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[ 警察小説 ] 鬼火 ハリー・ボッシュ&レネイ・バラードシリーズ |
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マイクル・コナリー | 出版月: 2021年07月 | 平均: 9.00点 | 書評数: 1件 |
講談社 2021年07月 |
講談社 2021年07月 |
No.1 | 9点 | Tetchy | 2024/11/01 00:41 |
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ボッシュシリーズというよりももはやボッシュ&バラードシリーズとなったシリーズ2作目ではミッキー・ハラーも絡んで、正しく書くならばボッシュ、ハラー&バラードシリーズ1作目となるか。まあそんな細かい話はこれくらいにして、感想に移ろう。
まず今回のボッシュの立場は刑事ではない。 前作『素晴らしき世界』で彼が予備警察官として雇われていたサンフェルナンド市警の同僚の自殺未遂を引き起こした廉で自宅待機状態である。従って一応予備警察官の職ではあるが、本質的には無職の男である。 そんな立場でもボッシュは今回複数の事件に関わる。 さて前作『素晴らしき世界』で出遭い、コンビを組むようになったレネイ・バラードとハリー・ボッシュだが、まだお互いのことはそれほど知らず、今回初めてバラードはボッシュがミッキー・ハラーの調査員を務めていることを知って嫌悪感を示す。 そう、ミッキー・ハラーは今まで自分たちが捕まえてきた犯罪者を無罪にする、もしくは裁判自体を無効にする警察官にとって唾棄すべき敵だとみなされており、レネイ・バラードもまた例外でないことが判明するのだ。 ボッシュはハラーのことを弁護するが、彼女に彼が異母弟であることを明かさないところにまだ自分の中でもハラーの手伝いをすることが仲間である警察官を裏切っている思いが拭えないことが判る。 従って今回ハラーの弁護を成功させたときに彼は面前で罵られ、裏切り者の誹りを受け、胸を痛める。しかし彼は今度は元刑事として自由の身である真犯人を探すことに注力する。 しかしその正しいことをしようとしても、ハラーの片棒を担ぎ、裁判を無効にしたハリーをロス市警の連中を許すわけがなく、電話をしても激しく突き放される。ロス市警時代に数々の功績を挙げたボッシュでさえ、尊敬を得られず、過去の人物として非難される姿は読んでて胸を痛める。 ではレネイ・バラードはどうか? 彼女はボッシュとは対照的である。 前作でもそうだったが、今回事件のクライマックスで女殺し屋のカタリナ・カバと対決した際に瀕死の重傷を負うが、なんと彼女のために30人以上の警官が献血のために訪れたことが明かされる。 そう、彼女には味方となる同僚がたくさんいるのだ。ただ彼女も今回ボッシュの未解決事件の捜査のための盗聴許可を得るために判事を騙して許可を得たり、ほとんど一般市民と変わらないボッシュを停職中の予備警察官なのだから刑事と名乗って構わないと捜査に介入させたりとボッシュに感化されたのか道を踏み外す傾向が見られた。 信用を失わない程度にしてほしいとヒヤヒヤさせられる。 しかしやはりボッシュの前からは人は去りゆき、バラードの周りには人が集まるのだ。 この対照的な光と影の、陰と陽の2人の刑事の対比がまた読みどころの一つなのだが、せめてバラードだけはボッシュの許を去らないでいてほしいものだ。 そのボッシュも齢70近くになったことが判明するが、作者はそれでもこの男に新たな危難を設ける。なんとボッシュは白血病に罹ったことが発覚するのだ。それは彼が過去に関わった殺人事件で大量のセシウムが奪われた案件で彼がそれを回収したときに被曝したことに由来すると考えられていた。 そう、その事件こそは『死角 オーバールック』で彼が扱った事件だった。2007年の時に刊行された作品の事件がこの2019年に著された作品に影響を及ぼす。 これなのだ。これがシリーズを、いやマイクル・コナリー作品を読む所以なのだ。 それはシリーズを永らく読んできた読者だけが得られる単なる特権意識なんかではない。 それはこのシリーズを共に歩んできたからこそ得られる愉悦なのだ。 そう、我々がボッシュの歩んできた半生を共に体験していることを実感させられるこの瞬間こそが読者としての報いであり、そして何事にも代えがたい黄金なのだ。 巻末の作品リストを見ればまだまだボッシュの物語は続くようだ。刑事でなくなったボッシュは悪をのさばらせさせないというその強い思いで犯罪者の摘発にまだまだ食らいついていくようだ。 「だれもが価値がある。さもなければだれも価値がない」を信条に抱いて。 ボッシュの人生はまだ続く。そして私がその人生を追うのもまだまだ続く。 ボッシュが生きている限り、いやコナリーが物語を紡ぐ限り、私はずっと追いかけていこう。 それだけの価値があるのだ、このコナリーという作家の描く物語は。 |