海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ クライム/倒叙 ]
悪意銀行
近藤&土方コンビ
都筑道夫 出版月: 1963年01月 平均: 5.00点 書評数: 2件

書評を見る | 採点するジャンル投票


桃源社
1963年01月

三一書房
1968年01月

角川書店
1979年08月

光文社
2003年05月

筑摩書房
2020年03月

No.2 6点 2020/07/17 07:09
 名人気質から転がりこんだ女のアパートを追い出され、落語家の内弟子として食いつなぐ羽目に陥った近藤庸三。なにか儲け話がないかと腐れ縁の相棒・土方利夫のビルを訪ねると、そこで彼に〈悪意銀行〉なる思い付きを披露される。世間に広く犯罪のアイディアを募り、土方頭取の仲立ちにより利益が生じた暁には、発案者にそれまでの利子を付けて返すというのだ。
 たまたま訪れた融資者との会話を窓にぶらさがって立ち聞きした近藤は、ある小都市の市長暗殺についての商談を小耳に挟む。市制記念祭と市長選挙に沸く、愛知県で三番めの大きさの巴川市。この商都の現市長・酒井鉄城を、できるだけ派手に殺ってほしいらしい。やり手の酒井は娯楽機関を増やして工場を誘致し、十万ちょっとだった人口を倍ちかくに増やしたが、白熊みたいな老人にはそれが面白くないのだ。
 近藤はすぐさま土方よりさきに巴川へのりこんでひっかきまわし、悪意銀行の利益をピンハネしようと目論むが・・・
 雑誌「週刊実話特報」1963年1月3日号~1963年2月7日号まで、5回に渡って連載された同題中篇に、大幅な加筆を施して長篇作品に仕上げたもの。同誌の連続企画「五週間ミステリー」の一環で、大河内常平『妖刀流転』を皮切りに、本書を含め山村正夫『崩れた砂丘』河野典生『女だらけのブルース』などが掲載されました。
 目の回る展開だった前作に比べて構図はシンプルで、現市長を推す氷室一家(商事)と対立候補を擁する渋田一家(産業)の二大やくざの対立に、例によって暗殺計画を利用してカネを掴もうとする近藤&土方コンビが絡むクロサワの『用心棒』的展開。誰に雇われたとも知れぬ黒ずくめの殺し屋・松井なにがしこと無精松登場の傍ら、われらが近藤はやくざや市長に引っ付いては離れ、監禁されたあげく脱出時には殺人容疑者にされたりと散々。エピローグでは性転換希望のホモ暗殺者に迫られ、羽織袴で遁走するはめに。
 ただし最初に登場する白熊みたいな暗殺依頼者の正体はなかなか掴めない。凄腕ガンマンの無精松を誰が雇ったかも分からない。五里霧中のままクライマックスの記念パレードになだれ込んでいき、アクションシーンの末に真の黒幕が割れる仕掛けです。
 角川文庫版表紙の「a lack-gothic thriller(落語的スリラー)」の謳い文句の通り、スラップスティック味の強い作品。とはいえ暗殺プランの趣向や前作以上の銃撃戦、殺人事件の犯人や裏の構図など、食い足りなくなった分ミステリとしてはかなり読み易い。こなれ具合はこちらの方が上でしょう。
 内容とはほぼ無関係なタイトルですが作者は気に入っていたらしく、併録中篇「ギャング予備校」に登場するスパイアイテム好きの御曹司や本作中途でフェードアウトする女性らを登場させて、シリーズ三作めの『第二悪意銀行』を書く予定があったそうですが、無念にも構想のみに終わりました。風化した時事ネタがややキツいですが、他の部分はそこそこ楽しめる作品です。

No.1 4点 江守森江 2010/07/02 03:47
前作よりコンビとしての連携は良くなったが、前作でも感じた笑いの古臭さが強まってしまった。
スラプスティック・コメディに徹する筈の作品だがミステリとしての気付きや展開が、それを阻害していると感じてしまう。
ナンセンスな笑いに徹してミステリ色を極力排除するには都筑の本質がミステリ作家過ぎるのだろう。
それでも、作品の展開に関係なく挟まる下ネタは楽しい。
※光文社文庫の都筑道夫コレクション《ユーモア編》で読んだので、同シリーズの短編「NG作戦」「ギャング予備校」の他、ショートショート2編に落語4題も収録されている。
都筑道夫コレクションでミステリーとは関係無い《下ネタ編》を出版してほしかった。


