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[ 警察小説 ] 死角 オーバールック ハリーボッシュ刑事 |
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マイクル・コナリー | 出版月: 2010年12月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 3件 |
講談社 2010年12月 |
No.3 | 8点 | Tetchy | 2018/12/02 21:55 |
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エコー・パーク事件で再会したFBI捜査官レイチェル・ウォリングが再び関わってくる。前作の事件から6カ月経っており、その時は元心理分析官の技量を買われ、プロファイリング方面での活躍だったが、今回は現在所属している戦術諜報課の一員としてボッシュと医学物理士殺しの事件の捜査を共同で行う。
そしてFBIと共同で捜査する事件はなんとテロ事件。医療に使われている放射性物質セシウムを強奪した犯人を追うノンストップ・サスペンスだ。 しかも犯人は中東訛りを持つ複数の人物とされており、まさにこれは9.11のニューヨークの悲劇をテーマにした作品と云えるだろう。但し舞台はニューヨークではなく、ロスアンジェルス。つまりイスラム系過激派によるテロがロスアンジェルスで行われようとしているという設定だ。 つまりここで描かれているのは9.11後のアメリカの姿だ。滑稽なまでにテロに関して、特に中東アラブ系のアメリカ人に対して過敏になり、真偽不明の噂やタレコミを信じて警察はじめ政府の組織が総動員される。まさに大山鳴動して鼠一匹の感がある。9.11の6年後だからこそ当時混迷していたアメリカの姿を描くことが出来たのかもしれない。 更に驚かされるのが、ロスアンジェルスを襲うであろう未曽有のテロ事件というサスペンスだと思われた本書が実は真っ当な本格ミステリだったことに気付かされるのだ。上記に示した全てがミスリードだったことが判明する。 9.11に関与したアラブ系、イスラム系外国人への失礼なまでの注意深い眼差し、放射性物質や液体爆弾などのテロの材料となりうるものに神経を尖らせていたそれらアメリカの機関の対応と当時のアメリカの世相を嘲笑うかのような真相は繰り返しになるが9.11が起きた2001年から6年経ったからこそ書ける内容なのだろう。そしてまたもや捜査する側が犯人だったというコナリーの痛烈な皮肉。 色々含めて、いやあ、ある意味ブラックすぎるわ。 そんなことを考えると原題の意味するところが非常に深く滲み入ってくる。“The Overlook”は名詞では「高台」を示しており、即ち事件現場となったマルホランド展望台を指すが、動詞では「見晴らす」、「見落とす」、「見て見ぬふりをする」、「監視する」といった正の意味と負の意味を含んだ複雑な意味合いの単語となる。邦題では「見落とす」の意味合いを重視し「死角」としているが、本書はその他どれもが当て嵌まる内容なのだ。 しかし本書でなんとボッシュがレイチェル・ウォリングとタッグを組むのは3回目だ。もはやエレノア・ウィッシュを凌ぐコンビになりつつある。 そして彼ら2人は会うたびにお互い似たような匂いと雰囲気を持っていることに気付かされ、心の奥底では魅かれ合っているのに、あまりに似ているがために一緒になれず、いつも苦い思いを抱いて袂を分かつ。それは自分の中の嫌な部分を相手に見出すからだ。 お互い危険な状況に身を置く職業であり、レイチェルは常に心配をさせられるのが嫌だとかつては云っていたが、本当の理由はレイチェルはボッシュに、ボッシュはレイチェルに見たくない自分を見るからではないだろうか? 敵対する組織にお互い身を置きながら魅かれある男女。つまりコナリーはボッシュシリーズを一種の『ロミオとジュリエット』に見立てているのだ。障害があるからこそ男女の恋は一層燃え立つ。コナリーはそれを現代アメリカの犬猿の仲である警察とFBIを使って描いている。 今までのシリーズの中でも最短である事件発覚後12時間で解決した本書はしかし上に書いたようにミステリとしての旨味、登場人物たちの魅力、テロに過剰反応するアメリカの風潮などがぎっしり凝縮されており、コナリーの作家としての技巧の冴えを十分堪能できる。特にレイチェルはコナリーにとってもお気に入りのようで、ボッシュとの縁は当分切れそうにない。 また訳者あとがきによればコナリーは短編も素晴らしいとのこと。 長編も素晴らしく、短編もまたとなれば、まさに死角なしの作家である。現在までコナリーの短編集は刊行されていない。どこかの出版社―もう講談社しかないのだが―でいつか近いうちにコナリーの短編集が刊行されることを強く望みたい。 |
No.2 | 7点 | あびびび | 2016/01/22 18:01 |
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事件に対して、動機がみすぼらしい様な気がするが、その分、人間心理の浅はかさを感じる。やってしまった!後悔先に立たず的なところが共感を呼ぶ。
ハリーボッシュがますます独善的で、嫌な奴になりつつあるのも、年齢的に仕方がない。この事件を解決していなければ、彼は立ち直ることができなかっだろう。しかし、その紙一重のところが緊張感ありで、面白い。 |
No.1 | 6点 | kanamori | 2011/01/24 17:27 |
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ロス市警のハリー・ボッシュ刑事シリーズ13作目。
エコー・パーク事件後、殺人事件特捜班に配属されての初仕事は、放射性物質強奪が絡む殺人事件。コナリー版「24 Twenty Four」とも言える(実際は半日で解決されるが)捜査過程が分刻みでスピーディに描かれています。 珍しく上下巻でない分量なので、やや物語に深みが感じられない点がありますが、大掛かりなミスディレクションと伏線の妙は相変わらず健在で、充分満足できる内容でした。 |