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[ 本格 ]
ブラウン神父の童心
ブラウン神父シリーズ
G・K・チェスタトン 出版月: 1959年01月 平均: 7.86点 書評数: 42件

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新潮社
1959年01月

東京創元社
1959年01月

東京創元社
1982年02月

筑摩書房
2012年12月

早川書房
2016年03月

東京創元社
2017年01月

No.42 3点 Kingscorss 2020/09/18 11:49
この低い評価には理由があります。自分が読了したのが東京創元社、1982年版だからです。

もう、とにかく読み辛い。一度読んだだけでは全く頭に入ってこないので、全エピソードを二度づつ読みました。日本語訳の海外ミステリーでこの本ほど翻訳がダメと思ったことはありませんでした。ただ原文を”構文ごと”に修飾して訳しただけの感じで、最早小説というよりはただの情報の羅列。同じ会社から新板も出たみたいですが、殆ど変わっておらず相変わらずめちゃくちゃ読み辛いらしいです。

自分は国語が昔から得意ではありません。そのせいもあってか、小学生の頃の作文でよく先生に、もっと段落を区切りましょう、改行しましょう、大きく場面や話が変わる際にはわかりやすいように1行空けてみましょう、…といった指摘をよく受けましたが、まさにこの本にはそれがまるまる当てはまるじゃありませんか!

人物や場所等の修飾がやたら多いくせに、場所の説明や状況の説明があまりにも少なく、場面が変わろうといつもそのまま区切らず書かれているのでとても混乱しやすいのです。これらは原文のせいかもしれませんが、それらを補足してこそ現代訳になると思っています。

翻訳の愚痴だけだとアレなので内容のことにも触れておくと、どれも古典でよく出来ていると思いますが、個人的には平均すると6点ぐらいの評価でした。気に入ったエピソードは、青い十字架、秘密の庭、イズレイル・ガウの誉ーー辺りです。神父とフランボウの関係にはほっこりきて共感しましたが、神父のキャラクターには全く愛着がわきませんでした…

ファンの方たちには申し訳ないのですが、せっかくの面白い話を翻訳で台無しにしている感が拭えません。内容6点、翻訳で−3点の3点です。しかし、ハヤカワから出てるのはかなり読みやすいらしいのでいつか再読に挑戦してみようと思います…

No.41 10点 猫サーカス 2020/04/06 19:23
推理小説ではテクニックやヒロイズムはどんどん発展してきたけれど、美学というのはブラウン神父に出会った時に強く意識した。夢のような話の中に、幾何学的ロジックとか容赦ない残酷な逆転の発想を加えたトリックとかがあって、推理することに美学を持ち込んでいる。もちろんアイデアだけ抽出してみても、よくこんなトリックを思いつくなというのが山ほどある。ミステリの短編の中で頂点と見ています。

No.40 9点 saino 2020/02/25 00:22
他にレビューされている方にも言いたいのだが、そもそも「ブラウン神父シリーズ」は「本格推理小説」ではない。チェスタトン氏の他の作品にも言える事だが、
基本的には「大人の為の誌的な寓話」であり、また「警句」「逆説」「宗教思想」「社会思想」をもちりばめた作品である。
はっきり言ってブラウン神父ものには現実には偶然の要素や実現不可能であろうトリックが多い。
また、ブラウン神父の推理過程にもほとんど想像が多く、決定的証拠が不足している。
そして、犯人への接し方・処遇も警察に突き出したり自首を薦めたりする事もなく徹底的に「こんな事はしてはいけない」と話し合うのみである。
彼は探偵ではなく、あくまで「宗教者」であり、犯人の心の闇を打ち払うのが使命である。
この、作品を本格推理小説を評価するように評価すべきではないと私は考える。
具体的な「作品に対してのコメント」でないっぽくてすいません。
ただし、トリックは確かに「宝庫」です。アレンジする事によって本格推理小説にも十分使えます。

No.39 9点 ◇・・ 2020/02/15 17:44
警句と逆説を縦横に駆使して、才気あふれる鋭利な文芸評論や小説を書いていったチェスタトンが、まさしく少年の心を持ったブラウン神父を探偵に捉え、彼だからこそ気付けた異常な事件の驚きの真相を解明していく本格ミステリ。
短い一篇、一篇の中で世界の見え方が変わってしまう思考の転回点みたいなものが提示できるのは凄い。しかも語り口が巧くて、どのページにも自分で使ってみたくなるような気の利いたフレーズが散りばめられている。

