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[ SF/ファンタジー ] スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編 |
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スティーヴン・キング | 出版月: 1987年03月 | 平均: 7.75点 | 書評数: 4件 |
新潮社 1987年03月 |
No.4 | 10点 | Tetchy | 2017/10/31 23:53 |
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先頃読んだ『ゴールデンボーイ』に収録された2編と合わせて『恐怖の四季』として編まれた(原題は“Different Seasons”とニュアンスが異なるのだが。正しくは本書収録の前書きに書かれている『それぞれの季節』が正しいだろう)中編集の後編に当たるのが本書。
この中編集はキング自身が語るように、彼の専売特許であるモダンホラーばかりではなく、ヒューマンドラマや自叙伝的な作品もあり、また1冊の本として刊行するには短編には長すぎ、長編としては短すぎる―個人的には300ページを超える「ゴールデンボーイ」と「スタンド・バイ・ミー」は日本では1冊の長編小説として刊行しても申し分ないと思うが―ために、この―当時の―キングにとって扱いにくい“中編”たちを1冊に纏めて、その纏まりのなさを逆手に取って“Different Seasons”と銘打ってヴァラエティに富んだ中編集として編まれたのが本書刊行の経緯であることが語られている。 そして4作品中3作品が映像化され、しかも大ヒットをしていることから、本書は結果的に大成功を収めた。そしてその作品の多様さが“キング=モダンホラー”のレッテルを覆し、むしろその作風の幅の広さを知らしめることになった。 まず表題作はもう30年近く前に見た映画なのに、本作を読むことで鮮明に画像が蘇ってくる。犬に追いかけられて必死に逃げるゴーディの姿。鉄橋を渡っている時に現れた列車から轢かれまいと死に物狂いで逃げる2人の少年たち。後に小説家となるゴーディが語るパイ食い競争の創作物語の一部始終。池に入ってたくさんのヒルに咬まれ、更にゴーディは股間にヒルが吸い付いて卒倒する。ゴーディが心底心を許すクリスが自分がとんでもない家族に生まれついたことで将来を儚み、ゴーディに未来を託すシーン。そして町の不良たちと死体の第一発見者の権利を賭けて対決する場面、などなど。それらは映像で見たシチュエーションと全く同じであったり、細かい部分で違ったりしながらも脳裏に映し出されてくる。当時観た時もいい映画だと思ったが、今回改めて読み直して自分の心にこれほどまでに強く焼き付いていることを思い知らされた。 このあまりに有名な題名は実は映画化の際につけられたものだった。この題名と共にリバイバルヒットとなったベン・E・キングの名曲“Stand By Me”がどうしても頭に浮かんでしまい、読書中もずっと映像と曲が流れていた。それほど音と画像のイメージが鮮烈なこの作品の映画化はキング作品の中でも最も成功した映画化作品として評されているのも納得できる。 そして映画の題名こそが本作に相応しいと強く思わされた。“友よ、いつまでもそばにいてくれ”。それは誰もが願い、そして叶わぬ哀しい事実だから胸に響く。別れを重ねることが大人になることだからだ。そんな悲痛な願いが本書には込められている。だからこそ本書では12歳の夏の時の友人が最も得難いものだったことを強調するのだろう。 もう1編の「冬の物語」と副題のつく「マンハッタンの奇譚クラブ」は紹介者だけが参加できるマンハッタンの一角にあるビルで毎夜行われる集まりの話。そこは主に老境に差し掛かった年輩たちが毎夜煖炉に集まって1人が話す物語を聞く、云わばキング版「黒後家蜘蛛の会」とも云える作品だ。『ゴールデンボーイ』の感想に書いたように、この『恐怖の四季』と称された中編集に収められた作品のうち、唯一映像化されていないのがこの作品だが、だからと云って他の3作と比べて劣るわけではなく、むしろ映像化されてもおかしくない物凄い物語だ。 その美貌ゆえに俳優を目指しニューヨークに出てきたものの、右も左も解らない大都会で生きるために演技教室で知り合った男性と肉体関係を持ったがために夢を断念し、シングルマザーの道を歩まなければならなくなったある女性の話だ。この実にありふれた話をキングはその稀有な才能で鮮明に記憶される強烈な物語に変えていく。 自分のボキャブラリーの貧弱さを承知で書くならば、少なくとも10年間は何も語らなかった男がとうとう自分から話をすると切り出しただけに、読者の期待はそれはさぞかし凄い物語だろうと期待しているところに、本当に凄い物語を語り、読者を戦慄し、そして感動させるキングが途轍もなく凄い物語作家であることを改めて悟らされることが凄いのだ。 