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[ 法廷・リーガル ]
リンカーン弁護士
リンカーン弁護士ミッキー・ハラーシリーズ
マイクル・コナリー 出版月: 2009年06月 平均: 7.00点 書評数: 4件

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講談社
2009年06月

講談社
2009年06月

No.4 6点 E-BANKER 2023/11/03 19:18
M.コナリーが創造した新たなスター。それが弁護士ミッキー・ハラー。
これまで読み継いできた「ハリー・ボッシュ」の物語から少し外れ、同じLAで活躍する彼の物語をのぞいてみることにしようか・・・
2005年の発表。

~高級車リンカーンの後部座席を事務所代わりにLAを駆け巡り、細かく報酬を稼ぐ刑事弁護士ミッキー・ハラー。収入は苦しく誇れる地位もない。そんな彼に暴行容疑で逮捕された資産家の息子から弁護の依頼が舞い込んだ。久々の儲け話に意気込むハラーなのだが・・・。その事件はかつて弁護を引き受けたある裁判へとたどり着く。もしかしたら自分は無実の人間を重罰に追いやったのではないか。思い悩む彼の周囲にさらに恐るべき魔手が迫る・・・~

まさに「正調リーガル・サスペンス」と称したくなる一品。
そんな作品だった。
冒頭、冴えない弁護士稼業に精を出しているミッキー・ハラーに思わぬ儲け話が舞い込んでくる。
容疑者に話を聞き、周辺調査を行うハラーだが、十分に勝算の立つ弁護だと思われた。
しかし、まず立ちはだかったのが、若き検察官ミントン。ハラーの使った調査員が集めた証拠に実は瑕疵のあることが判明する。そして、次に立ちはだかったのが「・・・」。こいつが本命。しかもまさかの・・・

というわけで、そこはコナリーらしく、起伏に富んだストーリー展開。読者の勘所を押さえに押さえたプロット。
文庫版の下巻に突入すると、いよいよ山場の法廷シーン、対決が始まる。
これが本作最大の盛り上がる場面。
若き検察官を蹴散らし、ついに「本命」の相手にも引導を渡せるのか・・・?
リーガルサスペンスらしい、検察VS弁護士に加えて、弁護士VS真の相手という二重の対決が本作の売りなのだろう。
いつものボッシュシリーズだと、彼のアクティブな捜査行やピンチの連続が味わえるけど、そこは本作でもヒケを取らない。特にラストはハラーの娘までも巻き込みつつ、まさかの黒幕(?)までも判明することに・・・

・・・こんなふうに書いてると、実に面白い読書だったことが分かる。
しかしながら、ここでちょっと立ち止まる。うーん。そこまで面白かったっけ? なんか麻酔をかけられたように、コナリーの術中にはまってしまったけど、ボッシュシリーズほど楽しめたかというと、「そこまでではなかったかな」というのが冷静な判断かもしれない。
ただ、続編が楽しみなのは確か。しかもボッシュとハラーの共演らしいし。
読むしかないでしょ。
(なんだかんだ言いながら、本作の裏テーマも「親子」の愛情だったと思う)

No.3 7点 八二一 2020/09/17 19:58
主人公が弁護士だからこその苦境でサスペンスを盛り上げた工夫に感心。予想外の展開の連続で、最初から最後までしっかり楽しませてくれる。正義のあり方を読者に問いかける問題作。

No.2 8点 Tetchy 2018/10/11 23:39
ミッキー・ハラーことマイクル・ハラー。
実はこれまでボッシュシリーズで名前が登場したことがある人物だ。まずこのマイクル・ハラーという名前だが、ボッシュの実の父親の名前でもある。彼が売春婦だったマージョリー・ドウとの間に作った子供がハリー・ボッシュ。そして本作の主人公ミッキー・ハラーは彼が再婚したラテン系のB級映画女優との間に作った子供で、父と同じ名前を持つ弁護士。つまりボッシュとミッキーは異母兄弟に当たるのだ。

犯罪者を捕まえ、刑務所に送る刑事と容疑者の無実を信じるようが信じまいが、無罪を、もしくは刑の軽減を勝ち取ろうと手練手管を尽くす刑事弁護士。お互い水と油の関係である2人が奇しくも血の繋がりのある兄弟という設定にコナリーの着想の冴えを感じさせる。

父親は伝説的名弁護士としてその名を遺しているが、このミッキー・ハラーは貧乏暇なしとばかりに複数の案件を請け負い、法廷から法廷へ走り回る。東奔西走を地で行く走る弁護士だ。そして彼の最大の特徴は上にも書いたが事務所を持たず、高級車リンカーンを事務所にしているところだ。

