海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

[ 本格 ]
ブラウン神父の知恵
ブラウン神父シリーズ
G・K・チェスタトン 出版月: 1960年01月 平均: 6.78点 書評数: 18件

書評を見る | 採点するジャンル投票


東京創元社
1960年01月

東京創元社
1982年04月

筑摩書房
2016年01月

東京創元社
2017年03月

No.18 6点 蟷螂の斧 2023/05/18 18:55
①グラス氏の失踪 6点 部屋でジェームスがミスター・グラスという男に殺されたらしいとの通報が・・・手品師
②泥棒天国 6点 銀行家ハロゲイト氏とその息子、娘がアペニン山脈の山越えに出発。神父も同行。途中で山賊に襲われる・・・毒の瓶
③ヒルシュ博士の決闘 4点 ヒルシュ博士はスパイとの告発を受け、相手に決闘を申し込む・・・逃亡
④通路の人影 7点 女優が楽屋の通路で殺された。3人の目撃者による犯人像は三者三様であった・・・鏡
⑤機械のあやまち 6点 脱走者らしき男を捕まえ、うそ発見器にかけると行方不明者(卿)の名前に反応した・・・令嬢の失踪
⑥シーザーの頭 4点 妹は、兄のコレクションから恋人に似たシーザーの貨幣を盗んで恋人にプレゼント・・・鼻の曲がった脅迫者
⑦紫の鬘 6点 公爵の祖先は魔術によって耳が巨大化させらたという伝説があった。公爵は耳をかつらで隠し人前では決してかつらを脱がなかった・・・領地
⑧ペンドラゴン一族の滅亡 5点 一族の者は海難事故に遭うものが多かった。それは復讐の呪いといわれていた。今夜一人が帰ってくるのだが・・・火災
⑨銅鑼の神 5点 黒人とイタリア人のボクシングの試合。神父は中止を要請したが・・・ヴードゥー教
⑩クレイ大佐のサラダ 4点 猿神の尾を見てしまった大佐は「お前は幾度も死に遭うのだ」と言われる・・・恋がたき
⑪ジョン・ブルノワの珍犯罪 6点 「ロミオとジュリエット」の野外劇。ロミオ役の卿は嫉妬にかられたジュリエット役の夫に刺されたと言う・・・執事の証言
⑫ブラウン神父のお伽噺 7点 オットー公は銃殺されていた。発見者は町の娘。町は武装解除され誰も銃を持っていない・・・合言葉による射殺命令

No.17 9点 あい 2023/04/25 22:26
凄い作品だと思う。特にペンドラゴン一族の滅亡は下手すれば馬鹿話になる様な話だけど、ちゃんとまとまって一流のミステリになっている。チェスタトンは哲学とか宗教の要素が入ってくるので読みづらいけどトリックメーカーとしてミステリ界でも随一だと思う。

No.16 6点 レッドキング 2022/06/07 19:09
ブラウン神父第二短編集。
  「ミスターグラスの不在」 言わば窮極の密室トリック、10点!・・「ミスったグラス」(^^)
  「盗賊の楽園」 山間の花咲き満る「楽園」を舞台にした鮮やかなツイスト劇。7点
  「イルシュ博士の決闘」 全ての様相が一つ残らず反対の二つというのは、結局のところ・・6点
  「通路の男」 劇場楽屋の外通路で刺殺された女優。三人の目撃者が見た犯人像は全て異なり・・6点
  「機器の誤り」 仮装と噓発見器に絡んだ人物誤認事件の顛末。5点
  「カエサルの首」 必要とする人数は、自殺に一人、他殺には二人、では、恐喝には・・8点(これ、特許権かな)
  「紫の鬘」 旧家「呪い」の暴露と「悪魔的な物」の氷解が、ミステリの解明に連動して・・7点
  「ペンドラゴン一族の滅亡」 伝奇浪漫の伝誦と川孤島の奇塔の一族絶滅トリック。6点
  「銅鑼の神」 殺人が見つからない真の状況とは、「誰もいない」場所ではなく・・5点(これも、まあ、プチ特許権)
  「クレイ大佐のサラダ」 呪いの迷信と闘う男に仕掛けられたトリック。3点
  「ジョンブルノワの奇妙な罪」 崇高にして自由な魂への劣等感を克服できなかった男の顛末。(採点対象外)
  「ブラウン神父のお伽話」 頭と肩帯ニか所に弾跡を残し射殺された男。だが弾丸は1発だけで銃もなく・・6点
で、10+7+6+6+5+8+7+6+5+3+6=69÷11=6.272‥平均して、6点 

