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[ 法廷・リーガル ]
証言拒否
リンカーン弁護士
マイクル・コナリー 出版月: 2016年02月 平均: 7.67点 書評数: 3件

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講談社
2016年02月

講談社
2016年02月

No.3 6点 ◇・・ 2020/10/25 19:49
法廷ミステリとしてのスリリングさは無類で、上下巻を一気に読ませるが、一番の大ネタと言うべき部分には前例があり気付いてしまった。
とはいえ、犯行手段が暴かれると同時に犯人も判明する...。つまりハウダニットとフーダニットが密接な関係にある構想はお見事。

No.2 10点 Tetchy 2019/05/01 22:59
このシリーズが連続して刊行されたのは本書が初めて。よほどコナリーの中で弁護士を主人公とした取り扱いたいテーマがあったのか、はたまた『ナイン・ドラゴンズ』以降、娘を引き取ることになったボッシュの動かし方を模索している最中なのか、いずれにせよコナリーにとってこのミッキー・ハラーシリーズはもはや作家として新たな地平に立つために必要なシリーズとなったようだ。

それを証明するかのように本書では刑事弁護士であるミッキーが民事も扱うようになる。当時世間を騒がしたサブプライムローン問題で住宅ローンが支払えなくなり、多くの差し押さえが発生したこの事件にミッキーはビジネスチャンスを嗅ぎ取り、差し押さえ訴訟を多数扱うようになる。
これまでと違い、不当な差し押さえ案件を扱うことで不当に虐げられ、不利な立場を強いられている人々を救うことになり、救世主的な存在となっていることがハラーの中で今まで刑事裁判を扱っていた時の疚しさを和らげていることがハラーにとっても救いとなっている。それは娘のヘイリーから母親が犯罪者を刑務所に送る検事であるのに対し、本来は無実の人を冤罪から救うための正義の使途であるはずの弁護士が犯罪者の味方をする職業のように見られていたことからも改善する一助なっていることが多分に大きいのだろう。

このヘイリーの想いはそのまま私の想いにも繋がる。ミッキー・ハラーの物語を読むといつもこう思うのだ。一体正義とは何なのだろうか、と。

今回ハラーの“事務所”は1人の新人を雇っている。ブロックスことジェニファー・アーロンスン。
アメリカの裁判にまだ浸っていないアーロンスンは恐らく全ての弁護士がかつてそうであった、正義を重んじ、あらぬ罪を掛けられた依頼人を護る正義の使途としての純粋さを持ったルーキーで、事あるごとにハラーのやり方に疑問を挟む。
なぜ依頼人の話を聞かないのか?単に目くらましだけで他の容疑者を召喚するのか?なぜ証人を誤魔化すためにありもしなかったことを訊くのか?実際に起こってないかもしれないのに陪審員の注意をそらせるために偶然かもしれないことを利用するのか?
ハラーと調査員のシスコがその都度アーロンスンを諭す。我々は弁護の手段を模索し、依頼人に最良の弁護を施す方策を、戦略を作るのだ、と。
このアーロンスンとハラーのやり取りはそのまま今のアメリカの裁判が抱えている、いや世界の裁判が抱えている正義を成すことに対する矛盾を見事に示唆している。我々一般人が常に弁護士や検察官たちが下す判定に違和感を覚えることをこの新人とベテランのやり取りを通じて教えてくれる。アーロンスンがまだ感情というものに寄りかかっている我々に近い立場の人間であり、ハラーたちは徹底して論理を追及する法律を扱う側の人間である。ここにかなり大きな溝があることを知らしめされるのだ。

そしてそれは訴追する検事側も同様だ。やり手の女性検事アンドレア・フリーマンは次から次へと奇手を繰り出してハラーを翻弄する。物的証拠を二度に亘って裁判の大事な局面の直前に提出し、ハラーに検証する余地を与えようとしない。フェアであるべき裁判はいかに相手を出し抜くかのゲームに終始するのだ。アングラな場所で行われる違法な高額で行われるポーカーゲームと大差がないほどに。

