皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ ホラー ] 人狼の四季 別題『マーティ』 |
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スティーヴン・キング | 出版月: 1996年03月 | 平均: 6.00点 | 書評数: 2件 |
学習研究社 1996年03月 |
学習研究社 2000年11月 |
No.2 | 6点 | 人並由真 | 2020/11/23 13:33 |
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(ネタバレなし)
米国のニューイングランドは、小さな田舎町ターカーズ・ミルズ。その年の1月、鉄道信号手のアーニー・ウェストラムが、異形の怪物=狼男に惨殺された。以降、毎月の満月の夜、被害者が続出。街は謎の怪物の実態も見定められぬまま、恐怖の影に包まれる。やがて季節は移り、車椅子にすわった10歳の少年マーティ・コスロウは、月下の庭でただひとり、狼男と対峙するが。 1983年のアメリカ作品(邦訳は85年の改定版の原書がベース)。 日本での初訳は文庫版『人狼の四季』と同じ版元の学研から、『マーティ』の邦題でハードカバーで刊行(1996年3月10日・初版)。評者は今回、この『マーティ』の方で読了した。 文庫版は手元にないので仕様の比較はできないが『マーティ』には、先行レビューのTetchyさんがおっしゃったバーニ・ライトスンのイラストが、カラーと白黒でふんだんに掲載。巻末には本作のメイキング事情、映画版との比較、狼男もののフィクションの大系への言及など、驚異的な質量の、そして作品やジャンルへの愛情に富んだ評論家・風間賢二の重厚な解説記事が添えられている。特に少年マーティと狼男、二人の主人公の相似点に着目した見識は絶妙で、これはぜひとも本編を読まれたあとに参照されたい。 それで、ヒトのレビューばかりホメて終わるのもナンなので(笑)、評者自身の拙いレビュー&感想そのほかを綴ると、もともとこの作品と当方の接点は映画版『死霊の牙』を日本でのビデオリリース時にレンタルで観たのが最初(たしか90年代の初頭)。キング自身が自作を脚色した3本目の作品で、キングにとってそういう経緯での初の長編映画であった。 そんな映画版はキングが自作のプロットをさらに練り込み、主人公マーティを掘り下げて造形したようである。そんな流れもあって、当方の今回の感想もいきおい映画版『死霊の牙』との比較になってしまうのだが、映画で、この手のモンスターものとしてはかなり印象的であった狼男のキャラクターについての文芸が、この原作小説ではまた違うアプローチになっているのが興味深かった。 ネタバレになるのでここでは詳述できないが『死霊の牙』での狼男の立ち位置は、彼が凄惨な凶行を繰り返す憎むべき怪物なのは事実だが、さらに原作とは違う<そのアレンジ>により(中略)という立体的なキャラクター造形がなされ、そこが当時の自分にはとても印象深かった。今でもあの文芸ひとつゆえに(この映画版の長所はそれだけではないが)映画『死霊の牙』は、原作『マーティ(人狼の四季)』とはまた一味違った秀作になったと今でも信じている。 もちろん多岐にわたるキング作品の映像化などとてもすべてカバーしているわけはないが、少なくとも自分が観たキング映画のなかではもしかしたらこの『死霊の牙』が、筆頭クラスにスキかもしれない。 それで改めて原作小説の方の感想に話を戻すと、これはこれで原石的なモンスターモダンホラー(ジュブナイル・ホラーアクション)として十分に楽しめる。 物語前半、オムニバス風の挿話の積み重ねは一本一本をキングが良い意味でのローコスト的な文字量で、効果的に書いている感じで悪くない。まあ(中略)ケ月分でひとくぎりついたから分量的にもちょうどよく、これ以上同じパターンが続いていたら飽きたかもしれないけれど。前述の映画版との比較の話にもなるが、狼男の誕生の事情を暗喩する短めの描写も悪くない。 最後のクライマックスは(やはりどうしても映画との比較が頭に浮かんで)やや物足りないが、先述の風間評論のとおり、この作品が抱える<ひとつの主題>を語りきった強みはあるので、これはこれでよし。 そんなわけでこれからこの作品に触れる人は、できれば小説と映画とセットで楽しんでください。自分は先に映画を観てしまったけれど、可能ならば、発表順に小説から入った方がたぶんいいかもしれない。 評点は一応、原作版のみのものとして。 映画とセットならもう1~2点プラス。 |
No.1 | 6点 | Tetchy | 2017/12/06 23:50 |
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キングが怪奇コミックスの鬼才バーニ・ライトスンと組んで著したヴィジュアル・ホラーブック。キングにしては珍しく、全編でたった200ページにも満たない。しかもその中にはふんだんにライトスンによるイラストが挟まれているため、文章の量もこれまでのキング作品では最少だ。
物語も実にシンプルでメイン州の田舎町に突如現れた人狼による被害について月ごとに語られる。 1月から12月までの1年間を綴った人狼譚。キングにしてはシンプルな物語なのは話の内容よりもヴィジュアルで読ませることを意識したからだろうか。その推測を裏付けるかのようにバーニ・ライトスンはキングが文字で描いた物語を忠実に、そして迫力あるイラストによって再現している。1月から12月まで、それぞれの月の町の風景と、人狼が関係する印象的なシーンを一枚絵で描いている。特に後者はキングが描く残虐シーンを遠慮なく描いており、背筋を寒からしめる。特に人狼の巨大さと獰猛さの再現性は素晴らしく、確かにこんな獣に襲われれば助かる術はないだろうと、納得させられるほどの迫力なのだ。 小さな町に訪れた災厄を群像劇的に語り、そしてその始末を一介の、しかも車椅子に乗った障害を持つ少年が成す、実にキングらしい作品でありながら、決して饒舌ではなく、各月のエピソードを重ねた語り口は逆にキングらしからぬシンプルさでもある。そしてキングにしてはふんだんにイラストが盛り込まれているのもまたキングらしからぬ構成だ。それもそのはずで、解説の風間氏によれば当初イラスト入りカレンダーに各月につけるエピソード的な物語として考案された物語だったようだ。しかしそんなシンプルさがかえってキングにとって足枷になり、7月以降はマーティを登場させ、人狼対少年という構図にしてカレンダーに添えられる物語ではなく、中編として最終的には書かれたようだ。だからキングらしくもあり、またらしからぬ作品というわけだ。 文章とイラストで存分に狼男の恐怖を味わうこと。それが本書の正しい読み方と考えることにしよう。 |