皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格/新本格 ] 三重露出 |
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都筑道夫 | 出版月: 1964年01月 | 平均: 5.20点 | 書評数: 5件 |
東都書房 1964年01月 |
講談社 1973年01月 |
講談社 1978年10月 |
講談社 1978年10月 |
講談社 1997年07月 |
光文社 2003年09月 |
No.5 | 6点 | クリスティ再読 | 2019/10/25 11:50 |
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本作の最大の謎はタイトルである。「二重露出」なら何のことはないのは明らかだ。アメリカ人の書いた日本舞台のスパイアクションと、翻訳者の周辺をめぐる事件の裏の、もう一つの層はいったい何か?というのを問わずに、本作を語れないよ。実のところ、翻訳者の周囲をめぐる沢之内より子殺しの真相は、今一つちゃんと解明されずに、読後にも不完全燃焼感が強い。いったい何のために翻訳者サイドの話があるのかが、本当に謎な本なのだ。
今回評者は講談社大衆文学館の「猫の舌に釘をうて」と合本になっている本(昔三一書房の「都筑道夫異色シリーズ」でも同じ合本で読んだ)だが、中野康太郎の巻末エッセイ「『三重露出』ノートまたは誰が沢之内より子を殺したか」が収録されていて、このエッセイがこの「もう一つの層」の解明に挑んでいる。このエッセイを読むのがたぶん本作についてどうこう言う場合には必須になるような気がするんだが...まあこれ紹介すると本当にバレなので、その内容紹介はやめておく。 なのでまあ、いくら精緻に仕掛けをしたとしても、それが伝わらなければ意味はない。そういう意味じゃあ本作は大きな欠陥のある作品とも言える。けどね、ちょっとこの謎への評者なりの回答もしてみようか。 実は本作映画になっている。「俺にさわると危ないぜ」1966年日活で、小林旭主演、長谷部安春監督である。アキラ主演ということは、主人公サム・ライアンも本堂という名前の日本人戦場カメラマンになっている(苦笑)。だから、ガイジンの目からみた不思議の国ニッポンという「007は二度死ぬ」要素も翻訳者サイドの話もまったく切り捨てていて、モンド風味の忍法帖スパイアクションに特化している作品になっているが...じゃあ、本作が原作者の意図に反して商業上の理由でそうなった、かというと、そうとも思えない。都筑道夫自身が脚本に入っていて、しかもこの頃は都筑道夫が映画ヅイている時期なんだよね。前年に東宝でやはりコメディ風味スパイの「100発100中」を原作なしの脚本で担当しているわけで、その続きでどうみても「俺にさわると..」には積極的にかかわっているとしか思えない。実際、原作のデテールをきめ細かく映画に拾い上げて絵にしている印象なんだもの。 監督も宍戸錠ハードボイルド三部作の一角の「みな殺しの拳銃」や「野良猫ロック」を監督したあと、テレビのポリス・アクションの大物ディレクターになった長谷部安春で、今見ると旧作の「カジノ・ロワイヤル」を連想するくらいの、才気でブッ飛んだ、いい意味で「ヘンな作品」である。評者昔文芸地下のオールナイトで見て、都筑道夫「三重露出」原作の字幕でノケゾったものだよ。ただし、本作、予算使い過ぎ(冒頭の戦場シーンの弾着が豪華!)と鈴木清順風の演出が「わけわからない!」と会社に怒られて、安春が一時干された...という話があるんだけど、実は海外では「Black Tight Killers」というタイトルで今やカルト映画の人気作になっている。 そういう成り行きを見てみると、いや実はこの映画が「三重露出」のもう一つの「露出」なのかもしれないや、とか思うんだがいかがだろうか。 |
No.4 | 6点 | 虫暮部 | 2018/06/15 09:58 |
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これは、忍法帖のパロディを書くエクスキューズとして作中作設定を採用する一方、“人生の居候みたいな存在”達のうらぶれたムードをパロディで中和してもいるわけで、利害の一致によりふたつの中編を合体させたものに見えるが、ミステリ的に捻りの効いた絡み方ではない点が期待外れ。それぞれ悪くはないんだけど、“複数の短編を最終章でひとつにまとめる連作集”のような凝った構成に慣れた身としては、ふたつの話を平行して読んだという以上のプラス・アルファは特に感じなかった。と言う意味では時代に押し流されてしまった(元)傑作、なのかも。 |
No.3 | 4点 | 斎藤警部 | 2018/05/26 19:20 |
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こりゃ期待しますよ、作中作趣向は普通のナニとして、その作中作ってのが現実世界の探偵役(翻訳家)が絶賛翻訳進行中(!!)の忍術スパイ小説で、そん中に探偵役の昔の知り合い(謎の死ないし失踪?を遂げた女)らしき人物が登場、翻訳を進めるうち現実の事件を解く鍵が見つかるんでないかと翻訳家は気を張り眼を凝らしつつ、現実世界でもワトソン役(事件当時から友人)の助力を得て当時の状況に追想と推理を巡らす、、という素敵な複雑構造。 そりゃあ、期待しないわけが無いでしょう。。 無いでしょう。。。 無いでしょう。。。。 ‘61のシボレーインパラが登場するのは良かった。 ラストはまさか某奇書を意識しているのか?? |
No.2 | 4点 | こう | 2010/05/14 22:25 |
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1ページ目にいきなり「日本版翻訳権所有」更に英語でTriple Exposureと書かれていて一見翻訳ミステリのスパイ活劇と思わせて次の章は現実の世界を描写その後交互に現実の本格ミステリとスパイ活劇が並行して語られるという構成は当時としては真新しく、遊び心に富んだ都筑道夫作品らしいと思います。ただ今読むと現実世界舞台のトリックはかなりの瑕がありますし小説部分と現実世界の収束が上手くいっていないと思います。長い間探しても手に入らず数年前再版された時は凄く期待したのですがそこそこでした。また表紙があまり冒頭の意図を組んでないのも残念です。
あと再読してないので覚えていませんがつじつまがあわなくて理解できなかった所があった気がします。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2010/05/06 00:12 |
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著者初期の作品全般に言えることですが、今作も捻った趣向を凝らしたメタ風ミステリです。
2つの物語が交互に進行します。ひとつは、忍者に憧れ来日したアメリカ人が奇天烈な忍術を使う女忍者たちとスパイ戦に巻き込まれるという、山風の忍法帖にジェームズ・ボンドを登場させたようなアクションもの。もうひとつの物語は、その小説の翻訳者が小説のなかに現実の記述がある謎に戸惑い調査を始めるというもの。 この二つの物語がどのように結びつくのかが肝のはずなんですが、結末はちょっと肩透かしの感じでした。狙いはよかったけど着地に失敗というところでしょうか。 |