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[ ハードボイルド ]
ナイン・ドラゴンズ
ハリーボッシュ刑事
マイクル・コナリー 出版月: 2014年03月 平均: 6.33点 書評数: 3件

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講談社
2014年03月

講談社
2014年03月

No.3 8点 Tetchy 2019/02/25 22:34
アメリカの警察小説のシリーズ物ではアクセント的にアジアのマフィアもしくは悪党と主人公が対峙するという話が盛り込まれるようだ。ディーヴァーの『石の猿』然り。
アメリカ人にとって独特の文化でどこの国でも根を下ろして生活するアジア圏の人々、殊更中国人というのは実にミステリアスな存在であり、また中国マフィアが世界的にも大きな犯罪組織であることから、西洋文化と東洋文化の衝突と交流というミスマッチの妙は題材としては魅力的に映るのではないか。
ボッシュシリーズ14作目の本書はボッシュもアジア系ギャング対策班、AGUの中国系アメリカ人捜査官デイヴィッド・チューと組んで中国系マフィア三合会を相手にする。

しかしコナリーが凄いのは単に事件を介して中国系アメリカ人や在米中国人たちの文化や生活、思想に触れることでの戸惑いを描くことで作品に興趣をもたらしているだけでなく、中国系マフィアとの戦いに主人公ボッシュが必然的に深く関わるように周到に準備がなされていたことだ。
ボッシュの前妻エレノアが娘マデリンを連れて香港でプロのギャンブラーとしての生活をするのが11作目の『終決者たち』で説明がなされている。それ以降、作中では香港にいる娘との連絡を時折していることが触れられており、途中2作を経てLAに住むボッシュが在米中国人に起きた事件を捜査することで中国文化圏で生活する彼女たちに危難が訪れる本書を案出するのだから、全く以てコナリーの構想力には畏れ入る。

娘煩悩なボッシュに訪れるのが担当した事件の容疑者、三合会というマフィアの構成員を逮捕したことによる代償としての娘の誘拐。しかも自分の手の届かない香港という異文化都市。これは子を持つ親ならばこれ以上ない恐怖であることが解るだろう。不屈の男ボッシュもまたその例外ではない。

人は護るものが出来ると強くなる。しかし同時に護るものが出来ることで弱くもなる。
護るものが出来るとその人にとって支えが出来る。どんな苦難に陥っても護るものがあることでそれを乗り越える原動力となるのだ。自分を必要としている人がいることで心に一本の芯のようなものが出来る。
一方で護るものはそのまま弱点ともなりうる。自分の支えとなっているものを失うことで人は弱くなる。、自分を必要としている人は即ち自分が必要としている人だったことに気付かされ、それを失うことが恐怖に変わる。
ボッシュは自分の娘マデリンを授かった時に自分が救われたと同時に負けたことを知ったと云い放つ。自分が悪に対して異常な執着心を持って立ち向かうためには弱みのない人間でないといけないと思っていたが、娘が出来たことでそれが一転する。
娘は彼にとってかけがえのないとなった瞬間、弱点になったことを。刑事という職業に就く人間はおしなべてこのような想いを抱いているのだろう。

娘を誘拐されたボッシュの焦燥感は子を持つ親ならば誰もが理解できる気持ちだ。特にボッシュが娘を持つようになったのは作者コナリー自身が娘を持ったことで得た気持ちをそのまま反映しているからだ。従って本書でボッシュが抱く、云いようのない恐怖感はそのまま作者が同様の状態に陥った時に抱くであろう心持と同義なのだ。

従って本書はこのマデリン誘拐をきっかけに静から動へと転ずる。愛娘を誘拐されたボッシュの焦燥感と三合会への怒りをそのまま物語のエネルギーに転じ、コナリーはボッシュを疾らす。ボッシュ自身常に動いていないとダメだと常に口に出す。それは誘拐事件が発生からの時間が長引けば長引くほど解決する確率がどんどん低くなるからだが、やはりここはボッシュが娘の安否に対して気が狂わんばかりに焦っているからだ。

常に業の中で生きる主人公に対し、作者はその娘さえ業を背負わせる。この後続くボッシュはこの娘を抱えた日常と過酷な事件の捜査をどのように両立させるのかが焦点となろう。

しかしこのシリーズは今まで色んな新展開を見せながらも結局はボッシュが一匹狼に戻ることを選択してきた。恐らく作者自身、ボッシュという人物は常に業を抱えて生きている男として設定しているので、幸せな家庭や娘との温かな交流が向かないと思っているのだろうし、また書きにくいのだろう。
それがゆえに娘までに業を背負わせたのかと思うとやりきれない。今はお互いが犯した過ちに対して瑕を舐め合う、新米の父子だが、いずれこの業はこの父子に重荷となってのしかかってくるに違いない。

コナリーがこの父子に課した業の深さを思うと、今後の2人、特に娘のマデリンの行く末が気になって仕方ない。娘を持つ親として。

No.2 5点 あびびび 2016/05/17 23:45
ロサンゼルスののチャイナタウンで酒を売っていた店主の老人が射殺された。ちょうど手が空いていたハリーボッシュが相棒と捜査するのだが、中国マフィアから「手を引け」と脅され、香港にいる娘が誘拐される。

すぐにボッシュは香港に飛び、現地の元妻と、その恋人とともに捜索するのだが、ボッシュは妥協せず、真一文字に突き進む。その結果、元妻は死んでしまうのだが、娘はなんとか取り戻した、しかし…。


その真相は、あまりにも悲惨なもので、すごく後味が悪い。そのやり切れなさが、逆に印象に残ってしまった。

No.1 6点 kanamori 2014/04/26 20:36
ロス市警のハリー・ボッシュは、酒店を経営する中国人が銃殺された事件を捜査するうちに、背後に中国系犯罪組織が存在することを突きとめる。しかし、重要容疑者の拘束と時を同じくして、香港に住むボッシュの娘が監禁された映像が手元に届く-------。

”ロサンジェルス市警の新宿鮫”(という呼び名は変かなw)こと、ハリー・ボッシュ刑事シリーズの最新作。最近は番外編やリンカーン弁護士シリーズの脇役での登場が続いたので、久々の正統シリーズな感じがする。
上巻はやや淡々とした捜査小説として進むが、前妻エレノアと愛娘マデリンが住む香港へ飛んでからは冒険活劇小説の様相を呈する。これほどハードなアクション・シーンが前面に出るのはシリーズでは珍しく、また捜査のプロの使命感ではなく、父親としての想いや脆弱性が滲み出たボッシュの行動の数々は、シリーズの異色作といえるでしょう。
当初「タイミングが都合よすぎないか」と違和感があった点も真相が分かれば納得がいく。いわば今回のボッシュは、犯人ともう一人の人物とで、二重に操られていたというわけか。


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