海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 本格/新本格 ]
完全無欠の名探偵
西澤保彦 出版月: 1995年06月 平均: 6.50点 書評数: 16件

書評を見る | 採点するジャンル投票


講談社
1995年06月

講談社
1998年05月

No.16 8点 Tetchy 2021/10/08 23:24
バラバラ殺人事件ばかりを扱った連作短編集『解体諸因』でデビューした西澤保彦氏はその後特殊な設定の下でのミステリを多く輩出していく。それらは読者の好みを大きく二分し、賛否両論を生むようになるが、作者2作目にしてまさにその特殊設定ミステリ第1弾であるのが本書である。

本書の主人公は山吹みはる。SKGという会社の警備員をしている凡庸とした青年で特徴としては2mに届かんとする巨漢の持ち主。しかし身体は大きいが性格は至って温厚、というかちょっと鈍く、どんな女性も奇麗に見え、また敢えて喋ってはならないことも思わずポロっと喋ってしまう、社会人慣れしていない男である。
しかし彼にはある特殊能力があるのだ。それは話している相手の潜在意識を言語化させることができるのだ。
つまり簡単に云うと山吹みはると話している相手はいつしか自分の記憶の奥底に眠っていた、当時気になってはいたが、そのまま忘却の彼方へと消えてしまったとある出来事を想起させ、案に反してみはるに喋ってしまうことになるのだ。
それは彼と喋ると突然不思議な浮遊感に襲われ、たちまち立て板に水の如く、話してしまう。そして当の山吹みはる当人は相手に異変が起きていることに気付かず、単に話を聞いているだけなのだ。
さらに話し手の方はみはるに話すことで当時の違和感を思い出し、推理を巡らし、相手の隠されていた真意、もしくは当時は気付かなかった事の真相に思い至るのだ。つまり山吹みはるが相手の話を聞いて事件を解決するわけではなく、あくまで真相に辿り着くのは話し手自身なのだ。つまり山吹みはるは話し手が抱いていながらも忘れていた不可解な出来事を再考させ、新たな結論へと導く触媒に過ぎないのだ。
彼は白鹿毛源衛門率いる白鹿毛グループによって一昨年発見され、秩父の総合科学研究所で預かってもらっていた、いわば異能力者なのである。
例えば私の場合、いつもは話そうと思わなかったことを思わず話してしまうことになるのはお酒を飲んでいるときである。思わず酒杯が重なるとついつい口が、いや頭の中の引き出しに掛けていた鍵が開けられ、話し出してしまうことがよくあるが、山吹みはるはそんなお酒のような存在なのだ。

物語の本筋は白鹿毛源衛門の孫娘が高知大学を卒業してもなお高知に留まり、就職した理由を山吹みはるが探ることで、一応長編小説の体裁を取っているが、山吹みはるが遭遇する登場人物たちの抱える過去の不自然な、不可解な出来事が短編ミステリの様相を呈しており、それらが実に面白い。
そしてこれらのエピソードは次第に蜘蛛の巣に囚われた餌食のように関係性を帯びてくる。
これら濃密な人間関係の曼陀羅が成立するのは小説という作り話だからと云えばそれまでだが、やはりそれにしても偶然過ぎるという批判は無きにしも非ずだろう。そういう批判を回避するために人口の少ない高知を選び、それぞれの登場人物が何らかのつながりをたせるために仕組んだように思った。
が、しかしこの濃密な人間関係の曼陀羅もまた作者の仕組んだ仕掛けであることが判明する。

しかし何ともドロドロした人間関係、憎悪の連鎖であったことか。紫苑瑞枝の糸をりんがとくとくと紫苑瑞枝に開陳する傍らで聞いていた山吹みはるの言葉が痛烈に突き刺さる。人の傲慢さや不遜な一面ももしかしたらその人の唯一の生きる拠り所かもしれない。それをいつかは自覚して直すこともあるのではないか。それら全てを嫌悪して排斥していたら、一体誰がこの世で救われるのかと。
清濁併せもってこそ人間だと説くみはるは世間知らずと思わされたが実は彼は全てを受け止める寛容な人間だったことが判るのである。

本書は日本の本格ミステリの歴史の中でもさほど評価の高い作品ではなく、ましてや数多ある西澤作品の中でも埋没した作品である。しかし個人的には面白く読めた。
それは私がこのような複数の一見無関係と思われたエピソードが最後に一つに繋がっていく趣向のミステリが好きなことも理由の1つだ。
そう、私がこの作品を高く評価するのはデビューして2作目である西澤氏の野心的で意欲的なまでのミステリ熱の高さにあるのだ。それは明日のミステリを書こうとするミステリ好きが高じてミステリ作家になった若さがこの作品には漲っているのだ。

また1つ、私の偏愛ミステリが生まれた。好きなんだなぁ、こういうの。

No.15 5点 ボナンザ 2019/08/12 10:46
挑戦的なタイトルだが、最後に言われている通りむしろ周りが名探偵と化している。
解体諸因もそうだったけど、こいつら事件起こしすぎじゃないですかね・・・。

