海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ クライム/倒叙 ]
梅雨と西洋風呂
松本清張 出版月: 1973年05月 平均: 6.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


文藝春秋
1973年05月

文藝春秋
1979年11月

光文社
1981年03月

光文社
2015年10月

No.1 6点 人並由真 2022/04/26 15:10
(ネタバレなし)
 海に面したとある県。人口30万人の水尾市。中堅の酒造業の社長で市会議員の47歳の鐘崎義介は、週一回の地元新聞「民知新報」を発行。与党「憲友党」所属の義介は自分の新聞紙上では社会正義を謳って、市政や民間の問題を摘発。一方で、まずい案件の記事化を望まない関係者からのお目こぼし料は巧妙に戴いて、紙面の編集に手心を加えることもあった。そんななか、義介は30代半ばの愚直そうな男・土井源造を専任の編集長に雇用。使いつぶすつもりで働かせると、源造は取材に広告集めにと意外に才能を発揮する。そんななか、義介と同じ党所属の市会議員で政敵である宮前晋治郎が次回の市長選に立つという噂が聞こえてきた。義介は新聞を源造に任せ、政界の関係者の動向を探るが、その過程で浦野カツ子という美しい娘と出会う。

 『黒の図説』シリーズの一編として書かれた短めの長編。
 大昔に、瀬戸川猛資がミステリマガジンの国内ミステリ連載月評「警戒信号」の中で新刊としてレビューしたのを、ずっとうっすら覚えていた。
 その「警戒信号」のレビューには、最近また『二人がかりで死体をどうぞ』で再会したが、記憶の中ではけっこうホメてあると思ったものの、実際にはそんなでも無かった。
 なおタイトルの「梅雨」は「つゆ」ではなく「ばいう」と読むようにルビがふってあるが、瀬戸川氏はこの題名は妙なタイトリングのようだが、味があっていいと褒めている。

 延々と主人公の中年・義介を中心に地方都市での政争とそれにからむ人間模様、さらに妻子ある義介とカツ子との不倫模様が語られ、フツーの意味のミステリっぽさはかなり話が進むまで何もない。それがある事態の判明と同時に、ある種のミステリに転調するかなり個性的な作品。
 まあ清張らしい、というか、いかにもこの人ならこんなもの、書きそうだ、という作品である。

 評者は今回、最初にミステリマガジンの新刊レビューで本作を意識したことを踏まえ、元版のカッパ・ノベルスの初版を古書で入手。けっこう美本が安く買えて良かった。
(ちなみに、カッパ・ノベルス版の後期の清張作品は黙っていても売れると編集者が考えているのか、挿し絵も入れていない。)
 なお現状のAmazonの書誌データはヘンで、実際のカッパ・ノベルスの初版は昭和46年5月30日の刊行。

 前述の瀬戸川レビューでも触れられていたが、トリックそのものは短編ネタで、評者の個人的な感慨をネタバレにならない程度に言うなら『クロフツ短編集』か『殺人者はへまをする』辺りにありそうな感じ。
 ただまあ、トータルとしての小説の作りではさすが清張、とにもかくにも読ませるのでひと晩しっかり楽しめた。
 ミステリファン、というより、清張の作風になじんでいる作者のファン、にちょっとお勧めという感じの一作か。
 評点は、この点数の最大値という意味合いで。


