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[ 短編集(分類不能) ]
奇商クラブ
G・K・チェスタトン 出版月: 1958年01月 平均: 6.50点 書評数: 6件

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東京創元社
1958年01月

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1977年06月

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2018年11月

No.6 5点 虫暮部 2022/11/24 12:16
 ACの『パーカー・パイン登場』みたいね(逆か)。
 “何か新しくて変わった金儲けの方法”――要は “そんなことに金を払うかな?” との設問があり、“払う人は払うだろう” と作者が思うなら、読者としてはハイそうですかと受け入れるしかない。“奇妙な成り行きはヤラセでした” と言う話(私はコレ、夢オチより嫌い)が3編も重複している点を鑑みると、基本設定自体に無理があったと思う(あっ、でも昨今はレンタルファミリーなんて商売もあるから、実は物凄い先見性?)。ダンシング教授の話だけをノンシリーズの短編として出すべきだった。

No.5 8点 クリスティ再読 2020/05/21 16:13
ブラウン神父を通読すると、「童心」最狂もとい最強、「知恵」頑張ってる、以降は二番煎じで切れ味鈍って....というのが正直な印象で、後期に相当する「詩人と狂人たち」「ポンド氏の逆説」も冴えないものが多い、となれば、やはり「チェスタトンって最初は凄かったけど、後ほど時代遅れで自己模倣ばかりになる人」という印象を持たざるを得ない。逆に言うとね、第一短編集の本作とか、あるいは「新ナポレオン奇譚」とか「マンアライブ」とか、大いに期待できる、ということになる(もちろん「木曜の男」は凄い)。
うん、さすが「奇商クラブ」は面白い。仕掛けとファンタジーがうまく融合していて、振り返ると馬鹿馬鹿しいんだけど、ファンタジックな味が捨てがたくて、あたかも童話のようである。バレたら価値がなくなる逆説ではなくて、バレても味わい深い逆説なのである。ここが後期との大きな違いである。
まあ確かにさ、文学上の「狂気」というのは、「狂気を通じて正気を見、正気の中に狂気を見る」弁証法が働くからこそ、意味があるのであって、精神医学上の「狂気」なんてのは悲惨なばっかりで、ブンガク的なものなんかじゃない。「奇商クラブ」あたりは、こういう往還がうまく働くからこそ、奇想を楽しむことができるわけだ。チェスタートンらしさ全開の、生き生きとしたチェスタートンを楽しもう。後半3作が優れていると思う。評者もどうだ、踊ってみようか?
で、創元旧版は「背信の塔」「驕りの樹」の豪華オマケ付き。新版はこの2作が入ってない(別な本に収録予定、と予告されている)ので、現状は「旧版よまなきゃ」、である。「背信の塔」はブラウン神父の別バージョンみたいな価値があると思う。たとえば「ブラウン神父の死」とかそういうかたちでリライトしたらいいのに..とか妄想する。「驕りの樹」はその昔小酒井不木訳なんて骨董みたいなのを読んだ記憶がある。「新青年」の大昔から親しまれてきた作品だ。ミステリ的な仕掛けは大したものではないが、ミステリを逆手に取った「犯人の狙い」が素晴らしい。庶民の世間知をインテリは半可通な科学知識とオカルト批判で馬鹿にするのだけど....とチェスタートンの宗教的な主張とも重なって、オモムキが深い。細かいことを言うと、不木訳「孔雀の樹」のタイトルは実際に問題の木がそう呼ばれているからそっちをタイトルにしたわけだけど、西欧では「傲慢(虚栄)」の宗教的なシンボルに「孔雀」が使われるわけで、紳士階級の傲慢を突く作品の狙いから The Tree of Pride となってるわけだ。Pride って今の「いい意味」とは違うからね。
「詩人と狂人たち」とか「ポンド氏の逆説」とは全然レベルの違う力作短編集である。これは、読まなきゃ。

