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[ 本格/新本格 ]
七十五羽の烏
平将門呪殺事件 物部太郎三部作
都筑道夫 出版月: 1980年09月 平均: 6.09点 書評数: 11件

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角川書店
1980年09月

光文社
1999年03月

光文社
2003年03月

No.11 7点 ミステリ初心者 2023/12/28 18:00
ネタバレをしております。

 倉知さんの某作品を読んでいたため、この作品を知りました。

 勝手に、あまり人間味のない冷徹な探偵が出てくるものだと思っておりましたw 
 本作の探偵である物部太郎や片岡直次郎は、とても人間味にあふれた良いキャラクターで好感が持てます。特に物部太郎はやる気がなく、臆病で帰ろうとするし、自信もありません。金も名声もいらなくて(ぼんぼんだから金はいらないのでしょうがw)、法による裁きよりも情を優先させるような人ですね。自信とやる気がなくなったロジャー・シェリンガムみたいなw

 この作品で話題なのは、やっぱり章の初めに作者の注意書きがあることですね。
 推理小説ファンからすると、なにか仕掛けを求めてしまいますが、それほど大きな意味はありません(少々のミスリード程度?)。
 しかし、私はこれを好ましく思えます! 論理的に解決できる作品ほど読み返したくなるものですが、章の初めにこういう文章が挿入されているとそれを見ると簡単にその章のことを思い出します。

 推理小説的な要素について。
 好ましい点とそうでない点が混在しておりますw
 まず、第一の事件では論理的に犯人が当てられると思います。ポンコツの私でも、名刺での注意書きのロジックから犯人は屋敷に長期滞在していなかった人物かつ目が悪い人物だとわかりました。
 しかし、論理的犯人当てを楽しむにしてはミスリードが過剰だと思います。確かに、作者による注意書き通り共犯者はいなかったのですが、第二の事件は第一とは違う人物が行っていますし、偶然の要素も強いです。第三の密室事件は自殺のため、がっかり感がつよいですねw
 私は第二が狙い通りではなかったこと、第三が自殺であったことは何となく読めましたので、本書中の直次郎と同じく早苗犯人説に傾倒してしまいましたw しかし、第一事件のロジックである長期滞在ではなく目が悪いということと矛盾し、そこで推理が止まってしまいました;;

 作者の注意書きもよかったですし、キャラクターも好みです。滝夜叉姫のオカルトや(これ結局なんだったの?)、祭り中の密室殺人も絵的に面白かったです。ミスリード過剰なのが好みではなかったのですが、良い作品でした。ちょっと高すぎる気がしますが、7点としました。

No.10 3点 斎藤警部 2022/04/13 11:35
HEY MAAN, Much Ado About Nothing(から騒ぎ).. 先行の方々も指摘されたように「無味乾燥」、これに尽きます。 謎と解決の骨組みはしっかりしてるのに、折角の面白いロジック展開も、気取った?文章と緩いおふざけとの並走するうざったさを前に湿りがち、もったいない! なんつか、犯罪ファンタジーをしっかり構築する気ねえんだな、的な。 折角の「章前メモ」企画もいまいちピリッとしやしねえ、ダラダラと統一感無く、趣向でワクワクされてくれない、いちいちストーリー先行バラシだけしてどうすんの。 つかやっぱ本当にもう、文学云々じゃなく本格ミステリとして、人間やら人間社会が描けてないんだな!! 皮肉なことに、蘊蓄披露的場面で出て来る、知らなかったり馴染みの薄い言葉をいちいち調べるのが一番面白かったりしました。ところが、そういった蘊蓄の厚さがミステリの熱さにほとんど寄与してませんでしたのう。

