皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 時代・歴史ミステリ ] 新ナポレオン奇譚 |
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G・K・チェスタトン | 出版月: 1984年07月 | 平均: 5.20点 | 書評数: 5件 |
春秋社 1984年07月 |
筑摩書房 2010年07月 |
No.5 | 5点 | 虫暮部 | 2022/01/27 11:48 |
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こういう、広義の戦争状態を風刺的に描く小説と言うのは、まぁ或る程度一つのパターンとして存在するわけで、その系譜の中で見ると、本書は戯画化のセンスがあまり宜しくない(特に一番最後の会話は蛇足)。私は “時代的な制約” とか考慮しないので、例えば筒井康隆あたりと比べるとかなり物足りなかった。
一方で、文章に関してはブラウン神父シリーズより気が利いていると言うか、もともとこうして良い塩梅でスタートしたのに、やりすぎてあの読みにくさになっちゃったんだな~。 |
No.4 | 5点 | クリスティ再読 | 2021/11/16 22:06 |
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寓話っていうものは、作者のA面B面をそれぞれ対立させて作る「作者」の仮面劇だろう。冷笑的な諷刺家もチェスタトンだし、理念に身を捧げる狂信者もチェスタトンに他ならない。狂信者が勝利ののちに殉教するのはお約束なのだが、諷刺家は国王になる....静止した世界ではすべてがお笑い草、アナーキストが王者となりすべての価値を転倒してみせるのだが、それもまたお笑いに即座に回収されてしまう。だから狂信もホントウは何の拠って立つ根拠すら、ない。
そんな話。結構イマの日本の姿を暗示しているような気がしないでもない。新しいものはもう何も生まれず、そんな閉塞感に押しつぶされずに正気を保つためには、まさに愚行を率先するしかないのかもね。 でも処女長編で、前半の余裕が後半はなくなって、話が動く後半の方がつまらない。意外なくらいに殺伐とした話で、そこらへんでチェスタトンらしさを感じないなあ....前半のトーンで後半が描けたら、よかったのに、と惜しまれる。ユーモリストの仮面のすぐ下にキマジメな顔を覗かせては、いけないよ。 |
No.3 | 5点 | ボナンザ | 2019/02/16 10:19 |
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チェスタトンにしか書けない作品であることは間違いない。ただ、楽しめるかどうかはほかのチェスタトン作品を読んで適性を試さないとわからないだろう。 |
No.2 | 4点 | 弾十六 | 2019/01/06 21:35 |
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1904年3月出版。単行本書き下ろし。ちくま文庫版(2010)で読みました。
80年後のロンドンは今(1904年)とちっとも変わってない、とは進歩や科学を信じないチェスタトンらしいのですが、戦闘行為に銃が全く使われないのはどーなんでしょう。(まー寓話なんだから良いですか、そうですか) なお当時英国の同盟国であった日本は本書出版後の1904年8月に世界初の大規模な機関銃攻撃を受けて短時間で多大な損害を出しました。(アジアの片隅の事例と侮ったヨーロッパはWWIで手酷いしっぺ返しを受けます) 出版当時、チェスタトン30歳。自分はもう若くない、という感傷が溢れる作品です。それでも幼児のように生きたい、というわがままぶり。到底、万人受けする作品ではありません。無駄な悲劇が沢山あり、ファンタジーやノンセンスと割り切らなければ読み続けるのが難しいのでは、と思いました。寓話としてもあまり出来は良くありません。(構成が下手なので途中で自爆しています) 文庫版にはわかりやすい地図がついています。Webにあるキャムデンヒルの給水塔(Water tower of Campden Hill、1970年ごろ壊された)の写真も必見。 以下トリビア。 p15 エドワード カーペンター (Edward Carpenter): 1844-1929。文明は病気だ、という主張の人らしい。"return to nature"を提唱した。 p27 芸術的な冗談とか道化ぶりとかに目がない男… そのノンセンスぶりが昂じて… 正気と狂気の区別がわからなくなっちまった…: GKCの自画像ですね。 p36 ニカラグアの色: 黄色と赤色。多分出鱈目。 p69 半クラウン: 2シリング6ペンス。消費者物価指数基準1904/2019で120.72倍、現在価値2121円。子供へのお小遣いなので妥当な感じ。 p78 1シリングの絵具: 上述の換算で849円。非常に安物ということですね。 p124 金に困っており、ここまで書いて原稿を発送する必要があった: 当時のGKCの経済状況がうかがえます。 p129 カルバリン銃(culverin): 中世の長距離銃。大砲の先祖的な武器。軽くて小さい弾を発射、銃身は長め。 p131 ピストル、鉾、石弓、らっぱ銃(pistols, partisans, cross-bows, and blunderbusses): パルチザンは槍の両側に尖った出っ張りがついた英国の武器。ブランダーバスは大口径で先の広がった銃口が特徴の先込め銃。接近戦用。 p138 気つけ薬… ひと瓶8ペンス、10ペンス、1シリング6ペンス: 瓶の大きさの違いではなく、安い・一般的・高級な種類の気つけ薬なのだと思います。現在価値は566円、707円、1273円。 p145 半ペニーの紙挟み、半ペニーの鉛筆削り(halfpenny paper clips, halfpenny pencil sharpeners): 現在価値35円。 p245 1シリングに10ポンドの賭け: 掛け率200倍。 p286 聖書中もっとも神秘的な書にひとつの真理が書かれていますが、それはまた謎でもあります。(And in the darkest of the books of God there is written a truth that is also a riddle.): 訳注では〔伝道の書「日の下に新しきものなし」をさす〕としていますが… |
No.1 | 7点 | Tetchy | 2010/07/17 23:38 |
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1904年に発表されたチェスタトンのデビュー長編小説。実にチェスタトンらしく、様々な警句と美意識に満ちた作品だ。
最初の100ページまではチェスタトンお得意の言葉遊びに満ちており、ストーリーが全く見えてこない。ここら辺は非常に難解で思考があっちこっちに飛び、理解に苦しむ。 しかしやはり奇想の思想人チェスタトン。そこを過ぎると実に面白いストーリーが見えてくる。 しかしこの小説は初めてチェスタトンを読むにはかなりハードルの高い小説だと思う。このチェスタトンしか書けないテイストはやはり他の作品、やはりブラウン神父シリーズを導入部として読んでからにして欲しい。もしくは『木曜の男』(光文社古典新訳文庫版は『木曜だった男』)を愉しめた人ならば本書も愉しめるだろう。私にとって本書はチェスタトンはやはり最初からチェスタトンだったと思えただけに嬉しい作品だった。 |