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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ] ブラック・スクリーム リンカーン・ライムシリーズ |
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ジェフリー・ディーヴァー | 出版月: 2018年10月 | 平均: 6.40点 | 書評数: 5件 |
![]() 文藝春秋 2018年10月 |
![]() 文藝春秋 2018年10月 |
![]() 文藝春秋 2021年11月 |
![]() 文藝春秋 2021年11月 |
No.5 | 7点 | Tetchy | 2025/02/27 00:42 |
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リンカーン・ライム、イタリアへ!
しかしこれがライム初の海外出張ではない。『ゴースト・スナイパー』で一度バハマに行っている。ただその時は一時的なものだったが、本書では開巻後80ページ弱で舞台はイタリアへと移る。そこからほぼ全編イタリアが舞台となる。 イタリアでは同じ先進国でもあり、捜査技術はアメリカと遜色なく、対等に渡り合う、いや最初は海外の捜査官が事件捜査に携わることは例外的だと云って警部のロッシはやんわりと、検事のスピロは厳格に断る態度を見せる。 特にスピロは自身のテリトリーを余所者に荒らされたくないとばかりに、現場に行こうとするサックスに対する風当たりを強くする。 しかし読み進むうちになんとイタリアの警察がライムが書いた書物を研修で教科書として使用しており、実はライムを尊敬している捜査官、特に鑑識員が多いことが判ってくる。 更に面白いことになんとライムシリーズ第1作の『ボーン・コレクター』がイタリア語に翻訳出版されており、そのファンであるレストラン夫妻からサインを頼まれるシーンがある。イタリア語訳版があるのは本当でこれは作者ディーヴァーが経験した事だろうが、まさか主人公本人がサインに担ぎ出されるとはディーヴァーも憎い演出をするものだ。 なんといっても一番キャラが立っているのはエルコレ・ベネッリだろう。元々は森林警備隊巡査だが、たまたまトリュフ泥棒の取り締まり現場がイタリアで最初のコンポーザーの被害者拉致現場に近かったことで目撃者に駆り出される。この事件捜査を足掛かりにナポリ警察への転属を果たそうと意気込んでいる。 有能ではあるが、情報マニアの傾向があり、知っていることを話さずにはいられない質でそれが時にライムや検事達をイラつかせたりもする。我々の周囲に1人はいる、いい人なんだけどちょっと面倒なタイプである。 さて今回ライムがこれらナポリ警察の面々と共に相対する異常犯罪者はコンポーザー。英語で作曲家を意味するこの犯人は被害者を捕まえて拷問にかけ、苦悶に歪む声をクラシック音楽にサンプリングしてそれをBGMに拷問の様子を動画サイトに挙げて公開する異常者だ。 彼は常に〈漆黒の悲鳴(ブラック・スクリーム)〉に悩まされている。それは歯医者のドリルのような甲高い悲鳴らしい。彼が人間の悲鳴で奇妙な音楽を作曲することでこの悲鳴から逃れられることができるのだ。 ちなみに邦題は彼を悩ませるこの謎の悲鳴から取られている。 さて本書の真相は実に意外だ。これまでのシリーズを覆す展開を見せる。 今回のコンポーザーによる一連の拷問はなんとISISのテロリストを炙り出すためのフェイクだった。 ターゲットの連続殺人鬼が実は政府側の工作員だったのがこれまでとは違う結末だが、さらに面白いのはコンポーザーが残りのテロリストの炙り出しの捜査に多大なる貢献をするところだ。音のエキスパートである彼は過去の携帯電話の通話の録音から背後の音を聴き取り、場所の特定のためにかなりの材料を提供する。標的が味方に転じてライムたちの捜査に協力するのは今までになかった展開である。 しかしこのシリーズもこれほどまでにスケールが大きくなったとは感慨深いものがある。これまでは連続殺人鬼対四肢麻痺の鑑識の天才という悪対正義の勧善懲悪の単純な図式で展開していたのに、本書ではとうとう自身の携わった捜査でアメリカ政府の秘密機関まで接触することになり、その組織が超法規的組織ゆえにこれまでのように物的証拠を基に犯行を暴いても、隠密裏に抹消されてしまう。 