No.9 6点 2020/03/25 15:35
 ものぐさ太郎の子孫を自称する富豪の息子・物部太郎は、とにかく一年まじめに働けという父親の圧力を躱わそうと、よろず引き受け業ファースト・エイド・エイジェンシイの所長・片岡直次郎に相談を持ちかけた。彼の提案により日本初のプロフェッショナルな心霊探偵(サイキック・ディティクティヴ)となった太郎は、事務所ごと助手となった直次郎を従え、くるはずもない客を待ちながらのんびりと日々を過ごしていた。
 ところが開所以来ひと月と十六日め、「伯父が幽霊に殺されるかも知れない」という若い女が事務所にやってくる。はたち前後の引きしまった女性・田原早苗の話では、茨城県土浦のちかく、新妻郡藤掛町緋縅で代々宮司を兼ねている伯父・源次郎が、平将門の娘・瀧夜叉姫の霊を見たというのだ。姫は代々一族にたたっている怨霊で、田原の家に急死人や変死人がでるときには、そのすがたを現すと言われていた。
 内心あわてふためきながらもその場は話を聞くふりをし、体良く早苗を追い返した太郎だったが、その翌日伯父が殺されたとの知らせを受けて、嫌々ながらも事件に乗り出さざるを得なくなる。源次郎は蔵座敷で裸にされて絞殺され、座敷をはなれて入浴中だった勢津子夫人も風呂場に閉じこめられていたのだ。初仕事に浮かれる父親に急き立てられ、太郎は直次郎と共に緋縅へと向かうが・・・
 物部太郎シリーズの第一作で、1973年3月桃源社刊。前月には三笠書房から、キリオン・スレイシリーズの初短編集『キリオン・スレイの生活と推理』を刊行したばかり。8月には短編集『十七人目の死神』も同じく桃源社から発売。この辺りあいかわらず精力的な活動ぶりです。
 内容もキリオンシリーズを受けた論理優先、クイーンばりの本格物。批評家でもある著者のミステリ観を実践した作品ですが、筋立てはやや単調。都筑氏の探偵役は多彩な設定の割に無味乾燥で、アウトロー系の『なめくじ長屋捕物さわぎ』以外は正直どれも大差無く、物部太郎もその例外ではありません。これがハードボイルドやアクション物ならば、危機の数々を乗り越えるにつれだんだん味が出てくるのですが。
 容疑者の数も実質五人と少なめなのに、被害者は三名。よって犯人の意外性はほとんどなし。骨格が露なので誤誘導も割れやすく、ドラマ性も皆無なので読んでてあまり面白くない。副題は〈謎と論理のエンタテインメント〉ですが、それだけではやはりキツいものがあります。カー風の導入部もあまり生きていないので、むしろスッパリ捨ててその分容疑者を増やした方が良かったでしょう。巻末にもあるように、走り火のシーンを思う存分描きたかったのかもしれませんが。
 本格長編の代表作とされていますが、どちらかと言うとマニア向け。氏の作品はオーソドックスな本格物よりも、切り口の異色な前衛推理やアイデアを生かしたアクション系の方が、評者の肌には合うようです。5.5点プラス薀蓄と山藤章二氏の挿絵の魅力で、合計6点。

No.8 7点 虫暮部 2019/12/26 11:36
 他者の為に○○した、という真相の話は読んで辛いし、そこまでするキャラクターの心が怖い。
 “走り火”の情景描写は圧巻。縦横に火花が閃く夜の闇の中へトリップしてきた。個人的にはあの場面が本書の主役。

No.7 5点 nukkam 2016/07/06 08:44
(ネタバレなしです) 1972年に発表した本書は長編本格派推理小説ジャンルにおける作者の代表作とされています。書くに当たって情感を抑え、解決のプロセスを重視し、フェアプレイを徹底することを条件にしており各章の冒頭で「依頼人は嘘をひとつもついていない」、「重大な手がかりあり要注意」など読者に警告しています。当然のように「読者への挑戦状」的なメッセージもあり、この時代にこれだけ論理的謎解きにこだわった本格派は珍しかったのではと思います。ただ喜怒哀楽をほとんど表さない人物描写は平面的でプロットもメリハリに乏しいです。短編ならまだしも長編小説としてはこの味気なさは(悪い意味で)気になりました。フェアプレイについても(ネタバレになるので詳細を書きませんが)ちょっと気になる点がありました。

No.6 6点 ボナンザ 2014/07/30 21:43
退職刑事やなめくじ長屋と並ぶ都筑の代表作。
舞台設定やロジックなど面白く、名作と呼ばれるのも無理からぬ。
注意書きのミスディレクションは一カ所以外無意味だと思うのだが・・・。

No.5 6点 E-BANKER 2013/05/03 17:51
1972年発表発表。「黄色い部屋はなぜ改装されたか」にて主張したロジック中心のミステリー観に基づき、実験的に創作したのが本作。
サイキック・ディテクティブ(?)物部太郎と助手・片岡直次郎のコンビで贈る長編シリーズの第一作目。
今回は光文社の都筑道夫コレクションシリーズで読了。なお、本書には「なめくじ長屋シリーズ」や「退職刑事シリーズ」、「キリオン・スレイシリーズ」の代表作まで収録というおまけ付き。