キーワードから探す
松本清張
2016年09月
美術ミステリ
平均:6.00 / 書評数:1
2008年06月
鬼畜 松本清張映画化作品集2
平均:7.00 / 書評数:1
2005年11月
失踪
平均:5.00 / 書評数:1
1987年10月
失踪の果て
平均:6.00 / 書評数:1
1985年09月
紅い白描
平均:2.00 / 書評数:1
1982年11月
死の発送
平均:4.00 / 書評数:1
1982年09月
憎悪の依頼
平均:7.00 / 書評数:1
1982年05月
殺人行 おくのほそ道
平均:5.00 / 書評数:1
1982年03月
疑惑
平均:5.80 / 書評数:5
1981年12月
夜光の階段
平均:5.00 / 書評数:1
1981年07月
十万分の一の偶然
平均:7.00 / 書評数:1
1980年06月
黒革の手帖
平均:9.00 / 書評数:2
1979年12月
隠花の飾り
平均:5.00 / 書評数:3
1979年02月
天才画の女
平均:3.00 / 書評数:1
1978年10月
水の肌
平均:5.00 / 書評数:2
1978年03月
告訴せず
平均:6.50 / 書評数:4
1977年06月
高台の家
平均:6.00 / 書評数:1
1976年04月
証明
平均:5.33 / 書評数:3
1976年02月
火と汐
平均:6.50 / 書評数:2
1976年01月
ガラスの城
平均:4.50 / 書評数:2
渡された場面
平均:6.75 / 書評数:4
黒の回廊
平均:6.00 / 書評数:3
西海道談綺
平均:7.00 / 書評数:1
1975年01月
聞かなかった場所
平均:6.00 / 書評数:3
火の路
平均:4.00 / 書評数:2
1974年10月
生けるパスカル
平均:7.00 / 書評数:1
1974年05月
中央流砂
平均:6.00 / 書評数:1
内海の輪
平均:6.00 / 書評数:2
1974年04月
日光中宮祠事件
平均:7.00 / 書評数:1
1974年03月
突風
1973年05月
梅雨と西洋風呂
平均:6.00 / 書評数:1
鷗外の婢
平均:6.33 / 書評数:3
1973年01月
火神被殺
平均:6.00 / 書評数:1
1972年01月
遠い接近
平均:8.00 / 書評数:1
喪失の儀礼
平均:4.00 / 書評数:1
1971年01月
強き蟻
平均:7.00 / 書評数:2
Dの複合
平均:5.75 / 書評数:4
1970年03月
アムステルダム運河殺人事件
平均:5.75 / 書評数:4
1969年09月
分離の時間
平均:6.00 / 書評数:2
1968年01月
ミステリーの系譜
平均:6.00 / 書評数:1
1967年01月
黒の様式
平均:6.00 / 書評数:1
死の枝
平均:6.75 / 書評数:4
二重葉脈
平均:7.00 / 書評数:1
1966年07月
蒼ざめた礼服
平均:5.33 / 書評数:3
1966年01月
溺れ谷
平均:6.00 / 書評数:1
1965年11月
西郷札
平均:7.50 / 書評数:2
1965年01月
佐渡流人行
平均:8.00 / 書評数:1
或る「小倉日記」伝
平均:8.50 / 書評数:2
共犯者
平均:7.00 / 書評数:2
山峡の章
平均:4.67 / 書評数:3
1964年03月
絢爛たる流離
平均:7.00 / 書評数:1
1964年01月
陸行水行
平均:6.00 / 書評数:1
鬼畜
平均:5.00 / 書評数:1
けものみち
平均:7.75 / 書評数:4
花実のない森
平均:2.50 / 書評数:2
彩霧
平均:5.00 / 書評数:1
1963年01月
事故
平均:6.00 / 書評数:2
眼の気流
平均:6.50 / 書評数:6
落差
平均:4.00 / 書評数:1
神と野獣の日
平均:4.33 / 書評数:3
1962年11月
時間の習俗
平均:6.00 / 書評数:10
1962年05月
考える葉
平均:4.50 / 書評数:2
1962年01月
霧の旗
平均:6.29 / 書評数:7
球形の荒野
平均:7.71 / 書評数:7
不安な演奏
平均:6.00 / 書評数:4
1961年08月
影の車
平均:6.67 / 書評数:6
1961年01月
駅路
平均:6.14 / 書評数:7
黄色い風土
平均:6.00 / 書評数:4
高校殺人事件
平均:6.00 / 書評数:8
影の地帯
平均:5.75 / 書評数:4
黒い福音
平均:6.33 / 書評数:3
歪んだ複写
平均:6.50 / 書評数:2
わるいやつら
平均:8.00 / 書評数:1
砂の器
平均:5.50 / 書評数:16
1960年09月
蒼い描点
平均:6.00 / 書評数:4
1960年01月
日本の黒い霧
平均:8.00 / 書評数:2
黒い画集3
平均:5.00 / 書評数:1
波の塔
平均:4.00 / 書評数:1
黒い樹海
平均:6.75 / 書評数:4
1959年01月
小説帝銀事件
平均:8.00 / 書評数:1
張込み
平均:6.77 / 書評数:13
かげろう絵図
平均:8.00 / 書評数:1
黒い画集
平均:7.43 / 書評数:14
ゼロの焦点
平均:7.18 / 書評数:28
1958年01月
黒地の絵
平均:7.00 / 書評数:5
眼の壁
平均:7.00 / 書評数:9
点と線
平均:5.87 / 書評数:39
不明
松本清張自選傑作短篇集
平均:7.00 / 書評数:1