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[ SF/ファンタジー ] ダーク・タワーⅣ-魔道師と水晶球- <ダーク・タワー>シリーズ 旧題『魔道師の虹』 |
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スティーヴン・キング | 出版月: 2000年05月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
KADOKAWA 2000年05月 |
KADOKAWA 2000年05月 |
新潮社 2006年02月 |
新潮社 2006年02月 |
新潮社 2006年02月 |
KADOKAWA 2017年06月 |
KADOKAWA 2017年06月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2024/10/25 00:46 |
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本書の中心はガンスリンガー、ローランド・デスチェイン若き日の物語が語られる。それは彼が愛した女性スーザン・デルガドとの出会いの物語だ。
しかしその前に物語は前巻のクライマックス、自殺願望のある超高速モノレール、ブレインとのなぞなぞ対決から幕を開ける。 そして彼らがブレインとの勝負に打ち勝ち、降り立ったカンサス州のトピーカで、彼らはその世界が“キャプテン・トリップス”の感染爆発後の世界だと知る。 そう、この現実世界で猛威を奮っている新型コロナウイルスを彷彿とさせる超インフルエンザはキングの大作『ザ・スタンド』で登場したウイルスである。 つまりこの〈暗黒の塔〉の世界と『ザ・スタンド』の世界がリンクしたのだ。しかも本書でこの感染症がレーガン政権の時期であることが判明する。ちなみにレーガンと当時の副大統領ブッシュは感染から免れるため、地下の避難所に逃げ込んだと書かれている。 さて本書のメインは若かりし頃のローランドの恋バナである。この時ローランド14歳。そして任務で彼は訪れたハンブリーの行政長官ハートウェル・ソリンの愛人となったスーザン・デルガドと出遭い、恋に落ちるのである。 町中に知られた権力者の愛人が調査に訪れた美男子の役人と道ならぬ恋に落ちる図式である。しかし元々スーザン自身もいわば愛人という情婦という立場なのだが、相手が町の権力者ならばそんな立場でも一目置かれる存在となっている。 このキング版『ロミオとジュリエット』とも云える二人の恋路はまず始まりまでが実にじれったい。一昔前のラブロマンスのようだ。 しかし二人の思いが通じてからはもう止まらず、秘密の待ち合わせ場所を選んではセックスに耽る。まあ、十代2人のセックスだからなんとお盛んなことか。そしてその若さゆえにもう止まらないのだ。ローランドは自分が身分を偽って父親から重大な任務を授かっていることをどうでもいいと思い、スーザンもまた彼女が行政長官と褥を重ねるまで純潔を守らなければならないことなど他愛もないことだと思うほどに、2人の欲望は若さの勢いのまま、迸るのだ。2人の恋はハリケーンなのだ。 この〈暗黒の塔〉シリーズはやたらとこのセックスシーンが登場するのが特徴だ。その行為が新しい何かの誕生を象徴しているからだろうか。 さてこのローランド・デスチェインとスーザン・デルガドの恋は彼が仲間達に悲痛な面持ちで語ることから、悲恋であることは間違いなく、何とも哀しい結末を迎える。 さてこのダークタワーの世界では我々の現代社会とのリンクが見られるが、今回も色々登場する。 例えば最初のブレインとのなぞなぞ対決ではマリリン・モンローの名が出たり、74年のアメリカのTVドラマ“All in the Family”のキャラクター、イーディス・バンカーなんてのも登場する―これがブレイン攻略の糸口になるわけだが―。 またクリムゾン・キングも登場する。もちろんこれはプログレバンド、キング・クリムゾンであり彼らのデビューアルバム『クリムゾン・キングの迷宮』に登場する真紅の王である。 などと書いていたらこのローランド達の住まう世界が我々の未来であることが判明する。つまり何らかの理由で現在の文明が失われた世界なのだ。その何らかの理由が最後になってキングのある作品と繋がることで朧気に見えてくる。 しかし今回でさらにキャラが立ってきたように思える。特にブレインとの決戦で自分の知能レベルまでブレインを誘い込み、日常の下卑たジョークをなぞなぞにして撃破したエディは意外性の男として認知させられた感がある。 しかし更にも増して存在感を醸し出したのがガンスリンガー、ローランド・デスチェインだ。彼の過去が語られることで彼の造形が深まった。いやあ、まさか初対面の女性がときめくほどの美男子だったとは。そして彼の家族も忌まわしい過去を纏っていることが判明した。 愛する女性を2人も喪った哀しき運命の男。それがローランド・デスチェインという男なのだ。 さて今回判明したのはローランドの住むこの〈暗黒の塔〉の世界には〈内世界〉と〈中間世界〉、〈終焉世界〉があることだ。そして〈終焉世界〉には希薄があり、それが不快な音を立てているようだ。ローランドは〈内世界〉の住民でニュー・カナーンという〈連合〉の中心の出身であることが判明する。 これが未来の我々の世界であるわけだが、外側に行くほど希薄という世界の境に近づく。 色々な憶測が出来る巻であった。 そしてそれはこれまでキング作品を読んできた者だからこそ解るリンクでもある。キングは自身の読者を愉しませる術を心得ている。彼の膨大な著作を読む甲斐や意義を感じさせてくれる作家である。 キング・ワールドの中核をなすと云われているこのシリーズの全貌がようやく見えてきた感があるが、まだまだサプライズを期待できそうだ。 |