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日本探偵小説全集(9)横溝正史集 |
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| 横溝正史 | 出版月: 1986年01月 | 平均: 8.00点 | 書評数: 1件 |
![]() 東京創元社 1986年01月 |
| No.1 | 8点 | クリスティ再読 | 2026/05/02 12:23 |
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| この創元の全集で「本陣」とか「獄門島」をやるのがいいのか?というのは結構悩むところなんだけども、ちょっとズルさせてください。「獄門島」の書評は書く内容が多すぎるので、別立てで「獄門島」で行います。なので、この本では「獄門島」以外の「鬼火」「探偵小説」「本陣殺人事件」「百日紅の下で」「車井戸はなぜ軋る」についての書評ということにします。
この本の編集は要するに戦前代表作「鬼火」と、「本陣」の「宝石」連載中に並行して「新青年」に掲載された「探偵小説」、金田一第二作の「獄門島」と金田一時系列では「獄門島」へ向かう直前の「百日紅」と「獄門島」から帰った直後の「車井戸」という編集になっている。言い換えると戦後すぐの横溝正史の動向を「蝶々」を別にして概観できる編集なんだよね。さらに編集後記の中で「本陣」連載最終回に掲載されて「獄門島」を予告する「作者の言葉」まで収録。「今更」横溝正史をこの日本探偵小説全集で扱うための仕掛けとしては十分である。編集企画の勝利というべきだ。 「鬼火」というと、検閲に引っかかった作品で有名なわけだけど、これについても検閲漏れの本をたまたま入手した中井英夫氏による経緯が付録で収録。そして、削除箇所復活をゴシックで明示しつつ以降の作者本人による改訂を含めた「最大版」というべきものを校訂している。柏書房の「鬼火」が手稿版を掲載しているから、比較してみてもいいかな。 「探偵小説」はドイルの有名作の趣向を含めたアームチェア的な作品だけど、「本陣」連載と並行して「新青年」に掲載したものだし、やや戦前的な作風の気がするな。「本陣」の前に書いたか、戦前に発表できなかったものなのかな。 「本陣」は戦前の事件だが、この事件で磯川警部と金田一が出会っていたりするし、金田一の名前が一躍売れたという結果になっている。ここらの設定が初期には金田一サーガといった流れを想定していたことになる。で今回は読んだ後にATGの高林陽一監督の映画も鑑賞。中尾彬が金田一の映画。いや実は横溝ブームを作ったのはこの映画なんだよね。「真説金田一耕助」でも横溝自身が、興行的に成功して若者に支持されたことに驚いた旨を書いている。映画では舞台設定は戦前ではなくて現代。話の大筋には忠実で、しっかりトリックも再現。だけども映画では鈴子の葬列に金田一が遭遇するところからの想い出話のような枠組み。だから鈴子のプレゼンスが大きく、事実上ヒロイン。角川文庫の「猫と少女」イメージはこの映画の造形がかなり影響しているね。 で、監督が高林陽一だから、もあって、ミステリ映画の筋立てを急いで追っていくようなところは全くなくて、昔風の野辺を行く葬列やら、屋敷で行う人前結婚式、そういったデテールに監督の関心があることがよくわかる。その延長線上で、機械式の密室トリックが「美しく」描かれる。まあだから、このアプローチは本作に関しては成功しているね。角川映画ではあり得ないミステリ映画のアプローチと言っていいだろう。 しかし、逆に映画の成功がミステリとしての破綻も覗かせているように感じるんだ。やはり動機は理解不能だし、琴の音のミスディレクションも絵にしてみたら何か必然性がなくて馬鹿馬鹿しい。また「なぜ密室にするのか?」というポイントが、机上の空論に近い部分がのぞいてしまう。本の上で読んだ時には何となく納得する部分が、具体的な人物で描かれた時に、現実離れしたトリックに感じられてしまうという「魔法の破綻」みたいなことを感じながら見ていた。ちなみに三郎のミステリマニアは絵で再現されていて、ポケミスや創元の世界探偵小説全集、桃源社の夢野久作全集とか並んでいて、この映画が70年台の異端作家ブームに乗っかって企画されたことが如実に表現されている。 というわけで「本陣」については映画と対照することで、原作のアラが目立つという結果になった。 あと「百日紅の下で」は廃墟となった邸跡で過去の奇怪な毒殺事件に想いを馳せる男に、復員直後の金田一が死者から託された使命を果たして事件の真相を告げる話。だから、本作の構造がそのまま「獄門島」の導入になっている。 「車井戸はなぜ軋る」はこれも戦傷による入れ替わり疑惑で「犬神家の一族」を予告するような話。 両者とも70ページほどの作品なんだけど、真夏に咲く百日紅の樹のイメージや、葛の葉子別れの屏風など、象徴的な小道具の使い方が上手な作品。「車井戸」の鶴代はまた、本陣の鈴子の別バージョンみたいな薄幸の少女。 というわけで「獄門島」はこの本の項目に譲る。 |
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