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[ サスペンス ] ザ・ポエット ジャック・マカヴォイ&レイチェル・ウォリングシリーズ |
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マイクル・コナリー | 出版月: 1997年10月 | 平均: 7.50点 | 書評数: 4件 |
扶桑社 1997年10月 |
扶桑社 1997年10月 |
No.4 | 8点 | そ | 2018/11/02 18:44 |
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ザ・ポエットすなわち詩人のあだ名を持つシリアルキラー。
探偵役(?)を務めるのは警察の双子が殺された新聞記者のジャック・マカヴォイ。コナリー以前もジャーナリストで、キャラクターにとてもリアリティーが感じられる。 ハードボイルドに本格が交わるサスペンスで、楽しめた逆転。 ミステリの楽しみを教えてくれた一冊。 |
No.3 | 9点 | Tetchy | 2017/07/30 14:48 |
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コナリー初のノンシリーズである本書は双子の兄の警察官の自殺の真相を調べる弟の新聞記者が探偵役を務める。従って今までのボッシュの破天荒な捜査とは違った事件のアプローチが描かれ、興味深い。
そしてこれまで刑事、しかもハリウッド警察という地方の一警察署の一介の殺人課刑事の捜査を描いてきたハリー・ボッシュシリーズとは違い、複数の州にまたがった広域的連続殺人犯の捜査をFBIと共に同行する形が採られており、行動範囲、捜査の質ともに今までよりも濃い内容となっている。 ハリー・ボッシュシリーズが足で稼ぎ、またほとんど違法とも思われる強引な捜査で絶えず警察のバッジを回収されそうになる危うい捜査の中から集めた数々の情報と証拠を長年の刑事の勘による閃きによって事件を解決する、一匹狼の刑事の過程を愉しむ物語ならば本書はFBIという最先端の操作技術を持つ組織がプロファイリングや警察機構の更に上を行く情報システム、鑑識技術を駆使してそれこそ全米にまたがって多数の捜査官によって事件を同時並行的に捜査する、質、量ともに警察を凌駕する広域捜査の妙を愉しむ作品が本書である。 主人公ジャック・マカヴォイは社会部の新聞記者で、一般的な新聞記者と違い、じっくりと取材をしたドキュメントめいた記事を書くのを専門としている。扱うのはいつも殺人について。殺された人の周囲とその人が殺された事件を丹念に調べ、記事にする。そして新聞記者をしながらいつか作家としてデビューすることを夢見ている男だ。コナリー自身新聞記者からミステリ作家に転身した経歴の持ち主なだけにこれまでの登場人物にも増して作者自身が最も投影された人物のように思える。 物語の合間に挿入される新聞記者としての心情の数々。大きなスクープを当てて注目され、ピュリッツァー賞を獲り、それを手土産に地方新聞社からLA、ニューヨーク、ワシントンのビッグ・スリーの一つへ移り、名新聞記者へと名を馳せた後、犯罪実録作家としてデビューする。町へ行けばそこで起きた過去の事件を思い出し、その現場にまるで観光名所のように訪れて、その時の事件について思いを馳せ、自分を重ねる。興味があるのはそんな事件現場ばかり。自分の行動範囲で発行される新聞には全て目を通し、自分が記事にするに足りうる殺人事件を毎日探している。自分の記事の載っている新聞は自宅に取っておく。ただいつも自分も事件の最前線にいたいという思いが募っていた。自分も彼らの捜査に加わることで事件をもっと臨場感持って感じたかった。事件の起きた“後”を追うのではなく、事件をリアルタイムで捜査官と共に追いかけ、一員になりたかったと願っていた。 ジャックのこの心の吐露はハリー・ボッシュシリーズでデビューし、好評を以って迎えられた1作『ナイトホークス』を皮切りに立て続けに3作出して作家としての地歩を固めたコナリーがデビュー前の自分を重ねているかのように読めて非常に興味深かった。 そして本書ではボッシュシリーズとのリンクも見られる。小児性愛者ウィリアム・グラッデンについて書いたLAタイムズの記者ケイシャ・ラッセルは前作『ラスト・コヨーテ』でボッシュに協力した若手の女性記者である。前作では披露されなかった彼女の記事が本書では読める。ボッシュシリーズから登場するのがこのケイシャの記事だけということから考えても刑事よりも新聞記者にスポットを当てたかったからだろう。 また連続殺人犯がエドガー・アラン・ポオの詩を現場に残しているところが文学的風味を与えている。