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[ 本格 ]
裏切りの塔
G・K・チェスタトン 出版月: 2021年05月 平均: 5.33点 書評数: 3件

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東京創元社
2021年05月

No.3 4点 Tetchy 2024/08/10 01:58
東京創元社が編んだ日本オリジナル短編集。
本書に収録されている「高慢の樹」と「裏切りの塔」はそれぞれ「驕りの樹」と「背信の塔」という題名で『奇商クラブ』に収録されていたため、既読済みなので今回の感想から省くとして残りの2編「煙の庭」と「剣の五」と戯曲「魔術―幻想的喜劇」について述べる。

まず『煙の庭』は実にオーソドックスなミステリだと感じた。雰囲気はあるものの、幻想味や逆説の妙を感じさせなかったからだ。
ただ本作の犯人である博士の心情は私も理解できる。きっちりと生活をしている人ほど秩序を重んじ、そしてそれが適正に保たれていることを好む。しかしそれが叶わない時は心的疲労を抱えて尾を引くのだ。
そしてこの作品のミソは粗野な船長と知的階級の博士2人と並べているところだろう。この労働者階級の人間と知的階級の人間を対比させることで夫人を鋭利なもので突き刺して毒殺した犯人像を前者に引き寄せることが出来るからだ。本書のパラドックスを挙げるとすれば、この2者のイメージギャップということになるだろうか。

そして「剣の五」もチェスタトンにしてはいささかパンチが弱いと感じた。
決闘による討ち死にと見せかけた殺人だったという真相と放蕩息子だと思っていた被害者が実は父親の会社を護るために世界的に有名な出資会社が稀代の詐欺集団であることを見抜いた慧眼の持ち主だったと云うパラドックスはしかし、価値観の逆転として昨今ミステリ小説のみならず子供向けのファンタジーやドラマでもよく使われているため、今となってはインパクトが弱く感じた。

そして本邦初訳の戯曲だが、これはミステリではなく、サブタイトルにあるように幻想的喜劇だ。
妖精や魔法を信じていた若き女性が森の中で出くわした男性が自らを妖精と名乗り、そして奇術師であると告白し、実は魔術師だったと正体を二転三転させていく。最後、その娘に自分が恋をしたことを告白するが、娘は逆に彼が本当の魔術師であったことを知り、それまで彼女の中で育んできた御伽噺の終焉を悟る。これは即ち彼の求愛を受け入れて、もう箱入り娘のような生活ではなく、伴侶として生きていくことを選択し、そして決意したと云う意味ではないか。つまり彼女はようやく大人になったのだ。つまりこれは幻想的喜劇と見せかけて幻想的ロマンスが正確だろう。

しかし今回も痛感したのは古典作品の読みにくさ。いや自分の理解のしにくさと云った方が正解か。
とにかく改行がなく、古い云い回しが続く古典作品は本書のように新訳での刊行となってもその内容をきちんと把握するためには1回きりの読書では十分理解できないだろう。

またチェスタトンは各課題に対するヒントを実に上手く物語に散りばめているが、最初に読んだだけではそれが煙に巻かれたかのように頭に入らないのだが、物語を要約するために読み返すことで手掛かりが判り、本来の物語が見えてくるのだ。つまりはチェスタトン作品を十二分に堪能するには二度読み必須であることを再度感じた。

No.2 5点 虫暮部 2022/12/28 16:12
 そもそもチェスタトンには、コレがベストの書き方なのだろうかと首を捻らされることが多いけれど、本書収録の小説4編はみなその傾向が顕著で、つまり首を捻らせることが目的なのであろう。
 一方、戯曲「魔術」は名品。ストレートに楽しめた。芝居じみた台詞回しだから芝居に御誂え向き。成程やってみれば当然の帰結である。

