皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
|
[ 短編集(分類不能) ] 幸運の25セント硬貨 |
|||
|---|---|---|---|
| スティーヴン・キング | 出版月: 2004年05月 | 平均: 5.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 新潮社 2004年05月 |
| No.2 | 7点 | Tetchy | 2025/10/17 00:25 |
|---|---|---|---|
| 本書は二分冊で刊行された短編集“Everything’s Eventual”の後半部7編が収録された短編集。
この“Everything’s Eventual”がこれまでの短編集と異なるのはキング自身による解説が各短編につけられていることだ。そしてそこには作品のインスピレーションの元となったエピソードが据えられている。 以下に列記しよう。 下水管の格子蓋の隙間から1人の若者が次々と小銭を入れているイメージ。 ペットに纏わることを書いた新聞コラム。 自分の部屋に飾っている、家族の誰もが嫌悪感を抱く一幅の絵。 レストランで離婚手続を進めているカップルの口論とそれを見て辟易している給仕頭。 エッセイで書いた例題の文章。 宿泊したホテルで客室係の女性が客のために部屋に置いたスロットマシンのコインとそれに添えられたメッセージカード。 頭に浮かんだイメージから読み物だったり、家の装飾品だったり、あるいは外食先や旅先での出来事と様々だ。 それらがキングにとっては創作の源になっていることが本書の各編に据えられた解説で明らかにされる。 これを読んで人は「やっぱりキングはすごい!」とか「いつも物語の種を探してはそれを逃さないんだな」とか思うだろうが、私はそれとはちょっと違う思いを抱いた。 確かに上に書いた感想は私も抱いた思いだが、私自身もまたキングと同じように身の回りのことや物、また出先での出来事からふとしたことで物語を思い付いては公私に亘る周囲の人物に雑談として語るのが多々あるからだ。 それらはキングのような数十ページに至るような物語にまでは発展しない小咄程度の物だが、キングのように話のネタというのはどこにでも転がっているものだという感覚は非常に理解できる。 ただキングと私が異なるのは思い付いた話で金を取れるだけの面白さがあるかないかだろう。残念ながら私は今のところ後者に過ぎないのだが。 さて短編集後半となる本書の収録作だが、なんだか割り切れない結末の物語が多いと感じた。 物語が終わった“後”を考えさせるものが多かったように思う。 超能力を持つ少年が属した組織とは一体何だったのか? そして主人公が悟った最後の一行が意味するところとは? 家を出ていった妻は本当に殺されたのか?それともまだ生きているのか? 給仕頭はなぜいきなりブチ切れたのか?なぜ妻は離婚を決意したのか? 人が死ぬ部屋の秘密とは一体何だったのか? 幸運の25セント硬貨を手に入れた客室係が手に入れた幸運とは? 本書の収録作は上のように全てが語られるわけではない。そういう意味では余韻を残す、いや読者に考えさせる余白を残す作品群だったように思う。 それは前半部を収録した『第四解剖室』でも例えば「黒いスーツの男」や「愛するものはぜんぶさらいとられる」なども同様だ。 つまり収録作のうち、半分以上がそのような作品であったのは何とも珍しい。 ある意味それは人生そのものであるとも云える。 今回最も恐ろしい物語はと聞かれれば「道路ウイルスは北へ向かう」でもなく、「ゴーサム・カフェで昼食を」でもなく、「一四〇八号室」でもなく、私は「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」を挙げる。 これは繰り返されるデジャヴの物語だからだ。しかもいつも結末は死であり、その瞬間が訪れるまで主人公はずっと不安に苛まれ、デジャヴを感じ、そして死の瞬間を迎えるとまたもリセットされるのだ。繰り返されるのは死の恐怖と得体のしれない居心地の悪さ。この無限ループは絶対に避けたい。 しかし2冊を通じて読んだ本短編集は以前に比べるとキングの勢いが感じられなかったように思う。 いや相変わらず、訳の分からないものほど怖いというスタンスは変わっていないものの、恐怖と安堵、つまり緊張と緩和をうまくミックスしたような後味がこれまでよりも少なかったように思う。“恐怖の四季”で感じたあの何とも云いようのない物語の醍醐味がなかったのだ。 やはりこの頃のキングは次なるステップへの転換期と云ったところだろう。 それは2020年代になった今鑑みるキングの作品ヒストリーから考えてもこの2000年代前後の作品は評価が高くないからだ。『第四解剖室』の感想でも書いたが全体的には標準レベルといったところだ。 それはこれまでになく収録作のジャンルがヴァラエティに富んでいるからだろう。 ただ前半に比べるとホラー色や超常現象や怪異のテイストは多かったが、それでもこれまで以上に多様性に満ちた作品群だったと思う。 しかしその後の飛躍を考えるとこの頃は大いなる助走の時期。このような時期でも今に繋がる原石や私なりの傑作が眠っていると思って更に読み進めることにしよう。 |
|||
| No.1 | 4点 | ∠渉 | 2013/11/21 01:27 |
|---|---|---|---|
| 正確には3.6点ってとこですかね。
キングの第4短編集という位置づけで90年代後半の作品が収録されているようです。 ①なにもかもが究極的(1997)/若き超越者(トランス)の悩める非日常。組織によって能力が殺人の道具に使われていることを、わかっているんだけども目を背けていた青年が、現実を受け止め組織と縁を切る決意をするまでの物語。悩み苦しむ青年の姿がとてもよく描かれていて面白い。あと邦題が好き。 ②L・Tのペットに関する御高説(1997)/離婚した奥さんとペットにまつわる少し怪異な話。元夫のL・Tが職場の昼休みの締めの定番の話題として語るこの話。ミステリアスな雰囲気を纏った語り口に引き込まれます。 ③道路ウイルスは北に向かう(1999)/ホラーでは古典的な「変化する絵」をキング流に料理した逸品。キング自身が所有している絵を題材にして書かれたものだけに自身が受けたインスピレーションが注ぎ込まれていて、かなりの熱量を感じる作品。実際の絵を見てみたい気もするけれど、そのあとにこれはもう読めないかな。この絵の題名も中々秀逸で不気味だけどこれは本当にモチーフにした絵のタイトルなのだろうか。だとしたらそーとー怖い。 ④ゴーサム・カフェで昼食を(1995)/これが個人的に一番好き。離婚調停の話し合いのために訪れたカフェで突然狂った給仕頭が暴れまくってとんだ惨劇に。もう読んでる側もどうしたらいいのかわかんない感じがハマった。 ⑤例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚(1998)/いわゆるデジャヴってやつをキングの死生観に結び付けて表現した物語。地獄モノっすね。この中では一番実験的で、作者の意欲を感じました。 ⑥一四〇八号室(1999)/「幽霊の出る旅籠の部屋」モノのキング流アレンジ。その題材も相まって一番ホラー色の強いものになった印象。キングらしい作品ですが、直球ど真ん中ホラーです。高校球児もびっくり。 ⑦幸運の25セント硬貨(1997)/表題作。ホラー・サスペンステイストの前6編から一転して、或るホテルの従業員で、二児の母である女性がささやかな幸せを掴むまでを描いたハートフルなストーリー。25セントがもたらした幸運はいかなるものなのか、是非読んでみては。 キングの他作と比べると決して斬新なストーリー群ではないかもしれないが、日常に潜む非日常と”怪”日常が心地よく、その不思議な日常の瞬間を切り取ったような場面の数々に惹かれる、良い短編集だと思います。 全体的に程よい恐さ、程よい苦さ、程よい甘さで、まぁまぁ健康的な読み物だと思います。 |
|||