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[ パスティッシュ/パロディ/ユーモア ]
酔いどれひとり街を行く
クォート・ギャロン(都筑版カート・キャノン)/別題『酔いどれ探偵』
都筑道夫 出版月: 1975年01月 平均: 7.00点 書評数: 1件

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桃源社
1975年01月

新潮社
1984年01月

東京創元社
2021年07月

No.1 7点 人並由真 2021/08/03 04:49
(ネタバレなし)
「おれか? おれはなにもかも失って、おちぶれはてた私立探偵。失うことのできるものは、もうひとつしか、残っていない。もうただひとつ、命しか。」
 どこかで聞いたようなフレーズで始まる連作短編集。ただし次のセンテンス「~というのが、名前だ。」の最初に来る名前は「カート・キャノン」ではない。「クォート・ギャロン」である。

 でまあ、今年の7月に創元推理文庫の新レーベル「日本ハードボイルド全集」にも改題『酔いどれ探偵』の題名で収録されたばかりなので、もう知ってる人も多いだろうが、本作はもともと「日本版マンハント」の1960年4~9月号に連載された、カート・キャノン(エヴァン・ハンター/エド・マクベイン)の連作(元)私立探偵小説「カート・キャノン」シリーズの公式パスティーシュ。
 その日本版マンハントに連載時は、主人公の名前はズバリ、カート・キャノンだった。
 実は連載第一回目の「日本版マンハント」60年4月号にはチャンドラーの『ペンシル』も掲載されており、目次の周辺ページの煽り文句で「こじきのキャノンとぼやきのマーロウが帰ってきた!」とか何とか書かれていたのを今でもよく覚えている。ルンペンってこじきと微妙に違うと思うんだけど……(汗)。

 評者は大昔の中高生時代から古書店を巡ってはひと昔、ふた昔前の翻訳ミステリ誌を集める趣味があったので(イヤな子供だね)、日本版マンハントのこの贋作キャノンシリーズの掲載号に出会えた時は大喜び。カート・キャノンについては、藤原宰太郎の「世界の名探偵50人」でまずその存在を知って興味を抱き、のちにポケミスで実作に接して本気でスキになる、そんなお定まりのコースだったのヨ。
 周知のように、このツヅキの「贋作キャノン」は、ポケミス版『酔いどれ探偵街をゆく』の巻末にボーナストラック的に一本だけ収録されており(HM文庫版では割愛)、それもキャノンものの正編とほとんど同様に楽しんだ勢いで、日本版マンハントに掲載されたっきりの残りの贋作キャノン5編もそれぞれ、前述のように古書店で入手したバックナンバーで面白く読ませてもらったものだった。
 
 それでこの贋作キャノン6本が初めて書籍化されたのが、上に掲示されている1975年の桃源社版「都筑道夫<新作>コレクション」だったワケだが、初めてコレを新刊書店で手にしたとき、本気で驚いた。「クォート・ギャロン⁉」誰それ、「カート・キャノン」じゃないの?

 ……でまあ、主人公の名前が変わったこと、さらに本になるまで時間がかかったことについては、日本版マンハントに公式パスティーシュの執筆を認可してくれたタトル商会の意向によるものだということを、この桃源社版のあとがきでツヅキ自身が語っている。
(まだ現物は手にしてないけど、たぶん今年の新刊の創元文庫版でも、日下センセイがこの辺の事情は解説してくれているだろうね?)

 とはいえ、当時まだ若かった自分はとにかく大ショック。クォート・ギャロンなんて、カート・キャノンじゃないや、と、書籍『酔いどれひとり街を行く』は、もはやカート・キャノンの公式パスティーシュではなくマガイモノのような気分で、意識の外に半ば遠ざけていたのである。
 私にとってのカート・キャノンは長い長い間、ポケミスとHM文庫で読める正編(とその前者で読める贋作一本)、あるいは「日本版マンハント」に載ったバージョンの「カート・キャノン」主役の6本のみ、だったのだ。
 
 しかしながら21世紀になり、さらに20年も経つと、まあもうクォート・ギャロンと改めて付き合って(再会? して)もいいかな、という気分にもなった。それで桃源社版の古書をwebで注文したのが、昨年のこと(『酔いどれ探偵』に改題されている事実は、その後で知った)。桃源社版は、水野良太郎先生のジャケットアートがイイね。

 それでそのうち読もうと思って居間の脇に置いておいたら、創元推理文庫で復刊というニュースがそのあとに飛び込んできた。……で、現在に至る。
 まあそういうワケだ(笑)。

 で、半月ほどかけて少しずつ、全6本のクォート・ギャロンものを読んだが、まあやっぱり面白いことは面白いね。
 名前は違っても、彼もまたカート・キャノンなのは間違いないし、同時にツヅキの生み出した新たな探偵ヒーロー、クォート・ギャロンでもあるんだよ。
 特に第4話「黒い扇の踊り子」は密室殺人事件で、キャノン=マクベインが87分署ものの『殺意の楔』で、スティーヴ・キャレラに密室殺人を暴かせたことの本家どりのような趣向。
 しかしその解決はツヅキファンなら、ある意味でかなり啞然とするハズで(これ以上は言わない)、これは時を経て再読して良かったように思う。ファンなら何を言っているか、わかるだろう。
 
 6本で終わってしまうのがもったいないが、まあツヅキがさらにこの贋作シリーズの中で書けたこと、書こうとしたことは、オリジナルの連作シリーズ、私立探偵・西連寺剛ものなんかの方に転用されたんだろうね。
 本当は長編1本、短編8本でミステリ史から消えるはずだったキャノンは、最終的に微妙な形になりながらも、さらに6編の活躍編を得た。それだけでよしとすべきなのであろう。


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