No.38 8点 Vespa 2020/02/10 22:34
8/10

No.37 6点 ミステリ初心者 2019/11/09 14:57
ネタバレをしています。

 2017年に出た新訳版を買いました。しかし、めちゃくちゃ読みづらかったです(涙)。私の国語の能力が低すぎ、どこまで理解できたか不安です(笑)。長くなるのでなるべく短く書きます。
○青い十字架:超人的なブラウン神父(笑)。もっと三枚目な人物かと思っていたら、意外とクールな印象を持ちました。
○秘密の庭:前話のこともあり、自分にとってかなり意外な犯人でした(笑)。
○奇妙な足音:フランボウは大胆で頭がいいですが、足音だけで当てる神父は天才ですね。このトリックだと神父をこういう設定にせざるを得ないですが、なんか現在の叙述トリックを読まされる読者のようですね。
○飛ぶ星:私の読解力が低すぎて、いまいちわかりませんでした。これ以降、フランボウが神父の助手?になる展開は予想外でした。
○見えない男:これと似たトリックを見たことがありますし、後世に影響を与えたのかもしれませんが、ぶっちゃけこれ系は嫌いです(笑)。
○イズレイル・ガウの誉れ:意外さはありましたが、いまいち良さがわかりません(笑)。
○狂った形:登場人物の少なさと、良く見るパターンのため、予想ができてしまいますが、面白かったです。
○サラディン公の罪:これも良く見る話のため予想できましたが、すべて予想通りにいくか疑問です(笑)。おもしろかったです。
○神の鉄槌:ふわっと予想できました(笑)。が、不確定要素がつよすぎて好みではありません。
○アポロの眼:凝った話でした。途中でインク切れのペンを持たせるというアイディアが面白かったです。途中で豹変する教祖も面白い(笑)。
○折れた剣:神父が、過去の出来事の不思議について推理しています。読者にはあまり推理が出来ない事もありますが、死体を隠すなら死体にというのは納得しました。フランボウの解釈も面白かったです。
○三つの凶器:非常に内容が濃い話しでした。ロイスは恋人のために嘘をつき、アリスは勘違いのために嘘をいっている感じになってます。が、やっぱり自殺物は好みではありませんでした(笑)

No.36 7点 バード 2019/06/26 16:53
全体を通して丁寧に読めば読むほど味のわかる文章ね。疲れてるときに流し読みすると良さが分かりにくいとおもうので、これから読む人はゆったりじっくり読んで欲しいかな。

個別の書評
「青い十字架」:初ブラウン神父だが、この話だけ見ると流石に神父の狙い通り事が運びすぎなようなという気もする。

「秘密の庭」:首を切ってやりたい事は分かったけどインパクト重視で必然性が無く、この本の中では評価が低いほう。

「奇妙な足音」:見えない男のトリックに類似しているものの、フランボウの仕掛けは大胆で面白い。足音だけでそれを見破る神父も流石。

「飛ぶ星」:良くも悪くも印象が薄い。

「見えない男」:心理的な密室という現代でも重宝されるおもしろいトリックだったと思う。ただし、この事件に関しては、見張ってろと言われたら普通郵便係りも気にすると思うので、現代視点だと少し無理があるかもしれない。

「イズレイル・ガウの誉れ」:この本の中で唯一やたら読みにくさを感じ、いまいち良さが分からないまま読み終わってしまった。残念。

「狂った形」:遺書の偽装方法は現代でも書き方次第では使える小ねたと思うので、この当時としては画期的だったのだろう。登場人物が露骨なミスリード要因な感じは読んでる途中でなんとなくわかる。

「サラディン公の罪」:最後まで読まないと謎というか、話の中核が見えてこないのが少しストレスだったが、及第点は満たすかな?

「神の鉄槌」:神父の誘導があるので、真相には途中でたどり着けた。比較的シンプルな話。

「アポロの目」:オチまで読みきれなかった。短編にしては結構複雑な事件と思うが、無理なく畳めており高評価。策を弄したのに、司祭がはじめから疑われているのがなんとなく笑える。

「折れた剣」:葉を隠すなら森の中、なら死体を隠すなら・・・?はい答えは自明ですね。途中でネタは分かったが、話が面白すぎた。本短編集で一番好きです。

「三つの凶器」:これも複数の人物に嫌疑がかかる構成で、短編にしては複雑目。一見不可解な舞台が最後にすっきりするのが良い。


*皆さんの書評の中で翻訳が読みにくいという意見が多いのを受けてですが、私が今回読んだ2017年発売の創元文庫の新版についてはそれほど読みづらさを感じませんでした。他の訳で読んでいないので、厳密な比較は無しですが、翻訳で苦戦したという方、創元文庫の新版はおすすめです。

No.35 10点 弾十六 2019/01/01 12:43
1911年出版。創元文庫(2009年 36版) 中村 保男 訳で読みました。私の記憶は全く当てになりませんが、昔、何度も読んだ福田 恆存との共訳名義のものと訳文がちょっと変わってるかも。
JDC/CDやボルヘスが強い影響を受けたチェスタトンの作品をなるべく年代順に読んでいます。新ナポレオン綺譚(1904年3月出版、今のところ未読)、奇商クラブ(第1話の初出は1903年12月、主要部分1904年5月〜7月連載、単行本1905年出版)、木曜日だった男(1908年出版)ときて、次は何?と探してみたら、意外とブラウン神父(第1話の初出1910年7月)でした。FictionMags Indexによると1905年〜1909年にGKCが発表した短篇小説は無いようです。以下の金額換算は全て消費者物価指数基準1910/2018(英国114.4倍、米国26.53倍)
『童心』の12篇の初出が全て、稿料が最も高いと言われた米国の週刊誌Saturday Evening Post(当時40〜76ページ5セント、現在価値1.33ドル151円、毎号三作ほどの小説を挿絵付きで掲載)だと知ってビックリ。英国での初出は(のちにブラウン神父の単行本を出版した)Cassell社の小説中心の月刊誌Story-teller(当時174〜204ページ4.5シリング、現在価値25.7ポンド3670円、毎号10作ほどの小説を掲載)です。
他の雑誌を見ると米国ではCollier’s Weekly誌が28ページ10セント、Harper’s Weekly誌も同じ、いずれも毎号二作ほどの小説を掲載、McClure’s誌(月刊)は120ページ15セント、毎号7作ほどの小説を挿絵付きで掲載。
英国だと以下全て月刊6シリング挿絵付きですが、Strand誌は128ページ、Pearson’s誌は約120ページ、いずれも毎号7作ほどの小説を掲載、Cassell’s誌は108ページ、Pall Mall誌は144ページ、いずれも毎号9作ほどの小説を掲載。
ポスト誌は異常に安く、逆に英国雑誌は随分高い感じです。
今回は、雑誌発表順に読む、という試み。以下の括弧付き数字は単行本収録順、タイトルは初出時のものです。なおAFBはMartin Gardner注釈The Annotated Father Brown(1998)による項目。

