皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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スティーヴン・キング | 出版月: 2000年11月 | 平均: 9.00点 | 書評数: 1件 |
文藝春秋 2000年11月 |
文藝春秋 2000年12月 |
文藝春秋 2004年04月 |
No.1 | 9点 | Tetchy | 2017/02/25 22:24 |
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全5巻。総ページ2,400ページ弱を誇る超大作である本書は1978年に発表されたが、当時約400ページもの分量を削られた形で刊行された。そしてキングは再び1990年に拡大版として当時削られた分を復刻させ、発表したのが本書である。その際にカットされた全てを加えたものではなく、内容を吟味して加味したとのこと。しかし内容にはほとんど手を加えていないというのがキングの弁。但し内容を見ると1990年を舞台にしている辺り、時代に関しては修正が加えられているようだ。
神は細部に宿るという言葉がある。本来はドイツの建築家ミース・ファンデル・ローエが云った言葉で、何事も細部まで心を込めて作れという意味であるが、それを実践するかの如く、物語の創造主であるキングもまたディテールを積み重ねていく。キングは作家もまた神であることを自覚し、本書の登場人物たちを丹念に描く。 これだけの分量を誇るだけあって込められた物語は5作分以上の内容が込められている。両親を亡くし愛する妻をも結婚18か月で亡くした孤独な男。しがないギタリストがひょんなことから自分の作った曲が全米でヒットしていき、人生を狂わせつつある男。町でも男たちが振り返るほどの美人の娘が妊娠してしまい、母親との軋轢に悩む。聾唖の青年がアメリカの放浪の旅の途中で助けられた保安官によって保安官代理を務める。マフィアのヤクを奪い、逃走中のチンピラが立ち寄ったガソリンスタンドで反撃に遭い、ブタ箱に押し込められる。色んな犯罪に名を変えて関わってきた“闇の男”。 1冊の本が書けるほどの個性的な登場人物たちが軍が開発したウィルスによって崩壊したアメリカを舞台に会する。 キングは本書でもたらしたのは複雑化してしまい、もはや何が悪で善なのか解らない世界を一旦壊してしまうことで人々が善と悪に分かれて戦う、この単純な二項対立の図式だ。そう、これは世紀末を目前にした人類による創世記なのだ。善対悪、天使対悪魔の全面戦争の現代版なのだ。 こんな長い物語を読み終えた今、胸に去来するのはようやく読み終わったという思いではなく、とうとう終わってしまったという別れ難い思いだ。 2,400ページ弱の物語が長くなかったかと云えば噓になるが、それでもいつしか彼らは私の胸の中に住み、人生という旅を、戦いを行っていた。 実はまだまだ語りたいことが沢山ある。なにせ色々な物が包含され、またそのままの状態で終わった物語であるからだ。ナディーン・クロスに寄り添っていたジョー、即ちリオ・ロックウェイのこと、本書で登場する玉蜀黍畑は短編「トウモロコシ畑の子供たち」でも意志ある存在として不気味なモチーフで使われていたが、アメリカ人、いやキングにとって玉蜀黍畑とは何か特別な意味を持っているのだろうか、等々。 しかしそれはおいおい解ってくるのかもしれない。今後の壮大なキングの物語世界に浸ることでそれらの答えを見つけていこう。 |