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[ サスペンス ] チェイシング・リリー |
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マイクル・コナリー | 出版月: 2003年09月 | 平均: 7.00点 | 書評数: 1件 |
早川書房 2003年09月 |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2018/05/12 00:05 |
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まず驚くのがコナリー作品とは思えぬほど、全体的に輕みがあることだ。それは本書の主人公ヘンリー・ピアスはこれまでのコナリー作品では考えられないほど、浅薄で未成熟な人物として映ることに起因していると思われる。
技術オタクの若造が社会不適合者ぶりを発揮して自己中心的に振る舞い、周囲の目に気付かずに狼狽する様子がアクセントとして織り込まれ、ユーモアを醸し出しているため、私はてっきり彼が追っているリリーも元締めによってどこかで消されたと思わせつつ、物語の最終で元気な姿で登場し、そしてこのサエナイ君と最後は恋人となる予感をはらませてハッピーエンドを迎えると云うお気楽ミステリのように考えていたが、やはりコナリー、そんな非現実的なロマンティック・コメディを一蹴する。 さてコナリー作品にはハリー・ボッシュシリーズを軸にしたいわゆるボッシュ・サーガが繰り広げられるが、ノンシリーズである本書も例外でなく、まずリリー殺害の容疑を掛けられた主人公のヘンリー・ピアスが紹介される弁護士はジャニス・ラングワイザーである。彼女は『エンジェル・フライト』でボッシュと組んだ後、『夜より深き闇』でボッシュが手掛けた事件の次席検事補として登場し、華々しい活躍を見せ、読者に強い印象を残した人物。その後彼女は検事を辞め、刑事弁護士に転職したことが判明。 しかしシリーズのリンクはそれだけでなく、もっと驚くのピアスがなんとドールメイカー事件と関わりがあったことが判明することだ。彼の姉イザベル・ピアスはドールメイカー事件の被害者だったのだ。 ボッシュシリーズ第1作目から尾を引き、そして第3作目の『ブラック・ハート』でケリが着いた事件だったが、実は被害者の関係者ではまだ事件が終っていないことを本書では示唆している。ピアスの中では姉の死はいまだに尾を引き、父親に頼まれて失踪した姉が無残な姿で見つかったことが、今回のリリー失踪に対してもただ同じ電話番号を持っているというだけの繋がりで放っておけなくなり、そして彼女の無事な姿を確認するまで捜索を続ける動機付けとなっている。 このことから本書は実はボッシュが関わる事件の被害者家族の1人にスポットを当てた作品であり、その他大勢として片付けられる人物にも一つの人生があり、そしてその人の死によって人生を変えられた人がいることを1つの作品として描く。やはりこれは9・11の同時多発テロで多くの尊い命が奪われたことに対する、コナリーなりの追悼の書と云えるだろう。大量死の中に埋もれた人々に名を与え、そしてその人の人生と遺族の人生を語ることを強く意識していると思われる。 そして一連の事件の真相が明かされると私はある古典名作を想起した。 チャンドラーを敬愛し、その影響を包み隠さず自作に反映し、そしてロス・マクドナルドばりのアクロバティックなサプライズを物語に取り込む、まさに現代ハードボイルド小説の雄コナリーが本書で挑んだのはある名作の変奏曲。 意外にもこれについては色んな人の感想を読んだが言及されてなく、不思議に思った。このことに気付いたのがもし私だけならば一度コナリーにその真偽について聞いてみたいものだ。 本書を最後にノンシリーズは書かれていない。いわばボッシュシリーズを幕を下ろそうとして新たな作風を模索していた頃の作品だ。この後リンカーン弁護士シリーズという新たな地平を見出し、ボッシュシリーズと並行して書いていく。本書はコナリーがそこに至るまで暗中模索、試行錯誤しながら著した非常に珍しい作品だ。現代ハードボイルド小説の第一人者として名高いコナリーもそんな時期があったことを示す貴重な作品としてファンなら読むべきであろう。 |