No.15 4点 虫暮部 2021/04/20 10:42
 核になる謎や逆説を、こういう風な物語にまとめたい、という“意図”だけを提示して、あとは読者に放り投げたよう。第一集より随分落ちる。断片的な興趣があちこち散らばってはいるが、一編の小説として素直に楽しめたのは「紫の鬘」のみ。

No.14 6点 クリスティ再読 2020/01/15 17:21
評者「童心」に1点なんて点を勢いでつけちゃったこともあって、ブラウン神父連作をやりづらくしちゃったのは自業自得と思います(苦笑)。作品自体はもちろん凄いのだけど、ニッポンでの受容がかなり偏頗なものだから、ついイラっとしたんだよね。
そうしてみると第二短編集のこれは、バラエティ豊かな「童心」と比較して、二番煎じが目立つことになるし、チェスタートンが「書きやすい」シチュエーションがあるみたいで、それを繰り返している感じが強い。延々と風景描写が続いてフランボウと問答する「銅鑼の神」とかホント「折れた剣」って感覚だしねえ。逆説も「逆説がある」と分かってたら、逆説の効果は薄いわけだ。
弾十六さんによるとチェスタートンって反ドレフェスだったのか。「銅鑼の神」の黒人に対する偏見てんこ盛りとか、あと「ジョン・ブルノワの珍犯罪」で少し触れられる進化論でもこの人チョンボしてるしね。とはいえ、イギリスでのカトリック派というマイノリティ論客としての独自ポジションがあったわけで、これを今の政治意識で無下に馬鹿にするのは、評者は賛成できないな。
そういうあたりでは、ドレフェス事件に想を得た「ヒルシュ博士の決闘」は、政治上の右も左も、俗ウケを狙ったが最後どっちがどっちだか区別がつかなくなる、という結論も、何か今のアベ政権とか連合=民主党の姿を見るみたいで、アクチュアルな部分があると思うんだよ。
あとそうだね「泥棒天国」は、バイロン・ロセッティといったイギリスでのイタリアンなロマンというものを、その最後の継承者みたいな格好になったチェスタートンが、一種皮肉な目で眺めているのを面白いと思う。チェスタートンの時代だと、もうダヌンツィオやら未来派やらにイタリアの文芸も移っているわけで、ダヌンツィオが映画「カビリア」で名前貸して大もうけした話のように、

「小生は未来派でござると言っておいたはずだよ。おれは新しいものを心から信じているんだ。それをおれが信じていないとしたら、おれはなにも信じちゃいないことになる。変化、競争、前の人はうってかわった新しいものがなければ一日も明けぬという進歩主義、それがおれの信ずるものなのだ。おれは出かけるのさ、マンチェスターへ、リヴァプールへ、リーズへ、ハルへ、ハダスフィールドへ、グラスゴウへ、シカゴへ。つまり、啓蒙開化された活動的な社会なら、どこへでもおれは行く」
「なるほど」とムスカリは言った「まことの泥棒天国へか」

と自らを「泥棒」と自己定義しながらも、時代に乗り出すようなこの高揚感がチェスタートンとその時代が共犯となった時代精神を象徴するものだと思うのだ。

No.13 5点 弾十六 2019/02/09 11:50
単行本1914年出版。創元文庫(福田+中村名義、初版1960年、20版1978年)で読了。
奇想がいっぱい詰まった『マンアライヴ』(1912)の次がこの連載。多分ポスト誌を当て込んだものだと思うのですが、実際には米McClure’s Magazine(最初の6作)と英Pall Moll Magazine(「お伽話」を除く11作)に掲載されました。Premier誌1914年11月の探偵小説クイズ『ドニントン事件』を最後に『犬のお告げ』Nash’s誌1923年12月号までブラウン神父とはお別れです。
雑誌発表順(米国と英国では順番が違う)に読んでみましたが、出がらしチェスタトンという感じ。ネタに苦しんでる作者の姿が浮かびます。
GKCの主要テーマは「物事は見かけ通りではない」と「狂気は真実に至る道」だと思いますが、この連載には狂気成分が不足している感じ。それで私には物足りないのですね。
以下の括弧付き数字は単行本収録順。○付き数字は英国登場順、●付き数字は米国登場順。
掲載雑誌はThe Annotated Innocence of Father Brown(ed. Martin Gardner 1988)とFictionMags Indexで確認しました。金額換算は消費者物価指数基準1913/2019で114.56倍です。