No.4 6点 ボナンザ 2019/01/09 20:26
流石はチェスタトンというべき短編集。どれも皮肉と逆説に満ちた愉快なストーリー。

No.3 6点 弾十六 2018/12/16 10:05
私が読んだ創元文庫の旧版(福田 恆存 訳 1977年)は、チェスタトン初短編小説集The Club of Queer Trades (1905 Harper & Bros.)にThe Man Who Knew Too Much (1922 Cassell)収録の2編を追加。創元新版は追加無しです。
The Club of Queer Trades: 評価6点
FictionMag Indexで調べたのですが、⑴The Tremendous Adventures of Major Brown (Harper’s Weekly 1903-12-19)がチェスタトンの小説デヴュー作のようです。(当時29歳、文壇デヴューは詩人として1900年、評論は1901年?) Harper’s Weeklyは当時16ページ、10セントのheavily politicalな週刊誌らしい。(消費者物価指数基準1903/2018で現在価値2.86ドル、324円)
⑵The Painful Fall of a Great Reputation(単行本初出)
⑶The Awful Reason of the Vicar’s Visit (Harper’s Weekly 1904-5-28&6-4、2回分載)
⑷The Singular Speculation of the House-Agent (Harper’s Weekly 1904-6-11&6-18、2回分載)
⑸The Noticeable Conduct of Professor Chadd (Harper’s Weekly 1904-6-25&7-2、2回分載)
⑹The Eccentric Seclusion of the Old Lady (Harper’s Weekly 1904-7-9&7-16、2回分載)
実は内容不明なClub of Queer Trades(チェスタトン作)というのがHarper’s Weekly 1904-5-21&5-28(2回分載、2回目は⑶と同じ号)に掲載された、という記録があり、もしかすると⑴ブラウン大佐の冒頭部分は連作短篇のイントロとして5-21に掲載されたんじゃないか、と思いました。つまり最初は単発作品(多分もっと短かった)のつもりで、連作の予定はなかったのでは?
さて肝心の内容は、日常スケッチに奇想を交えたいつものチェスタトンです。静かに論理的に狂う男やいきなり動物や鳥や樹木が出てきて寓話タッチになるのもGKCらしいですね。ただ最初にネタ(奇妙な商売)を割っているので驚きの展開にならないのが惜しい。
なんでも商売にしてしまう風潮を皮肉っているのでしょうか。
以下トリビアです。
p15 オ、ロウティ… O Rowty-owty tiddly-owty Tiddly-owty tiddly-owty Highty-ighty tiddly-ighty Tiddly-ighty ow.: 意味はないのだ、と思います。
p27 7ペンス半と3ペンス玉 (There was sevenpence halfpenny in coppers and a threepenny-bit.): 銅貨のペニー7つ&半ペニー1つ、それに銀貨の3ペニー1つ。0.04325ポンド。現在価値は消費者物価指数基準(1904/2013)で4.72ポンド、687円。
p27 きみの拳銃 (your revolver): この時代の拳銃はほぼリボルバーです。
p29 あの男、なんていう名前だったかな?… ほら有名な物語に出てくる… そうそうシャーロック ホームズさ。(what's his name, in those capital stories?—Sher-lock Holmes.): 当然のように批判的です。
p36 料金表 1日のアルバイト料が1ポンド。(多分高額な方) 上述の換算で118ポンド、17172円。
p51 5ポンド賭けてもいい: 思い切った賭け金。上述の換算で84263円ですからね。
p70 21シリング: =1ギニー=1.05ポンド。1日のアルバイト料。(多分高額な方) 上述の換算で124ポンド、17707円。
p77 言うまでもなく、ジェームズ カー氏ではありません (not Mr James Carr, of course): 当時、有名な人? JDC/CDは自分の苗字が出てきて嬉しかろうと思います。
p87「万歳、万歳、英国よ世界に冠たれ、景気をつけろ、やーい」(Hooray! Hooray! Hooray! Rule Britannia! Get your 'air cut. Hoop-la! Boo!): 多分、出鱈目な文句。
p100 1回5ギニー: =5.25ポンド。料金表の中の最高料金。
p142 真に緊急かつ強制的な唯一のもの… 電報 (really urgent and coercive—a telegram): 現代では電話かメールですね。
p153 800ポンド…(中略)… 真面目な事務員4人分の年収: 上述の換算で94400ポンド、1374万円。
p161 半クラウンの賭け… 少額: 2.5シリング=0.125ポンド。上述の換算で14.75ポンド、2147円。
p172 半ペニー 新聞代: 上述の換算で0.245ポンド、36円。当時Timesは3ペンス。Daily Telegraphが安売り新聞のはしり、とのこと。
p176 おお、この黄金のスリッパよ(Oh, dem Golden Slippers): James A. Bland作(1879) ミンストレルショーの歌。