弁護士が主人公であるリーガル・サスペンスは通常自分が担当する裁判において依頼人の身元や事件を調べていくうちに意外な事実・真実が浮かび上がり、真相が二転三転するのと、圧倒的不利と思われた裁判を巧みな弁護術で無罪を勝ち取る構造であるのに、主人公に多大なる負荷を掛け、ピンチに陥れるのが常のコナリーは弁護士ミッキー・ハラー自身にも刑事ハリー・ボッシュ同様に危難に見舞われる。

悪を撲滅するには法を逸脱した捜査を厭わないボッシュに対し、悪人であろうが無罪を勝ち取る、もしくは少しでも刑を軽減することを信条に法を盾に正義をかざしてきたハラー。悪を食いぶちにしてきたハラーはルーレイの事件で目が覚めるのである。

「無実の人間ほど恐ろしい依頼人はない」

これはハラーの父親が遺した言葉である。弁護士にとって理解しがたい言葉がこの瞬間ハラーに重くのしかかる。彼はジーザス・メネンデスという無実の人間を冤罪で刑務所に送り、人生を台無しにした重しを課せられたことを悟るのだ。

さてもう1つのコナリーの新シリーズの幕開けとなった本書だが、ふと気づいたことがある。それは2つのシリーズに共通して娼婦に焦点が当てられていることだ。
ボッシュが花形のLA市警から警察の下水と呼ばれるハリウッド署へ左遷させられる原因となったのが娼婦殺しのドール・メイカー事件であり、また彼の母親も娼婦であり、4作目で母親が殺害された事件を探ることになるが、このミッキー・ハラーシリーズの幕開けが娼婦殺害未遂事件、そして過去に娼婦殺しの罪で服役した依頼人が冤罪であったことなど、コナリーは娼婦に纏わる事件を多く扱っているのが特徴だ。ノンシリーズにも同様に娼婦を扱った『チェイシング・リリー』という作品もある。

元ジャーナリストであったコナリーがボッシュの人物設定に作家ジェイムズ・エルロイの母親である娼婦が殺害された「ブラック・ダリア事件」を材に採っているのは有名な話だが、それ以後の作品においてこれほど娼婦を事件に絡ませているのは何か別の要素があるのではないか。身体を売ることで生活の糧を得ている彼女たちはしかし、女優を夢見てハリウッドに出て、夢破れた美しき女性も多いはずで、押しなべてコナリー作品に出る娼婦はそんな美貌を持った者たちである。

単に現代アメリカの犯罪、社会問題をテーマにするのに社会の底辺に生きる彼女たちが題材に適しているだけなのか、それとも彼がジャーナリスト時代に娼婦たちを取材することがあり、そこで彼の心に作品を通じて訴える何かが植え付けられたのかは不明だが、裁判を担当する検察官テッド・ミントンの口を通じて、こう語られる。

「売春婦も被害者になりうるんだ」

私はアメリカ社会において売春婦がどのような扱いを受けているのかを知らないが、自分の身を売る、よほど蔑まされた存在としてかなり見下されているようだ。そんな人間でも裁判を受ける権利があり、相手は法の下で裁かれるべきだと謳っているように思える。
今まで一連の作品を加え、今後コナリー作品を読むに当たり、これは新たな視座が得られるポイントなのかもしれない。

息もつかせぬ一進一退の法廷劇のコンゲーム的面白さと、そして犯罪者の疑いのある人々を弁護することの意味と恐ろしさをももたらす、コナリーの新たなエンタテインメントシリーズ。
またも読み逃せないシリーズをコナリーは提供してくれたことを喜ぼう。

No.1 7点 kanamori 2011/05/11 18:31
高級車リンカーンの後部座席を事務所代わりにロサンジェルスを駆け巡る刑事弁護士ミッキー・ハラー登場。

コナリーの新シリーズはハードボイルド警察小説ではなくリーガル・サスペンスで、暴行事件の弁護を請け負ったハラーが邪悪なある人物によって窮地に陥るという巻き込まれ型のサスペンスでもある。
冒頭の引用文「無実の人間ほど恐ろしい依頼人はいない」というのは、同じ弁護士だったハラーの父親の言葉で、これが本書のテーマだろう。物語前半は、ハラーを中心とした人間関係や仕事ぶりに筆を費やしていてやや冗長と感じたが、法廷場面から俄然面白くなった。やはり、コナリーは何を書かしても巧い。

シリーズ第2作は、”異母兄弟”であるハリー・ボッシュ刑事との共演らしい。今年中に読めるのだろうか?これも楽しみだ。


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