こういった裁判の実情を思い知らされるとボッシュが正しいことが為されるべきとして自ら制裁を加えたくなる衝動に駆られるのも無理もない、むしろそちらの方が正しいのではないかと思わされてしまう。

今回驚いたのがハラーがハリウッド・エージェントと契約していることだった。これまでコナリーは作中で自作の映画化について登場人物に語らせており、本書の中でも第1作の『リンカーン弁護士』が映画化されていることが触れられているが、話題性のある裁判が映画化され、ヒットする可能性を秘めていることからハラーは単にその裁判の弁護を務めるだけでなく、映画化の際に映画会社にその権利を売ることができ、しかも本を書いて売ることも出来るようになっている(ところでコナリーは映画でミッキー・ハラー役を務めたマシュー・マコノヒーがよほど気に入ったようで本書のみならず何度も引き合いに出しているのが面白い)。
リサ・トランメルの裁判の映画化権を巡るハリウッド・ゴロと呼ばれるハーバート・ダールとの丁々発止のやり取りもこの裁判に掛かる副次的な戦いとして描かれており、もはや弁護士は単に裁判の弁護や法律相談役といった法的関係の仕事のみでなく、メディア関係にも手を伸ばして多角経営をしないと生き残れないのかと感じ入った。
裁判はもはやショーであり、法廷の中にドラマがあるのだ。

あとやはり触れておかねばならないのはSNSが犯罪に利用されやすいということだ。
まさに現代のIT社会が招く恐ろしさを本書では扱っている。私がこのFacebookのみならずLINEやインスタグラムをしないのは、そのネタのために話題作りをしたり、まめにアップするのが煩わしいからもあるが、自分の行動を他者に伝えることで自ら禍を招くことを恐れてのことでもある。今回の事件はまさに私の懸案が扱われたものとして興味深く思った。

そしてこのリンカーン弁護士シリーズの結末はいつも苦い。
ボッシュシリーズが彼が悪と信じる人間をとことん追求し、そして捕えるまでを描くため、そこでいかなる形にせよ終止符が打たれるのに対し、このシリーズはそこから売容疑者が捕まり、それが果たして本当の犯人なのかを証明する物語であるが、もはや法廷が無実を証明する場所でなく、無罪か有罪かを勝ち取るゲームになっているからだ。裁判とは証拠に基づいて裁かれることで、一抹の割り切れなさを残して終わるものとなり、それが決して万人を満足させるものになっていないのだ。

そこに正義はない。あるのは有罪であると証明できるか否かしかない。たとえ被告人が犯罪者であろうがなかろうが。
正しいことが出来なくなってきているこの複雑になり過ぎた社会の苦さを痛感させられる物語だった。

No.1 7点 kanamori 2016/03/30 19:00
ローン未払いにより住宅を差し押えられたシングルマザーが、大手銀行の担当重役を殺害した容疑で逮捕された。目撃証言や凶器のカナヅチ、被害者の血痕などの決定的な証拠と裁判妨害。辣腕弁護士ミッキー・ハラーは、またも勝算皆無の法廷に立つが-------

リンカーン弁護士シリーズの4作目は、上下巻850ページを超えるヴォリュームで読み応えがありました。
シリーズのこれまでの作品は、どちらかというと変化球のリーガルものという印象があったのだけど、今作は法廷劇が中心となっていて、現代アメリカの司法システムをリアルに踏まえた直球のリーガルサスペンスになっています。とくに下巻に入ってからのハラーと強敵検察官との怒涛のせめぎ合いは圧巻のひとことで、長さを感じさせないリーダビリティの高さは、さすがのコナリー印です。
これまでリンカーン車を事務所代わりにした”一匹狼”風の弁護士ミッキー・ハラーでしたが、今作ではオフィスを構えることになり、おそらく今後レギュラーとなるスタッフが加わったことで、愉しみも増えました。ロースクールを出たばかりの新人ジェニファーや、前科もちの運転手ロハス、危なそうな組織と繋がる調査員シスコと、個性的なメンバーが揃う。さらには元妻マギーと娘ヘイリーとの関係進展や、ラスト近くのハラーの爆弾宣言もあって、変貌必至の今後の展開が楽しみだ。


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