海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 短編集(分類不能) ]
虚空の逆マトリクス
犀川&萌絵シリーズを含む短編集
森博嗣 出版月: 2003年01月 平均: 5.30点 書評数: 10件

書評を見る | 採点するジャンル投票


講談社
2003年01月

講談社
2006年07月

No.10 7点 Tetchy 2019/01/20 22:31
私は遅れてきた森作品の読者だが、逆に今だからこそ書かれている内容が理解できるものがある。そう、森作品に盛り込まれているIT技術は刊行当時最先端のものだからだ。

それが電脳世界を舞台にした1作目の「トロイの木馬」。
この作品は島田荘司氏が21世紀初頭に当時生え抜きのミステリ作家たち数名に新たな世界の本格ミステリ作品を著すとの呼びかけにて編まれたアンソロジー『21世紀本格』に収録された作品で、システムエンジニアを主人公とした物語だが、一読、これが2002年に書かれたものであることに驚愕を覚えた。
ここに書かれている在宅勤務による電脳世界―この用語ももはや死語と化しているが―を介しての仕事、ネットワークトラップである「トロイの木馬」のこと、更には小型端末と表現されたモバイル機器と16年後の今読んでも全く違和感を覚えない現代性がある。いやむしろ発表当時に読んでも全く何を書いているのか解らなかったのかもしれない。IT社会として情報化が進み、タブレットやスマートフォンが流布した現代だからこそ理解できる内容だ。

長編が非常にクールかつドライで一定の距離感を持った、理系人間が書く論文めいた作風であるのに対し、短編は幻想的かつ抒情的でセンチメンタリズムを感じさせる、文学趣味が横溢した作風と趣が異なっているのが特徴だ。
長編が左脳で書かれた作品とすれば短編は右脳で書かれた作品とでも云おうか。そしてどこか非常に森氏の日常や感情が短編には多く投影されているように思える。いわゆる森氏の人間的エキスが色濃く反映されているように思えるのだ。

またどこまで本気なのか解らないが内容にそぐわないタイトルである「ゲームの国」は『今夜はパラシュート博物館へ』にも同題の物があり、それは森作品のタイトルのアナグラムが横溢していた。
そして今回は回文。つまりタイトルのゲームの国とは恐らく言葉のゲームに親しむ作者自身の稚気を優先した作品世界そのものを指しているようだ。

そして何よりもボーナストラックとも云うべきはS&Mシリーズの「いつ入れ替わった?」だ。
本作では引っ付いては離れ、または平行線を辿るかと思えば、接近していくが寸前のところで決して接しない反比例の双曲線とX軸、Y軸のような2人の関係に進展が、それも大きな進展が見られる。
シリーズ本編の最終作で肩透かしを食らった感のある読者は本作を必ず読むことをお勧めする。

さて本書のベストを挙げるとすれば「赤いドレスのメアリィ」となるか。何とも云えない抒情性を私は森氏の短編に期待しているが、それに見事に応えてくれた作品である。
人を待つ。何ともシンプルな行為だが、これほど孤独を感じさせる行為もない。しかもその行為が長ければ長いほど人はその人の待ち人に対する思いの深さを思い知らされる。数多あるこの種の作品がいつも胸を打つのは待っている人の想いの深さが計り知れないがゆえに感銘を打つからだ。そして本作もまた同じだ。
やがて人に忘れられる町の片隅の神話。そんな物語だ。

恐らくはシリーズファンにしてみれば「いつ入れ替わった?」は渇望感を満たす1編になるだろうが、やはり私は西之園萌絵にそれほど好意的ではないのでベストとまでには至らない。

しかし全てを明かさないスタイルは本書も健在。
読者はただ単純に読んでいると本書に隠された謎や真意、真相が見えなくなっている。もしかしたら私がまだ気づいていない仕掛けがあるのかもしれない。作者のこの不親切さはある意味ミステリを読む姿勢が正される思いがして、うかうか気が抜けない。
読者もまた試されている。そういう意味では森氏の短編集は問題集のようなものになるかもしれない。

