[ SF/ファンタジー ] ダーク・タワーⅢ-荒地- <ダーク・タワー>シリーズ |
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スティーヴン・キング | 出版月: 1997年11月 | 平均: 6.50点 | 書評数: 2件 |
![]() 角川書店 1997年11月 |
![]() 新潮社 2006年01月 |
![]() 新潮社 2006年01月 |
![]() KADOKAWA 2017年04月 |
![]() KADOKAWA 2017年04月 |
No.2 | 7点 | Tetchy | 2021/09/06 23:26 |
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今回の目的は<暗黒の塔>を目指すとともに1巻で亡くしたジェイク・チェンバーズを再び彼の世界からこちらの世界に引き入れ、仲間にすることだ。つまり前作で手に入らなかった3人目の仲間こそがこのジェイク・チェンバーズであることが明らかになる。
さてこのジェイク。最初にガンスリンガーの世界に来たときは彼の住む世界、つまり我々の住む世界でガンスリンガーの宿敵<黒衣の男>ウォルター・オディムによって道路に突き出された結果、車に轢かれて亡くなってしまい、そしてローランドたちの世界、今回<中間世界>と称されている世界に移るわけだが、そこでもローランドの<暗黒の塔>を取るかジェイクの命を救うかの二者択一の選択に迫られ、そして亡くなってしまう。 中間世界で一旦命を落としたジェイクは再び我々の住まう世界で新たな命を授かり、日常を生きている。しかし彼には以前自分が双方の世界で亡くなった記憶を持っていた。 この辺のパラドックスについてキングはローランドとエディとの対話で説明がなされる。一本の人生の線があり、その時々で選択せざるを得ない状況に出くわし、そこで道が2つに分岐するが、それは実は2つではなく、その2つの選択肢と平行に別の分岐点が生まれ、それらが並行している。そして選んだ選択肢の記憶は残しながらも選択によって生まれた別の分岐点、即ち新たな世界に人は亡くなると移行し、再び人生を歩む。しかも一旦自分の世界と<中間世界>での記憶を留めたままに。 昔の映画で『恋はデジャヴ』という何度も同じ日を行き来する男の物語があったが、つまりはそれと同じか。<中間世界>に来た人間は一旦そこで命を喪うとリセットされ、また別の次元の世界を生きることになる。しかし記憶は留めたままだから、自分が命を落とした事件も知っているのだ。 ただこういう設定はあまり好きではない。それはある特定の人物を特別視し、いくら死んでも再びどこかの世界にいて同じような暮らしを送るならばそこに死に対する恐怖が生まれないからだ。 したがってキングが描いたのはジェイクの「ここではないどこか」を渇望する心だ。ジェイクは自身が生きている現実世界よりもローランドが<暗黒の塔>を目指す<中間世界>こそ自分の居場所があると確信するようになる。物語の前半は生き死人と化したジェイクが本来いるべき場所<中間世界>に行くまでの物語を濃厚に描く。 このジェイクが<中間世界>に再び舞い戻るシーンは新たな生の誕生のメタファーだ。 例えば彼をこちらの世界に引き入れるためにはその場所を守る妖魔がおり、それと戦っても勝つことはできない。したがってジェイクを引き入れるためにはそれを引き付けていなければならないがその方法がセックスをすることなのだ。 セックスは妖魔の武器であると共に弱点でもあり、その相手をするのがスザンナである。即ちジェイクがこちらに世界に来るまでの間にセックスし続けなければならない。 そしてジェイクが<中間世界>に来るシーンについて作者自身も明確に比喩しているようにそれはまさにお産を象徴している。 我々の世界と<中間世界>とを結ぶドア。その中に入り込み、漆喰男によって<中間世界>への扉をくぐるのを阻まれていたジェイクをローランドが助け、そしてエディがローランドもろともジェイクを引き入れるさまをキングは産婆の役割を果たしたと例える。 つまり1巻で印象的な登場をしながらも特段目立った活躍もせずに消え去った少年ジェイクを再びこの物語に引き戻すことこそがシリーズの新たな生の誕生、即ちこの<暗黒の塔>シリーズの新たな幕開けを象徴しているのだ。 