The Tower of Treason (Popular Magazine 1920-2-7): 評価5点
語り口がひねくれてて面白く読ませる話。普通の作家なら「何これ」というネタを上手に料理しています。これをブラウン神父ものにしなかった理由は…
以下トリビアです。(原文未参照)
p201 色黒だが: 好男子の決まり文句tall, dark, handsomeのdarkはdark hair&dark eyeのことらしい。なので「色黒」とか「浅黒い」と訳されてると反射的に実は髪の色?と疑う癖がつきました。swarthyは肌が浅黒いの意味ですが、Web検索で画像を見ると、ちょっと日焼けした感じの肌色なのかなあ。
p210 ラッパ銃: blunderbussの事だろうと思いますが、あくまで接近戦用で長距離狙撃には向かないような… 銃口がラッパのように広がってるのは弾込めしやすいように、というのが一番の理由です。石とか釘とかをぶちこむこともあったらしい。(あまり無茶すると銃身内部がぼろぼろになります)
p212 赤いトルコ帽: fezのことでしょうか。
p222 ユダヤ人がこの付近の諸国に国際的なばかりか反国家的な網を張りめぐらしているということも本当で、さらにユダヤ人というのは、横領することにかけて非人間的で、貧乏人を弾圧するに際しても非人間的なことが多い… 事実ユダヤ人の多くは陰謀家なのです… : この悪質な文章のために、この話が新版から削除されたのかも。日本Wikiにはチェスタトンの偏見について触れられていますが、反ユダヤのことは何故か書いていません。(英語Wikiには記載あり)

The Trees of Pride (英Story-Teller 1918-11; 米Ainslee’s 1918-11 巻頭話The Peacock Trees): 評価7点
充実した力作。この展開及び結末は素晴らしい。でも読後に思うのはこんなひねくれたことを考えるのはひねくれ者だけじゃ無いの?という真っ当な疑問です。チェスタトンはいつもそういう感じですね。そしてそーゆー話を喜ぶのも立派なひねくれ者です。
以下トリビアです。
p252 リーマス叔父(Uncle Remus): 「ウサギどんキツネどん」私は子供の頃よく読みましたが、ポリティカルコレクトの現代では禁書扱い?
p262 2ペンス(twopence): クリスティファンなら誰でも発音を知ってるよね? ここでは最低限の賭け金。消費者物価指数基準1918/2018で現在価値0.5ポンド、71円。
p266 あけがた前のもっとも暗き時刻は… (the darkest hour before the dawn): 二流の詩人(some orher minor poet remark)のものとして引用。古い諺 the darkest hour is just before the dawn (最悪の時でも希望はある)のことだと思うのですが minor poet が出てくるのがちょっと謎。
(米初出を追加2019-8-11)