キーワードから探す
都筑道夫
2013年08月
女泣川ものがたり
1998年03月
死体置場の舞踏会
平均:5.00 / 書評数:1
1997年09月
さかしま砂絵
平均:5.00 / 書評数:1
1996年01月
退職刑事6
平均:4.50 / 書評数:2
1991年07月
探偵は眠らない
平均:6.00 / 書評数:1
1990年10月
南部殺し唄
平均:5.00 / 書評数:1
1990年01月
退職刑事5
平均:3.33 / 書評数:3
1989年09月
前後不覚殺人事件
平均:4.00 / 書評数:1
1988年10月
まだ死んでいる
新 顎十郎捕物帳2
平均:6.00 / 書評数:1
1988年09月
血のスープ
1987年09月
髑髏島殺人事件
平均:5.00 / 書評数:1
1987年04月
毎日が13日の金曜日
平均:5.00 / 書評数:1
1987年02月
いなずま砂絵
平均:4.00 / 書評数:1
1986年12月
泡姫シルビアの探偵あそび
平均:4.00 / 書評数:1
1986年11月
泡姫シルビアの華麗な推理
平均:5.00 / 書評数:1
1986年09月
退職刑事4
平均:4.20 / 書評数:5
1986年08月
殺人現場へ二十八歩
平均:5.00 / 書評数:2
1986年02月
ロスト・エンジェル・シティ
平均:5.00 / 書評数:1
ときめき砂絵
平均:4.00 / 書評数:1
1985年08月
幽鬼伝
平均:6.00 / 書評数:1
1984年10月
捕物帳もどき
平均:6.00 / 書評数:1
1984年05月
新 顎十郎捕物帳
平均:6.00 / 書評数:2
1984年04月
神変武甲伝奇
1984年01月
おもしろ砂絵
平均:5.00 / 書評数:1
1983年07月
キリオン・スレイの敗北と逆襲
平均:4.00 / 書評数:2
1983年05月
暗殺心
平均:6.00 / 書評数:1
1982年12月
まぼろし砂絵
平均:5.00 / 書評数:1
1982年09月
退職刑事3
平均:6.20 / 書評数:5
1981年10月
かげろう砂絵
平均:5.00 / 書評数:1
1981年06月
苦くて甘い心臓
平均:6.00 / 書評数:1
1981年05月
ダウンタウンの通り雨
平均:5.00 / 書評数:1
1981年03月
退職刑事2
平均:6.40 / 書評数:5
1981年01月
銀河盗賊ビリイ・アレグロ
1980年10月
きまぐれ砂絵
平均:5.00 / 書評数:1
1980年09月
七十五羽の烏
平均:6.09 / 書評数:11
1980年08月
夢幻地獄四十八景
平均:5.00 / 書評数:1
名探偵もどき
平均:5.00 / 書評数:2
1980年02月
梅暦なめくじ念仏
平均:6.00 / 書評数:1
1979年07月
脅迫者によろしく
平均:6.00 / 書評数:1
1979年06月
妄想名探偵
平均:6.00 / 書評数:1
1979年04月
未来警察殺人課
平均:6.00 / 書評数:1
1979年01月
翔び去りしものの伝説
平均:5.00 / 書評数:1
1978年12月
東京夢幻図絵
1978年10月
キリオン・スレイの再訪と直感
平均:6.00 / 書評数:1
1978年09月
あやかし砂絵
平均:6.00 / 書評数:3
からくり砂絵
平均:6.75 / 書評数:4
1978年08月
くわえ煙草で死にたい
平均:6.00 / 書評数:1
血みどろ砂絵
平均:7.44 / 書評数:9
1978年03月
全戸冷暖房バス死体つき
平均:5.00 / 書評数:1
1977年12月
朱漆の壁に血がしたたる
平均:6.00 / 書評数:3
1977年10月
キリオン・スレイの復活と死
平均:5.50 / 書評数:2
1977年01月
雪崩連太郎幻視行
平均:7.50 / 書評数:2
1976年06月
悪魔はあくまで悪魔である
平均:6.00 / 書評数:1
1975年11月
蜃気楼博士
平均:6.00 / 書評数:3
1975年01月
酔いどれひとり街を行く
平均:7.00 / 書評数:1
西洋骨牌探偵術
平均:6.00 / 書評数:1
怪奇小説という題名の怪奇小説
平均:6.00 / 書評数:1
1974年01月
宇宙大密室
平均:6.00 / 書評数:3
退職刑事1
平均:6.70 / 書評数:10
1973年01月
あなたも人が殺せる
平均:5.00 / 書評数:1
最長不倒距離
平均:5.43 / 書評数:7
1972年01月
キリオン・スレイの生活と推理
平均:5.67 / 書評数:6
1970年07月
くらやみ砂絵
平均:6.67 / 書評数:6
1968年01月
吸血鬼飼育法
平均:5.00 / 書評数:2
魔海風雲録
平均:6.00 / 書評数:1
1967年01月
暗殺教程
平均:6.00 / 書評数:2
1964年01月
三重露出
平均:5.20 / 書評数:5
1963年01月
悪意銀行
平均:5.00 / 書評数:2
1962年01月
紙の罠
平均:5.67 / 書評数:3
なめくじに聞いてみろ
平均:7.17 / 書評数:6
誘拐作戦
平均:6.75 / 書評数:4
1961年01月
やぶにらみの時計
平均:5.00 / 書評数:6
猫の舌に釘をうて
平均:6.33 / 書評数:9
不明
都筑道夫自選傑作短篇集