう。読者からすれば、登場人物リストを見れば犯人は劇場関係者とすぐ分かるのですが、リアルな現場では断定しようがなく、2万人を対象に物凄く途方もない捜査が繰り広げられます。ちなみにエラリーは、ある1点の手がかりによって見事に犯人は劇場関係者であることを述べています。その点が一番グッときた点でした。
しかし、それでも問題ありとした理由として、意外性の演出がある故に推理が難しくなっていること。〇〇トリックがキモとなっていますが、誰も気づかないご都合主義な状況が許し難い。物凄い捜査のなかに、実施すべき検証が1つ抜け落ちていること、そして、警察、劇場関係者の誰もが気づかないことに違和感を感じました。

No.93 8点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/01/06 18:34
<創元推理文庫>悲劇シリーズの2作目(長編)です。
「Xの悲劇」or「Yの悲劇」どちらが良いかと聞かれたら、前者を本格推理小説の最高峰として、挙げさせて頂きたいです。その理由として、まず「きちがいハッター家」が本書の舞台となるのですが、私にはあまり「きちがい振り」が伝わってこなかったことが挙げられます。きちがい、きちがいと連呼していますが登場人物からは特異性は感じられなかったです。本書のテーマが「〇〇家の殺人」ということもあり、そこに住む人物の造形が中途半端な点は肩透かしでした。途中で横溝作品『犬神家の一族』に匹敵するぐらい狂気じみた遺言状が発表されるのですが、そこからハッター家で大波乱が巻き起こるということもなく、動機にも結びついていない点で遺言状の発表は意味を成していない。
日本人であるが故にロジックにピンとこなかった点があったことも残念でした。本書は「数字」が非常に重要なキーワードになっていて、何フィートだの何インチだからどうだのと推理が繰り広げられるのですが、全くピンと来なかった(これは私の教養がないだけです)。また凶器として、何故マンドリンが使われたのかという推理に対してもモヤモヤとした感じです。
総合的な感想として、犯人がこの人でしかありえないことを徹底的に指し示したいばかりに、あれもこれも無理に引き出し過ぎてロジックにムラができてしまっているような感じを受けました。身長からのフーダニット絞り込み以降の推理は私的には蛇足でした。8点なのにネガティブな感想ですいません。

キーワードから探す
ミステリー三昧さん
ひとこと
好きな作家
採点傾向
平均点: 6.21点   採点数: 112件
採点の多い作家(TOP10)
東野圭吾(49)
エラリイ・クイーン(15)
アガサ・クリスティー(13)
横溝正史(10)
ジョン・ディクスン・カー(10)
江戸川乱歩(7)
カーター・ディクスン(7)