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新海外ミステリ・ガイド
仁賀克雄/旧版『海外ミステリ・ガイド』の新版
事典・ガイド 出版月: 1987年03月 平均: 6.40点 書評数: 5件

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朝日ソノラマ
1987年03月

論創社
2008年10月

No.5 5点 クリスティ再読 2021/10/19 20:16
この論創社から出た本(2008)は、1987年のソノラマ文庫「海外ミステリ・ガイド」の増補改訂版、ということになっているのだけども、実はその前に 1976年にやはり朝日ソノラマから出た「海外ミステリ入門」が原型だったりする。「海外ミステリ入門」を評者持っていたりするので、それとの比較でいろいろと述べると面白いと思うのだ。

「この世に残された最後の男が、一人で部屋に座っていた。するとドアをノックする音がして...」
というのは怪談である。フレドリック・ブラウンもいうように、ノックをしたのが何ものなのか、ということが恐怖の焦点になっている。(1976)
というのはホラーである。アメリカ作家フレドリック・ブラウンのショート・ストーリーの冒頭だが、ノックをしたのがいったい何ものなのか、ということが地球最後の男には恐怖の対象になっている。(2008)

という具合。まったく新規に追加された章は第3章「名探偵とヒーローの系譜」くらいだが、この章は単なる繰り返しみたいなもので意味ない...2008はシンプルにまとまった 1976 の改悪みたいな面もある。ほぼ 1976 と変わらないのは第1章「海外ミステリの歴史」、第4章「ミステリのトリック」の2つ。それに第5章「ミステリの映画化の歴史」は増補が大量だが、単に作品列挙のレベル。なので、この1976と2008の32年間の間の変化、というものは、ほぼ第2章「ミステリの各派」に反映している、と見るべきだろう。

2008の「本格ミステリ」「警察小説と司法ミステリ」の区分がきわめて恣意的というかね、単に探偵役が警官・弁護士だったら「警察小説と司法ミステリ」に入れてしまっていて、コックリルもダルグリッシュもギデオン警視もモースも87分署もメグレもペリーメイスンも全部ごっちゃ! だから本格ミステリには黄金期延長線上の作家と歴史ミステリ・技巧派・短編パズラーくらいしか入らないことになって、「本格ミステリ」という概念が有名無実になったような強烈にヘンな分類になっている。1976にはそれなりのリアリティを持っていた乱歩的な「ミステリの歴史」というものが、2008には完全に崩壊しつくした??(深読み御免)。
こういう総論を書く場合には、どうしても「史観」は欠かせない。しかし、せいぜい「歴史」という概念で捉えることができたのは1970年くらいまでだ。それ以降は単なるジャンルの拡散以外は何も起きていなくて、「史観の軸」になるような支点は何も見いだせない、という状況があらわになっているかのようだ。「何がミステリなのか?」というミステリの範囲は、そういった「史観」なしには決定できないのだ。
たとえば、2008で廃止になったジャンルは「ゴシック・ロマンス」で、20代りに「サイコ・スリラー」と「モダン・ホラー」が追加されている。「レベッカ」風の女性向け「ゴシック・ロマン」は2008でもちゃんと書かれているにもかかわらず、いわゆる「ミステリ」の視野からは外れてしまい、代わりにスティーヴン・キングや「羊たちの沈黙」を「ミステリ」に包括しよう、というかたちで境界線が揺らいだ...これは時代の変化、というものなのだろうか?それともタダの流行なのだろうか?

としてみると、この 2008 から見えてくるもの、というのは「ミステリ史というものの不可能性」というようなことのようにも感じる。つまり、流動化して拡散していく「ジャンル分け」に一番反映している「現代」と、旧態依然な「名探偵とヒーローの系譜」「ミステリとトリック」との乖離の激しさ、というあたりでも、こういうタイプの総論が不可能になりつつある、とも感じさせるのだ。

というわけでこの本は「複雑骨折したような本」である。しかしこの「複雑骨折」の中に、時代の証言を聴く、というのが求められているのかもしれない。

(けど今は映画のスチル載せると別途お金がかかるから...なのかしら。映画がタイトルだけでスチルがないのが、寂しいです。1976はしっかりスチルが載ってます)

