皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 社会派 ] 中央流砂 |
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松本清張 | 出版月: 1974年05月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 1件 |
中央公論新社 1974年05月 |
講談社 1983年03月 |
光文社 2019年02月 |
No.1 | 6点 | クリスティ再読 | 2020/11/03 22:03 |
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何となくNHKのドラマ('75)が見たくなった....原作読んでNHKオンデマンドで視聴。評者中学生になったばかりで、清張がオトナの世界への案内役みたいなものだったなあ。ドラマの演出は「アップの勉」和田勉。
農水省のノンキャリア役人、山田は岡村局長から、同僚の倉橋課長補佐が、作並温泉で事故死したことを告げられ、その遺体を東京に移送するように命じられた...農水省は倉橋とその下の大西係長が汚職容疑で取り調べを受けたことで騒然としていた。渦中の倉橋は岡村局長から捜査から避難するかたちでの仙台出張を命じられていたのだった。山田は倉橋とは官舎もご近所で付き合いがあったのだが、命じられて遺体を引き取りに行った先の作並温泉では、農水省に出入りする業界紙の経営者で弁護士の西がいた。倉橋は死の前夜、西弁護士と過ごして、瀕死の倉橋を発見したのも西だそうである..... 倉橋君、ぼくは君に善処してもらいたいのだ 西弁護士は作並温泉に逃亡した倉橋課長補佐に、こう願う。「善処」、よいように取り計らう婉曲な言い方である。この場合の「善処」の意味は....ドラマでは、西弁護士は加藤嘉で少し意外な配役(西村晃か宇野重吉が順当?)。対する倉橋は内藤武敏で融通が利かない感じ。「善処」自体には悪い意味は一つもないが、責任を他人に押し付ける言葉だ。加藤嘉がにこにこと害意なさげに「善処」という。人のよさそうな加藤だから、なおさら怖い....ナイスキャスト。 で、エリートの岡村局長は佐藤慶。この「松本清張シリーズ」の立役者みたいなもので、「天城越え」では被害者の土工。評者にとって佐藤慶は「悪のカリスマ」だ。子供のころから大好きだった俳優さんである(歪んでるな)。大学生になってATGの作品で堪能したが、その頃はサトケイの略称でシネフィルの間では大人気だったのが懐かしい。佐藤の岡村局長は、警察の取り調べを受ける可能性が高まった山田(川崎敬三)に、予行演習をする。小説だと奇妙に圧迫感のあるシーンだが、映像にするとヘンに喜劇的で、役所の権力関係のバカバカしさみたいなものを覗かせる。 で、倉橋の遺された妻子は...というと、役所の丸抱えでの生活が保障されて、 未亡人はにこやかに山田に挨拶したが、その態度は以前とはうって変わって、すっかり一人前の女外交員になりきっていた。みたところ、化粧も服装も派手で、五つも六つも若返ったように見えた。(略)これが夫の死の当時、あれほど嘆き悲しみ、眼のふちに黒い隈ができるほど悲観していた女と同一人物だろうか。山田は、生活環境の変化とはいえ、このように人間が豹変するのをはじめて知った。 ドラマでは未亡人に中村玉緒を持ってきて、出演順も玉緒がトメ。この「豹変」を絵で表現できる映像向けの原作だったから、70年代のNHKドラマ黄金時代の「松本清張シリーズ」の第一弾に採用されたのではないかと思うくらいである。 原作は清張お得意の小官僚モノで、ミステリ的興味は薄いものだけど、人間というものの「非情さ」を描いて、しかも映像にしてこれほど「絵になる」というのを見抜いた和田勉の慧眼がすばらしい。映像込みなら8点だが、原作の評価点にしておこう。 |