そして2012年にはこの最後の1編も映画化されるとの知らせがあったが、2017年現在実現していない。「ゴールデンボーイ」は未見だが、残りの2作の映画は私にとって忘れ得ぬ名作である。もし実現するならばそれら名作に比肩する物を作ってほしいと強く願うばかりだ。 春と夏、秋と冬。それぞれ2つの季節に分冊された2冊の中編集はそれぞれの物語が陰と陽と対を成す構成となっている。春を司る「刑務所のリタ・ヘイワース」と秋を司る「スタンド・バイ・ミー」が陽ならば、夏を司る「ゴールデンボーイ」と冬を司る「マンハッタンの奇譚クラブ」が陰の物語となる。それは中間期は優しさの訪れであるならば極端に暑さ寒さに振り切れる季節は人を狂わす怖さを持っているといったキングの心象風景なのだろうか。 そして各編に共通するのは全てが昔語り、つまり回想で成り立っていることだ。キング本人を彷彿させる小説家ゴードン・ラチャンスを除き、残り3編は全て老人の回想である。それはつまりヴェトナム戦争が終わった後のアメリカが失ったワンダーを懐かしむかの如くである。田舎の一刑務所で起きたある男の奇蹟の脱走劇、元ナチスの将校だった老人の当時の生々しい所業、少年期の終わりを迎えた12歳のある冒険の話、そしてまだ若かりし頃に出逢ったある妊婦の哀しい物語。それらは形はどうあれ、瑞々しさを伴っている。 本書の冒頭に掲げられた一文“語る者ではなく、語られる話こそ”は最後の1編「マンハッタンの奇譚クラブ」に登場するクラブの煖炉のかなめ石に刻まれた一文である。 この一文に本書の本質があると云っていいだろう。モダンホラーの巨匠と称されるキング自身が語る者とすれば、本書はそんな枠組みを度外視した語られる話だ。 つまりキングが書いているのはホラーではなく、ワンダーなのだ。キングはモダンホラー作家と云うレッテルから解き放たれた時、斯くも自由奔放に物語の世界を羽ばたけるのだと証明した、これはそんな珠玉の作品集である。 春夏秋冬、キングの歳時記とも呼べる本書は『ゴールデンボーイ』と併せて私にとってかけがえない作品となった。 |
No.3 | 7点 | 臣 | 2014/04/29 13:14 |
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こんな非ホラーのヒット作品があれば、いまとなればホラー作家というレッテルを貼られていることが、本人にとってはかえって小気味がいいのではないだろうか。と、かってに本人の気持ちを読んでしまいましたが・・・。
映画でも有名な「スタンド・バイ・ミー」(秋編)は、作者がどうしても書きたかった作品なんだろうなぁ、という気がします。 ホラーではもちろんなく、ミステリーでもない。エンタテイメントかといえばちょっとちがう。 自伝的思い出語り青春小説といったところだろうか。オチもないから本来なら一般受けはしそうにないが、少年たちの冒険物語だから、いつまでもガキの心を持っていれば、どっぷりとはまってしまうでしょう。それにけっこう大胆な表現が使ってあるし、なんせ冒険テーマが死体探しだから楽しめることはまちがいなし。 「マッハッタンの奇譚クラブ」(冬編)は、奇譚クラブの会員である医師が語る、かつて診た女性患者の話。ホラー要素のあるファンタジーだろうか。この結末は強烈。ミステリーファンにも喜ばれると思うが・・・。 「恐怖の四季」は春夏秋冬に対応した全4編だが、寄せ集めという感じがしないでもない。本書はそのうちの秋冬編が収録されている。 |
No.2 | 7点 | ∠渉 | 2014/01/26 13:26 |
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昨年も読んで感想を寄せたのですが早くも再読したので更新した所存。
モダン・ホラーの鬼才が書くホラーじゃない小説は、旨い焼き鳥屋のラーメンの如し、絶品です。青春文学として圧倒的な存在感を誇る『スタンド・バイ・ミー』はキングの持つバックボーンと作家としてのキングの二つの側面が生んだ秀作だと思います。憧憬や懐古趣味みたいな言葉では片づけられない、真に迫る物語がありました。青春ってなかなか人生の中でも片付きませんね。 『マンハッタンの奇譚クラブ』にある銘文「語る者ではなく、語られる話こそ」もまた、現代の真に迫るキングのストーリィテリングを表しています。両作を読んで、あぁ生きるって恐い、そして哀しい。なのになんで生きてるんだか、と思わせるキングはやはりホラー作家なのだなという結論に達して、今日もまた生きていくのでした。 |
No.1 | 7点 | dei | 2008/12/10 21:00 |
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原題が「DIFFERENT SEASONS(異なる四季)」なのにホラー作家だからか「恐怖の四季」に。ぜんぜん怖くないのに。
マンハッタン~もよかったがやはりスタンド・バイ・ミーは格別。 映画を見ていたのでストーリーは知っていたがそれでも十分楽しめ、昔を思い出すことができた。 |