No.9 5点 E-BANKER 2018/01/27 11:31
短篇集としては「今夜はパラシュート博物館へ」に続く第四弾となる。
S&Mシリーズが一編入ってるのがファンとしてはうれしい限り(なんだろうな)。
2003年の発表。

①「トロイの木馬」=当然、あの有名な逸話がモチーフとなっているわけだけど、アレを森博嗣風にアレンジするとこういう感じになるんだねぇ・・・ということ? 入れ替わりが激しくて、最後は何が何だか分からくなったのは私だけだろうか。
②「赤いドレスのメアリイ」=“奇妙な味”のミステリーっていうところだろうか。どこかで読んだような、焼き直しのような気はするけど、何ともオシャレな感じに仕上がってて、後味は悪くない。
③「不良探偵」=途中、「これってもしかしてまともな謎解きミステリーなんだろうか?」と思ってしまった。オチは腰砕けのような、残尿感が残るような・・・。
④「話好きのタクシードライバー」=『ヒトシ松○のスベラナイ話」に出てきそうなストーリー(特段笑いはないけど)。これって、作者が体験した実話なのか?
⑤「ゲームの国」=他の皆さんがおっしゃるように、とにかく「回文」「回文」またまた「回文」というお話。もう、本筋なんてどうでもよい。ところで、回文好きのサークルや集まりって、そんなに多いんだろうか?
⑥「いつ入れ替わった?」=S&Mシリーズ。またまた犀川先生と萌絵の歯痒い関係が描かれる・・・(もういいって)。本筋としては、誘拐事件の最中、身代金入りのカバンが石ころ入りのカバンに入れ替わる、っていう面白い謎なのだが・・・なんかうやむやで終わった感。

以上6編。
これは、森博嗣ファンブックだね。
ファンにとっては、犀川と萌絵のその後なんて堪らないだろうし・・・
他の作品もひとことで言うなら「ごった煮」っていう感じなのだが、作者らしさという意味では“いかにも”ということかな。

長編ではできない、しないことも短編だからできるということなのだろう。
佳作とは言えないけど、決して嫌いではない。
そういう感想。
(ベストは?と問われたら、②or⑤かな・・・)

No.8 5点 虫暮部 2016/10/18 09:04
 「ゲームの国」のリリおばさんの作品“白雪の屋根やお屋根や軒揺らし”は、“屋根や”という短い回文が重複していわば水増ししているわけで、五七五に整っていることを考慮してもあまりいただけない。例えば“白雪の山に谷間や軒揺らし”等とするほうが美しいと思う。
 越路刑事は“吹雪さん?”なんて既に百万回言われている筈で、“意味が通じません”みたいな反応は不自然。本書の中で一番不自然に感じた。
 「話好きのタクシードライバ」。自動運転車が視野に入ってきた昨今。'02年初出のこの話は真っ先に風化するかも。

No.7 6点 ∠渉 2015/03/10 01:11
著者は自身の作品について「シリーズものは当然だが、それ以外も含めてすべてで一つの作品だと認識している」と語っている。そういう意味では『トロイの木馬』なんかは重要で、『すべてがFになる』からずっと深いところでテーマやモチーフが繋がって作品が出来上がっていたんだなと実感できる。
『赤いドレスのメアリィ』や『探偵の孤影』のノスタルジックな風味も『ゲームの国』みたいなアソビの心地良さも、森作品に通底しているテーマを感じることができる作品で興味深い。

『いつ入れ替わった?』は再読して貴重な作品になった。『有限と微小のパン』で萌絵の役割は終わったのかなぁと思っていたけど、意外とはそうでもなかったかもしれない。四季、G、Xシリーズで彼女が登場し続ける理由、もしかしたら、ここからが本当の萌絵の物語なのかも。そう思ったのは、ここが萌絵と犀川のラブロマンスの終わりだったからである。今後のシリーズの見方がまた少し変わってきそう。

