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[ 法廷・リーガル ]
真鍮の評決
リンカーン弁護士シリーズ
マイクル・コナリー 出版月: 2012年01月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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講談社
2012年01月

講談社
2012年01月

No.2 7点 Tetchy 2019/01/27 00:40
ボッシュシリーズと並ぶコナリーのシリーズ物として現在も作品が発表されているリンカーン弁護士ミッキー・ハラーシリーズ第2作。1作目が好評で映画化もされたが、コナリー自身もこの作品をもう1つの彼の作品の主軸にするためか、磐石の態勢で2作目を送り出した。
そう、2作目で早くもボッシュとハラーが共演するのである。しかも『ザ・ポエット』で主人公を務めた新聞記者ジャック・マカヴォイも登場させている。さらに物語半ばでは『バッドラック・ムーン』のキャシー・ブラックらしき女性がかつての依頼人であったことも仄めかされている。これはコナリーがこのミッキー・ハラーをボッシュ・ワールドにさらに積極的に取り込むことで、もう1つのシリーズの軸として成立させようと本書にかなり強い意気込みを掛けていることが解る。

異母兄弟でありながら、刑事と弁護士という水と油の関係の2人。作中でも「コインの裏表のようなもの」とお互いを評しているほど、こんな相反する男たちがどうやって協力し合うのか。さすがは物語後者のコナリー、実に上手い設定を導入する。
ボッシュが捜査をするのはハラーの依頼人の事件ではなく、ハラーに依頼人をもたらすことになった彼の友人の弁護士が殺害された事件の捜査なのだ。つまりハラーは友人の無念を晴らすために犯人を捕まえることを求めているため、2人の向くベクトルは全く同じなのである。なんと絶妙な筆捌きではないか。
しかしそれもやがて崩れてくる。ボッシュの捜査はやがてエリオットの方にも手が伸びてくるのだ。確かにこれは必然といえば必然。殺害された弁護士が衆目を集める裁判を担当していたとなればそこに事件の火種があると思うのは当たり前だ。したがってこの異母兄弟は次第にお互いの仕事と任務を護るために反発しあうことになる。

1作目から登場人物も刷新され、一旦リセットされた感もある。つまり前作はイントロダクションとすれば本書がシリーズの基礎を作り、そして本格的な始まりを示す作品であると云えよう。

やはりこういうリーガル・サスペンスで面白いのは我々一般人では未知の世界である法曹界の常識や戦術などが垣間見られるところだ。人は感情の動物である。いかに論理的に説明しても感情的に割り切れなければどうしてもそちらに引っ張られてしまう。陪審員制度では法律の素人である彼らの心をいかに掴むかが重要になってくる。つまり人間心理を熟知するものこそ法廷を制するのだ。そこには正義よりもむしろ法廷を支配線とする情熱が勝るといっていい。したがってハラー達弁護士、起訴する側の検察は自分の味方につけさせるために彼らはありとあらゆることを仕掛ける。
また今回最も読み応えがあったのは検察側と弁護側がそれぞれ陪審員を選定するシーンだ。延々30ページに亘って描かれるその攻防は人を読む目が試されるプロセスが詳細に書かれている。日本も裁判員制度が採用されたため、本書に書かれていることはまさに他所事ではなくなった。日本でも同様なことが行われているのだろうか?そしてもし私が裁判員に選ばれたとき、私は法廷に立つまでに至るだろうか、など考えさせられた。

しかし終わってみればこれまでのコナリー作品のキャラクターが登場する割にはさほど大きく関わらなかったという印象だ。まずジャック・マカヴォイはほとんど蚊帳の外的な扱いだったし、ボッシュも節目節目で出てくるとはいえ、いつものような押しの強さが少なかったように思う。特に物語の主軸であるエリオットの事件に関わると見せながらも最後までその核心には迫らず、外周を廻ってハラーの動きを見ていた、いわば裏方的な存在だった。これはどこまでシリーズキャラクターの共演を期待するか、読み手側の受け取り方によって本書の感想は大いに変わるだろう。
それで私はと云えば、やはり初の2大シリーズキャラクターの共演と謳うならば、もっとゴリゴリお互いの立場を主張して争ってほしかった。いかなる犯罪者も自分の手を汚してまで裁くことを厭わないほどの極端な正義感の持ち主である警察側のボッシュと、その人自身が犯罪者か否かは問わず、弁護士として成り上がるためにはいかなる手練手管も尽くして依頼人を無罪に持ち込もうとする弁護側のハラーという、自分の道を信じる男同士の熱いぶつかり合いとその中で生まれる友情を見たかったのが本音である。すでにボッシュがハラーを異母弟と認識していたことで彼が敢えて身を引いて、寧ろ擁護者的な立場でハラーを見守っていたのが私にはボッシュらしくなく、また物足りなく感じたのだ。

今後はもっとゴリゴリボッシュとやりあうことを期待しよう。

No.1 7点 kanamori 2012/02/23 23:12
”人はみな嘘をつく。”
”警官は嘘をつく、証人は嘘をつく、依頼人は嘘をつく。陪審員ですら嘘をつく・・・・・・裁判は嘘のコンテストだ。”

リンカーン弁護士シリーズの第2弾は、ミッキー・ハラーとハリー・ボッシュ刑事との初共演という話題作です。
同僚弁護士が殺害されたことによって、ハリウッド映画界の大物の弁護を引き継ぐことになったハラー。上巻は、米国の司法システムを一通りなぞるようなスローテンポな展開だが、ボッシュの策略を見抜くハラーという形で二人が対峙してから面白くなる。
ハラーのいう「魔法の銃弾」(=一発逆転の決定的証拠)は推測できたのだが、そこからは意表をつく展開の連打。この反則気味の構図の反転、怒涛の展開がかなり読ませます。騙しの技巧が全開なうえ、今作はハラーと彼を取り巻く人々の造形もよく書き込まれており、これはリーガル・サスペンスの傑作でしょう。
エピローグに置かれたもうひとつの”サプライズ”は、初期のボッシュ・シリーズできっちりその伏線が敷かれており、思わずニヤリとさせてくれる。


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