No.4 7点 HORNET 2011/01/30 13:35
 海外ミステリはまだまだ新規参入者なので,純粋に指標としてほしいと思い購入しました。「海外ミステリの歴史」「各派」「名探偵の系譜」「トリック」などが整理されてまとめられていますが,それぞれが文章で解説され,作品について著者の主観的な評価が書かれているのが,私としてはよかったです。著者と作品名をリストのように並べられても,私にはなかなか分からないので・・・。「トリック」の章は,まだまだ未読の多い私は,目を逸らすのに必死でした(笑)。
 また,ミステリの歴史や各派など,体系的なことについて知識を得るのも楽しめました。今後読みたい本ばかりがぐんと増え,ますます読書意欲が高まりましたが,全てこなせるだけの時間はなかなかないでしょう・・・。地道にがんばります。

No.3 7点 mini 2010/10/21 10:12
現在は加筆した改訂版がハードカバーで出ているが、私は古本屋で見付けた旧文庫版で読んだ
改訂版はその後に登場した作家などを加えて増補しているみたいだが、基本的な部分は大きくは変わっていないようだ、まさに仁賀ワールド全開
私はこの種のガイド本に個々の作品紹介などは求めてはいないし、紹介文に魅力を感じてその本を探すという事も無い
あくまでもガイド本に求めるのは作家の位置付けであり、ミステリーの歴史の中でどの潮流に属するのかだけを知りたい性格なのだ
評価は自分で判断するので、個々の作品の評価などにはあまり興味は無い、まぁ一般的にこの作家だったらどれが代表作と言われているのかは知りたいが

何が言いたいのかと言うと、このガイド本はまさしくそういう本なのだ
とにかく広く浅く、個々の作品についての深い考察などはほとんどない
まずミステリーの歴史の中で各ジャンル毎の潮流が体系的に述べられ、その潮流に属する作家の顔触れが編年体式に紹介され、それぞれの作家の代表作はこれです、みたいな体系的手順になっている
全くのミステリー初心者相手にはこれでいいと思う、いやこの手のガイド本こそ必要でしょ
昨今はさぁ、ミステリーの歴史的展開など基本を理解してない読者が多過ぎ、例えばハードボイルドという言葉をアクション活劇小説と同義だと思い込んでる誤った解釈がまかり通ったりさ
クレイトン・ロースンなんかもさぁ、単に密室などの不可能犯罪系専門作家としか認識していない人が多くてなぁ、ロースンやハーバート・ブリーンなどはアメリカン本格が衰微していって貧血症状を起こしていた時期の作家なんだよな
このガイド本ではその辺の歴史的経緯が分かり易く説明されているし、いかにも仁賀克雄らしさが良く出ている入門書だ

ただ唯一の欠点である、臣さんが御指摘の巻末索引の欠如には全くもって同意です
例えば早川のハンドブックは巻末索引にかなりのページ数を割いているが、早川のは本文が作家作品毎に分類整理されており、そうした構成なら索引の必要性は少ない
しかしこのガイド本は、箇条書きではなくて文章の流れで全編解説しているスタイルなので、こうした手法こそ巻末索引が無いと不便で仕方が無い
つまり読物としては良いが、事典的な使用に適さないのだ

No.2 6点 toyotama 2010/10/06 11:03
カーとクリスティとクイーンの長編作品の全リストが載っていて、初心者には参考になるかもしれませんが、
(A)(B)(C)の評価は、あまり参考にならない、かもしれない。

No.1 7点 2009/12/08 11:53
タイトルどおりガイド本なのですが、一般のガイド本とちがって体系的に分類、章立てされていて、その分類されたジャンルごとに作品が順次時系列に登場します。作品ごとに区切って説明していないので、安っぽいガイド本の印象はなく、一見すると、評論のようにも見えてしまいます。このように、本格、サスペンス、ハードボイルドと分類して紹介してくれるのは、雑多なミステリ嗜好の私にとって大変うれしいです。もちろん、本格などの特定分野しか読まないという読者なら、もっと喜ばれるのではと思います。巻末のベスト100にしても、ごちゃまぜのランキングではなく、ジャンルごとなのがいいですね。それから、映画化の章もファンには垂涎の的です。残念なのは索引がないこと。だから、目当ての作品を探すのはむつかしく、結局、ミステリ事典に頼らなければいけません。


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