~平将門の娘・瀧夜叉姫(たきやしゃひめ)の祟りで伯父が殺されます・・・まったく働く気のない心霊探偵・物部太郎のもとへ依頼人が来た。実際、殺人事件が発生し、何の因果か難事件に巻き込まれてしまう。立ち塞がるいくつもの謎。名コンビ・片岡直次郎を助手に、太郎はその真相を推理する~

「前評判」というか名前だけは以前から何度も目にしていた本作。
さぞやロジカルでこれぞミステリー(!)とでも言いたくなる作品なのだろうと予想していたが・・・
何だか「無味乾燥」だなぁーという読後感になってしまった。

倉知淳の「星降り山荘」の影響もあり、各章前の「注意書き」が有名になったが、それ自体にミス・ディレクション的趣向のあった「星降り」と比べ、本作ではそれほどの効果はないように思える。
そして、本作の眼目であるはずのロジックなのだが・・・
中盤で「容疑者一覧表」を付して、動機やアリバイなどをひとりずつ検討→消していく、というやり方はまぁいいのだが、真相が解明された後も、何かモヤモヤした感覚が残ってしまったのはなぜだろう?
多分、ロジック一辺倒となってしまったばかりに、動機の不自然さやトリックのショボさにどうしても目がいってしまうからなのだろうねぇ。
(特に密室を持ち出しながら、この解法ではなぁ・・・)

これまで作者の作品を読んでるときも、どうも相性が悪いように思えていたけど、本作でますますそう感じた。
時代性もあるし、玄人ウケするのかもしれないけど、個人的にはそれほど魅力を感じない。
(登場人物に魅力を感じないというのも、「相性が悪い」原因なのだろう。本作の物部もそう、退職刑事やキリオン・スレイもそう・・・)

No.4 7点 2010/10/29 22:08
解決の論理を主軸にした初期クイーン式発想への共感から生まれた本作。ただし松田氏の角川文庫版解説にも書かれているように、カーがやったお遊びミスディレクションも取り入れられています。
名探偵の職業(?)がゴーストハンターで、伝説にのっとった事件が起こるという、それこそカーや横溝正史みたいなおどろおどろしい話にもできたような題材ですが、第1章の小見出しに「ここは…飛ばして先へすすんでも推理に支障はきたさない」なんて書いているマニアックなユーモアが、全体の雰囲気を表しています。物部太郎と片岡直次郎コンビの漫才的な会話も、なかなか楽しめます。
「糸や針金をつかって閉りをしたものでもない」と小見出しで宣言してしまっている密室について、糸を使って鍵をかける実験をやっているところは無駄だと思いましたが。

No.3 7点 kanamori 2010/07/03 21:31
ものぐさ探偵・物部太郎シリーズの第1作。
「黄色い部屋はいかに改装されたか」にて自身が提唱した”トリックよりロジック”を忠実に実践した、純粋にロジック中心の本格ミステリ。
色々な不可解な謎や伏線が最後にキッチリ回収される様はさすがですが、物語としては味気ない気もする。

No.2 7点 江守森江 2009/05/22 06:48
倉知淳の「星降り〜」とセットで読めば楽しさ倍増。
小説としてより読者挑戦・推理クイズとして楽しい。
ロジック好きには倉知より此方の方がお勧めかも。
※注意事項かな?
出来れば復刊した本で読んで下さい。
私の場合、図書館の書庫に眠っていた絶版本しか借りられず、紙が煤け血反吐のシミまである本だった。
(余りに不潔で、仕事で使うラテックス製手袋をして読んだ苦い思い出がある)

No.1 6点 こう 2008/05/25 01:32
 倉知淳の星降り山荘の殺人を読んでから読みました。物部太郎を探偵役としたシリーズの第一作目の様ですが二作目以降は読んでいません。倉知作品との共通性は各章のはじめに小見出しをつけている所のみで内容は違います。
 個人的には都筑作品の長編は作品の年代を考えるとむしろ今でも読みやすいと思いますが他作品よりは少し読みにくかった覚えがあります。(扱っている題材、登場人物の名前などはやはり古臭いかなと思います)小見出しを使ったミスディレクションやロジックを重視した作りになっており流石と思います。ただどんでん返しなどはなく実験的精神のこもった端整な本格といった感じです。35年前の作品ということでは敬意を評しますが内容は普通です。


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都筑道夫
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