⑴The Innocence of Father Brown: Valentin Follows a Curious Trail ポスト誌1910-7-23(巻頭話、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-9(The Innocence of Father Brown, No. 1. The Blue Cross、巻頭話、表紙に一番大きくチェスタトンの文字。New Detective Stories “The Innocence of Father Brown”と書かれています) 単行本での題は“The Blue Cross”: 評価5点
語り口が上手。小ネタですが読者も探偵と共に引きずり回される感じが好き。フランボウがフランス人なのは有名怪盗ルパン(初登場Je sais tous誌1905-7-15、英訳は1907年4月号からのStory-teller誌の連載が初出か)の影響か。AFBによると、スパイクつきの腕輪(spiked bracelet)、驢馬の口笛(Donkey’s Whistle)、あしぐろ(Spots)はいずれもGKCのでっち上げのようです。今回読んで思ったのですが、カトリックの神父を主人公にしたのは「懺悔の聞き役」というのが最も大きな理由かも。(プロテスタントでは信徒の義務ではなく牧師に特別の権限もない)
以下トリビアです。
p14「考える機械」(a thinking machine): ヴァン ドゥーゼン博士(The Thinking Machine)の英国初出はおそらく1907年12月号のCassell’s誌(Professor Van Dusen’s Problems, (1): The Problem of “Dressing-Room A”)及び同月のStory-teller誌(The Roswell Tiara)です。
p19「最上等タンジール産オレンジ、2個1ペンス」「最良ブラジル産クルミ、1斤4ペンス」: 1ペンスは現在価値0.477ポンド68円。
p25「安直でささやかな昼飯」4シリング: だいたい3300円。二人分なので、このくらいか。
p27 駄菓子屋の骨折り賃 1シリング: 現在価値5.72ポンド817円。
最初に挿絵を描いたGibbsのブラウン神父を見てみたいです… (WEB上のfamous-and-forgotten-fictionにポスト誌での最初の6話がGibbsのイラスト入りで再現されていました。上手な絵ではありませんが、なかなか良い感じです。100年前の物語ですから当時のイメージ喚起にイラストは必須。かつて挿絵付き雑誌は多数あったのですからネタは豊富に埋もれており、電子本なら復刻の敷居は印刷本より低いはず。どこかでちゃんとしたIllustrated Father Brownをやらないかな?)
(続きます。ここまで2018-12-19記載、12-22修正)

⑵The Innocence of Father Brown: The Secret of the Sealed Garden ポスト誌1910-9-3(雑誌中で2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-10(The Innocence of Father Brown 2. The Secret Garden、巻頭話) 単行本での題は“The Secret Garden”: 評価5点
一番驚いたのはブラウン神父の叫び。こんな人だっけ?ところでヴァランタンの神父に対する評価が低いような気がします。(晩餐に招くくらいだからある程度評価してるのでしょうが… フランボウ逮捕はまぐれ当たりと思ってる、ということか) 大探偵ヴァランタンのキャラを描ききれてないのが欠点。いきなり突飛な行動をとる人物はGKCの手癖ですね。
p44 エセックス州はコボウルのブラウン神父(Father Brown, of Cobhole, in Essex): 架空地名(AFB)
p72 奇妙な神父(the odd priest): AFBによると雑誌版ではoldとなっていた。
(2018-12-20記載、12-22修正)

⑶The Innocence of Father Brown: Why the True Fishermen Always Wear Green Evening Coats ポスト誌1910-10-1(巻頭話、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-11(The Innocence of Father Brown 3. The Queer Feet、4番目の短篇) 単行本での題は“The Queer Feet”: 評価6点
日常的な風景に突然現れる奇現象と推理の世界。語り口の妙で小ネタを上手に仕上げています。冒頭からの数ページはとても素晴らしいのですが、途中の有閑紳士批判は類型的でダレ場。犯人と神父が出会うシーンも、よく考えると変です。(何の変装もしてないんだからすぐ気付くはず。AFBは暗くて良く見えなかったのだ、と注釈していますが、手の届く範囲で対面してるんですよ…)
p87 半ソヴリン金貨(half a sovereign): 銀貨がないので、とクロークに渡したチップ。(文脈からかなり高額な感じ) 半ソヴリン=0.5ポンド。現在価値57.2ポンド8168円。Edward VII Half Sovereignは1902-1910発行 純金 重さ4g 直径19mm、表裏の文字と図像はソヴリン金貨と全く同じ。大きさと重さ(とデザインの質)で区別出来るんですが、どうして額面を書かず分かりにくくしてるんでしょうね。日常使っていれば簡単に区別出来ますが…
p88 メニューは、コック連が使う超フランス語で書かれ… (It [the menu] was written in a sort of super-French employed by cooks): 英国でも日本と同じ、ということですね。
p101 温和な灰色の眼(mild grey eyes): AFBによるとブラウン神父の眼の色の初出。
(2018-12-21記載)