No.2 6点 mini 2011/11/21 09:55
チェスタトンと言えばもちろんブラウン神父シリーズだが、ブラウン神父の第1短篇集より6年も前の1905に発表された実質的に作者のミステリー第1作の短篇集が「奇商クラブ」である
ブラウン神父登場より大分前だが、それでも「ホームズの冒険」が1892年だから既にホームズ形式は確立されており、その影響は明らかに認められる
探偵役の元判事バジル・グラントの弟は私立探偵だが、この人物どう見てもホームズに対するアンチテーゼの象徴であり、語り手の役割もワトスン役そのものである
それでもチェスタトンの個性は際立っていて、そもそも奇商クラブという発想自体、他の作家には真似の出来ない発想であり、単なるホームズの亜流を免れている、流石はチェスタトン

ところで、創元文庫に同時収録のすごく出来映えの良いノンシリーズ短中編2篇については、是非言及する必要性があると思う
短篇「背信の塔」は端的に言えば単なるトリック一発芸でしかないのだが、それがチェスタトンの魔法にかかると芸術作品に昇華するし、中編「驕りの樹」は二重三重のひっくり返しが素晴らしく、早い時期に日本でも単発紹介された事があるのも肯ける
いやしかしだ書評はどうでもいい、書評よりこれが言いたかったのだ本音は
この2篇が収録されていることによって、創元文庫版「奇商クラブ」の評価がさらに高まってしまう事になる
しかしながらこの2篇、実は原著では「奇商クラブ」の収録作では無いのである
「奇商クラブ」全6編だけだと1冊分には分量的に足りず、同作者の他の創元文庫版短篇集との本の厚さの整合性を優先したのが多分理由だろうが、翻訳者か創元編集部かが他の短篇集「知りすぎた男」から2篇を移し変えたのである
こういう事をしちゃいかんだろうよ創元、これによって「奇商クラブ」の評価はさらに高まり、「知りすぎた男」の方は非シリーズ短中篇込みでの本来の評価が割り引かれかねない
現状では論創社から「知りすぎた男~ホーン・フィッシャーの事件簿」として刊行されているが、やはり気を使ってか問題の2篇は省かれている
本来ならばだ原著の収録作通りの内容で「知りすぎた男」も創元文庫から出すべきだっただろう、しかし2編を抜き取っておきながら刊行は無視
ハードカバーには手を出さず文庫版しか読まない主義な頑なな読者だと「知りすぎた男」は永久に読まれない可能性も有るのだぞ、これだから短篇集やアンソロジーに限ってだが私は創元という出版社が嫌いなんだ
創元文庫版「奇商クラブ」は作品の質だけなら採点上は7点位は付けられるのだけれど、編集過多の悪癖を持つ創元編集部に対する抗議の意味を込めて1点マイナスだ

No.1 8点 Tetchy 2008/09/18 23:51
奇商クラブとは、未だかつて誰もがやっていない奇妙な商売で生計を立てている人物のみが入会できるクラブ。
裁判中に突然発狂し、それが基で引退に追い込まれた元判事バジル・グラントという狂人を主人公にしているのが実にチェスタトンらしい。
なんとブラウン神父シリーズよりこちらの方が先に書かれていた。

収録された奇商クラブ物6編のうち、「家屋周旋業者の珍種目」と「チャッド教授の奇行」が秀逸か。
前者はもうほとんどバカミスだが、こういうことを考える作者が逆に好きだ。
後者は真相が明かされた時に戦慄が走った。あまりにすごすぎ。本当の狂人の話だ。

で、実は本書には別にノンシリーズの「背信の塔」と「驕りの樹」という2編がさらに収められていて、これが共に白眉の傑作。
「背信の塔」はなんとも幻想的な1編で、ディキンスンが大いにこの作者から影響を受けているのが解る1編だ。
そして「驕りの樹」もこの作者が博覧強記振りの筆致で描くからこそ、こういう設定が引き立つのであろう。
両者ともなんともいえない奇妙な味わいがある。

今も手に入るか不明だが、もし絶版ならば、非常に勿体無い短編集だ。


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