⑴The Absence of Mr. Glass (初出❶McClure’s1912-11 挿絵William Hatherell, 英初出①Pall Moll1913-3 挿絵W. Hatherell): 評価3点
なぜ神父が犯罪研究家のもとを訪れるのかが全く不明、変な話です。とある有名兄弟への言及があり、作中年代は1860年以降だと思われます。ラストは保男さん捨て身の翻訳で幕。(どう処理してるか他も見てみたくなります…)
p8 スカーバラ(Scarborough): ブラウン神父の教会は「町の北はずれに家のまばらな通りがあり… その通りの向こう側に立っている」とのこと。
p13 色の浅黒い小柄な男で、とても快活 (He is a bright, brownish little fellow): brownishは髪の色では?同じ人物を形容するp15「小柄で肌の浅黒い」(Small, swarthy)に引きずられたか。

(11)The Strange Crime of John Boulnois (❷McClure’s1913-2 挿絵William Hatherell, 英初出④Pall Moll1913-7 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点
三角関係だから、もっとスリリングに出来ると思うのですが…
p297『血まみれの拇指』(The Bloody Thumb): bloodyはワンピースのサンジが使う「くそ」のイメージですね… 英国人が使うちょっと下品で感情のこもった強調表現。『赤い拇指紋』(1907)が脳裏をかすめました。
なおEdmund Sullivan Father Brown Morganで検索するとPall Mollの挿絵の原画が見られます。随分太っちょの神父です… メガネ無しのようですね。またWilliam Hatherell Wisdom Father Brownで検索するとMcClure’sの挿絵が見られます。こちらは普通の小男、メガネはかけていません。挿絵を見て思ったのですが、ヒゲ率が高いです。大人は半数以上がヒゲありな感じですね。

⑵The Paradise of Thieves (❸McClure’s1913-3 挿絵William Hatherell, 英初出⑤Pall Moll1913-8 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点
GKCのトスカーナ地方の描写が面白いだけの話。
以下、銃関係の原文。
p41 弾丸をこめたピストル(loaded revolvers): リボルバーと訳して欲しいです…(こればっかり)
p45 騎兵銃(carbines): 馬上で取り扱いやすいように銃身を短くしたライフル銃。
p53 短銃の打ち金をあげたり(as they cocked their pistols): cockは「撃鉄を起こす」こと。「打ち金をあげる」だとフリントロック式かな?と誤解されてしまうかも(銃マニアだけ) ただし年代的にフリントロック式もあり得ないわけではないか。
(以上2018-1-12記載)

⑷The Man in the Passage (❹McClure’s1913-4 挿絵William Hatherell, 英初出⑥Pall Moll1913-9 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点
犯行現場の図面がないとわかりにくい感じ。王室顧問弁護士パトリック バトラー(Mr Patrick Butler, K.C.)登場。JDC/CDの元ネタ?珍しい名前ではありませんが…
(2019-1-13記載)

⑺The Wisdom of Father Brown: The Purple Wig (②Pall Moll1913-5 挿絵Edmund J. Sullivan, 米初出❺McClure1913-7 挿絵不明): 評価5点
ジャーナリズムのことが生き生きと(皮肉たっぷりに)描かれています。でも誰も気づかないのは変だと思います。
p167 ≪改新日報≫(the Daily Reformer): もちろん架空の名称。
p174 公共の出版物に記載するに適さない話… ≪真紅の尼僧≫の話とか、≪ぶちの犬≫の事件とか、採石場で起こったことだのとか(not fit for public print—, such as the story of the Scarlet Nuns, the abominable story of the Spotted Dog, or the thing that was done in the quarry.): 多分、尼僧はエロ話、犬は残酷な話。採石場は何を想定してるのかな?(Spotted Dogはlungwortという植物のことかも)
p179 エリシャ(Elisha):『列王記下』2:23の「禿げ頭」から
p182 心霊実在論者(Spiritualist): コナンドイルで有名ですね。
p189 記者のテクニカルな暴行は別として(except for my technical assault): 格闘技ではよく使う表現(〜ノックアウトなど)ですが…「法規を厳密に適用すれば」という意味ですね。
(2019-1-13記載)