そして本書の後半は<荒地>を横断する高速のモノレール、ブレインを求める旅へと移る。そのブレインはジェイクが彼の世界の図書館で借りた『シュシュポッポきかんしゃチャーリー』に由来する。 我々の世代で人語を解する機関車と云えば『きかんしゃトーマス』だ。だからそれになぞらえて考えれば、確かにどこか不気味なものを感じる。私が『きかんしゃトーマス』を観たのは幼少時代ではなく、我が子が興味を持ったからで、つまり大人になってから観たのだが、最初は確かに薄気味悪くてどこに可愛さを感じて、これほど人気があるのかが判らなかった。 しかし次第に慣れてくるといつしかそんな思いは消え去ってしまっていたのだが、そんな恐怖を大人になっても覚えているのがキングの凄さか。ある意味、自身の子供時代をコミカルに描いた『ちびまる子ちゃん』の作者さくらももこに通ずるものがある。 そしてそのモチーフをそのまま畏怖の対象としてキングはブレインという人語を解する機関車として登場させる。それはさながらスフィンクスのように謎解きに正解しなかったら容易に業火で焼き尽くす恐怖の存在として。 しかしキングがこのガンスリンガーシリーズの世界観をどこまで作っていたかは知らないが、私はどうも行き当たりばったりで書き始めたかのように感じる。 今回初めて出てくる12の正門とそれを守る守護者の存在、そしてそれらを対角で結んだ線の交点に暗黒の塔があるという設定も最初から構想していたとは思えない。対角に結んだ先にあるのであれば12の正門全てを訪れる必要はないし、どうも設定にしては弱さを感じる。 そして物語はローランドが一行の命を懸けてブレインに謎解き合戦を仕掛けて終了する。ローランドの胆力で傲岸不遜な知的モノレール、ブレインを制する間際にローランド自身からこのような危うい提案が出されるとは思わなかった―メンバーには人語を少しは解すビリー・バンブラ―のオイまで加わっているのだ―。 まさに物語はこれからというときにいきなり梯子を外されたかのような結末に驚いているが、作者もそれは承知のようで弁明めいた長いあとがきで触れている。 とにかく果たしてこの命の削り合いがどのように展開するのか、次巻を待つことにしよう。 |
No.1 | 6点 | ∠渉 | 2014/03/27 18:00 |
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ストラウブとの共著の「タリスマン」を読んだときに、キングのファンタジーとは自分は相性がよくないかなぁ、と思いつつページを捲り、「ダーク・タワーⅠ・Ⅱ」では、とてつもないパワーを持つ小説に熱狂する反面、キングの創造と破壊の世界観があまりにも、なんというか、キングの内にある世界があまりにも生々しく小説になっているので、疲れるし辛い部分もあった。「まぁ俺はキングじゃないからなぁ・・・」と割り切るわけです。でももちろん続きは気になる。すっげぇ気になるし、まぁ結局読むことになるんですが、もう読む前からなんか怖いんですよ。読んでからも怖かったけど。なぜ怖いかといったら、自分の理解を遥かに超えてるわけです。自分の価値観と尺度がまったく通用しないのが怖い。ファンタジーって物語の中に作者の秩序があるとは思うのですが、読み手はそれを中々汲み取れないからどうしてもアナーキーに感じてしまう。でも<ダーク・タワー>シリーズでは常に世界が変転している、という「秩序」があって、それはまぁ「無秩序」ってことなんです。キングは「無秩序」という「秩序」を設けているような印象を受けました。じゃあ読み手として自分はどうすればいいのか。それはもう読み手としての自我を無くすということでした。やっぱり疲れたし辛かったけど、とてつもなく面白い。あぁこれがキングなんだなと、キングって「ミザリー」なり「シャイニング」なり、ぶっ飛んでるけど、制約はきっちり設けてたんだなぁと。そんなキングの創作の源の不連続でアナーキーな集合体が、今僕が思い描いている<ダーク・タワー>です。わけわからん感想笑。
あと、個人的なイメージだと、ローランドは断然クリント・イーストウッドなんだけど挿絵がシュワルツェネッガー似でイメージぶれちゃう笑 |
スティーヴン・キング
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