No.1 7点 弾十六 2022/09/24 02:31
チェスタトンの自分史では大事件(後述)が1913年6月に終了しており、その後の作品集です。シリーズものの『ブラウン神父の知恵』(1914、雑誌連載1912-1914)と『知りすぎた男』(1922、雑誌連載1920-1922)に挟まれた、シリーズ探偵が登場しない単発作品で、本国短篇集“The Man Who Knew Too Much”(1922)に(5)を除いて収録されていましたが、現在では同題の短篇集にはホーン・フィッシャーものの短篇8作しか収録されていません。そのため(2)(3)(4)の原文は未入手です。
各短篇は(5)「魔術」を除いてレビュー済み(『奇商クラブ』及び『知りすぎた男』)ですが、南條さんの翻訳で読んで、あらためて評価しました。
初出はFictionMags Index調べで、初出順に並び替えました。カッコつき数字は、本短篇集の収録順です。
(5)「魔術──幻想的喜劇」Magic. A Fantastic Comedy(初演1913-11-7, the Little Theatre, John Street, London): 評価7点
途中から盛り上がる恐ろしい雰囲気が素晴らしい。チェスタトンの人を驚かす発想は、常識的な人物の生身の姿を借りればより効果的だと思う。そこら辺のツボを心得た演出家がいればブラウン神父ものはテレビドラマにハマるような気がするのだが。劇中にやや激しい感情の表出が見られるが、マルコーニ・スキャンダル(下で解説)によるものか。
バーナード・ショーは、この劇の百回目公演を記念して“The Music Cure”(1914-1-28)を同劇場で上演したが、作者の劇の中で最低ランクの出来、と言われているらしい。(現物に当たっていません…)
なお、リトル劇場は席数387、文字通りの小劇場。詳細はArthur Lloyd Little Theatre John Streetで。
p270 土地運動(Land Campaign)♠️両方とも大文字なので固有名詞と思われる。Land Purchase Act 1903(Ireland) かNatives Land Act 1913(South Africa)に関係あり?
p276 半クラウン銀貨(half-crowns)
p288 ヨブ記(Book of Job)♠️チェスタトンは聖書で一番素晴らしいと讃えている。
p303 マルコーニを食べたことはない(Never had any Marconis)♠️「訳注 登場人物はマカロニか何かと間違えているらしい」なぜ南條さんがこう書いているのか、がわからない。(とぼけてるだけ?)この頃、チェスタトンが一番ショックを受けたマルコーニ・スキャンダル(政権の汚職疑惑、弟のセシル・チェスタトンが暴き立てたのだが、政府によって非公式に片づけられた)。GKCは弟が完敗した(1913年6月、マルコーニ社への名誉毀損で百ポンドの罰金が課せられた)ことによって、世間に対する無邪気さを失ったのだろう。なんのかんの言っても、今までは最後には正しいものが勝つ、という子供のような信頼を持っていたはずだが、完全に裏切られた、という感じ。GKC自伝(1936)でも、英国史にはマルコーニ前とマルコーニ後という時代区分がある、とまで主張している。
(2022-9-24記載)
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(1)「高慢の樹」The Trees of Pride (英初出The Story-Teller 1918-11; 米初出Ainslee’s 1918-11 as “The Peacock Trees”): 評価8点
実に素晴らしい構成だと、あらためて感心した。ミステリ的には探偵役のポジションの置き方が良い(かなり画期的だと思う)。ところでGKCには詩人がよく登場するが、詩を詠む場面がほぼ無い。
乱歩『続・幻影城』では、なぜか地主と領民の立場を全く逆に捉えて解説している(「孔雀の樹」として紹介)。
(2022-9-24記載)
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(3)「剣の五」The Five of Swords (初出Hearst’s Magazine 1919-2): 評価6点
フランスが舞台。当時、フランスでは決闘は公式に許容されていた。上述のマルコーニ・スキャンダルを考えると、本作品にもその影が見られるようにも思われるが(考えすぎか)。
(2022-9-24記載)
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(2)「煙の庭」The Garden of Smoke (初出The Story-Teller 1919-10): 評価5点
色つきの悪夢の中を彷徨い歩いているような幻想的な作品。作者にしては珍しく女性が主人公。女流詩人が出てくるのも珍しい。
p126 オランダ人形♠️ 英Wiki “Peg wooden doll”参照。
(2022-9-25記載)
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(4)「裏切りの塔」The Tower of Treason (初出Popular Magazine 1920-2-7): 評価6点
マルコーニ・スキャンダルのせいなのかどうかはわからないが、性格がさらにひねくれまくった感じ。陰謀論めいた記述もあるが、そういう話ではない。ストレートな解釈には絶対しない、という強い意志のもとで、無理がねじれて不思議な解答に辿りつく。
(2022-9-25記載)


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