海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ ホラー ]
図書館警察
“Four Past Midnight”
スティーヴン・キング 出版月: 1996年09月 平均: 7.00点 書評数: 1件

書評を見る | 採点するジャンル投票


文藝春秋
1996年09月

文藝春秋
1999年08月

No.1 7点 Tetchy 2021/03/20 00:15
中編集“Four Past Midnight”を二分冊化して刊行されたうちの後半部が本書である。世間の評判は1冊目の『ランゴリアーズ』の方が高く、同書は97年版の『このミス』で18位にランクインしているのに対し、本書は圏外にも入っていない。私はその題名から『ランゴリアーズ』よりも本書の方への興味が高かったが、今回読んでみて世間の評判が正しいことに残念ながら気付いてしまった。

それはやはり「図書館警察」に対して期待値が高すぎたことによるだろう。
正直に云えば図書館警察という題材から想像した物語がこんな話になるとは思わなかったのだ。もっと図書館の大切さを、必要性を絡めたホラーとなることを期待したのだが、結局は怪物と少年の痛ましい虐待の記憶との戦いというキング特有の物語に落ち着いたのがつくづく残念でならない。
それは恐らくこの題名から私は有川浩氏の『図書館戦争』のような物語を創造してしまっていたのだと思う。そちらは図書館を護る自衛隊のような存在、図書隊がメディア良化法という悪法を強要する同委員会が送る軍との戦いを描いた作品だが、それと同じように図書館のルールを取り締まる警察の話だと思ってしまったからだった。
もう1つは最初に主人公のサム・ピープルズが図書館を訪れた時に、図書館の雰囲気に恐怖し、一刻も離れたい場所だと称したことだ。それはつまりサイキック・バッテリーとしての建物というキングがよく用いる題材として図書館自身が恐怖の舞台であるかのように思ってしまったのも一因だ。確かに最後の対決の舞台は図書館であるが、図書館が異形の者を生み出した、呼び寄せたのではなく、この作品はあくまでアーデリア・ローツという怪物の物語であった。そこが最後まで違和感を拭えなかったのである。

次の「サン・ドッグ」を読んですぐに想起したのはつい最近刊行されたキングの息子ジョー・ヒルの中編集『怪奇日和』に収録された「スナップショット」だ。記憶を奪うポラロイドカメラを持った男が女性に付きまとう物語だが、「サン・ドッグ」は目の前にない物が写るポラロイドカメラを持った少年の話だ。
両者に共通するのはキングの妻であり、ヒルの母であるタビサがポラロイドカメラを購入したことだ。そこにそれぞれがこのカメラに対してインスピレーションを得て、ポラロイドカメラをモチーフにしながら異なる作品を描いたことに興味を覚えた。
この作品も今振り返ればキングが初期から題材にしている“意志ある機械”の怪異譚である。この異界を写すポラロイドカメラがやがて使い手の心を侵食し、そして異界から怪物を呼び出させる。しかしカメラが写し出す風景に関する逸話については触れられない。ただ巨大な犬が近づき、やがてその犬が怪物へと変容していく様、そしてこのままいけば撮影者は間違いなく殺されるだろうことがカウントダウン的に語られる。シンプルな話ほど怖いと云うが、それ故に色んな説明の長さが目立った。単純な話を余計なぜい肉で太らせたような作品になったのはつくづく残念である。

あと本書で見られる他作品とのリンクはまず「図書館警察」では『ミザリー』の主人公の作家ポール・シェリダンがナオミ・ヒギンズが図書館で借りる本の作家の1人の名前として登場する。
もう1つ「サン・ドッグ」はキャッスルロックが舞台とあって逆にリンクを意識的に盛り込んでいるようだ。まずこの作品での悪役となるポップ・メリルの甥は中編「スタンド・バイ・ミー」に登場する不良のエース・メリルであり―彼がその後強盗を行い、ショーシャンク刑務所に4年服役していたことも明かされる―、更には『クージョ』の話もエピソードとして出たりもする。しかしこのキャッスルロックも次作で幕が閉じられるとのことだ。なんだか勿体ない思いがする。

あとなぜかキングでは玉蜀黍畑が不安を掻き立てる場所として登場する。玉蜀黍畑を舞台としたアンファンテリブル物、その名もズバリの「トウモロコシ畑の子供たち」から「秘密の窓、秘密の庭」でも作中で登場する盗作疑惑の小説で登場するのが玉蜀黍畑。そして本書「図書館警察」でもデイヴがアーデリア・ローツに誘われ、かくれんぼをして魅了されてしまうのが玉蜀黍畑だ。それはまさに彼が踏み入ってはならない領域の入口として書かれている。

これからのキングは恐らくどんどん話が長くなっていくのだろう。それは創作の設定材料としてノートに書かれるメモの内容のほとんどを作品に盛り込んでいるからではないか。
私は1冊の本に登場する人物に対してこれほどまでに緻密な性格設定と生活設定を考えているのだと誇示しているかのようにも見える。
しかしそれは作家として読者に語るべきではない裏方作業のことだ。この創作の裏側まで書かれていることに興味を覚えるか、逆にそこまで語らなくてもいいのにと幻滅するかがキングのファンとしてのバロメータとも云える。
今現在の私はここまで書く必要はあるのかと疑問を覚える方なのだが、これが物語の妙味として、もしくはこれぞキングだとキング節として味わえるようになるのかが今後変わっていくのかが私のキング作品に対する評価のカギとなることだろう。


