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[ 警察小説 ] 訣別 ボッシュ&ハラー |
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マイクル・コナリー | 出版月: 2019年07月 | 平均: 9.00点 | 書評数: 2件 |
講談社 2019年07月 |
講談社 2019年07月 |
No.2 | 10点 | Tetchy | 2021/02/11 23:38 |
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今回ボッシュが追うのは2つの事件。1つは免許再取得によって再開させた私立探偵稼業において、大富豪のホイットニー・ヴァンスから若き頃に別れることになった大学食堂の女性との間に生まれたと思われる子供の正体と行方を捜す依頼。
もう1つは嘱託の刑事として勤務するサンフェルナンド署の未解決事件、<網戸切り>と名付けられた連続レイプ犯を追う事件だ。 コナリーはこの2つの話を実にバランスよく配分して物語を推し進める。これら2つの話はよくあるミステリのように意外な共通点があるわけではなく、平衡状態、つまり全く別の物語として進むが、コナリーは決してそれら2つの話に不均衡さを持たせない。どちらも同じ密度と濃度で語り、読者を牽引する。そう、本書はボッシュの私立探偵小説と警察小説を同時に味わうことができる、非常に贅沢な作りになっているのだ。 さて、まず私立探偵のパートではチャンドラーへのオマージュが最初からプンプン匂う。それもそのはずで本書の原題“The Wrong Side Of Goodbye”そのものがチャンドラーの『長いお別れ』、原題“The Long Goodbye”へのオマージュが明確であり、大金持ちの家への訪問とこれまたフィリップ・マーロウの長編第1作『大いなる眠り』を髣髴とさせる導入部。 その富豪の依頼は親によって別れさせられた、かつて愛した女性が宿した自分の子供探し。この内容だけがチャンドラーには沿っていないが、私立探偵小説としては実に魅力的な内容だ。 そしてこの1950年に別れた女性の足跡を辿る、つまり約70年も前の過去の足取りを、それまで培ってきた未解決事件捜査のノウハウと刑事の直感で切れそうな糸を慎重に手繰り寄せるように一つ一つ辿っていくボッシュの捜査はなかなかにスリリングで、しかも人生の綾をじっくりと味わわせる旨味に満ちている。 一方連続レイプ犯<網戸切り>を追う警察パートもまたこれに勝るとも劣らない。事件の捜査の歩みは遅いが、レイプ未遂の事件が起きるとそこからの展開は警察捜査と犯人の不可解な行動から推測される現場に残された手掛かりを辿るきめ細やかさはボッシュが閃きと優れた洞察力を持った一流の刑事であることを示すに十分な内容だ。 そして同僚のベラの消息が不明になった後の怒濤の展開はまさにコナリーならではの疾走感に満ちている。 人は長い間、何かを抱えて生きている。それはまたボッシュもまた同じだ。 今回探していた人物が自身と同じヴェトナム戦争に従軍し、もしかしたら同じ船に乗っていたかもしれない奇妙な繋がりをボッシュは感じる。そして彼の思いはヴェトナム戦争へと向いていく。 そんな過去を抱えてボッシュはそれでもなお犯行を起こす側でなく、犯罪者を捕まえる側にいる。その理由は彼が最後に述べる。それについては後述しよう。 本書は警察小説に私立探偵小説だけでなく、これにリーガルミステリも加わった、1粒で3度美味しい、非常に豪勢な作品である。 彼が最後に被害に遭った同僚のベラ・ルルデスを鼓舞するように話す、自身の血に刻まれた警官というDNA。やはりこのヒエロニムス・ボッシュことハリー・ボッシュは全身刑事なのだという想いを強くした。 彼は我々とは訣別しなかった。原題“Wrong Side Of Goodbye”。それは物語のエピローグに登場する彫刻家の作品のタイトル『グッドバイの反対側』でもある―しかしこの訳はどうにかならなかったのか。私なら『さようならの裏側』と付けるのだが―。この訳に従えばそれは別れではなく出逢いを意味する。 しかしもう1つ考えられるのは“Born on the wrong side of the blanket”で「非嫡出子として生まれる」という意味がある。その内容は本書を当たられたい。 とにかく色んな意味を含んだ、言葉の匠コナリーらしいタイトルだ。 |
No.1 | 8点 | あびびび | 2020/05/03 12:17 |
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発売されるや否や、ベスト1になるマイクル・コナリーのボッシュシリーズ。ロス警察を追われ、探偵業に戻ったのかと思いきや、ロス近郊のサンフェルナンドという小さな市の無給嘱託刑事として捜査に参加していた。
ある日、85歳の大富豪から探偵業の「人捜し」を依頼され、同時にレイプ事件の捜査も同時進行。老いても事件への追跡は手を緩めないボッシュの魅力満載。同時に異母兄弟の「リンカーン弁護士」ハラーとの共同作業も痛快だ。 |