⑼The Innocence of Father Brown: The Bolt from the Blue ポスト誌1910-11-5(2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1910-12(The Innocence of Father Brown 4. The Hammer of God、2番目の短篇) 単行本での題は“The Hammer of God”.: 評価5点
単純な話ですが、殺人者の心理に神父がダイブインするくだりはスリリングです。でも確実性を欠くネタですね。(基本、このシリーズは寓話ですから…)
p244 ボーハン ビーコン (Bohun Beacon): 架空地名(AFB)
p261 変わり者の小男 (the odd little man)... (中略) あの爺さん(That fellow)...: いずれもブラウン神父を表しているのですが、AFBによると雑誌版では⑵同様oddはold。fellowを爺さんと訳したのは保男さんが他の作品から類推したのか。
(2018-12-22記載)

⑺The Innocence of Father Brown: The Wrong Shape ポスト誌1910-12-10(2番目の短篇、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1911-1(The Innocence of Father Brown 5. The Wrong Shape、5番目の短篇): 評価6点
フランボウとの珍道中シリーズの幕開けは、実はこの作品。(単行本では「ガウの誉れ」が先に来る) 異常センサーが高度に発達している神父が些細なことで騒ぎ出し、周りを巻き込んで次第に世界全体が狂ってゆく、そんな感じが好きです。解決篇の構成が上手。
p185 セント マンゴウのちいさな教会の神父ブラウン(Father Brown, of the small church of St. Mungo): ⑵では「コボウルの」神父。AFBの注釈ではコボウルにあるSt. Mungo churchという意味だろう、とのこと。Complete Father Brownを全文検索してみるとコボウルは他に3カ所、マンゴウは他に出て来ませんでした。
p185 千八百何十何年かの聖霊降臨節(Whitsuntide of the year 18—): …にこの事件は起こった、と書かれています。ブラウン神父ものの初期作品は1900年以前が舞台という設定だったのですね。
p201 ちょうどコウルリッジの闇のように(like the night in Colridge): 中村訳の注にある「ひとまたぎに夜が来る」の出典はAFBによるとThe Ancient Marriner (At one stride comes the dark.)
p205 おまえは、わたしにとってただ一人の友達だから…(You are my only friend in the world.): 某有名探偵に似てるな、と思ったらAFBにもそう書いてました。
(2018-12-22記載)

(11)The Innocence of Father Brown: The Sign of the Broken Sword ポスト誌1911-1-7(1番目の短篇(巻頭は記事)、挿絵George Gibbs)、英国初出Story-teller 1911-2(The Innocence of Father Brown 6. The Sign of the Broken Sword、5番目の短篇): 評価5点
非常に上手に構成された名篇。(ただしかなり複雑です) 無駄な死に対する怒りが伝わって読後は気分が悪くなります。(何か元ネタの事件あり?) でも大きな欠点が。多くの遺族や友人たちの恨みはもっと重いはず。そして相手の将軍が弁明してないのが変です。(AFBが引用しているGKCのエッセイでは、最初は中世の戦争話として考えた、と告白しています。確かに遠い過去の話なら充分あり得るネタになりますね)
p299 ニューカム大佐ふう(Colonel Newcome fashion): サッカレーThe Newcomesの主人公。(AFB)
p315 2ペンスで売っている色刷りの絵(a twopence coloured sort of incident): 2ペンスは現在価値130円ほど。AFBの注はa paltry incidentの意味、とだけ記載。19世紀後半の絵入り週刊新聞The Illustrated Times, The Picture Times, The People's Timesがイラスト入りでtwopenceだった(有名なThe Illustrated London Newsは5ペンス)らしいので、安っぽい絵入り新聞に載ってるような話、という意味でしょうか。カラー印刷はまだ高かったのでcolouredは「色刷り」の意味ではないでしょう。
p325 反ブラジル的な風潮(the anti-Brazil boom): 1900年頃ブラジルと英領ギニアの国境で対立が高まったが1904年に解決し、その風潮は無くなった。(AFB)
(2018-12-22記載)

⑸The Invisible Man ポスト誌1911-1-28(巻頭話、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-2(Father Brown, I: The Invisible Man、巻頭話、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点
ポスト誌の連載からサブタイトル(The Innocence of...)が取れ、英国では挿絵付きの高級雑誌に移行。多分、6話ずつの契約だったのでしょう。(ドイルのホームズ物も最初はそうでした)
ポスト誌では画家が変わり、英国は初の挿絵。いずれも米国版及び英国版の単行本の挿絵に採用されGutenberg AustraliaのInnocence of F.B.のページで見ることが出来ます。
AFBによると、英国挿絵のLucas以降、ブラウン神父は丸眼鏡をかけて描かれていることが多いが(米国挿絵のGibbsとFosterには眼鏡無し)、小説の描写ではシリーズ第48話The Quick One(ポスト誌1933-11-25)で初めて神父の眼鏡への言及(moonlike spectacles)があったとのこと。
素晴らしい流れの物語で、子供じみたラヴロマンス、いるはずの無い男の声、自動人形、雪の上の足跡、消えた死体はまさにディクスン カーの世界。(えー、ってなる結末もJDC/CD風味ですね) でもネタは無理筋です。だって4人が注意深く見張ってるんですよ。絶対誰かが気づきます。上流階級の無関心に対する皮肉というよくある批評も不思議です。目撃者は掃除夫、受付係、警官、栗売りで、紳士淑女は一人もいません。
p136 ラドベリー(Ludbury): 架空地名。雑誌掲載時はSudburyというSuffolkの実在地名だったらしい。(AFB)
p142 1ヤードほどの印紙が(some yard and a half of stamp paper): AFBによるとstamp paperとは切手シートの周りを囲う白紙部分で、昔はセロテープみたいに使ったらしい。(p156では同じ語を「切手の耳」と正しく訳しています)
p149 火縄銃(harquebuses): 15世紀中ごろのスペイン発祥の火縄銃。肩撃ちの小銃としては最初期のもの。16世紀にはより大型のマスケット銃に取って代わられた。ここでは古い小銃くらいの意味か。
(2018-12-22記載)