⑹The Wisdom of Father Brown: The Head of Caesar (③Pall Moll1913-6 挿絵Edmund J. Sullivan, 米初出❻McClure1913-8 挿絵William Hatherell): 評価5点
フランボウが登場すると何かホッとします。冒頭からの流れが素晴らしい。でもこの真相は(よほど認知能力が低くなければ)あり得ないよ!と思ってしまいます。
p141 前にはエセックスのコブホールで司祭をしていたが、今はロンドンがその任地となっている(formerly priest of Cobhole in Essex, and now working in London.): ⑴ではスカボローでした。
p145 とても根性の曲がった男があったとさ、そいつの歩いた道も曲がっていたそうな(There was a crooked man and he went a crooked mile....): 「根性の」は付け加えすぎ。
p157 2シリング(two shillings): 現在価値1610円。
(2019-1-13記載)

⑸The Wisdom of Father Brown: The Mistake of the Machine (⑦Pall Moll1913-10 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点
神父の発言が当たり前だと思うのは、以前これを読んで血肉になっているからか。昔「コンピュータは絶対に間違えません」というセリフがありました…
p114 新しい精神測定法というやつはたいした評判になっていますよ、とくにアメリカで(new psychometric method they talk about so much, especially in America): 米国の発明かと思ったら1902年British heart surgeon Dr James Mackenzie (1853-1925)が脈動を記録する器械を開発したのが最初らしい。本格的なポリグラフは1921年John Augustus Larson(バークレーの医学生で同地の警察官でもあった)の発明だと言う。(Wiki)
p116 もう20年も前… 当時ブラウン神父はシカゴの某刑務所つきの神父として働いていた(nearly twenty years before, when he was chaplain to his co-religionists in a prison in Chicago): 神父は1890年代後半、米国で暮らしていたのですね。
p116 奥の手のトッド氏(Last-Trick Todd): 米国風のニックネームか。last trickの意味が良く掴めていません…
p127 あの心理測定器をためしてみる: ここでは1890年代に既に存在し、器械がすぐに手に入ることになっています…
(2019-1-16記載)

⑻The Wisdom of Father Brown: The Perishing of the Pendragons (⑧Pall Moll1914-6 挿絵E. J. Sullivan): 評価6点
神父の強引な行動が良し。フランボウが頼もしい。語り口もスムーズ。
(2019-1-24記載)

⑽The Salad of Colonel Cray (⑨Pall Moll1914-7 挿絵情報欠) 評価4点
ブラウン神父大活躍なんですが、つまらない話。猿神最大の刑罰は気に入りました。
銃は「拳銃」revolver、リボルバーと訳して欲しいなぁ(←こればっかり)
p260 音楽には熱心で、音楽のためとあれば教会に行く(was enthusiastic for music, and would go even to church to get it.): 確かに教会音楽にはそういう効果もありますね。
(2019-1-26記載)

⑶The Wisdom of Father Brown: The Duel of Doctor Hirsch (⑩Pall Moll1914-8 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価4点
反ドレフュスのチェスタトンが、真実(裏切りじゃなかった)を知った後で、グズグズ言い訳しています。
p82 ヘンリー ジェイムズの書いた妙な心理小説… (a queer psychological story by Henry James, of two persons who so perpetually missed meeting each other by accident that they began to feel quite frightened of each other.): 何という作品かわかりません。ファンならすぐにわかるのでは?
(2019-1-27記載)

⑼The Wisdom of Father Brown: The God of the Gongs ((11)Pall Moll1914-9 挿絵Edmund J. Sullivan): 評価3点
無茶苦茶な話。作者の黒人に対する偏見が凄い。洒落た身なりの黒人を見たフランボウが「あれじゃリンチもしょーがない(I'm not surprised that they lynch them)」と言い放ちます。神父が読み上げる本は実在?(God of GongsでWeb検索しましたが見つからず。出鱈目か)
p225 昔つとめたことのあるコボウルの教区(his old parish at Cobhole): コボウルは架空地名「秘密の庭」に出てきます。
p226 日本の木版画(It's like those fanciful Japanese prints): ブラウン神父ものに出てくる数少ないjapanは、他に「サラディン公」と「神の鉄槌」だけです。
p234 機知に富んだフランス人が八つの鏡にたとえた、あのたぐいの帽子(a hat of the sort that the French wit has compared to eight mirrors): イメージが湧きません。どんなのでしょうか。
(2019-2-9記載)

