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読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100 大矢博子 |
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事典・ガイド | 出版月: 2015年08月 | 平均: 7.33点 | 書評数: 3件 |
日本経済新聞出版社 2015年08月 |
No.3 | 8点 | クリスティ再読 | 2021/10/25 19:56 |
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先日、仁賀克雄「新海外ミステリ・ガイド」が、名作・傑作を網羅してやる!という意気込みにも関わらず、「レベッカ」を落としている、というのに気が付いてショックを受けて、「女子ミステリ」という概念で、クリスティからコージーから女性探偵ハードボイルドから日常の謎からコージーからロマサスまで、「女子」をキーワードにして...と思ったらドンピシャの本がすでにありました。残念(苦笑)
本当にこれは「ミステリ史の盲点」にあたる観点でもあるわけで、従来的な本格・ハードボイルドetc,etcといったジャンル分けとは、目の付け所が違う、一種の横断的なカテゴリになる。しかし、この「女子ミステリ」のカテゴリの批評的な使い勝手の良さ、というものは、ちょっとスゴイものがあるようにも感じる....この本は紹介するミステリについてそう突っ込んだ批評というものではなくて、あくまで「ガイド」で冒頭程度のあらすじとコメント、著者紹介くらいしかしていないのだけど、「セレクション」によって「新しい意味」を作り出している。まさにその「選ぶこと」が「批評」の代わりなのだ。 一般に「ミステリ」とはジャンル違いとされがちなロマサスにも、かなりミステリ味のものがあるわけだし、そうなったらかろうじて「ミステリの一部」に認められているコージーと、あるいはロマンス色が強い「終わりなき夜に生れつく」と、クリスティでも伝統的には非ミステリとされてきた「春にして君を離れ」と、これらを一つにの概念の下に包摂することで、新しい「ミステリ観」が立ち現れるのでは....この果敢なチャレンジは成功している。 乱歩が作りあげた「本格史観」ではなくて、もっと多様な「ミステリの歴史」や「ミステリの読み方」があっていい。これはそういうひとつの思考実験なのだと、評者は思うのだ。 実際にはロマサスから選ばれているのは5冊くらい、それより氷室冴子とか新井素子とかジュブネイルのファンタジーも入っているのが面白い。必ずしも女性作家オンリーではなくて、女性視点での「面白さ」を大矢博子氏が書きやすい(まあ、ネタっぽくだが)男性作家の作品もいくつか。「犬神家」とか「天使の傷痕」とか「異邦の騎士」とかも入ってる... 読んで、選ぶ。こういう行為でも、実に批評的であることもできるのだ。 |
No.2 | 7点 | おっさん | 2019/09/13 22:18 |
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今回は、雑談ふうに。
という書き出しで、NHKカルチャーラジオのテキスト(風間賢二『怪奇幻想ミステリーはお好き?』)を採り上げたことがありました。もう五年も前になりますか。 で、まあ、今回もそういうことでw 見るべきほどのものは見つ――という心境になって久しいので、あまり新しい、ミステリのガイドブックのたぐいには心を動かされなくなった、おっさんですが、それでもたまに、著者のユニークな視点に啓発され、読書意欲を掻き立てられることがあり、2015年に出たこれは、そんな貴重な一冊。 さきに日本経済文芸文庫から刊行されている、『読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100』(杉江松恋著)および『読み出したら止まらない! 国内ミステリー マストリード100』(千街晶之著)の続編となるわけですが、「どうしてコージーミステリーやロマンティック・サスペンスは、こういうランキングに入ってこないんだろう? 一世を風靡した女性私立探偵小説やゴシック・ロマンスのほとんどが、どうしてガイドに収録されてないんだろう?」という、著者の疑問・不満からスタートした、「女子ミステリー」の案内書であり、ミステリ・マニアの目から、鱗がボロボロ落ちるラインナップは壮観というしかありません。こちらの読んでる本がほとんど無いww そりゃあ、個々の作品の選択については、いろいろ言いたい事もありますよ。栗本薫は、このテーマなら『ぼくらの時代』より『優しい密室』でしょう、とか、横溝正史なら『犬神家の一族』より『三つ首塔』がよろしくなくって、とかwww しかしともかく、アガサ・クリスティーからミス・マープルものの『ポケットにライ麦を』をチョイスし、さらにコメンタリーのなかで、代表作を挙げたあと「女子ミステリー的お勧めは、ノンシリーズ長編の『春にして君を離れ』と『終りなき夜に生れつく』」と書いているだけで、大矢博子女史の本読みとしてのセンスは本物だと、実感できます。 書店で見かけたら、是非手にとってみて下さい。 最初の一冊め、その紹介だけでも、読む価値ありです。 え、誰の、何という本か、ですって? それは―― ジェイン・オースティン『ノーサンガー・アビー』 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2016/02/09 00:30 |
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日経文芸文庫から出ているミステリガイドブックのマストリード100シリーズ。正直海外編と国内編で打ち止めだと思い、あと考えられるのは本格とかハードボイルド・警察小説といったジャンル分けでの、もっとディープな方向に行くと思ったが、予想に反してなんと女子ミステリーとは。
確かに海外ミステリ活性化のために立ち上げられた翻訳ミステリー大賞シンジケートのHPでも金の女子ミスや腐女子系ミステリと云った、「女子」を前面に押し出したコラムが目立つのは確か。しかしそれよりもこのような女子限定のミステリガイドブックが編まれる一番大きいな要因は各地で行われる読書会の参加者が圧倒的に女性の比率が高いからに起因しているからではないだろうか? さて翻訳ミステリー大賞シンジケートでもひときわ目立つ存在が本書の編者大矢博子氏。そんな彼女が選ぶ女子ミステリーは今までのガイドブックでは決して選ばれないだろう作品がずらりと並ぶ。 詳細のラインナップは実際に本書を当たられたいが、正直食指が伸びるようなミステリ趣味に満ちた作品のように思えず、異性である私にとってはいささか没入度の低いラインナップとなっている。 しかし好みに合わないといって一蹴するのは本読みとしては失格である。百の選者がいれば百のラインナップがあり、千の選者がいれば千のラインナップがあるのが当然だからだ。本書は―是非はあるにせよ―女子ミステリーというテーマに特化した実にオリジナリティに溢れたガイドブックと云えよう。 |