私的には、以降の森作品への助走をつけるための作品集という位置づけ。これはこれで外せない。

No.6 5点 まさむね 2013/08/10 12:14
 バラエティーに富んだ短編集と言えなくはないのですが,出来栄えは相当にマチマチだなぁ…という印象。不発っぽい作品も正直ありましたね。
 とはいえ,「ゲームの国」の回文ネタはなかなか楽しかった。それとファン限定でしょうが,S&Mシリーズの短編が挿入されていることにも,多少のお得感が。(どちらもミステリ的には軽いのですがね…)

No.5 3点 ムラ 2011/09/29 21:33
オチが弱い、いつもの森という感じ。
萌絵と犀川がいい雰囲気になっていたのと、回文がやたらろすごかったのが見所。

No.4 6点 なりね 2003/12/28 22:00
あの二人が急進展!?

No.3 7点 四季 2003/11/06 18:26
S&Mシリーズがはいっているだけでこれぐらいの価値があるんじゃないでしょうか。
ちょっと飽きが入る。

No.2 5点 レン太 2003/07/05 14:50
S&Mの短篇が収録されていますが、このシリーズはここで完結でいいんじゃないかなぁー…

森氏は完全な「ミステリー作家」では無い、と認識しています。特に短篇ではその要素が強く出ますね。所謂「森節」を堪能出来ればオッケーなのでしょうね。

No.1 4点 okuyama 2003/01/25 16:55
和風、洋風、SF風の短編が入っていてバラエティーに富んでいる。個人的に好きなタイプの話もつまらない話も入っていたけれど、特筆すべきトリックなどは出てこず、ミステリ「風」の読み物、という感じだった。


