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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
スティール・キス
リンカーン・ライムシリーズ
ジェフリー・ディーヴァー 出版月: 2017年10月 平均: 6.20点 書評数: 5件

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文藝春秋
2017年10月

文藝春秋
2020年11月

文藝春秋
2020年11月

No.5 7点 Tetchy 2022/03/13 00:02
リンカーン・ライムシリーズ12作目の本書ではリンカーンはNY市警を辞め、大学で鑑識技術の講義を行っている。従っていつものようにアメリア・サックスとコンビを組んでの捜査とはならず、それぞれがそれぞれの事件を追っている。

いつもながらディーヴァーは色んなテーマを扱い、我々の生活と彼の対峙する敵の犯罪が実に近いところで繋がっていることを知らしめてくれるが、本書ではさらにその距離が縮まっている。今回の敵、未詳40号が殺人に利用するのは我々の生活を便利する通信技術だ。スマートフォンのアプリで遠隔操作するシステムの穴から潜り込み、誤作動を起こさせて人を殺す、なんとも恐ろしい敵だ。
まずはエスカレーターの乗降板を意図的に開放させ、人を落としてモーターに巻き込んで殺害。
次に家庭のガスコンロを意図的にガス漏れさせ、ガスが室内に充満したところで点火し、住民を丸焼きに。
そして大型テーブルソーを誤作動させて腕をスパッと切るかと見せかけて電子レンジの出力を何倍にも上げておいて温めていた飲み物とマグカップの中に含まれている水分を水蒸気爆発させる。
さらには自動車の制御システムも遠隔操作して猛スピードで逆走させ、衝突事故を起こさせて渋滞を招き、アメリアの追跡を交わす。
生活が発展し、便利になるとそれを悪用する輩も出てくる。スマートフォンのアプリで色んなことができ、色んなものとリンクすることが可能になったが、ウィルスを侵入させて壊したり、スパイウェアを侵入させて個人情報を搾取したりと枚挙にいとまがない。
しかしハッキングを駆使して遠隔操作を自由自在にこなす完全無欠の犯罪者の正体は社会的弱者とも云える存在なのだ。

本書の犯人だったアリシア・モーガンとヴァーノン・グリフィスは共に理不尽な社会の犠牲者だった。彼女は事故当時、夫が飲酒していたことでUSオートを有罪に追い込めず、和解に応じざるを得なかった。またヴァーノンは虐められて自殺した弟の復讐とマルファン症候群という特殊な病気のために変わった体型になったというだけで馬鹿にされ続けた人生だった。
普通に生きていただけなのに、謂れのない誹りを受けてきた人、もしくは本来罰されるべき相手が罰されず、妥協することを強いられた人。

そんな犯人たちの境遇に呼応するかのような主人公2人の結末だった。
人生全てが順調ではなく、万全ではない。生きていれば一度や二度、挫折もし、苦汁を舐めさせられることもある。しかしそれを乗り越えて生きてこそ、人はまた成長し、そしていつかは笑って話せる過去へと消化できるよう、心が鍛えられるのだ。

今回色々な悪が描かれてきた。
巨大企業のビジネス優先主義によって製品の欠陥を隠匿しようとした悪。
その犠牲になり、復讐のために次々と人を殺してきた悪。
自らの犯行を正当化し、かつての友人や恋人を騙してまで大金をせしめようとした悪。
それぞれの悪が円環のように巡り、そして殺しの連鎖を導く。人が利己的にならなくなった時に犯罪は無くなるのだろうか。

スティール・キス。
それは便利さの裏側に潜む甘美な罠。
もう我々はスマートフォンなしでは生活できなくなってきている。我々の便利な生活が危険と隣り合わせであることをまざまざと痛感させられた。便利と危険は比例することを肝に銘じよう。

No.4 5点 レッドキング 2021/03/16 18:20
ライムシリーズ第12弾。今回の敵は、家電重機に内在するコントローラーにハッキングし誤作動させ、凄惨な事故を生じさせる殺人鬼「民衆の守護者」。シリーズ中、ウォッチメーカー登場以前の分かり安い展開の倒叙や手記で、スンナリと犯人御用に・・・しかし、いくらなんでもあれでライムものが終わるわけなく、どんなツイスト待ってんのかな、と期待してたら、何か古典的な真犯人操りと叙述トリックおちが待っていた。
※それにしてもディーヴァー、「リベラル派」ての分かるが、「ネーダー風消費者運動」はチト未練かな。

No.3 6点 take5 2019/01/28 15:23
ライムシリーズ第12弾
個人的な問題で気晴らしをしたく、
五百ページ以上ありますが一気読みしました。
(読みやすいという事です。)
気晴らしにはなっても、血肉にまではならない作品。
過去に起因する犯人の歪んだ思考は、
現代社会への風刺もチラと入っています。

No.2 6点 HORNET 2018/11/12 21:16
 デパートで殺人犯を追跡中のアメリアの目の前で、客がエスカレーターに巻き込まれる事故が。アメリアは救出を試みるも、客は死亡、さらには殺人犯も取り逃がしてしまう。その後もアメリアは追跡していた殺人犯逮捕に邁進する一方で、警察への捜査協力から身を退いたライムのもとにはそのエスカレーター事故の訴訟に関する依頼が。別々の案件に思えた二つだったが、やがてエスカレーター事故も犯人が仕組んだものであることがわかり、結局二人は手を取り合って捜査を進めることになる―

 と、謳い文句に「ライムが捜査から撤退」とあっても結局大して変わらない。まぁそれでいいんだけど。そのほか物語では、麻薬密売者と接触するプラスキーの不穏な動きも伏線にあり、いろいろ絡み合っていて面白い。
 今回は「どんでん返し」はわりとオーソドックスで、驚愕というほどではない。一般的な(?)ひっくり返し方という感じだった。

No.1 7点 初老人 2018/01/21 14:02
リンカーンライムシリーズ12作目。シリーズ最新作となる本書では、エスカレーターが誤作動を起こし、床板が開き穴に落ちた被害者がモーターに巻き込まれ死亡。容疑者追跡のため偶然その場に居合わせていたサックスは知人を通じリンカーン・ライムに民事訴訟のための調査を依頼する…といった内容だ。
なんといっても今回のキーパーソンはライムと同じく車椅子生活を強いられていて、ライムに弟子入りするジュリエット・アーチャーの存在だろう。ライムに謎かけをしたり、チェスの勝負を挑んだりと、物語にアクセントを加えている。
事件そのもののどんでん返しについては、いつもの通り上質な驚きが保証されている事は間違いない。


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