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[ SF/ファンタジー ]
翔び去りしものの伝説
都筑道夫 出版月: 1979年01月 平均: 5.00点 書評数: 1件

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奇想天外社
1979年01月

徳間書店
1983年03月

光文社
2003年08月

No.1 5点 2020/03/30 11:51
 東京の副都心で酔っ払った末、暴走族との揉め事で命を落とした八剣(やつるぎ)巷二は、中世ヨーロッパ風の異世界に召還されて奴隷ウエラとなり、王位を狙うクアナ姫とルンツ博士の命に従い、瓜二つの顔を持つ王位継承者カル王子を殺し彼と入れ替わる。だが陰謀のさなかクバの女神の啓示を受けたウエラは召還者たちの思惑を超え、陰謀の駒としての役割も捨てておのれの意思で動き始めた。彼はそのままカル王子として王宮に帰還し、廷臣たちに迎えられる。
 ルンツ博士と対立する宮廷魔術師トルファスはこれに対抗するため、決闘沙汰を起こし追放されていた宮廷一の剣士、カルタニアのレアードを呼び戻す。重臣ラギーナ大公の娘ラビアを巡る鞘当てもあり、新たにカル王子となったウエラとレアードの間には、緊迫した空気が漂い始めた。
 そんななか宮廷には怪事件が続発する。ラビアの誘拐未遂、カル王子救出の立役者モンタルド男爵父子の怪死、そして寝室でウエラを襲うつばさの生えた鳥のような異形の怪物・・・
 数々の事件に宮廷が揺れ動くなか、遂に老王が息絶えた。ウエラはその地位に従い王位を要求するが、トルファスは五年前に行方不明となったカル王子の兄、タル王子と名乗る人物を推し立ててくる。両者の争いは一触即発の状態となった。
 王国には昔からある伝説があった。王が死に、正統なる王位継承者なき時には巨人の城が現れ、かれが翔び去るとともにこの国は滅ぶと。その言い伝えを裏付けるように空には巨大な城のまぼろしが現れ、舞い降りてきた異形の怪物が町びとを襲い始めた。カル王子=ウエラは代々の王が伝えてきたクバの女神の書を開き、記された聖なる啓示に従い巨人の城を鎮め、まことの王となるため旅立つが・・・
 雑誌「奇想天外」昭和五十一(1976)年四月復刊号から昭和五十三(1978)年七月号まで、数回の中断を挟みながら二十四回にわたって連載された、日本最初期クラスのヒロイック・ファンタジィ。先行作としては豊田有恒『火の国のヤマトタケル』に始まる〈日本武尊SF神話シリーズ〉がありますが、完全オリジナルだと多分これ。この後にルーツと言われる高千穂遥『異世界の勇士』が続き、さらに同じ高千穂の『美獣』に触発され栗本薫『グイン・サーガ』の第1巻が昭和五十四(1979)年に刊行開始。このあたりから本格的に和製ファンタジーが始動していきます。本書はその先駆けとなった作品。
 とはいえ正直出来は微妙。奇想天外社版あとがきにもある通り「裏返しにした『ゼンダ城の虜』が『西遊記』へ移行していって、また『ゼンダ城の虜』に戻ってくる」という構成。それは別にいいのですが、作品の要所要所で示される〈クバの女神の啓示〉の処理がいい加減だったり、最終的にどうなったのか投げっぱな人物が出てきたり、結構あやふやな所があります。この国がどうなっているのかいまいち掴み難いといった、カキワリ的な世界設定なのも問題。王子たちが乗る動物が二本足の馬とか、鳥とかがちゃんぽんになったやつなのもイメージが良くありません。
 トルファスの兄弟弟子のトリックスター的な道化魔術師・グプや、謎の奴隷頭巾の男など、敵か味方か見当もつかない登場人物が入り乱れてるうちは面白かったんですけどね。予定調和になってしまうと底の浅さが見えてしまいます。このジャンルの飛躍的な進歩もあり、今改めて読み返すだけの価値はほとんど無いでしょう。


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