No.14 6点 白い風 2011/01/12 22:58
西澤作品らしく不思議系ミステリですね。
名探偵(?)みはるの周りで当事者が勝手に事件を解決しちゃうんだよね(特殊能力?)
それが連作のようにメインの話に係わってくるんだよな。
ただ事件がストーカー野郎や婦女暴行魔などが出てきて好きになれなかったな。

No.13 7点 E 2010/02/11 18:39
ここでもまた個性的な名探偵(?)発見!!
何だか心温かくなる探偵ですね。しかも面白い。
様々な人達の人生の1ページは、様々な人達の人生1ページに影響を与えているものですね。

No.12 5点 ElderMizuho 2008/04/26 15:29
一つ一つの話が面白い上に、それらすべてを一つの話に収束してしまうあたりはさすが素晴らしいです。
ただ散々出てくるハトの話がSFの説明にしかなっていないような気がするんですが。本編との絡みが薄いのでは。ちょっと解せません
登場人物が多い&名前が難しすぎるせいで理解できてないだけかも

No.11 7点 spam-musubi 2008/03/10 17:18
みはるのキャラが面白い。よく考えつくな~という感じ。
ただ、登場人物が多すぎて、通読しないと話がわからなく
なってしまう気が…(単に私がバカなだけか)。

No.10 7点 vivi 2007/09/11 01:37
一言で言うと、好きです。
非常に好感の持てる山吹みはるのキャラクターも、
会話の中で思考が高速回転して真相へと転がり落ちていく展開も、
その思考が(思考なんだから当たり前だけど)ロジカルなのも。

山吹みはるの周囲の人が抱えていたそれぞれの真相が、
かなり強引な形で収斂していく後半の展開ですが、
もともとの設定を考えれば「あり」かなと思います。
みはるの能力と彼女の能力とが作り出した解決なのだから。

もっと読みたいキャラクターで、続編がないのが残念です。

No.9 7点 dei 2007/08/11 16:14
西澤色が薄い気がする作品だが、見せ方は巧いし個人的に好きな独特のノリも健在。

あと高知が好きになりました。

No.8 6点 ギザじゅう 2005/03/31 12:49
都筑道夫の『退職刑事』シリーズを連作にしたような作品。
ただし電車の中で軽く読むには適したような話ではあるが、それが連作という形式に適しているかどうかは微妙なところ。ラストのまとめ方は上手いと思ったが、話が長いだけに、自分の頭の中で整理し切れていない点も多く、そのぶん驚きも半減したからである。
もうひとつ本書のポイントとして、後期クイーン問題にSF方面からアプローチした、という試みは面白い。しかし、そのアプローチ自体が問題から避けてはいまいか。

No.7 7点 なの 2004/09/05 20:38
読了後の感想・・・因果応報。
素直に面白かったですね、イタイけど。
イタイ世界の中で、高知弁と主人公の素直さが、清涼剤となっています。

No.6 5点 モトキング 2004/01/06 16:17
世間の評判ほど傑作だとは思わなかった。
まあ、気楽にサクサク読める作品。
もの凄い入り組んだ人間関係はあまりに非常識すぎて、かつ登場人物の雰囲気も相まって、コメディとしてまあ面白い。
ただ、いわゆる本筋の間に交互に挟まれる鳩のエピソードを見る限り、作者は完全にコメディタッチを狙ったのでもないようだが、結果としては完全なるコメディ。不思議な才能だ。
肩肘張らずに電車通勤にでも如何でしょうか?

No.5 7点 ドクター7 2003/02/02 00:09
とても上手だなと感心しつつ楽しく読めました。が、終盤でかなりガックリでした。いろいろと凝り過ぎたせいで暴走している感じがします。妙なネーミングも違和感あり。やたら不倫とか女性を襲うとかを多用しすぎではないでしょうか。

No.4 7点 流破 2002/07/05 15:00
他の作品と比べると普通な感じ。(他が異常なだけ)
連作短編をくっつけて長編にしたみたいな感じがする。
続編がでたら読んでみたいです。
インスピレーション探偵は結構好きです。アガサ・クリスティのハーレー・クィン氏とか。

No.3 5点 KANNO 2002/04/14 22:28
まぁまぁ。西澤先生は苗字にこだわるなぁ、と思った。

No.2 7点 2001/05/25 02:22
このレベルを維持できるのが西澤氏のすごいところ。
神の目である語り手の目線は公正であるという認識が読者にはあるので、
そもそもの勘違いはそこから始まるわけです(^^;。
うまいなーと思いました。

No.1 8点 亜佐美 2001/02/05 21:28
内容ギッシリで、ちょっとお腹一杯という気もしますが、
凝ってるのは確かです。その割にサクサク読めるのが西澤作品のスゴイところ。