さてもはやこれまでの警察捜査が通用しない相手にまで到達し、そして逆にライムはその組織からスカウトされるまでにもなる。今私はル・カレ作品を並行して読んでいるが諜報の世界ではそれぞれの政府の、国際社会のイデオロギーで判断が下され、複雑化し、どれが悪でどれが正義か判らなくなっている。ライムシリーズもとうとうその領域に達してしまったのかと思うと、正直気持ちは複雑だ。 さて本書には最後に「誓い」という短編が特別収録されているが、これは『ブラック・スクリーム』の物語の最終で彼らが挙式を行うことになったコモ湖が舞台となっており、式を挙げたその後が描かれている。 さて本書で長きに亘るパートナーの関係からめでたく結婚に至って夫婦の関係となり、より絆を強めることになったアメリアとライムの2人。そして前述のように本書の最後には存在しない諜報部門AISから科学捜査チームの顧問としてスカウトされるに至った。 何事にも始まりがあれば終わりがある。そして本書ではその兆しとしてシリーズファンが望んだアメリアとの結婚が成就した。つまりは1つのゴールに達したわけだ。まずは素直におめでとうと云って結びたい。 |
No.4 | 5点 | レッドキング | 2021/03/19 13:32 |
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ライムシリーズ第13弾。今回の敵は、犠牲者の声で奏でるワルツを伴奏に、ジワジワと絞殺仕掛けを施すサイコ殺人鬼「作曲家」・・と読者を誘導しておいて、操り者による真のホワイ意図展開へとツイスト・・と思わせて、操り者Bによる別のホワイ企図割込みへと再ツイスト。本拠地ニューヨークからイタリア古都ナポリへ舞台を移し、何でナポリ?目先変え?観光オマケ?と思ったが、そのホワイ展開自体に密接に絡んだ場所なのだった。
※ところでディーヴァー、リベラルとは言え米国白人。難民・テロへのスタンスは、左翼でなく中道左派だった。 |
No.3 | 7点 | HORNET | 2019/12/07 21:51 |
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ニューヨークの路上で男が拉致されるのを少女が目撃した。やがて被害者の苦痛のうめきをサンプリングした音楽とともに、監禁されて死に瀕している被害者の姿が動画サイトにアップされた。アップロードしたのは「作曲家(コンポーザー)」を自称する人物。捜査を依頼された科学捜査の天才リンカーン・ライムは現場に残された証拠物件から監禁場所を割り出し、被害者を救出したものの―
猟奇的な犯罪事件が、意外な方向へ。意外性という点では面白いのだが、「イカれた動向でありながら頭脳は優秀な犯罪者VSリンカーン&サックス」というシリーズ定番のパターンではないのはちょっと消化不良感かも。 どちらかというとスピロ検事の印象の変わりようと、エルコレの恋の行方の結末の方が読んでいて楽しかった。 |
No.2 | 6点 | take5 | 2019/08/11 16:18 |
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ライムシリーズ現在の最新作品。
反転の連続ではもたなくなってきたのか、 陰謀がより大きい物になってきています。 微細証拠品の検証や、些細な反転が全面に出ていた 初期作品からもう20年なのですね。 |
No.1 | 7点 | 初老人 | 2018/11/24 18:47 |
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シリーズ第13作。
物語はニューヨークの路上で男が拉致されその光景を少女が目撃する所から幕を開ける。 今回リンカーンライムは逃亡した犯罪者を追いイタリアのナポリに飛ぶ事になる。 イタリアで出会う個性的なメンバーとのやり取りも魅力だが、なんと言っても連続誘拐事件がこれまでにない展開を見せ、読者はいつも以上に注意深くページを繰る必要があるだろう。 アメリカ領事館から持ち込まれた留学生の暴行事件も調査する事になり、一見すると無関係に見える事件がどのように交差するのか、という所も読みどころの一つだ。 |