[ 警察小説 ] エコー・パーク ハリーボッシュ刑事 |
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マイクル・コナリー | 出版月: 2010年04月 | 平均: 7.75点 | 書評数: 4件 |
![]() 講談社 2010年04月 |
![]() 講談社 2010年04月 |
No.4 | 7点 | E-BANKER | 2022/05/07 18:24 |
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「終結者たち」に続くハリー・ボッシュシリーズの第12作目(当ってますか?)の本作。
前作でロス市警に復帰し、未解決事件班で相棒のキズミン・ライダーとともに捜査に没頭するボッシュのもとに、またもや彼を揺さぶる「過去の事件」が迫る! 2006年の発表。 ~ロサンジェルスのエコー・パーク地区で女性ふたりのバラバラ死体を車に乗せていた男が逮捕された。容疑者は司法取引を申し出て、死刑免除を条件に過去九件の殺人も自供するという。男の口から語られるおぞましき犯罪。その中には未解決事件班のボッシュが長年追い続ける若い女性の失踪事件も含まれていた!~ 個人的にいうと本シリーズに初めて接してからかれこれ10年以上たつけど、色あせない感が半端ない。 本作を読了して改めてそう感じた。それだけ、ハリー・ボッシュという主人公は魅力的に描かれているんだろう。 本作の舞台はタイトルのとおり、LAの中心部にあるエコーパーク。 ネットで調べてみると、LAの市民に長年愛されている「憩いの場」らしい。 そんなのどかな公園を舞台に、ボッシュはまたもや自身の進退を賭けた事件に挑むことになる。 本シリーズでは“あるある”なのだが、市警やFBIといった、いわば「身内」の中に真の黒幕が存在するケース。 (あんまり言うとネタバレだが)今回もそのケースが当てはまってしまう。 ということは、やはりボッシュは「罠」に嵌ってしまい、警察官としての立場を追われかねないピンチに陥る。 しかし、この辺のプロットはある意味単純なんだけど、コナリーの見せ方のうまさというか、熟練した盛り上げ方というか、うまい誉め言葉が思いつかないけど、結局読者はハラハラさせられた後に、痛快な感情を抱けるようにつくられている。 今回もそう。ただ、今回はこの「黒幕」がちょっと小物すぎたのがやや不満・・・。ラストのプールの場面、ちょっと可哀そうな気さえした。 そして、本作ではボッシュを取り巻く2人の女性。キズミン・ライダーとレイチェル・ウオリングとの関係にも重大な変化が訪れる。(前者は引き続きボッシュの味方となるが、後者は今後どうなるのか?) いずれにしろ、ここまで熟成されたシリーズなのに、ますます今後の展開が気になるというすごさ。 やはり、本場のエンタメは一歩も二歩も先を行っているということなのかな。 (ここまで身内に裏切られるなんて、一体どんな組織なんだ?って思わないのかな・・・) |
No.3 | 9点 | Tetchy | 2018/10/21 22:24 |
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本書では『天使と罪の街』でボッシュとコンビを組んだFBI捜査官のレイチェル・ウォリングが登場し、ボッシュの捜査をサポートする。
さてそのボッシュとレイチェルが対峙するのは絶対的な悪である。レイナード・ウェイツは良心の呵責など一切感じない、人を殺すことが自分をより高みに上げると信じる、正真正銘の悪人だ。しかも深夜にたまたま職質されるまで、それまで行ってきた9人もの女性の殺人が発覚しなかった慎重かつ狡猾なシリアルキラーだ。 このレイナード・ウェイツは本書の前に書かれた『リンカーン弁護士』に登場するルイス・ロス・ルーレイに通ずるものがある。 そして捜査を進めるうちにボッシュはその絶対的悪人こそがもう1人の自分であったことに気付かされるのだ。 このレイナード・ウェイツの生い立ちはそのままボッシュの生い立ちと重なる。いやほとんど同じと云っていい。ただ幸いにしてボッシュは里親に恵まれたのだ。だからこそ闇を抱えながらも刑事になったが、一方で悪に対しては処刑も辞さないほどの徹底した憎悪を持つことになった。 ボッシュはロバートをもう1人の自分であると悟る。YES/NOの分岐点で分かれることになったもう1つの人生こそがウェイツだったのだと。 闇の深淵を覗き込む者はいつしか向こうから自分が覗かれていることに気付く。これはこのシリーズで一貫したテーマだが、まさに今ボッシュは自分の人生で抱えた闇を覗き込んで向こうから自分を見る存在と出逢ったのだ。 