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アトランティスのこころ
スティーヴン・キング 出版月: 2002年04月 平均: 8.00点 書評数: 2件

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新潮社
2002年04月

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No.2 8点 Tetchy 2025/02/01 01:22
これはなんと評したらいいのだろう。読書中、常にそのことが頭を過ぎった。上下巻併せて1,120ページ強の本書はこれまでの作品と異なり、上下巻それぞれで主人公が異なり、また物語のテイストそのものも異なる構成となっている。

上巻は1960年のコネチカット州のハーウィッチを舞台にした母子家庭であるボビーとリズのガーフィールド親子のアパートにテッド・ブローティガンという老人が引っ越してきて息子とこの老人との交流と別れの物語が描かれる。実はこの老人はある特殊な能力を持った人物で追手から逃れてハーウィッチにやってきたのだが、その追手に見つかって連れ去られ、その後のボビーの成長とその後老人が追手の許から再び脱出したことが判るまでが語られる。それまでが上巻で下巻はそのボビーを主人公に据えた物語が始まるかと思えば、一転して1966年のメイン州立大学を舞台に語り手もそこの学生ピート・ライリーへバトンタッチして別の物語が始まるのだ。

更に物語は1983年のコネチカット州に移る。そこではビル・シーアマンという謎めいた男の物語が始まる。この男は実は上巻に登場するのだが、それはまた後で触れよう。

そしてまた時は流れ1999年のコネチカット州。この章はジョン・サリヴァンの回顧録のような話である。

これらそれぞれの時代と場所、そして各章のメインの登場人物に共通する存在がヒロインのキャロル・ガーバー。
読み終えて思うのはこれはキャロル・ガーバーという実に魅力的な女性の半生記をだったということだ。

これは在りし日の喪失と再生の物語だ。
かつて思いのまま生き、何でも話せる仲間がおり、お互いが打算や駆け引きなどせずに時間を共有していた純粋無垢な黄金時代が誰しもあったことだろう。本書はそんな眩しい日々が人生が長じるにつれて失われていく哀しみを、心の痛みをそれぞれの立場と人生の道程で語った物語だ。
そしてその輝かしい日々を失ったそれぞれの人生が転落しているのが何とも痛ましい。

従って本書は年を重ねれば重なるだけ、胸に痛切に迫るものを感じるだろう。読者もまた同じように人生を重ね、本書に書かれたボビー・ガーフィールドやピート・ライリー、ウィリー・シーアマン、そしてジョン・サリヴァンの思い出に自らのそれを重ねて甘くて苦い思いを抱くに違いない。少なくとも私はそうだった。

『アトランティスのこころ』という一風変わった不思議な題名の本書ではしかし、アトランティスが登場するわけではない。あるサイトによれば原題“Hearts In Atlantis”の“Hearts”は「こころ」ではなく、ピートの学生時代に流行ったトランプゲーム、ハーツのことで、しかもアトランティスは彼らが住んでいる寄宿舎の隠喩らしい。
しかし私はアトランティスはいわば象徴なのだと捉えた。それは“失われた大陸”もしくは“失われた楽園”を意味する。原題が示すように、アトランティスに置いていった心、すなわちもう戻れないあの頃の思い出を指す。

本書を読みながら自分も色んな思い出が蘇った。
私は惚れやすく、クラス替えがあるたびに好きな女の子が変わっていった。しかし当時恥ずかしがり屋で奥手の私はその誰にも告白はできなかった。
唯一友人に騙され、好きな女の子の名前を云った時に、自分が風邪で休んだ時にクラス中にそのことがバラされたことがあり、その子が凄い剣幕で迷惑だと云わんばかりに私に詰め寄ったことがあった。

社会人になって女性の飲み友達が出来て、その娘が会社の後輩を好きになったから付き合えるよう手伝ってほしいと頼まれたので、そうしていたらいつの間にか自分の方が彼女を好きになっていたこともあった。

そんな色んなほろ苦い思い出が次々と蘇った読書だった。
みんな私のキャロル・ガーバーだった。
しかしキャロルと違い、その中の1人とてメディアに出るようなことは、今に至ってもない。だから近況は全然判らない。