⑽The Eye of Apollo ポスト誌1911-2-25(巻頭話、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-3(Father Brown, II: The Eye of Apollo、巻頭話、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価6点
気持ち悪い新興宗教への嫌悪感が伝わる名作。良い子はこの教義(太陽をじかに見る)を真似しちゃダメですよ。なおAFBによると冒頭部分は雑誌掲載時と違い、単行本初版で初めて記載された「J.ブラウン師」という部分も後年の版では「J.」が削除されたとのこと。(いくつかの電子本で調べたら全部「J.」ありでした) 残念ながら、雑誌掲載版によると教祖はこのあと中米に移り沢山の信者を得ているらしい。
p272 ヘルキュール フランボウ、職業は私立探偵(Hercule Flambeau, private detective): フランボウの名前の初出。
p272 J. ブラウン師という聖フランシス ザビエル教会(キャンバーウェル)の坊さんで… (the Reverend J. Brown, attached to St. Francis Xavier’s Church, Camberwell): ⑵や⑺と違うので教区替えがあったようです。他の物語にはCamberwellもXavier’sも出て来ません。
p274 双方とも体が細く、色が黒かったが…(both slight and dark): このdarkは髪の色のことでしょうね。
(2018-12-23記載)

(6)The Strange Justice ポスト誌1911-3-25(2番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-4(Father Brown, III: The Strange Justice、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas) 単行本での題は“The Honour of Israel Gow”: 評価6点
昔からこの話が好きです。読後、朝の清々しい感じが心に残る作品。発端の奇妙な謎に、神父がひねくれ解釈を繰り出すところが良い。後半、おっちょこちょいの神父が悪魔に取り憑かれたようになるのが嫌な感じ。スコットランドをディスっています。
p166 ウィルキー コリンズ式: GKCはかつて「月長石」のイラストを描いたが出版されていない。(AFB)
p181 ファージング貨(a farthing): 銅貨 重さ2.9g 直径20mm 現在価値17円。ソブリン金貨は重さ8g 直径22mm 現在価値1万6千円程。表が英国王の横顔なのは共通。この重さと直径はエドワード7世のもの(1902-1910)だが、1860年までのファージング貨は重さ4.9g 直径22mmだったからさらに間違えやすい。
(2018-12-24記載)

⑻The Sins of Prince Saradine ポスト誌1911-4-22(3番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-5(Father Brown, IV: The Sins of Prince Saradine、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価4点
昔から面白くないな〜と思っていたけど、やっと理由がわかりました。器用にまとまってるけどチェスタトンの作品やブラウン神父ものである必然性が全く無い。神父はただただ翻弄されてるだけです。内容も不愉快。女性の視点で再構成するとちょっと信じられない成り行きですが、そーゆー女性はあり得ない、とまでは言えません。
p215 リード島(Reed Island): 架空地名(AFB)
P233 神父は乱れた髪をかきむしりながら…(rubbing up his rough dust-coloured hair): AFBによるとブラウン神父の髪色の初言及。この表現でlight brownということになるようです。
p240 日本の力士のように一歩を譲った… (He gave way, like a Japanese wrestler): この比喩が正確にどう言う意味なのか、どこでこのイメージを掴んだのか。文脈からは「ひらりと体をかわす」という感じです。GKCは実際の相撲興行をどこかで見たのでしょうか?柔道の可能性は?(例の「バリツ」が思い浮かびます)
なおjapanでブラウン神父全集を検索すると他には「神の鉄槌」と「銅鑼の神」(『知恵』収録)に出てくるだけでした。
(2018-12-30記載)

⑷The Flying Stars ポスト誌1911-5-20(2番目の小説(巻頭は長篇の分載)、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-6(Father Brown, V: The Flying Stars、2番目の短篇、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点
クリスマスストーリー(ただし初出は5月)にふさわしいおとぎ話、改悛付きです。でも3回目でやっと効いた神父の威光って… まーそれだけフランボウが大泥棒だったということでしょう。ネタ自体は単純。この当時すでに絶滅しかかっている昔ながらの英国流パントマイムの実物が見たいですね。暴力ギャグあり流行歌ありの、いかにもJDC/CDが好きそうな話です。
p107 ユダヤ人をだしぬいて一文無しにする…: オーウェルが非難したべロックやチェスタトンの反ユダヤ主義というのは、GKCの場合「金持ち、資本家としてのユダヤ人」に対することが多いような気がします。『童心』の献辞について最後に書きましたので、ご参照願います。
p110 贈物日(Boxing Day): 英国では公式の休日。クリスマスの次のウイークデー。ギフトを入れたボックスを一年の労をねぎらって召使いや郵便配達に贈る。(AFB)
p114 煤… 顔面に塗布致しまして(with soot—applied externally.): ミンストレルショーのことかな?と思ったら、AFBによると2枚の皿(片方に煤を塗っておく)を使った古い隠し芸のことらしい。
p116 コロンバイン、パンタルーン、ハーレキン: アガサ姐さんのおかげでお馴染みです。急に「謎のクィン氏」が読みたくなりました…
p121 ≪ペンザンスの海賊≫中の警官隊の合唱(the constabulary chorus in the ‘Pirates of Penzance’): Act 2, When the foreman bares his steel, Tarantara! tarantara!のあたりですね。
AFBによると以下全て当時英国のポピュラー曲とのことです。
≪その帽子はどこでもらった?≫(Where did you get that hat?): a comic song which was composed and first performed by Joseph J. Sullivan at Miner's Eighth Avenue Theatre in 1888.(Wiki)
≪そのとき別のを持っていた≫(Then we had another one): 不詳。
≪汝の夢から起きあがる≫(I arise from dreams of thee): Percy Bysshe Shelleyの詩にJames George Barnettが曲をつけた1845年の歌。
≪荷を背負って≫(With my bundle on my shoulder): I'm Off to Philadelphia in the Morning(Irish Emigrant Song)にほぼ同じ(myがme)歌詞あり。マコーマックの美声がWebで聴けます。
p122 歌詞は≪恋文を送ったら、とちゅうで落っことしてしまったぞ≫(I sent a letter to my love and on the way I dropped it): 不詳。AFBによると雑誌版では ‘and some of you have picked it up and put it in your pocket’と続く。この歌詞はA-Tisket, A-Tasket(1938年 エラ フィッツジェラルドの録音が有名)に似ています。元は英国伝承のハンカチ落とし遊びの歌らしい。
(2019-1-1記載)