ハリー・ボッシュという男を彼が担当する事件を通じて彼が決して逃れない闇を背負い込んでいる、業を担った存在として描くのは12作目にしても変わらぬ、寧ろまだこのような手札を用意していることに驚きを禁じ得ない。コナリーのハリー・ボッシュシリーズに包含するテーマは終始一貫してぶれなく、それがまたシリーズをより深いものにしている。 さて今回の題名『エコー・パーク』はロサンゼルスに実在する街の名だ。このエコー・パークはかつて貧困地区であり、再開発によって中公所得者層が住まう、カフェや古着屋や食料雑貨店や魚介料理屋がひしめく、おしゃれな街へと変貌していった場所で、かつての主であった労働者階級とギャングたちが追いやられた街だ。 なぜこの街の名を本書のタイトルに冠したのか、私はずっと考えていた。確かにその場所は長らくシリアル・キラーとして女性を殺害していたサイコパスの連続強姦魔レイナード・ウェイツが初めて警察に捕まるミスを犯した場所である。 狡猾な連続殺人犯が偶然ながら捕まった場所であること、孤児の時に最も長く住んだところ、そして彼が殺害した女性を埋め、また装飾したトンネル、つまり彼の王国があったところ。エコー・パークこそウェイツことロバート・フォックスワースが辿り着いた園(パーク)だったのだ。 そして一方で単なる地名でありながら、本シリーズ第1作で作家コナリーのデビュー作である『ナイトホークス』の原題 “Black Echo”と同様に“Echo”という単語を使用した題名でもある。 “Black Echo”とは即ちボッシュがヴェトナム戦争時代にトンネル兵士だった頃に経験した地下に張り巡るトンネルの暗闇の中で反響する自分たちの息遣いのことを指す。 そしてボッシュは逃亡したウェイツと対峙するために彼が拵えた死体を隠し、埋め、また装飾した隠れ家兼王国であるトンネルに入る。ヴェトナム戦争でヴェトコンと対峙したのと同じように今度は連続殺人犯と対峙し、そこに捕らわれているまだ息のある女性を取り戻すために。 この類似性は敢えて意図的にしたものか。私は本作でFBI捜査官レイチェルがサポートして捜査するボッシュの構造と同じくFBI捜査官だったエレノア・ウィッシュと共同で捜査する第1作がダブって見えて仕方がなかった。やはり同じ“Echo”という名を冠したことにコナリーは意図的であった、そう私は思いたい。 コナリーの作品を読むと人と人の間には絶対はないと思わされる。特にボッシュの場合、その執念とまで云える悪に対する憎悪が周囲の人を慄かせるから、彼が真剣に取り組めば取り組むほど人が離れていってしまうという皮肉を生み出している。 そしてボッシュのパートナー、キズミン・ライダーもまた彼の許を去る。 背中を預けられる相棒を、彼の逸脱する行動を戒めてくれた、元部下で相棒のキズミン・ライダーが去るのはボッシュとしてはかなり痛手だろう。 シリーズはまだ続く。この徹底的に癖のある刑事の相手を次回から誰が勤めるのか。毎回思うが、次作への興味が本当に尽きないシリーズだ。 |
No.2 | 8点 | あびびび | 2015/08/12 16:46 |
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刑事ハリー・ボッシュは、あのダーティー・ハリーとかぶってしまうほどの大胆さ。謹慎中でも勝手に捜査をするところも同じである。
どうしても解決できない失踪事件があり、目星をつけた男を13年間も追い続けてきたが、尻尾を出さない。そんな時にある殺人鬼が偶然に逮捕される。そしてその殺人鬼が、ボッシュが追いかけてきた失踪…殺人事件を告白するのだが…。 俳優のトミーリージョーンズがこの作品の権利を買ったそうだが、なぜか映画化されていない。久しぶりに読み応えのある作品で、単行本上下を一日で読んでしまったが、映像では見栄えのする謎ではなかったのかも知れない。 |
No.1 | 7点 | kanamori | 2010/10/20 17:47 |
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ハリー・ボッシュ刑事シリーズ最新作の第12弾。
前作「終決者たち」でロス市警に復帰、今回も未解決事件班として過去の事件に対峙します。 前半は、逮捕された連続殺人犯の自供の真偽が焦点となる、比較的おとなしめのプロットが終盤は怒涛の展開に。検察による証拠の改竄という日本の読者にとってタイムリー過ぎるミスディレクションが図らずも効いています。 本格パズラー並みの伏線の張り方は、年々巧くなり文句はないのですが、初期の”ハード・ボッシュ”が懐かしい気も。しかし、ベトナム従軍が40年前という記述で愕然、ボッシュも60歳近い年齢になったということか。 |
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