もし私のキャロルの1人に遭えたのなら、どんな顔をして私は対面するだろうか。どんな感じに話をするだろうか。

ボビーやキャロルのようにお互い年を取ったよね、とそんな風に自然に話せたら、もうそれは恋の、そして思い出の終わりだろう。
そんな日が来ることは叶わないだろうけど、どうかみんな元気でいてほしいと切に思う。
何ともセンチメンタルな物語だな、これは。まいったよ、全く。

しかし何とも美しい物語ではないか。この物語にはオールディーズが似合う。
ただ私の頭に流れているのはニール・セダカの“Oh! Carol”ではない。だから私は最後のキャロル・ガーバーの変えた名前がデニース・シューノーヴァ―であることに不満だ。
キャロルの名前は最後はダイアナであってほしかった。私の頭の中に最後に流れるあのメロディ、それはポール・アンカの“Diana”だった。これぞボビーの最後の想い。
“Oh, please stand by me, Diana”

No.1 8点 人並由真 2024/02/17 10:09
(ネタバレなし)
 1960年のコネティカット州。幼い頃に父ランダルと死別した11歳の少年ボビー・ガーフィールドは、地元の不動産会社に勤務する未亡人の母リズとアパートに暮らしていた。だがそこにテッド・ブローディガンと名乗る60歳代の老人が入居。テッドと親しくなったボビーは彼から読書の楽しみを教わるが、そんなテッドにはある秘密があった。

 1999年のアメリカ作品。
 
 上下二冊で合計1000ページを超えるいかにもキングらしい長編だが、二日で一冊ずつ読了した。例によって読み出すと止められない。

 2002年に映画化もされているみたいだが、評者は未見。脚本がウィリアム・ゴールドマンだそうで、同人は以前に『ミザリー』の原作の良さを引き出せなかったシナリオを書いているので、いささか不安である。
 で、その映画版もあるので本作の大ネタはけっこう未読の人にも知られているかもしれないが、一応ここでは黙っておく。ちなみに評者は別筋で、一番の大きな趣向については知っていたが、それでも十分に面白かった。

 以下、ギリギリまで書いていいだろうということのみ語るが、文庫版の上巻一冊が1960年を時代設定にした第一部で、これだけで十分に優秀作の長編小説。少年の日のある種のときめきが主題なので素直に『スタンド・バイ・ミー』を想起してももちろん良いが、個人的にはまんま、フレドリック・ブラウンのエド・ハンター&アンクル・アムの世界をキングが書いたらこーなる! であった。つまり私にとって主題と作者の最強最高クラスのマッチングで、本当に面白い。
 で……(以下略)。

 それで後半、文庫版の下巻は、少しずつ時代が現代に近づいていく設定の中短編が連作的に並べられ、上巻の長編第一部とあわせて全部で5パートの物語の流れが本作『アトランティスのこころ』というひとつの小説世界を築く。
 順当に長ければ長いほど良い、面白いという感じで第一部、第二部に関しては文句ないが、第三部の短編は、一見すると「ん?」という感触。ただまあ最後まで読むと、短い短編小説風のパートの役割もわかる。単品としてはそのパートはあまり面白味はないが。
(それでも第四パートは、ちょっといいかな?)

 話をまとめにかかる最終パートは良くも悪くも、ああ、そう来るのね、という感じで大きな驚きも感銘もないが、それでもしみじみとした情感と余韻のなかで決着。
 ちなみに映画は第一部とこのエピローグ的な第五部だけで構成してあるらしい。そんな話を聞く限り、順当な作りというか、構成上のアレンジなんじゃないかな、とは思える。

 1960~70年代にベトナム戦争の波及をリアルタイムで実感した当時のアメリカ人にこそ直球、という作品だが、作者キングの筆遣いは普遍性を込めて全世代に「他人の人生は共有なんか絶対にできないが、互いの接点のわずかなつむぎ合いにこそ意味がある、価値がある」という主題を訴えている感じ。その意味で、特に読者を限定する作品ではなかった。繰り返すが、第一部も第二部も、実にキングらしくて読みごたえがあり、そして心に響いて面白い。
 ……で、その上で、この作品を本当に楽しむには(以下略)。

 またいつか<そういう興味とそういう視座>で、この作品を読み返すこともあるのかな? そこに行くまで、かなり長い道筋になりそうだけど(汗)。


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