(12)The Fairy Tale of Father Brown (雑誌掲載なし、単行本1914): 評価5点
こういうファンタジーめいた舞台がGKCには一番しっくりきます。
p301 特産のビールを飲みまわる: 意外とミーハー行動な神父とフランボウ
p302 蝙蝠傘の瘤のような不恰好な頭(the knobbed and clumsy head of his own shabby umbrella): 愛用の傘の持ち手の描写。
p306 お茶の保温袋(tea-cosies): wikiで画像検索するとティーポットにかぶせて保温するカバーのようですね。
(2019-2-9記載)

翻訳では省略されていますが、献辞があります。
TO LUCIAN OLDERSHAW
Lucian Oldershaw (1876-1951) an English author and editor, a Chesterton's friend.

No.12 8点 ALFA 2018/04/24 09:24
象徴性に満ちた「無心」と比べるとトリック一発の小粒感はあるが楽しい短編揃い。
やはり重厚な「ペンドラゴン一族の滅亡」が読みごたえがある。勝手に芸達者なイギリス俳優をキャスティングして脳内ドラマをイメージするのも楽しい。
とぼけた味わいの「グラス氏の不在」も気に入った。
訳文は生硬で読みにくい創元版よりちくま版がおすすめ。

No.11 8点 斎藤警部 2016/11/30 23:33
「童心」の時も同じ意味のこと書きましたが、ブラウン神父物語の基本発想は後続のミステリ小説群に本当に深ァァい影響の爪痕を残し、現在も様々な作家が持つ創意工夫の力を得てストレートな方向からあらぬ方向にまで進化増殖を続けるばかりである事よのう晴天なり、と実感させられる機会のなんと多い事か。
しかしながら、それ故にこそ、根幹アイディアだけを取ると陳腐な遺物のようなものに見えてしまう事も屡(しばしば)なわけですが、何しろキースの野郎には洞察力に文章力に文学力という三位一体の必殺ギャラクティック・ボンバーが備わっているわけで、そうそう作品自体が陳腐化する事は無いとかのドナルド・トランプ氏も共和党大会で明言していた様です。というのは口からでまかせです。

で、この高水準の短篇集、当たり前の様にすごォく面白いんだけど「童心」に較べるとちょっと落ちる、それでも大いなる傑作快作。ホームズ「冒険」と「回想」の関係にやはり似ている(私の中では。おそらく多くのミステリファンにとっても)。でも「童心」「知恵」の方がその落差はより少ないように思える。(同じ8点相当でも「回想」は7.6点、「知恵」は8.3点くらいの感覚。) 

No.10 8点 青い車 2016/09/20 22:52
 ほとんど僕の責任ではあるのですが、童心以上に読みづらい作品が目立った気がします。あと、どれとは言いませんが似通ったトリックの作品どうしが同じ短篇集に入っているのも興を削いでいるように思えます。しかし、そうは言っても犯罪の目的を見事にひねった『泥棒天国』や『シーザーの頭』など、充実ぶりは前作同様です。
 『器械のあやまち』『銅鑼の神』などの印象的な逆説、警句も印象的です。特に器械~は、器械がいかに精緻であっても、それを扱う器械(人間)が不完全であれば無謬にはなりえない、という現代にも通じる含蓄を感じました。

No.9 7点 nukkam 2016/09/04 01:09
(ネタバレなしです) 1914年に12作を収めて出版されたブラウン神父シリーズ第2短編集の本書は印象的なトリックという点では第1短編集「ブラウン神父の童心」(1911年)にやや見劣りするものの、奇想天外なプロットという点ではひけを取りません。個人的なイチ推しは「ペンドラゴン一族の滅亡」です。語り口が難解なのが玉に瑕ですが非常にスケールの大きい物語で、映像化したらさぞ見映えがするでしょう。「泥棒天国」も相当奇抜な大仕掛けが用意されています。あとは「グラス氏の失踪」が生真面目に推理しているが故に結末のユーモラスぶりとの落差がかなりのものです。