特にジャックが過去の殺人課刑事自殺事件のファイルとポオの詩篇を比べるためにポオの全集に読み耽る件は実に興味深い。ポオの詩はジャック自身の過去の忌まわしい記憶を想起させ、心の深淵を抉り、そこに潜んでいる冷たいものを鷲掴みしてポオその人の心の憂鬱と同化していく。その様子はなんとも文学的香味に溢れ、深くその詩の世界、いや死の世界へと沈み込んでいくかのようだ。その詩は人々の記憶に眠る死の恐怖を喚起させるとジャックは述べる。これこそが本書の真犯人の最たる動機だったのではないかと読後の今ならば強く感じる。 E-BANKERさんもおっしゃっているように挿入される犯罪者のエピソードはミスリードであるのは解っているので、では逆に誰が連続殺人犯<詩人>なのかを探るのが読者と作者との知恵比べとなっている。私はある人物にスポットを当て、かなり自信があったのだが、敢え無く撃沈してしまった。 捜査の過程で新聞記者のジャックとレイチェルは親密さを増していくが、その結末は苦いものだった。 人は何かを得ようとすると何かを失う。そして得た物か失った物かいずれかが本当に欲しかったものなのかはその後の人生で答えが出るものだ。コナリーの紡ぐ壮大なボッシュ・サーガの世界でまた今後ジャックとレイチェルの2人がなんらかの形で登場し、その後の2人を知ることが出来ることを期待して、また次の作品を手に取ろう。 |
No.2 | 6点 | E-BANKER | 2016/02/07 22:41 |
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作者といえばやはりハリー・ボッシュシリーズとなるのだが、一作目のノンシリーズ作品として書かれたのが本作。
先にノンシリーズ二作目の「わが心臓の痛み」を読んでしまったので、早速一作目を手にとったというわけなのだが・・・ 1995年発表。 ~デンヴァー市警察殺人課の刑事ショーン・マカヴォイが変死した。自殺とされた兄の死に疑問を抱いた双子の弟で新聞記者であるジャック・マカヴォイは、最近全米各所で同様に殺人課の刑事が変死していることを突き止める。FBIは謎の連続殺人犯を<詩人>(ザ・ポエット)と名付けた。犯人は現場に必ず文豪エドガー・アラン・ポーの詩の一節を書き残していたからだ。FBIに同行を許されたジャックは、捜査官たちとともに正体不明の犯人を追うのだが・・・~ さすがに安定感たっぷりというか、安心して楽しめる水準には仕上がっている。 いつもながら結構な分量だし、事件は派手に目眩くような展開。 そして、終盤以降は逆転につぐ逆転というサスペンスフルな展開が待ち受けている。 この辺りはツボを押さえたプロットだなと思わされるのだが、それを「予定調和」とか「想定内」と感じる向きもあるだろう。 でも相変わらずフーダニットというか、犯人像の作り込みに旨さを感じてしまうよな・・・ 今回は被害者が全員刑事という特殊性、そしてその前に必ず“餌”となる殺人事件を起こしている! そんなのってどんな人間なんだ? って思ってると、いかにも犯人ですといわんばかりの人物が別視点で描かれる。 「こりゃ当然ミスリードだろう」と思うのだが、ではなぜこういうミスリードを仕掛けてくるのか?という疑問が湧く。 こうなると作者と読者の化かし合いだ。 そしてやっぱり最終的には黒幕の出番となるのだ。 いかにもジェットコースターミステリーと思って敬遠する方もいるかもしれないが、大波小波に乗ってとにかく楽しめる作品ではある。 中盤がちょっと冗長なのがいただけないけど、それ以外は特に欠点はない。 でも欠点がないというのが欠点かもしれない。ということでこの評点に。 (必ず登場する美女。そして必ず主人公の男性とメイクラブ・・・でも今回は割とほろ苦!) |
No.1 | 7点 | kanamori | 2010/09/01 17:44 |
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ハリー・ボッシュ刑事が出てこない初のノン・シリーズ作品。
殺人課の刑事ばかりを狙い、現場にエドガー・アラン・ポーの詩の一節を残す連続殺人鬼「詩人」と、犯人を追う新聞記者マカヴォイの追及活動を描いたジェットコースター・サスペンス。 刑事である双子の兄が犠牲者のひとりであるにしても、新聞記者がFBIの捜査陣に加わるというご都合主義的な所もありますが、終盤の二転三転するプロット、どんでん返しは実に読み応えがありました。あざとさはジェフリー・ディーヴァーを髣髴とさせます。 なお、コナリーの単発作品は、後の作品でボッシュシリーズに合流するケースが多く、本作も同様で、一種のサーガを形成しているため、ノン・シリーズを含め全て発表順に読むことをお薦めします。 |