キーワードから探す
西澤保彦
2024年09月
ファイナル・ウィッシュ ミューステリオンの館
2024年08月
彼女は逃げ切れなかった
2023年03月
走馬灯交差点
平均:1.50 / 書評数:2
2022年03月
パラレル・フィクショナル
平均:5.00 / 書評数:2
2020年12月
偶然にして最悪の邂逅
平均:6.00 / 書評数:1
2020年08月
夢魔の牢獄
平均:6.00 / 書評数:1
2019年12月
逢魔が刻 腕貫探偵リブート
平均:5.00 / 書評数:1
2018年09月
幽霊たち
2016年11月
悪魔を憐れむ
平均:7.00 / 書評数:3
2015年06月
回想のぬいぐるみ警部
平均:5.00 / 書評数:1
2015年03月
さよならは明日の約束
2014年05月
下戸は勘定に入れません
2014年03月
探偵が腕貫を外すとき
2013年06月
ぬいぐるみ警部の帰還
平均:5.00 / 書評数:1
2012年10月
モラトリアム・シアター produced by 腕貫探偵
平均:6.00 / 書評数:1
2012年02月
幻想即興曲
平均:5.00 / 書評数:1
2011年10月
彼女はもういない
平均:5.00 / 書評数:1
2011年08月
赤い糸の呻き
平均:6.00 / 書評数:2
2011年05月
必然という名の偶然
平均:5.67 / 書評数:3
2010年10月
幻視時代
平均:6.00 / 書評数:3
2010年08月
からくりがたり
2010年03月
こぼれおちる刻の汀
平均:5.00 / 書評数:1
2009年09月
身代わり
平均:4.50 / 書評数:6
2009年07月
動機、そして沈黙
平均:6.00 / 書評数:1
2008年10月
スナッチ
2008年08月
夢は枯れ野をかけめぐる
平均:5.50 / 書評数:2
2008年04月
腕貫探偵、残業中
平均:6.00 / 書評数:2
2007年07月
収穫祭
平均:6.00 / 書評数:3
2006年11月
ソフトタッチ・オペレーション
平均:5.00 / 書評数:3
2006年10月
春の魔法のおすそわけ
2006年03月
キス
平均:5.00 / 書評数:1
2005年10月
フェティッシュ
平均:4.00 / 書評数:1
2005年07月
腕貫探偵
平均:5.40 / 書評数:5
2004年12月
生贄を抱く夜
平均:4.00 / 書評数:1
2004年08月
方舟は冬の国へ
平均:6.00 / 書評数:3
2004年06月
パズラー 謎と論理のエンタテインメント
平均:7.50 / 書評数:2
2004年04月
いつか、ふたりは二匹
平均:6.67 / 書評数:6
2003年11月
黒の貴婦人
平均:5.44 / 書評数:9
2003年06月
笑う怪獣 ミステリ劇場
平均:5.00 / 書評数:4
2003年05月
神のロジック 人間のマジック
平均:6.36 / 書評数:14
2003年03月
リドル・ロマンス 浪漫迷宮
平均:6.00 / 書評数:1
リドル・ロマンス 迷宮浪漫
平均:6.33 / 書評数:3
2002年12月
ファンタズム
平均:4.22 / 書評数:9
2002年08月
人形幻戯
平均:5.00 / 書評数:3
2002年03月
聯愁殺
平均:6.67 / 書評数:21
2001年12月
両性具有迷宮
平均:5.50 / 書評数:2
2001年10月
異邦人
平均:7.25 / 書評数:4
2001年09月
夏の夜会
平均:5.50 / 書評数:8
2001年03月
謎亭論処
平均:6.08 / 書評数:13
2000年12月
転・送・密・室
平均:5.80 / 書評数:5
2000年10月
なつこ、孤島に囚われ。
平均:3.41 / 書評数:17
2000年06月
依存
平均:6.91 / 書評数:22
1999年09月
夢幻巡礼
平均:6.00 / 書評数:5
1999年03月
黄金色の祈り
平均:6.33 / 書評数:12
1999年01月
念力密室!
平均:6.50 / 書評数:8
1998年10月
ナイフが町に降ってくる
平均:3.80 / 書評数:15
1998年09月
実況中死
平均:6.57 / 書評数:7
1998年06月
猟死の果て
平均:5.38 / 書評数:8
1998年04月
ストレート・チェイサー
平均:6.00 / 書評数:11
1998年03月
スコッチ・ゲーム
平均:6.38 / 書評数:16
1998年01月
幻惑密室
平均:5.87 / 書評数:15
1997年08月
仔羊たちの聖夜
平均:6.55 / 書評数:20
1997年07月
複製症候群
平均:5.18 / 書評数:11
1997年04月
瞬間移動死体
平均:5.93 / 書評数:14
1997年01月
死者は黄泉が得る
平均:6.73 / 書評数:15
1996年11月
麦酒の家の冒険
平均:5.70 / 書評数:33
1996年08月
彼女が死んだ夜
平均:6.95 / 書評数:21
1996年07月
人格転移の殺人
平均:7.25 / 書評数:36
1996年03月
殺意の集う夜
平均:6.35 / 書評数:31
1995年10月
七回死んだ男
平均:7.39 / 書評数:84
1995年06月
完全無欠の名探偵
平均:6.50 / 書評数:16
1995年01月
解体諸因
平均:5.88 / 書評数:24