キーワードから探す
スティーヴン・キング
2021年03月
アウトサイダー
平均:5.00 / 書評数:1
2018年09月
任務の終わり
平均:5.00 / 書評数:1
2017年09月
ファインダーズ・キーパーズ
平均:5.00 / 書評数:2
2016年08月
ミスター・メルセデス
平均:5.50 / 書評数:2
2016年07月
ジョイランド
平均:6.00 / 書評数:2
2015年06月
ドクター・スリープ
平均:4.00 / 書評数:1
2013年09月
11/22/63
平均:8.00 / 書評数:3
2011年04月
アンダー・ザ・ドーム
平均:8.50 / 書評数:2
2009年09月
夜がはじまるとき
平均:7.00 / 書評数:1
夕暮れをすぎて
平均:4.67 / 書評数:3
2007年11月
セル
平均:7.00 / 書評数:1
2006年12月
ブルックリンの八月
平均:7.00 / 書評数:1
2006年10月
メイプル・ストリートの家
平均:7.00 / 書評数:1
2006年07月
ダーク・タワーⅥ-スザンナの歌-
2006年06月
ドランのキャデラック
平均:7.00 / 書評数:1
2006年03月
ダーク・タワーⅤ-カーラの狼-
2006年02月
ダーク・タワーⅣ-魔道師と水晶球-
2004年05月
第四解剖室
平均:6.00 / 書評数:1
幸運の25セント硬貨
平均:4.00 / 書評数:1
2002年08月
トム・ゴードンに恋した少女
平均:7.00 / 書評数:1
2002年04月
アトランティスのこころ
平均:8.00 / 書評数:1
2000年11月
ザ・スタンド
平均:9.00 / 書評数:1
ライディング・ザ・ブレット
平均:7.00 / 書評数:1
2000年02月
いかしたバンドのいる街で
平均:7.00 / 書評数:1
1997年11月
ダーク・タワーⅢ-荒地-
平均:6.50 / 書評数:2
1997年09月
ジェラルドのゲーム
平均:4.00 / 書評数:1
1997年01月
グリーン・マイル
平均:7.33 / 書評数:3
1996年09月
図書館警察
平均:7.00 / 書評数:1
1996年08月
ランゴリアーズ
平均:7.00 / 書評数:1
1996年05月
ダーク・タワーⅡ-運命の三人-
平均:5.50 / 書評数:2
1996年03月
人狼の四季
平均:6.00 / 書評数:2
1995年09月
ドロレス・クレイボーン
平均:8.50 / 書評数:2
1994年06月
ニードフル・シングス
平均:7.00 / 書評数:1
1993年07月
トミーノッカーズ
平均:3.00 / 書評数:1
1992年09月
ダーク・ハーフ
平均:7.00 / 書評数:1
1992年04月
ダーク・タワーⅦ-暗黒の塔-
ダーク・タワーⅠ-ガンスリンガー-
平均:6.00 / 書評数:2
1991年11月
IT
平均:7.33 / 書評数:3
1990年03月
ミザリー
平均:6.71 / 書評数:7
1989年08月
ペット・セマタリー
平均:8.33 / 書評数:3
1989年07月
死のロングウォーク
平均:6.50 / 書評数:2
1989年02月
最後の抵抗
平均:3.00 / 書評数:1
1988年11月
ハイスクール・パニック
平均:7.00 / 書評数:2
1988年05月
ミルクマン
平均:7.00 / 書評数:1
1988年03月
ゴールデンボーイ―恐怖の四季 春夏編
平均:8.33 / 書評数:3
1988年01月
痩せゆく男
平均:6.33 / 書評数:3
1987年12月
クリスティーン
平均:8.00 / 書評数:1
1987年10月
バトルランナー
平均:7.00 / 書評数:1
1987年07月
タリスマン
平均:3.00 / 書評数:1
1987年05月
トウモロコシ畑の子供たち
平均:7.00 / 書評数:1
デッド・ゾーン
平均:8.00 / 書評数:2
1987年03月
スタンド・バイ・ミー―恐怖の四季 秋冬編
平均:7.75 / 書評数:4
1987年02月
神々のワード・プロセッサ
平均:7.00 / 書評数:1
1986年08月
深夜勤務
平均:6.00 / 書評数:2
1986年05月
骸骨乗組員
平均:7.00 / 書評数:1
1983年09月
クージョ
平均:7.33 / 書評数:3
1982年09月
ファイアスターター
平均:7.50 / 書評数:2
1978年03月
シャイニング
平均:7.71 / 書評数:7
1977年01月
呪われた町
平均:5.00 / 書評数:6
1975年01月
キャリー
平均:6.33 / 書評数:3