キーワードから探す
森博嗣
2023年10月
情景の殺人者
平均:5.00 / 書評数:1
2022年10月
オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case
平均:6.00 / 書評数:4
2021年10月
歌の終わりは海
平均:7.00 / 書評数:1
2020年10月
馬鹿と嘘の弓
平均:5.00 / 書評数:1
2018年05月
ψの悲劇
平均:7.00 / 書評数:1
2018年02月
血か、死か、無か?
平均:6.00 / 書評数:1
2017年05月
ダマシ×ダマシ
平均:4.00 / 書評数:1
2016年05月
χの悲劇
平均:6.50 / 書評数:2
2016年01月
魔法の色を知っているか?
平均:4.00 / 書評数:1
2015年10月
彼女は一人で歩くのか?
平均:4.00 / 書評数:1
2015年01月
暗闇・キッス・それだけで
平均:6.00 / 書評数:1
2014年11月
サイタ×サイタ
平均:4.00 / 書評数:1
2014年06月
ムカシ×ムカシ
平均:5.00 / 書評数:1
2013年11月
キウイγは時計仕掛け
平均:3.33 / 書評数:3
2013年07月
赤目姫の潮解
平均:6.00 / 書評数:1
2013年06月
神様が殺してくれる
平均:5.00 / 書評数:3
2013年04月
スカル・ブレーカ
平均:7.00 / 書評数:1
2012年11月
ジグβは神ですか
平均:6.00 / 書評数:3
2012年05月
実験的経験
平均:6.00 / 書評数:1
2012年04月
ブラッド・スクーパ
平均:7.00 / 書評数:1
2011年04月
ヴォイド・シェイパ
平均:8.00 / 書評数:1
2010年10月
喜嶋先生の静かな世界
平均:7.00 / 書評数:2
2009年04月
ZOKURANGER
平均:5.00 / 書評数:1
2008年09月
目薬αで殺菌します
平均:5.75 / 書評数:4
2008年08月
僕は秋子に借りがある
平均:6.00 / 書評数:1
2008年06月
スカイ・イクリプス
平均:4.00 / 書評数:1
2008年01月
タカイ×タカイ
平均:4.40 / 書評数:5
2007年09月
キラレ×キラレ
平均:5.25 / 書評数:4
2007年08月
ゾラ・一撃・さようなら
平均:7.00 / 書評数:1
2007年07月
ZOKUDAM
平均:6.00 / 書評数:1
2007年06月
クレィドゥ・ザ・スカイ
平均:5.00 / 書評数:1
2007年05月
イナイ×イナイ
平均:4.83 / 書評数:6
2007年01月
ηなのに夢のよう
平均:4.60 / 書評数:5
2006年09月
λに歯がない
平均:3.67 / 書評数:6
2006年08月
少し変わった子あります
平均:5.50 / 書評数:2
2006年06月
フラッタ・リンツ・ライフ
平均:7.00 / 書評数:1
2006年05月
εに誓って
平均:5.20 / 書評数:5
2006年01月
レタス・フライ
平均:5.50 / 書評数:4
2005年09月
τになるまで待って
平均:4.57 / 書評数:7
2005年06月
ダウン・ツ・ヘヴン
平均:7.00 / 書評数:1
2005年05月
θは遊んでくれたよ
平均:5.78 / 書評数:9
2005年04月
どきどきフェノメノン
平均:3.67 / 書評数:3
2004年12月
工学部・水柿助教授の逡巡
平均:3.00 / 書評数:1
2004年09月
Φは壊れたね
平均:4.58 / 書評数:12
人間は考えるFになる
平均:6.00 / 書評数:1
2004年06月
ナ・バ・テア
平均:6.00 / 書評数:4
2004年04月
探偵伯爵と僕
平均:5.18 / 書評数:11
2004年03月
四季 冬
平均:5.25 / 書評数:4
四季
平均:7.30 / 書評数:20
2004年01月
四季 秋
平均:6.75 / 書評数:4
2003年11月
四季 夏
平均:6.33 / 書評数:3
2003年10月
ZOKU
平均:7.00 / 書評数:2
2003年09月
四季 春
平均:6.67 / 書評数:6
2003年06月
迷宮百年の睡魔
平均:7.38 / 書評数:13
2003年01月
虚空の逆マトリクス
平均:5.30 / 書評数:10
2002年09月
赤緑黒白
平均:6.21 / 書評数:19
2002年07月
奥様はネットワーカ
平均:4.50 / 書評数:4
2002年05月
朽ちる散る落ちる
平均:5.65 / 書評数:17
2002年01月
捩れ屋敷の利鈍
平均:5.65 / 書評数:26
2001年11月
アイソパラメトリック
平均:7.00 / 書評数:1
2001年09月
六人の超音波科学者
平均:5.27 / 書評数:15
2001年06月
墜ちていく僕たち
平均:3.30 / 書評数:10
スカイ・クロラ
平均:7.42 / 書評数:19
2001年05月
恋恋蓮歩の演習
平均:6.42 / 書評数:19
2001年01月
今夜はパラシュート博物館へ
平均:6.12 / 書評数:16
2000年12月
工学部・水柿助教授の日常
平均:5.88 / 書評数:8
2000年09月
魔剣天翔
平均:6.52 / 書評数:21
2000年06月
女王の百年密室
平均:6.37 / 書評数:19
2000年05月
夢・出逢い・魔性
平均:5.68 / 書評数:22
2000年01月
月は幽咽のデバイス
平均:4.90 / 書評数:20
1999年09月
人形式モナリザ
平均:4.91 / 書評数:23
1999年06月
そして二人だけになった
平均:5.67 / 書評数:49
1999年05月
黒猫の三角
平均:5.53 / 書評数:30
1999年01月
地球儀のスライス
平均:6.94 / 書評数:16
1998年10月
有限と微小のパン
平均:7.35 / 書評数:63
1998年07月
数奇にして模型
平均:6.22 / 書評数:36
1998年04月
今はもうない
平均:6.67 / 書評数:58
1998年01月
夏のレプリカ
平均:6.36 / 書評数:36
1997年10月
幻惑の死と使途
平均:7.23 / 書評数:43
1997年07月
まどろみ消去
平均:5.34 / 書評数:29
1997年04月
封印再度
平均:6.15 / 書評数:68
1997年01月
詩的私的ジャック
平均:5.35 / 書評数:48
1996年09月
笑わない数学者
平均:6.64 / 書評数:72
1996年07月
冷たい密室と博士たち
平均:5.82 / 書評数:57
1996年04月
すべてがFになる
平均:6.74 / 書評数:178