(12)The Three Tools of Death ポスト誌1911-6-24(3番目の短篇、挿絵Will F. Foster)、英国初出Cassell’s 誌1911-7(Father Brown, VI. The Three Tools of Death、2番目の小説、挿絵Sydney Seymour Lucas): 評価5点
なんとも不可思議な状況を合理的に解決する。実に鮮やかですが、読後感が寒々しいのは何故でしょう…(娘への配慮が全く無いからでしょうか)
p327 陽気なジム(Sunny Jim): Force社(US)のシリアルのキャラクター。1903年英国に登場。縫いぐるみ(rag doll)が数種類作られるほど英国で人気があった。(AFB)
p342 大型拳銃(a large revolver): 大型の回転式拳銃(リボルバー)と訳して欲しいです…
(2019-1-1記載)

献辞について: 中村訳では省略されていますが、この本には献辞があります。
To Waldo and Mildred d’Avigdor
以下は全面的にAFB情報ですが、Waldo d’AvigdorはGKCの少年時代からの友。MildredはGKCがSlade Schoolにいた時に知り合い友人となり、Waldoの妻となった女性。なおGKCの妻はMildredの友人でその縁でGKCと知り合った。Waldoはユダヤ人。
私は、GKCの反ユダヤ的言辞は⑹の反スコットランド的言辞と同じレベルで、ジョンソン博士と同様(馬の餌を食う輩)、親しみを込めたジョークではないか、と(今のところ)思っています。まあ内輪なら許されるけど声高に表現するものではないですね。
(2019-1-1記載)

次のWisdom収録作品からは、発表の舞台が米国の月刊誌McClure、英国の月刊誌Pall Mall誌に変わります。

やっと読み終わりました。全体の印象ですが、気の利いたセリフは一作品に一つだけで充分ですね。それ以上は作者の頭の良さのひけらかしみたいで嫌味な感じです。趣味が悪く軽薄でおっちょこちょいなGKC(はっきり言って小説は上手くない)という印象が強まりました。冷静に評価すると総合7点ですが、でもやっぱりこの本が大好きなので殿堂入り10点としています。この場のお陰で再発見がどっさりありました。
世間で言われてる難解なテーマ(人生の深みとか深遠な神学とか)なんて実はありませんので、敬遠されてる方でちょっと古くさい話に興味があり、トリックや逆説が大好きで捻くれてる方はぜひご一読を。

No.34 6点 虫暮部 2017/05/22 10:07
 謎と逆説に奉仕する桃源郷。過剰に戯画的ながら、こういう変人ばかりの国も悪くは無い。 
 ただまぁ、このへんの古典作品の“ルール未整備”な雰囲気には、若干の距離を感じてしまうのも否めず。不親切な部分に対して意識的にこちらから歩み寄って読んでいる、と言う感覚が最後まで消えることは無かった。
 早川文庫版で、作者名 Keith が“ケース”と表記されていて、“キースでしょう”と版元にメールしたところ、“ケースが一般的”との返信。そうなの?

No.33 8点 初老人 2017/04/05 17:21
古典の書評をする、というのはそれが何であれとても気疲れのするもので、もしかしたら見当違いの事を言っていると思われるかも知れませんがその時はそっと見逃してやって下さい。
さて本書、ブラウン神父ものの1作目ですが、階級闘争や帝国主義批判といったものが作品の中に散りばめられているというのはここの方のレビューを読んで初めて知りました。そのぐらい無知で白紙の状態で当たりました。
ところがそんな私でも全体に渡り採用されているトリックの豊穣さには感嘆せざるを得ませんでした。
トリックももちろん良いのですが、各編に登場する個性的な真犯人たち、またその犯人たちにブラウン神父がどのように寄り添っていくのかも読み所かと思います(もちろん同情の余地のない犯人に対しては割りと冷淡な態度を取ります)。
個人的に気に入ったのは「秘密の庭」、「折れた剣」は勿論ですが、「狂った形」でしょうか。綱渡り的な犯人のトリックに脱帽しました。