No.8 6点 mini 2016/01/07 10:32
昨日のニュースで、加島祥造氏が昨年暮に亡くなっていた事が報じられました、謹んで御冥福をお祈りいたします
小鷹氏といい相次ぐミステリー翻訳関連の方の訃報は残念でなりません
加島祥造氏の追悼書評はとても1作で済ませられるものではなく、また田村氏や鮎川氏(作家の方じゃないですよ、別の人です)との関連も兼ねて別の機会にしようと思います

加島氏とは関連の薄い作家だが、本日7日にちくま文庫からG・K・チェスタトン『ブラウン神父の知恵』が刊行される
ちくま文庫では既に『ブラウン神父の無心』が刊行されており、その時点では単発企画なのかなと思ったが、どうやら続きが出たわけである
このままいけば創元文庫版と並ぶ存在になるかもで、新訳でもあり翻訳に左右されそうな作家だけに別々の翻訳文で楽しめるのは嬉しい事だ

ホームズ短編集の変遷とは面白い相関関係が有る
ホームズは『冒険』『回想』と立て続けに出たが、第3短編集『帰還』はブランクを挟んで刊行された、その辺の事情は皆様御存知の通り
面白いことにブラウン神父の方も第2『知恵』と第3『不信』の間には結構長いブランクが有る、その辺については私も『不信』での書評中で言及しているので御参考に
つまり『回想』が『冒険』の続編的、悪く言えば二番煎じ的なものだったのと似ていて、ブラウン神父の第2『知恵』は第1『童心』の刊行から間髪を入れすに出たような感じでやはり続編的性格を感じる
『不信』が設定をいくつか変更している部分が有るのに比べたら『童心』と『知恵』の違いはあまり感じられない
ただし流石はチェスタトンだと思うのは、二番煎じ的な感じよりも”引き続いての安定感”を感じさせる点だ
構成もちょっと似ていて、『童心』の冒頭編「青い十字架」と『知恵』の冒頭編「グラス氏の失踪」はどちらもスっとぼけた味わいが有り、マジなホームズとは導入部の印象が異なる
しかし一番印象に残るのは幻想的な雰囲気の中に大胆な陰謀が隠された「ペンドラゴン一族の滅亡」かなぁ、これはさ『回想』所収のホームズ譚「マスグレーヴ家の儀式書」と対を成す感じだね
両者共に”一族”とか”何々家”という題名ながら、私の嫌いな館ものとはちょっとタイプ違うしね、「マスグレーヴ家」なんて殆ど家族居ないし

No.7 6点 ボナンザ 2015/08/31 23:47
童心に有名作が揃っているためか他の四冊を読まずにきたが、これはたいした良作揃いである。
有名な銅鑼の神やペンドラゴン一族の滅亡を筆頭にチェスタトンらしいとぼけた作風とトリッキーなアイディアが素晴らしい。

No.6 8点 ミステリーオタク 2012/12/27 00:11
童心に比べるとややかすむが、とにかくトリッキーな短編が多い
ある意味童心よりもチェスタトンらしい部分も感じられる

No.5 6点 E-BANKER 2011/06/05 20:22
名作「ブラウン神父」シリーズの第2短編集。
いつものとおり「読みにくさ満点」の作品。でも面白い!
①「グラス氏の失踪」=もしかしてダジャレ(?)的なオチ。短編らしい切れ味は感じる。
②「泥棒天国」=いかにもこのシリーズらしいプロット。「真相は裏側から見よ!」ということ。
③「ヒルシュ博士の決闘」=確かに「アッ」とは言わされますが、現実的にこんなことありえるのか?
④「通路の人影」=やっぱり名作と言われるだけある。「へぇー」って感心させられる。
⑤「器械のあやまち」=いわゆる「嘘発見器」の話。ブラウン神父は信用してないということらしい。器械を使うのは所詮人間だから・・・という理屈。
⑥「シーザーの頭」=これも③と同じプロット。要は「○○二○」。
⑦「紫の鬘」=これも本シリーズらしい「逆説」が主題。
⑧「ペンドラゴン一族の滅亡」=うーん。ちょっとよく分からない。
⑨「銅鑼の神」=ポーの名作「盗まれた手紙」に比較される作品。確かに発想のポイントは同じかも。
⑩「クレイ大佐のサラダ」=のんびりしたタイトルですが・・・当時の英国人のアジアの国に対する感覚も何となく窺える。
⑪「ジョン・ブルノアの珍犯罪」=「珍犯罪」って・・・妙なタイトル付けたねぇー。
⑫「ブラウン神父の御伽噺」=珍しくドイツが舞台というか、ドイツの伝承の謎をブラウン神父が解く。
以上12編。
確かに、本シリーズらしい「逆説」の効いた作品も多く、「短編」の見本のような気もします。
ただ、如何せん読みづらくて、なかなか頭に入ってこない・・・(もちろん、こちらの読解力不足もあるでしょうが)
というわけで、近いうちに再読してみようと思います。
(①④⑦辺りが面白かった。⑩以降はあまり頭に入らず・・・)