No.32 9点 ALFA 2017/03/14 17:03
初めて読んだとき、ルパンとホームズしか知らなかった中学生は「大人のミステリとはこういうものか!」と感激した。
十分な大人になって再読すると、メルヘンな味わいを持った、とてもよくできたミステリという感じがする。
近年新訳が二つも出たので比較を。
「オリーブとシルバーの色にとざされた嵐模様の夕暮れがせまるスコットランドの灰色の谷、そのはずれにやって来て、なんとも妙なグレンガイル城をつくづく見やっていたのは、これも灰色のスコットランド式肩掛けにくるまったブラウン神父であった。」(創元)
「オリーブ色と銀色の嵐の夕暮れが迫る頃、ブラウン神父は灰色のスコットランドの格子縞羅紗服にくるまり、灰色のスコットランドの谷のはずれへやって来て、奇怪なグレンガイル城を見やった。」(ちくま)
「オリーブ色と銀色の嵐の夕暮れが迫る頃、ブラウン神父はスコットランド風の格子縞の肩掛けをまとい、灰色のスコットランドの谷の外れにやってきて、奇怪なグレンガイル城を眺めやった。」(ハヤカワ)
いずれも「イズレイル・ガウの誉れ」の冒頭。
旧訳が英文の逐語風で読みにくいのに対し、新訳はいずれも日本語としてこなれている。ちくまがあえて漢語表現を多くして、一種の風格を感じさせるのに対し、ハヤカワは圧倒的に読みやすい。(活字もいちばん大きい)
12編中のフェイバリットは「折れた剣」。初めて読んだとき、映画にしたらさぞ見ごたえがあるだろうと思った。
また「木の葉は森に隠す」「森がなければ森を作る」というフレーズなど、その後の行動哲学に影響するくらい心に残った。

No.31 9点 青い車 2016/09/17 22:04
 本の帯だったかの書評で、ホームズシリーズを旧約聖書とするならばブラウン神父シリーズは新約聖書というのを読みましたが、そう持ち上げるのも頷ける出来でした。とにかくどの短篇にも必ず感心する部分があるというのは驚異的。これだけ豊富なアイディアを惜しげもなく使われると、先を越された他の作家たちは困ったのではないか?と思えるほどです。
 有名な『見えない男』や『折れた剣』もいいけど、個人的にはユニークな犯行という点で『飛ぶ星』『アポロの眼』がお気に入りです。あと、『秘密の庭』の衝撃も特筆もので、この時代にすでにこの手法が存在したことに驚きました(「庭に入り込まなかった」「完全には出なかった」といった神父の禅問答じみた受け答えも面白いです)。
 ただひとつだけ、かなりとっつきにくい文章に拒否反応を示す人も多そうなのが気になります。

No.30 9点 nukkam 2016/09/12 01:26
(ネタバレなしです) 英国のG・K・チェスタトン(1874-1936)は推理小説家としてだけでなくジャーナリストや文芸評論家としても大活躍した人物で、ミステリー作家の親睦団体「ディテクション・クラブ」の初代会長も務めました。彼のミステリーは読者が推理に参加できるように謎解きの伏線が張られているわけではありませんが(それはもっと後年の作家の登場を待たねばなりません)、この時代の作家としては屈指のトリックメーカーとして今なお尊敬を集めています。1911年発表の本書は最も有名なブラウン神父シリーズの12作品を収めた第1短編集です。おぞましささえ感じさせるトリックの「秘密の庭」、大胆極まる犯行の「折れた剣」、何とも変わったブラウン神父の探偵ぶりの「奇妙な足音」など個性豊かな作品が並びます。「神の鉄槌」のようにどう考えても成功率の低いトリックもありますがそれもご愛嬌です。ただ抽象的表現の文章、唐突な場面変換、回りくどい会話があって結構読みにくい一面があります。

No.29 7点 名探偵ジャパン 2016/08/19 20:15
ブラウン神父ものは若かりし頃に一度読んだのですが、正直、「どうしてこれがこんなに神格化されてるの?」と意外に思い、「これを読んで(理解して)楽しめるだなんて、推理小説好きには頭の良い人が多いんだなぁ」と妙な感心をしたものでした。
そうです。長く愛され今でも版を重ねている、創元推理文庫版の「ブラウン神父の童心」を読んでの感想でした。

本作は近年、ちくま文庫から新訳が刊行され、ハヤカワからも「ブラウン神父の無垢なる事件簿」というタイトルで2016年3月に刊行されました。
私はそのハヤカワ版「~無垢なる事件簿」が発売されたのを機会に「リベンジだ!」と意気込んで購入、読み始めました。
いや、圧倒的に読みやすいです。訳文の調整はもとより、字は大きいし掠れてもいないし、読みやすいです。これからブラウン神父ものを読まれる、または、私のように創元文庫版でギブアップされた方には(ちくま版は未読なので分かりませんが)新訳のハヤカワ版を強くお勧めします。

内容は一発トリックものの短編集です。時代、文化の違いから、「えっ?」と思うようなところは何箇所かありますが、「そういうものなんだ」とその都度、無理矢理でも腑に落としていかないといけません。
とはいえ、収録されている全12編、どれも傑作揃いなのは間違いありません。
百年以上昔に書かれたものが、今もこうして新訳で出版され続けているという事実が、本書の価値を明確に現しているといえます。

ひとつ選ぶなら、有名な「透明人間」「神の鉄槌」もいいですが、私は「アポロの眼」を推しておきます。殺害トリックを読んだときに、「え?(この時代のそれって)そうなってるの?」と上記の「腑に落とす」作業が必要な一編ではあるのですが、神父が犯人を指摘する根拠。犯人と被害者以外の第三者の思惑が事件を予想外の方向に持って行く。という展開が、いかにも本格っぽくて好きです。