No.4 7点 kanamori 2010/08/06 23:08
「東西ミステリーベスト100」海外編の118位は、ブラウン神父シリーズの第2短編集。
世評的には、法廷ミステリ趣向と意外性のある「通路の人影」とか、ファンタスティック風味で意外な犯罪が暴かれる「ペンドラゴン一族の滅亡」が傑作といわれているようですが、個人的にはバカミス的な密室からの人間消失「グラス氏の失踪」がツボでしたね。この作品は翻訳も気が効いています、原文はどうなっているんだろうか。

No.3 8点 2009/02/21 14:47
なんとブラウン神父がアクションまで見せてくれるファンタスティックな味が強い『ペンドラゴン一族の滅亡』が、作者らしい無茶なアイディアを巧みに小説として仕上げていて、特に好きです。傑作と言われている『通路の人影』は、個人的にはそれほどと思えませんでしたが(むしろ『-秘密』の収録作の方が好き)、ホームズ的捜査法をからかいながらの爆笑ダジャレ解決『グラス氏の失踪』、相違点の論理が冴える『ヒルシュ博士の決闘』等、やはり傑作ぞろいの第2集です。

No.2 8点 Tetchy 2008/09/21 19:50
1作目の『~童心』が凄すぎて、その後にコレを読むとかなり評価が落ちるのだけど、心を白紙にして読み返すと、実はこの作品も粒揃いだということが解る。

冒頭の「グラス氏の失踪」はほとんどダジャレの世界で、しかもお騒がせ親父の物語と、噴飯物だが、「通路の人影」は現代でも使われるようなトリックだし、「ペンドラゴン一族の滅亡」、「銅鑼の神」、「ブラウン神父のお伽噺」はまさにチェスタトンならではの幻想小説の意匠を借りたロジックが展開される。

呪術的雰囲気、パラドックスがビシバシ冴え渡る短編集だ。

No.1 6点 ぷねうま 2008/04/25 06:18
一作目と作風はほぼ同じ。トリックのクオリティも全て高水準(だと思います。発表された時代的に)
とにかくバラエティに富んだ事件とブラウン神父の冴えた推理を楽しめる。
でも2作続けて読んだらちょっと飽きた。


キーワードから探す
G・K・チェスタトン
2021年05月
裏切りの塔
平均:6.00 / 書評数:2
2012年10月
法螺吹き友の会
平均:4.67 / 書評数:3
2008年09月
知りすぎた男
平均:5.75 / 書評数:4
2006年09月
マンアライヴ
平均:4.50 / 書評数:4
2001年08月
四人の申し分なき重罪人
平均:6.00 / 書評数:2
1984年07月
新ナポレオン奇譚
平均:5.20 / 書評数:5
1960年01月
ブラウン神父の知恵
平均:6.78 / 書評数:18
1959年01月
ポンド氏の逆説
平均:6.71 / 書評数:7
ブラウン神父の不信
平均:7.13 / 書評数:15
ブラウン神父の童心
平均:7.79 / 書評数:42
1958年01月
奇商クラブ
平均:6.50 / 書評数:6
1957年03月
ブラウン神父の醜聞
平均:6.42 / 書評数:12
1957年01月
ブラウン神父の秘密
平均:6.15 / 書評数:13
詩人と狂人たち
平均:6.33 / 書評数:6
1951年01月
木曜の男
平均:6.44 / 書評数:9