ところで、上ですでにタイトルをあげたのですが、超有名作品である、創元文庫版での「見えない男」が、このハヤカワ版では「透明人間」と訳されていました。
私はこの「見えない男」という邦題が大好きで、「透明人間」とは、あまりに「まんま」で味気ないタイトルだと思うのは私だけでしょうか。(原題が「The Invisible Man」なので、「まんま」な訳なのはむしろ「見えない男」のほうだろ! と言われかねないですが…)

No.28 10点 風桜青紫 2016/07/10 23:27
落ち着きのある筆致。人間心理の奥をつくトリック。20世紀初頭でここまでやられてしまえば、逆説トリックが泡坂妻夫のような異様な方向での進化をせざるを得なかったのも仕方のないことだろう。ただ意外な結末があるというだけではミステリは面白くならない、ということを実感させてくれる一冊。歴史的価値なんぞ関係なく10点である。

No.27 6点 いいちこ 2016/06/21 11:31
佳作揃いであることに疑いの余地はないのだが、新本格を渉猟してきた立場からすれば、やはりいささかの「古さ」を感じざるを得ない。
また、原文にあたっていないため、本作に帰責するか否かは不明だが、翻訳の読み辛さは相当なもの。
本作の歴史的価値を考慮せずにこの評価

No.26 7点 sophia 2016/06/15 23:00
レギュラーになりそうだと思われた人物が最初の方で退場したのは衝撃的でした。
「飛ぶ星」は色々と説明不足で分かりにくかったです。
「神の鉄槌」は犯人が一歩も出ていないことをもっと強調した方がよかったように思います。
なお、創元推理文庫で読みましたが、表現がまどろっこしい上に訳も古臭いので大変読みにくかったです。
そろそろ新訳を出した方がいいのではないでしょうか。

No.25 10点 斎藤警部 2016/04/13 01:13
シャーロック・ホームズをビートルズに喩えるとすると
ブラウン神父を喩えるべきはボブ・ディランではないか。

前者は熱狂的ファンが世界中に凄まじい人数いる。
後者は熱狂的ファンの数は限られるかも知れないが
仮に本人が意識していなくとも
根本的なところで影響を受けてしまっているミステリー作家/ロックアーティストの割合が
前者とは比較にならないくらい高いのではないか。

という事に、あるとき思い当りました。

さて、本短篇集、文章の襞と言う襞にミステリの三大栄養素(それは何だ!?)や各種ビタミンやミネラルがびっちりと詰まっています。「ブラウン神父」が「黒死舘」より遥かに多くの新たな推理小説をインスパイアして産み出した事に、流石の乱歩さんも異論ありませんよね?

形の上では新教側、しかし実態は旧教にほど近いイングランド国教会が支配的なかの国での緩やかなマイノリティとして生きるカトリックの神父さん。このスタートラインの立ち位置からして、ただ単に物事を逆さまにするのではない、奥深い逆説言論の濃縮ジュースが今にも噴出しそうで、むずむずして来るではありませんか。

我が旧約聖書。。  ←いい加減なイメージですみません 

No.24 10点 ロマン 2015/10/20 11:52
ミステリの始祖と呼ばれるポー、ホームズのドイルと並び評されるミステリ界では有名な短編シリーズ。古典として後世に影響を与えた現代のトリック群の原典として一見の価値あり。ブラウン神父の人間観察、逆説、警句から導かれる結論にはおおと唸ること間違いなし。特に木の葉は森の中に隠せという超有名な文句が出てくる「折れた剣」が秀逸。

No.23 1点 クリスティ再読 2015/06/28 21:42
これは「厄介な古典」である。
何度読んだかわからないくらいに読んでいるのだが、この作品が時評的と言っていいくらいに社会批評の成分が多いことに今回気がついている。たとえば「見えない人」で家事ロボットが登場するあたり、チャペックのロボット(R.U.R)を先取りするのと同時に、労働問題という主題を共有する。だからこそ「心理的に見えない人」は「見えない階級」でありとある職業人だ、ということになるのである...「正統とは何か」の簡潔な要約にして自然神学のパロディ「青い十字架」、スーツという服装を巡る階級闘争(主人の流行が召使にお下がりのかたちで波及し、主人は召使と差別化するために新しい流行を作り出す..)「奇妙な足音」、真正面からのイギリス帝国主義批判「折れた剣」などなど、20世紀初頭のイギリスの社会・世相・思想をあらゆるジャンルを横断して、この短編集はチェスタトン一流の逆説によって「斬って」いるわけだ。

しかし、このような内容は現在では読んでいてもほとんど理解されないだろう。それは読者の時代とチェスタトンのそれとが、もはや大きく隔たり、世相も違えば社会問題にも共通性がなくなり、さらに「教養」すらも末代のワレワレは共有できなくなってきているのだ。「形而上学がどうの」は、そのような問題がもはや共有できない(日本とイギリスの違いもあるし)ための韜晦以外の何者でもない。
だからこそこの作品の「誇り」とは「奇妙な庭」の終幕で見せる一つのデスマスクだ。「自殺者の顔には、カルタゴ必滅をさけんだ勇将カトーの誇りがにじみ出ていた」。このチェスタトンの誇りに対し、評者は愛と敬意と評者なりの逆説を込めて、最低点をつける。これは末代無智なワレワレに対する罰点である。


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